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4・26「小沢一郎判決」で何が裁かれるか/「有罪」と「無罪」で激変する日本の未来 『週刊ポスト』4月20日号

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総力特集 4・26「小沢一郎判決」で何が裁かれるか
週刊ポスト4月20日号(2012/4/9発売)
 巨悪が眠り、正義が裁かれる---映画の世界では珍しくない構図だが、現実に起きれば深刻な人権侵害であるばかりか、社会的損失も甚大になる。このケースがそうであるのか、違うのか。少なくとも、“事件”さえなければ2年半前に総理大臣になっていた男が、今も被告席に座っているのだから、すべての日本人が真相を見定める責任と権利を有する。事と次第によっては、この法廷で裁かれるのは、この国の正義そのものかもしれないのだ。
 近未来シミュレーション 「有罪」と「無罪」で激変する どんでん政局と日本の未来  
■「有罪」の場合 野田総理は『消費税法案採決強行」か
 「小沢一郎裁判」とは何だったのか。
 政権交代直前の西松建設事件捜査で小沢一郎氏は民主党代表を辞任し、政権交代を実現した直後には陸山会事件捜査で幹事長を辞任、そして民主党代表選さなかの検察審査会の強制起訴議決で刑事被告人となった。
 捜査の現場指揮を執った吉田正喜・東京地検特捜部副部長(当時)は、
「これは検察対小沢の全面戦争だ」
 と捜査に当たる検事たちに檄を飛ばし、新聞・テレビは「巨悪に挑む正義の検察」を礼賛するリーク報道を展開してきた。
 その異様さを、日本の現代政治を30年以上にわたって研究してきたオランダ人政治学者カレル・ヴァン・ウォルフレン氏は、霞が関、検察、大メディアという利権複合体が体制にとって脅威である小沢氏の評判や人物像を破壊して政治的に抹殺しようとする「人物破壊」だと指摘した。
 問題は、破壊されたのが小沢氏の政治的人格だけではないことだ。
 捜査から公判までの3年間で、検察の“みせしめ捜査”に恐れをなした民主党政権は権力機構の改革から逃げ出し、いまや野田政権は利権複合体の下僕となって大増税に突っ走っている。政治は停滞し、期待を裏切られた国民は政治・経済・社会の変革への希望さえ見いだせなくなりつつある。
 それが「検察対小沢の全面戦争」の真の狙いでもあった。ウォルフレン氏のいう官僚・司法・報道機関の利権複合体は、もはや小沢氏が無罪になろうと、有罪であろうと、「国民の政治への期待を奪い、体制変革の芽をつぶす」という目的を九分九厘まで達成したと考えているはずだ。
 この4月26日に東京地裁で小沢公判の一審判決が下る。日本の政治に、残りの一厘から再び体制変革の歯車を動かすダイナミズムが残っているかが問われている。
 永田町は小沢氏への判決を固唾をのんで見守っている。消費税増税法案だけではなく、野田政権の命運をも大きく左右するからだ。
 増税反対を掲げるみんなの党の渡辺喜美・代表はこう見る。
「私はまず無罪判決だろうと考えているが、その場合、民主党内では増税反対派へのレバレッジが働いて増税派との力関係が逆転する。野田首相と増税連合を組もうとしている自民党の谷垣執行部も戦略が狂う。4.26を境に政局の歯車が増税から逆回転し始めることになるだろう」
 民主党でとくに見逃せないのは中間派の動向だ。野田首相は「増税に命を懸ける」と宣言し、新聞・テレビは増税に反対しているのは小沢グループだけのように報じているが、実際は、党内では増税推進派の方が少数派で、反対派や声をあげない慎重派(中間派)が大部分を占めている。
 そうした党内事情を露呈したのが、3月28日未明に前原誠司・政調会長が大荒れの中で増税法案の党内審査を打ち切った後に行なわれた秘密交渉だ。輿石東・幹事長が混乱収拾のために増税推進派、中間派、反対派から党役員以外の議員を公平に2人ずつ出して話し合いを持つことを指示し、反対派は川内博史、辻恵の両氏、中間派は馬淵澄夫氏と篠原孝氏が出席したが、推進派から出たのは吉良州司氏だけだった。
「増税推進派には政府と党の役職についている議員以外でめぼしい者がいない。あとひとりが見当たらなかった」(出席者)というのである。交渉は反対派を説得できずに決裂した。
 中間派の有力議員は、小沢判決の「無罪」「有罪」の両方のケースを想定して今後の行動をシュミレーションしている。
「総理は“増税命”かもしれないが、選挙区を回ると、やるべきことをやらないで増税だけやるのかという批判がものすごく強い。党内の半数は中間派で、デフレを克服しないで消費税率を上げるわけにはいかないという意見や、最低保障年金など社会保障の抜本改革、議員定数削減なしに増税先行はできないという慎重な立場ばかりだ。
 消費税法案の採決には衆参400人近い民主党議員全員の議員生命がかかっており、正直、棄権や欠席しようかと迷っているものが多い。小沢さんに無罪判決が出れば党内の亀裂は深まるかもしれないが、法案は愛潔見送りに持ち込めるという期待が中間派にもある。反対に、有罪なら総理が採決を強行するという不安が高まる」
 小沢氏が無罪なら増税ストップという渡辺氏と同じ見方だ。
■「無罪」の場合 かえって「大連立」への動きが加速
 そうした動きに最も敏感に反応したのが自民党だ。
 判決を前に自民党内では早期解散論が急速にしぼみ、次期総裁候補と見られている石原伸晃・幹事長、石破茂・前政調会長らが声を揃えて「小沢氏を切れば増税法案に賛成する芽がある」と、野田首相に判決前の小沢切りを迫っている。小沢氏の復権を何より怖れているからだ。
 自民党の三役経験者はこう心配する。
「うちは子ども手当や最低保障年金、高速無料化といった民主党の甘言で選挙に負けた。その公約をひとつずつ撤回させて票を減らす地道な作戦をとってきたが、それでも、自民党の支持はいっこうに回復していない。選挙は最後は資金力がものをいう。野党暮らしも3年目のこっちはカネがないから選挙準備が満足にできないが、民主党は腐っても与党だ。金庫には200億円もうなっている。カネの使い方を知っている小沢が座敷牢から出て党の資金を握り、選挙になればひとたまりもない」
 野田首相や岡田克也副総理も、小沢氏の「復権阻止」で利害が一致する自民党に水面下で「話し合い解散」ではなく増税連立を持ちかけ、森喜朗元首相は、「すぐに大連立をすべきだ」と呼応してみせた。小沢氏無罪なら、一層、野田首相と自民党が接近して解散・総選挙が遠のき、増税大連立の動きが加速するという珍現象だ。
 それに対して、輿石幹事長は増税連立に露骨にブレーキをかけている。国対を通じて野党に「消費税法案の前に郵政見直し法案の審議を優先したい」と打診し、増税法案の審議入りを5月の連休後に先送りする根回しを始めた。輿石氏は「小沢氏が1審無罪の場合、その時点で党員資格停止を解除する手続きに入りたい」と公言しているだけに、審議を判決後に先送りする工作は、小沢氏の復権を前提に増税凍結を睨んだ布石とみていい。
「輿石幹事長は消費税法案を棚上げし、無罪判決が出たら小沢さんに選挙担当の代表代行などに復帰してもらうことを考えている。そうすれば選挙への不安が収束し、民主党が割れる心配はない」(民主党参院幹部)
 小沢氏の基本戦略も、消費税法案を阻止して9月の代表選で雌雄を決することだと見られている。「次の代表は選挙の顔。その頃には衆参ともに任期満了まで1年を切るため、衆院以上に参院が増税に抵抗する。中間派もミスター増税の野田首相の再選は支持しない」(同前)という読みだ。
 小沢グループのなかには、「無罪なら小沢さんに堂々と代表選を戦って総理大臣になってもらうのがベストだ」(若手議員)という声も強い。
 ただし、そうなれば「増税連立派」との内部抗争は激化するだろう。
■「有罪」が政界再編のトリガーに
 小沢グループは判決を待たずに決起に踏み切った。小沢直系とされる4人の副大臣・政務官をはじめ、小沢グループの30人以上が増税法案の閣議決定に抗議して政府と党の役職を集団辞任した。これはなぜなのか。
 小沢グループ幹部は「有罪判決」の可能性を視野に入れた行動だと、苦しい内情を語る。
「われわれの政治生命を判決に委ねることができるほど、この国の司法が公平だとは思えない。無罪判決を前提に行動するのは楽観的にすぎる。判決前に行動を示しておかないと、もし、有罪だった場合に動けなくなる。小沢さんが決起を促したわけではないが、増税の閣議決定には賛成できない。けじめをつけて辞める、という者を止めなかったのは事実です。有罪でも無罪でも、このまま倒閣に突き進むはずだ」
 反増税派は有罪を想定し、あえてこのタイミングで倒閣に動きだした。有罪判決なら、野党や大メディアが「小沢は議員辞職せよ」とこれまで以上の大キャンペーンを展開するのは明らかだ。
 野田首相が有罪判決を好機と見て小沢氏への離党勧告や議員辞職勧告決議案への賛成に回れば、その時こそ民主党政権のメルトダウンの始まりになる。
 政治ジャーナリスト野上忠興氏の指摘だ。
「そうなれば9月の代表選まで民主党はもたない。小沢氏は控訴して裁判闘争を続けることになり、民主党の中で先頭に立って党を立て直すのは難しい。むしろ、反発した小沢派は大量離党し、大阪維新の会などの地方政党やみんあの党など増税反対勢力との連携を求めていくはずだ。地方から既成政党を焼け野原にする焦土作戦です。自民党は第3極の勢いが強いから総選挙はしたくないのが本音だが、野田内閣が少数政権になれば内閣不信任案提出で倒閣をためらう理由はない」
 前出の渡辺みんなの党代表も、「人道支援ではないから民主党の離党組と丸ごと合流ということはありえないが、増税反対でアジェンダが一致する議員たちと組むことはできる」と連携に前向きだ。
 その場合、小沢氏が政治の一線に立てるかどうかは怪しいが、その意を汲む増税反対、脱官僚勢力が「増税連立派」を追いつめていく可能性が高い。
 死せる小沢が政治を動かすか、それとも復活の豪腕が既得権益をぶっ壊すか。
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〈来栖の独白2012/4/9 Mon.〉
>「われわれの政治生命を判決に委ねることができるほど、この国の司法が公平だとは思えない。無罪判決を前提に行動するのは楽観的にすぎる。
 悲しいが、痛いほど同感する。怖ろしい国だ。
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関連:記者クラブよ、この「疑惑報道」を謝罪・訂正しないのか? 4・26小沢一郎判決 『週刊ポスト』4月20日号 2012-04-09 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア 

2012-04-09 14:04:19


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