焦点:信頼不在の大飯原発再稼働、政権の官僚依存が露呈
2012年04月14日03:29 JST
[東京 14日 ロイター]
野田政権が、関西電力大飯原子力発電3、4号機(福井県おおい町)の再稼働が「必要ある」とした13日の政治判断は、国民の信頼が大きく欠けた中で行われた。
枝野幸男経済産業相は13日の記者会見で、電力需給について「楽観論に軽々に与し、供給が足りなることは許されない」と語ったが、「原発ゼロでも夏は乗り切れる可能性がある」とした1月末の自身の発言と矛盾する。有識者からは官僚に取り込まれた民主党政権の限界を指摘する声が聞かれる。
<本当に電気は足りないのか>
再稼働の必要性ありと判断した最大の根拠として政府が示したのは、原発ゼロの場合、関電管内の電力供給が需要に対してどれだけ不足するかというデータだ。9日と13日に首相官邸内の会見場で配布されたが、資源エネルギー庁が関電からの報告を基に提示した不足の割合は、一昨年夏並の猛暑だった場合は18.4%(9日時点提示では19.6%)、1割の節電要請を呼びかけた昨年夏並の暑さだったら5.5%(同7.6%)のそれぞれ供給不足になるという。
ただ、これはエアコン需要が急増する日中の時間帯での数値で、この時間の需要を減らして他の時間帯に誘導するなどの工夫をすればこうした危機を回避できるとの見方は少なくない。関電によると、昨年夏(7月―9月)の需要が、今年の原発ゼロ想定の供給力(9日時点提示の2574万キロワット)を上回ったのは11日間の合計56時間。昨年夏並の暑さなら、3カ月間のうち10日間余りの日中の需要をうまく他の時間帯に誘導すれば、危機は回避できる。
同様に、一昨年夏の需要の場合、今年の原発ゼロ想定の供給力(同2489万キロワット)を上回ったのは51日間の計473時間で、この前提ではたしかに厳しそうに見える。ただ、国のエネルギー政策議論に参加する飯田哲也・環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長は、「最大需要は、一昨年の異常値は去年と比較すると350万キロワット多いが、内訳は気温要因が160万キロワット、関電が需給調整した分とその他節電効果で190万キロワット。一昨年並の猛暑となった場合でも、160万キロワット分は、去年から今年に出来る節電側のピークマネージメント(最大需要抑制)で楽に減らせる」と指摘する。
大飯原発に隣接する滋賀県の嘉田由紀子知事は今月6日、ロイターのインタビューで、需給ギャップを乗り越える手法として、「(企業などの節電分を電力会社が買い取る)ネガワットなど市場メカニズムの中に節電を取り入れること」を挙げるなど、節電を「供給力」として活用すべきとする声が高まっている。
<節電に商機あるが>
電力危機を契機に、ピークカットに対応するニュービジネスが生まれる機運も高まっている。東京電力がこのほどピーク需要抑制に向けたビジネスプランを募集したところ、6件が採用された。その中に、エナリス(東京都足立区)という見慣れない企業が顔を出す。同社は多数の需要家のピーク抑制を行う、2004年設立のベンチャー企業だが、日立製作所、ダイキン工業の大手2社と組んだ提案が東電に採用された。
こうした事業環境の整備に動いてきたエネルギーコンサル会社、クリーングリーンパートナーズ代表の福井エドワード氏は、節電分を集める事業者(デマンド・レスポンス・アグリゲーター)という業種の役割について、「50キロワット―500キロワット(小口高圧)の需要家が東京電力管内で20万件くらいあるが、そこの節電が手付かずだ。オフィスなどのこれら需要家が全てエアコンの出力を2割程度下げるだけで、東電管内のピーク需要(昨年夏で5000万キロワット弱)のうち1000万キロワット程度を抑制できると試算している」と解説する。
<官僚の考えに染まった>
福井氏は「危機や制約のあるところに創意工夫やイノベーションが生まれて新しい産業が育つ」と指摘するが、野田政権にはこうした声が届かなかったようだ。枝野経産相は「節電すれば需給ギャップは解消されるという声にも耳を傾けたが、細部まで確信できる議論には出会ってない」と語った。エネルギー分野で構造変革に踏み出すには長いリードタイムが必要となるが、新しい試みに否定的な態度こそ、再生可能エネルギーの本格拡大や、国際パイプラインの敷設を通じた安価な天然ガス調達など現在の危機に対応する上で必要な環境を整える芽を摘み取ってきた。
ISEPの飯田所長は、再稼働が必要との野田政権の判断について、「(政府や国会の)事故調査委員会の結果も出ていない、(原子力)規制庁が立ち上がっていないし、どんな規制庁になるか分かっていないし、地元の安全対策も出来ていない。安全性以前に政治的な手続きがあまりに破廉恥だ」と批判。こうした状況に陥ったことについて飯田氏は「民主党は政治主導といいながら政治主導のやり方を全くしなかった。原子力村や経産省の古い考えを持った人に取り囲まれ、官僚の全体の枠組み、考え方に染まってしまう」と分析する。
菅直人前首相のもとで内閣官房参与として原発事故の対応に当たった田坂広志氏は原発の再稼働の条件について「政府が国民に信頼されていること」(2月の講演)を挙げた。今の政府が国民から信頼を得ているかどうかについて枝野経産相は、「昨年3月11日にそれまで起こらないと言われていた事故が起こったのだから、国民の皆さんが簡単に政府を信頼してくれるとは思っていない。理解をいただけるかどうか最大限努力したい」と語った。
(ロイターニュース、浜田健太郎)
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<大飯再稼働>「5月」に黄信号…迫られる「地元」線引き
毎日新聞 4月14日(土)21時12分配信
14日に福井県を訪問した枝野幸男経済産業相に対し、西川一誠福井県知事らが大阪市や京都府など関西圏の理解を得るよう求めたことで、唯一稼働中の原発が停止する5月5日までの大飯原発再稼働に黄信号がともった。枝野氏は理解を得る「地元」の範囲をあいまいにしてきたが、県などが「関西圏の理解」を求めたことで、線引きを明確にすることが求められる。
枝野氏はこれまで、「どこかで線を引いて、その線の外は関係がないと言っていいのか」と繰り返していた。
再稼働の妥当性を検討する福井県の専門家委員会の中川英之委員長(福井大名誉教授)は「再稼働の可否を判断するには大飯原発の実地調査も必要」と述べるなど5月5日までに結論を出すのは難しそうだ。政府が恐れる「原発ゼロ」の事態が現実味を帯びてきた。【丸山進、小倉祥徳】
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大飯再稼働 「関西圏の理解必須」
東京新聞 2012年4月15日 07時13分
枝野幸男経済産業相は十四日、福井県庁で西川一誠知事らと会談し、政府が「妥当」と判断した関西電力大飯(おおい)原発(同県おおい町)の再稼働に理解を求めた。これに対し西川知事や時岡忍おおい町長は、政府の拙速な再稼働手続きへの批判を強める大阪市や京都府、滋賀県の理解を国が責任を持って得ることが必要との考えを示し、同意を先送りした。
枝野氏は会談後、時岡町長の要請に応じて住民説明会を開く方針を表明。滋賀県、京都府などには「政府方針を早く説明し理解を得たい」と語った。福井県は原子力安全専門委員会を十六日に開き、安全性などの検証を始める。
福島第一原発事故後の政府による立地自治体への再稼働要請は初めて。この日、民主党の仙谷由人政調会長代行も福井県議らに再稼働に理解を求めた。
会談で西川知事は、大阪市の橋下徹市長らが「再稼働ありき」の政府判断に反発する中では「県民の理解を得るのは困難」と強調。時岡町長も「関西圏の方々の理解を得てもらうことが必須だ」と話した。再稼働に向けた道のりは一段と険しくなった。
会談で枝野氏は、野田佳彦首相と関係三閣僚による協議を踏まえ「政府が再稼働の安全性と必要性を確認した」と説明。原発に対するテロ対策の充実強化なども進める考えを示した。ただ、事故時の最前線基地となる免震施設の設置などの先送りを認める穴だらけの安全基準の実態に関し、改善策を提示することはなかった。
暫定的な安全基準の設定を求めていた西川知事は「(政府から)一定の回答が示された」としつつも「安全性について県でも検証し、県議会やおおい町の意見も聞いて考えを示す」と述べるにとどめた。時岡町長は「早期に原子力規制庁を立ち上げ、規制機関としての実効性と透明性を高めてほしい」と注文を付けた。
◆急ぐ政府新たな難題
枝野経済産業相は政府の大飯原発再稼働方針を受け、立地自治体の理解を得る手続きに入った。しかし、大阪市の橋下徹市長ら周辺自治体が再稼働に反対していることを念頭に、関西圏の理解を得ることを「条件」とされ、再稼働を急ぐ政府はいきなり厳しい現実を突きつけられた。
会談で、福井県の西川一誠知事は枝野氏に「(関西圏の)電力消費地域に(原発立地県の)努力が必ずしも伝わっておらず、県民の理解を得ることは困難だ。責任を持って対応していただく必要がある」と迫った。
おおい町の時岡忍町長も会談後、再稼働への理解を得る対象について「関西圏の首長や住民」と明言。「一番の消費地の方々が再稼働に後ろ向きな状態をなおざりにしたまま、住民に再稼働を認めてくれと言っても理解してくれない」と述べた。
政府は再稼働に向け原発が立地する福井県とおおい町の理解を得るため、安全基準などを整えた。しかし、その首長から大阪や京都、滋賀など「関西圏」の理解を求められた。再稼働の理解を得る範囲を「県と立地自治体が最も重要」と限定しようとしていた政府の思惑は外れた。
関西圏は大飯原発の電力の大消費地であるばかりでなく、万一、原発で事故が起きた場合、放射性物質の影響が及ぶことが懸念される。橋下市長は政府が再稼働方針を決めた後、「民主党政権を倒さなければいけない」と批判を強めている。京都府の山田啓二知事と滋賀県の嘉田由紀子知事も「安全対策の恒久的な措置ができていない段階で再稼働するのは不安だ」などと発言し、説得は容易でない。
政府は全国で唯一、稼働している北海道電力泊原発3号機(北海道泊村)が定期検査に入り、停止する五月五日までに大飯原発を再稼働させたい考えだが、新たな難題を抱え「原発ゼロ」が実現する現実味はさらに強まってきた。(金杉貴雄)
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地元、国民の安全どこへ 政府の大飯再稼働方針
中日新聞 社説 2012年4月15日
政府の大飯原発3、4号機再稼働の方針は、地元とともに私たち国民もよく考えるべきことである。原発に頼らない、安全で豊かな社会に向かって。
政治と政府が責任を持つのだという。それならば、野田佳彦首相と関係三閣僚の皆さんは、もう一度福島の事故現場をつぶさに歩き、被災者や避難者の話をよく聞いてみるといい。
福島第一原発は今も、小規模な核反応が止まらずに汚染水を排出し、残骸をさらし続けている。帰れない人がいる。その数は十六万人に上る。なりわいを奪われ、健康不安を抱え、地域のきずなは引き裂かれ、美田や美林の荒廃になすすべもなく、海の幸をとることもかなわない。がれきの後始末さえ、めどを付けられないでいる。
◆責任、本当に取れるのか
その現実にあらためて接したうえで、それぞれの心に問いかけてみてほしい。「本当に、責任など取れるのか」と。
原子力損害賠償法には免責規定がある。福島第一原発事故後にできた原子力損害賠償支援機構法でも、政府の責任は限定的だ。原発事故の責任を取り切れるものは存在しない。
私たちが繰り返し主張し続けてきたことを、再び述べたい。
枝野幸男経済産業相はこれまでの評価の過程から「二重、三重、四重に安全性を確認した」と言い切った。だが今は、原発の安全性を確認できる状態からはほど遠い。国民の多くがそう思っているだろう。
第一に、福島第一原発事故の原因は、まだ分かっていない。
第二に安全評価(ストレステスト)を実施し、政治判断の根拠となる即席の暫定基準をたった二日で作成したのは、福島事故の原因者ともいうべき、経産省傘下の原子力安全・保安院である。原発推進に偏らず、科学的、中立的な規制機関はまだ存在しない。
関電が政府の要請に対して示した中長期対策の工程表は、八十五項目中三十三項目が未実施だ。
事故発生時に“司令塔”となる免震施設や、原子炉の圧力を下げるベント(排気)時に放射性物質を取り除くフィルターも、完成は三年先だ。地震や津波がそれまで来ないと、誰も保証できない。
地震の揺れでがけ崩れが起こり、非常用電源が使えなくなる恐れ、それと同時に住民の避難路が断たれる可能性、津波による浮遊物が建屋を破壊するケースなど、専門家による多くの指摘が、考慮のうちには入っていない。
◆安全神話時代の認識
枝野氏は「電力不足が社会の弱者に深刻な事態をもたらすことを痛感した」とも会見で述べた。
関電はこのまま再稼働ができないと、一昨年並みの猛暑になったとき、最大約二割の電力不足になると試算した。政府はそれを再稼働を急ぐ理由としているが、その見通しは広く検討されたものではない。節電の効果や電力融通の実態も、国民にはよく分からない。
そもそも、電力不足の影響が病人や高齢者に及ばないように工夫をするのが、政治本来の仕事ではないのだろうか。
「原発の地元はどこか」についても、国民的な合意はない。
福島第一原発事故を受け、防災対策の重点区域は、十キロから三十キロ圏内に拡大される。放射能がその日の風向き次第ではるか遠くへ飛散することを、国民は福島事故から学んでいる。
福井の原発について、大阪府と大阪市は原発から百キロ圏内の全自治体と原子力安全協定を結ぶよう、関電に求めている。無理をいっているのではない。福島の悲しい教訓なのである。
藤村修官房長官は「法律で地元同意が義務付けられているわけではない」と言った。安全神話時代の認識ではないか。
◆消費者も協調できる
私たちは「原発に頼らない国へ」という主張を続けている。
そこには、原発のリスクを過疎地に押しつけ、電力の大きな恩恵を受けながら、その使用量を右肩上がりに増やし続けてきた、消費者としての自戒が込められている。私たち消費者こそ、原発頼みの電力浪費社会を改める必要に迫られている。
立地地域の人々も、心は揺れているのではないか。原発が危険なことは重々分かっている。原発交付金が、いつまでも続くわけではない。
長年の苦衷を国民全体でくみ取って、共有すべきときである。国策の犠牲者である立地地域だけを、これ以上苦しめ続けていいわけがない。原発に代わる地域経済の新たな柱を用意し、地元に安心をもたらすことも、政府の責務ではないか。消費地から立地地域へ呼びかけたい。ともに原発依存から脱却し、持続可能な日本を築こう。協調しよう。
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