大飯工程表を了承 安全策実現は数年後
2012年4月10日 東京新聞 朝刊
関西電力大飯(おおい)原発(福井県おおい町)3、4号機の再稼働問題で、枝野幸男経済産業相は九日、野田佳彦首相と関係閣僚で協議した結果、同原発は政府が定めた再稼働の基準におおむね適合していると判断した、と発表した。事故時の前線基地となる免震施設の建設など積み残しの安全対策について、関電が実施期限を切った工程表を示したことを受けた。だが、対策が完了するのは数年先という点は変わらない。拙速とも言える政府の動きには批判が出そうだ。
この日、関電は中長期の安全対策をまとめた工程表で、免震施設の完成は当初の計画より一年前倒しして二〇一五年度とするほか、格納容器の圧力を抜くベント(排気)時に放射性物質を除去するフィルターは一五年度に整備すると明示した。恒久的な非常用発電機も専用の建屋で保護する形式で一五年度に設置するとしている。
政府は、大飯原発では緊急安全対策が実施され、安全評価(ストレステスト)の一次評価で一定の安全性が確認されたと判断。免震施設が整備されていないなどの問題が残っていたが、完成を待っていては再稼働は数年先になる。そこで、電力会社がいつまでに設置を終えるか工程表で確約すれば、再稼働する段階で完成していなくても、再稼働を認めるとの判断基準を打ち出していた。
首相らは工程表の内容を協議した結果、十分に具体性があると判断し、了承した。
政府を再稼働に突き動かしたのが関電管内の電力需給だ。関電の試算では、再稼働がなければ、一昨年夏のような猛暑の場合、古い火力発電所のトラブルによる停止も考慮すると、最大で23・3%の電力が不足し、平年並みの暑さで節電しても7・6%の電力が不足する。さらには火力発電にかかる燃料費が年間七千億〜八千億円増えると強調している。
記者会見で枝野氏は「再稼働を判断する上で(電力需給は)考慮すべき要素と考えている。本当にさらなる(節電などの)積み上げが不可能なのかどうか、精査を指示した。その結果を待って判断する」と述べた。
首相は近く枝野氏らと再度協議し、関電管内の電力が不足し、再稼働に問題なしと判断すれば、枝野氏を福井県に派遣し、再稼働への協力を要請する。福井県などの理解を得て、再稼働の最終判断をするとみられる。
ただ、政府と関電が示し合わせたかのような基準づくり、工程表提出の流れには、再稼働ありきとの不信感が広がる可能性がある。
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原発「安全基準」 泥縄の対応に募る不安
中国新聞 '12/4/10
泥縄とはこのことだろう。政府が先週末、原発再稼働の判断材料となる「安全基準」を急ごしらえした。野田佳彦首相の指示から、わずか3日である。
関西電力の大飯原発3、4号機(福井県)再稼働に向け、肝心のルールを後付けした格好になる。しかも原子力安全委員会はおろか閣議にも諮らず、首相と関係3大臣だけで決めた。
政治主導をはき違えた拙速ぶりには、強い違和感を抱く。
関電は早速、基準に沿った安全対策の工程表を経済産業省に持参した。国と事業者があうんの呼吸で手を結び、結論ありきで前に進める。福島第1原発事故で批判された「原子力村」の抜きがたい体質を思わせる。
なぜここまで野田政権は前のめりなのか。この夏の電力不足をどうするのかと経済界の圧力が強まっているうえ、5月に運転する原発がゼロとなれば再稼働のハードルは一段と高くなる。そうした政治的な状況判断があるのは間違いあるまい。
とはいえ、こうした首相のやり方では、逆に国民の不信感を募らせるばかりではないか。
何よりの問題は、基準がどうみても電力会社に甘いことだ。
福島の事故を教訓にした万全の対策を取る―。そんな触れ込みだ。しかし中身を見れば、既に各社で対応済みの項目が並ぶ。事故の直後、国が緊急に指示した建屋の浸水対策や、電源車の複数配置などである。
半面、時間のかかる安全対策については「工程表を示せばいい」としている。
事故が起きても放射性物質排出を抑えるフィルターが付いたベント(排気)設備や、災害時に拠点となる免震施設がそれだ。大飯原発は2015年度になるという。今すぐ想定外の事態に対応できるのだろうか。
もうひとつは経産省の原子力安全・保安院が基準案をつくったことだ。原子力規制庁の発足が遅れている事情もあろう。しかし「推進」「規制」がごちゃまぜの現状を、国際原子力機関(IAEA)などから批判された事実をどう考えるのだろう。
しかも目先の再稼働のための暫定基準ではなく、今後全ての原発で判断に使うというから驚く。福島の事故の検証結果が出るのはこれからのはずである。
政府は近く大飯原発について再稼働を決断するとみられる。立地自治体に容認の動きが出てきたのをてこに、「電力不足は反対する周辺自治体のせい」といったムードを高める思惑もあるのかもしれない。
しかし簡単に筋書き通りにいくとも思えない。そもそも全ての原発周辺で、重点的に防災対策をとる地域を3倍に広げたのは国だ。避難計画づくりも訓練も途上にある。今のままなら「やむなし」と考える住民にとっても不安に違いない。
関電の大株主である大阪市の橋下徹市長も、再稼働に反対している。民主党の議員たちにも慎重論がある。強引に再稼働すれば混乱を招く可能性が高い。
民主政権の金看板は「熟議」のはずだ。この際、基準をいったん白紙に戻したらどうか。中身もさることながら、まともな手続きで議論し直すのが筋だ。少なくとも第三者の専門家の意見は反映させるべきである。
原発の稼働は必要という立場からしても、その方がかえって早道ではなかろうか。
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大飯原発 再稼働のために政府と関電が示し合わせ “泥縄”基準/政治主導をはき違えた「拙速」
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