〈来栖の独白2012/4/19 Thu.〉
死刑制度に関する記事を読んだ。いずれも、反対の立場からの動きだが、それぞれの立場から貴重なメッセージを発信していらっしゃる。
米ハワイ大学マノア校のデビッド・ジョンソン教授の「政治主導で死刑廃止は可能」との言葉が快い。「世論を醸成し」は、戴けない。
わが国では、政治は殆んど世論を反映しない、無視なのに、こと死刑に関しては必ずといって「世論」が引き合いに出され、「8割、9割が死刑を支持しているので」と政府は言う。先般3月29日、死刑執行の際、小川敏夫法相も「世論が」と言った。それほどに「世論」を尊重するのであれば、支持率3割〜2割を切った政権であるなら辞職するのかと思えば、そうはしない。「世論」とは、政治家が都合好く利用するためにある。ただ、私は死刑について、こういった理屈屁理屈での論争をこれ以上はしない。
光市事件で最高裁判決が下りたときの〈独白〉を繰り返したい。
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<来栖の独白2012/02/21 Tue.>
昨夜から最も案じているのは、元少年(被告人)のことだが、そのほかに少しだけ、思うところを述べてみたい。
私は光市事件についてホームページや弊ブログで、カテゴリ〈光市母子殺害事件〉を設けて考えてきた。資料は、裁判書類(判決書・弁護団弁論)が多い。被害者遺族については、ほとんど触れなかったように思う。
「人は変わる。仏教の『無常』とは、そのことを言っているのです」と瀬戸内寂聴さんはおっしゃっていた。それを実感したのが、昨日テレビでわずかに見た遺族本村洋氏の表情だった。かつて元少年の死刑判決を望み「死刑でないなら、ここへ彼を出してください。私が殺す」とおっしゃった気迫は窺えなかった。「13年間、苦しんだ」とおっしゃったように記憶するが、なぜか、そのような苦しみも私には直には伝わってこない。「変わった」のではないか。歳月が、氏の心を何か変容させたのではないか。そんな気がしてならなかった。具体的に言ってしまえば、氏の心が歳月を経るなかで亡き妻子から離れた、私にはそんな気がした。
「人気」という言葉がある。人の気持ほど、移ろいやすいものはない。いつまでも、いや、片時も、一つのところにじっとしていないのが人の気持である。そんな人の心を、本村氏に見た。本村氏は「無常」を、「人の心の移ろいやすさ」を、私に実感させてみせた。
人は変わる。それでよいのではないか。儚いものだけれど、そうでなくては人は生きてはゆけぬ。そのような儚い性であるなら、どうぞ、赦してやってほしい。元少年被告人には、生まれ出でてこの方、嬉しいと感じられる瞬間がいくらあっただろう。恵まれない環境に育ち、過ちのように罪を犯し、死刑判決を受け、やがて縊られて孤独に死んでゆくとしたら、寂しすぎる人生だ。彼の母親は、彼の目の前で自ら縊れて死んだ。
若い怒り、正義感で走った13年。振り上げた拳が下せない、本村氏の表情が、そんなふうにも私には見えた。人は変わる。もし、もし、当初と違う何かが心の中に芽生えているなら、どうか、そのことを弁護団に伝えてほしい。元少年の量刑理由には、本村さん、あなたの峻烈な感情が大きく(決定的に)左右している。遺族感情があれほどに峻烈でなかったなら「少年による被害死者2名」という事案で死刑が選択されることはなかった。 酷なことを言うようだが、あなたのあれほどまでの動きがなかったなら、当該事件を「一粒の麦」として厳罰化に司法が舵を切る、多くの命が喪われる(死刑)という流れもなかった。
〈補遺〉
よく「死刑廃止は世界の潮流」とか「国際規約」などが云われる。が、その種の理論武装に私は与しない。仮に世界のすべてが死刑廃止国となったとしても、「だから日本も死刑廃止だ」とは言わず、「だから死刑はいけない」とは言わない。
昨年オバマ大統領はオサマ・ビンラディン氏を殺害し、「アメリカの正義」と言った。人を殺害しておいて「正義」であるという。腹黒い国際社会の「正義」とは、高々この程度のものだ。自国は核を保有しながら、他国の核保有は認めない。
イエスは「わたしの国はこの世のものではない」と言った。自分たちに都合の好いこと、或いは「力」を「正義」とする、そういう国際社会を指して言ったのだろう。
正義は「多数」に依らない。たとえ、世界中すべてが、この世の全部が、死刑存置国であっても、悪いものは悪い。正義は一時の潮流などではない、ポピュリズムに依って立てられるものではない、と私は信じる。
・ ヨハネ18章
20イエスは答えられた、「わたしはこの世に対して公然と語ってきた。すべてのユダヤ人が集まる会堂や宮で、いつも教えていた。何事も隠れて語ったことはない。
21なぜ、わたしに尋ねるのか。わたしが彼らに語ったことは、それを聞いた人々に尋ねるがよい。わたしの言ったことは、彼らが知っているのだから」。
22イエスがこう言われると、そこに立っていた下役のひとりが、「大祭司にむかって、そのような答をするのか」と言って、平手でイエスを打った。
23イエスは答えられた、「もしわたしが何か悪いことを言ったのなら、その悪い理由を言いなさい。しかし、正しいことを言ったのなら、なぜわたしを打つのか」。
24それからアンナスは、イエスを縛ったまま大祭司カヤパのところへ送った。
25シモン・ペテロは、立って火にあたっていた。すると人々が彼に言った、「あなたも、あの人の弟子のひとりではないか」。彼はそれをうち消して、「いや、そうではない」と言った。
26大祭司の僕のひとりで、ペテロに耳を切りおとされた人の親族の者が言った、「あなたが園であの人と一緒にいるのを、わたしは見たではないか」。
27ペテロはまたそれを打ち消した。するとすぐに、鶏が鳴いた。
28それから人々は、イエスをカヤパのところから官邸につれて行った。時は夜明けであった。彼らは、けがれを受けないで過越の食事ができるように、官邸にはいらなかった。
29そこで、ピラトは彼らのところに出てきて言った、「あなたがたは、この人に対してどんな訴えを起すのか」。
30彼らはピラトに答えて言った、「もしこの人が悪事をはたらかなかったなら、あなたに引き渡すようなことはしなかったでしょう」。
31そこでピラトは彼らに言った、「あなたがたは彼を引き取って、自分たちの律法でさばくがよい」。ユダヤ人らは彼に言った、「わたしたちには、人を死刑にする権限がありません」。
32これは、ご自身がどんな死にかたをしようとしているかを示すために言われたイエスの言葉が、成就するためである。
33さて、ピラトはまた官邸にはいり、イエスを呼び出して言った、「あなたは、ユダヤ人の王であるか」。
34イエスは答えられた、「あなたがそう言うのは、自分の考えからか。それともほかの人々が、わたしのことをあなたにそう言ったのか」。
35ピラトは答えた、「わたしはユダヤ人なのか。あなたの同族や祭司長たちが、あなたをわたしに引き渡したのだ。あなたは、いったい、何をしたのか」。
36イエスは答えられた、「わたしの国はこの世のものではない。もしわたしの国がこの世のものであれば、わたしに従っている者たちは、わたしをユダヤ人に渡さないように戦ったであろう。しかし事実、わたしの国はこの世のものではない」。
37そこでピラトはイエスに言った、「それでは、あなたは王なのだな」。イエスは答えられた、「あなたの言うとおり、わたしは王である。わたしは真理についてあかしをするために生れ、また、そのためにこの世にきたのである。だれでも真理につく者は、わたしの声に耳を傾ける」
38ピラトはイエスに言った、「真理とは何か」。こう言って、彼はまたユダヤ人の所に出て行き、彼らに言った、「わたしには、この人になんの罪も見いだせない。
39過越の時には、わたしがあなたがたのために、ひとりの人を許してやるのが、あなたがたのしきたりになっている。ついては、あなたがたは、このユダヤ人の王を許してもらいたいのか」。
40すると彼らは、また叫んで「その人ではなく、バラバを」と言った。このバラバは強盗であった。
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平岡前法相:死刑執行を非難「勉強会打ち切り残念」
毎日新聞 2012年04月18日 22時24分(最終更新 04月18日 22時32分)
平岡秀夫前法相は18日、東京都内の駐日欧州連合(EU)代表部で行われたシンポジウム「死刑廃止に向けて〜欧州の経験とアジアの見解」に出席し、後任の小川敏夫法相が法務省内に設置された死刑制度の勉強会を打ち切って、3月29日に執行に踏み切ったことを非難した。
平岡氏は基調講演で、執行直前に「国民的議論の契機とする目的が達成される見通しの立たないまま、勉強会が打ち切られたのは大変残念」と述べた。
死刑制度の省内勉強会は千葉景子法相(当時)が10年に設置。その後、歴代法相が引き継ぎ、一部の会議を報道陣に公開しながら死刑の存廃に関わる議論を進めてきたが、小川法相は「議論は尽くされた」として、3月9日に打ち切った。
小川法相は今後、新たに死刑の執行方法や死刑囚の処遇の在り方を非公開の政務三役会議で議論していく方針を示しているが、平岡氏は「より開かれた場で至急に議論が進められることを期待する」と語った。
シンポジウムには、平岡氏と同じく在任中に死刑執行命令を出さなかった杉浦正健元法相も参加し「犯罪被害者の補償制度を充実させないと、死刑をなくせという世論は盛り上がらない」と述べた。【伊藤一郎】
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都内で死刑廃止シンポ開催=日本の85%賛成は本当?−EU
欧州連合(EU)の駐日代表部は18日、都内で死刑廃止について語り合うシンポジウムを開いた。国際人権団体アムネスティ・インターナショナル日本の若林秀樹事務局長が「死刑存続の根拠に用いられる『85%の国民が支持派』という内閣府の世論調査結果は質問設定に問題があり、ミスリードを招く」と指摘するなど、死刑を続ける日本に厳しい意見が相次いだ。
日本では3月末、1年8カ月ぶりに3人に対し死刑が執行されたばかり。シンポは早稲田大学と共催で、欧州やアジア、米国の死刑問題第一人者が参加。「世界的に死刑廃止が進む中、日本もそうすべきだ」と廃止を求める声が続いた。
米ハワイ大学マノア校のデビッド・ジョンソン教授は、死刑が存続するシンガポールと1993年に廃止した香港の殺人発生率の比較などを挙げ「(死刑)存続による凶悪犯罪の抑止力が高いとは言えない」と紹介。世論を醸成し、政治主導で死刑廃止は可能と主張した。(時事通信2012/04/18-22:13)
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平岡秀夫前法相:死刑執行を非難「勉強会打ち切り残念」/都内で死刑廃止シンポ開催 EU 駐日代表部
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