4月20日MBSラジオ「子供達を被曝からどのようにして守るか」
メインキャスター(以下「MC」):水野晶子
コメンテーター:近藤勝重・毎日新聞専門編集委員
MC:小出先生、こんばんは。
小出氏:こんばんは。
MC:今日もよろしくお願い致します。
小出氏:こちらこそ、よろしくお願いします。
MC:そして近藤さんもいらっしゃいます。
近藤氏:近藤です。
小出氏:はい、こんばんは。
MC:まずは、福島県の原発に近い地域の子供たちを如何にして放射性物質から守るかという話なんですが、文部科学省がある通知を出しました。これは、福島県内の幼稚園や保育園や小中学校の校舎などを普通に利用する時の放射線の量の限界を決めたのです。1時間当たり3.8μSvという値なのですが、これについてどんなふうに小出先生は思われますか。
小出氏:驚きました。
MC:どういう意味でも驚きでしょう。
小出氏:私達が通常生活している場所の空間での放射線量というのは、1時間当たり0.05μSvです。
MC:それが普通なんですね。
小出氏:それが普通なのですが、3.8μSvという事はほぼ100倍まで我慢させるという基準です。
MC:そんな高い値なのですか、普通に比べれば。
小出氏:はい。まあ、80倍という位かもしれませんが。
MC:この算出のもとになっているのは、通常通りの学校の活動をした時に、1年間だったら放射線量が20mSvを超えないように、と。そこから時間当たりで計算したという話なのですね。もともとになっている年間の20mSvという値についてはどう思われます?
小出氏:それがとてつもなく高すぎます、とまずは思います。
MC:まずは大前提の20mSvが高い。これはどういう数字なのでしょうか。
小出氏:一般の日本人というのは1年間に1mSv以上浴びてはいけないというのが日本の法律なのです。それは、被曝というものが危険だからという事を前提にして、その基準を決めている訳で、これまでずっと、そういう基準があるから日本人は原子力から守られて来たと日本の政府は言って来た値です。それが、いきなり20倍まで我慢をさせる、と言い出した訳で、一体そういう権限が誰にあるのだろうか、と私は不思議に思います。特に子供というのは、もともと放射線に対して物凄く敏感ですので、その子供達に対して、これまで彼らが言って来た基準値の20倍まで我慢させる、押しつけるというやり方が一体何故許されるのか、私には解りません。
MC:この基準値を超える13の学校や園に対しては、屋外活動を1時間程度に制限するような通知なのですが、こういうやり方で子供達を防げるのかどうか、ですよね。
小出氏:被曝というのは、あらゆる意味で危険ですから、沢山被曝すれば危険が多くなる、少しであってもそれなりの危険がある、という事なのですね。でも、子供というのはやはり外で遊ぶべきものだと思いますし、砂場で泥まみれになって遊ぶというのが、子供というものだと思うのです。放射線量が高いから子供を外に出してはいけない、などという、その事自身が異常だと思うのですけれども、でももう既に、どちらかを選ばせなければいけないという程、福島市という所でも汚染が生じてしまったという事なのです。
MC:また、この通知の中で、土や砂が口に入った場合はよくうがいをして下さい、あるいは砂埃が立った場合は教室の窓を閉めて下さい、という話もあるのですが、こうした事はどれくらい子供たちを防ぐことに役立つのでしょうか。
小出氏:今1時間当たり3.8mSvとか言っている値は、いわゆる外部から被曝をする時の値なのです。放射性物質自身は体の外にあるという、そういう状態を想定しての被曝量なのですが、放射性物質を体の中に取り込むという事はもっと大きな被曝になってしまう訳です。ですから、口から取り込む、あるいは、吸いこむという事はもちろん避けなければいけませんので、子供達に対しても、口をよく洗わせるとか、手を洗わせるとか、体に一杯泥が付いた時にはすぐに着替えさせるとか、あるいは今言ったように、窓を閉めて放射性物質が中に入って来なければいけないという事はやるべきだと思います。やるべきだとは思いますけれども、そんな事をやらなければいけないような状態にしたのは一体どこの誰だったのか、と。私は、国だと、まあ政府だと思っている訳ですが、その政府が自分たちの責任を一切表明しないまま、子供たちに被曝を強制させるというやり方に、私は納得がいきません。
MC:心理的にも、子供達はもちろん、親御さんたちも非常に不安な毎日を送らなければいけないのじゃないかと思うのですが。
小出氏:そうなりますね。
MC:この前提になっているのは、やはり先日発表された工程表なのでしょうね。6カ月から9カ月で事故を収束させるという目標があって、これが発表されているかと思うのですが、工程表の見通しが甘い、と小出先生はおっしゃっておりましたが、この工程表に基づいて、今回子供達を守るという策であれば、期間の問題も出てくるかと思うのです。いかがでしょう。
小出氏:事故がこれからどうなるか、という事にもちろん寄っている訳で、私自身は、未だに事故が収束させれるという事に確信を持てないままでいますので、もっと事故が拡大していく、そして汚染範囲も拡大していくという事も起こり得るだろうと思っています。そうした場合に、今は政府は、子供達も含めて20mSvまで我慢をさせると言っている訳ですが、ひょっとするとそれすらが反故にされて、多くの被曝を我慢しろと言い出すのかな、と思います。
MC:子供達をいかにして守るのか、例えばの案ですけれども、疎開のような格好で親御さんと共に全然違う場所に避難してもらうというような、こういう事まで考えた方がいいのではないかと思うのですけれども、専門家のお立場からどう思われますか。
小出氏:私は、被曝というのは微量であっても危険だと思っている人間です。特に子供達は放射能に対して敏感ですので、何とか子供に限っては、被曝を少しでも少なくするような方策を取りたいと思います。ただし、子供たちだけ避難させる、昔で言えば疎開させるという事なのかもしれませんが、そうすると家庭が崩壊してしまう訳ですから、そちらで負わなければいけない重荷もあるであろうと思います。そのような重さというものを、一体どのような尺度で計ればいいのか、私は今は良く分かりません。でも被曝は何とか避けるような方向で、行政も含めて考えるべきだと思います。
近藤氏:先生ね、今日、警戒区域ですか、要するに強制的に立ち退けという事を臭わせ始めたですよね。そうすると、先生のお考えだと、警戒区域が出て強制的に立ち退かなければならない、その時に、例えば、私は家にどうしたっていたいんだ、とそういう人が現われるという事になると、どう考えたらいいのでしょうね。
小出氏:私は、そういう方は必ずいると思います。
近藤氏:いるでしょうね。
小出氏:はい。自分が長い間住んで来た土地、家、故郷というものがある訳ですから、被曝があったとしても、その土地に残りたいと言う人は必ず出るだろうと思います。実際、チェルノブイリの原子力発電所の周辺でもそういう方々は居て、物凄い汚染地域に、お年寄りが中心ですけれども、帰って来ているという現実があります。たぶん福島でもそうなるだろうと思いますし、もしそういう方々がいるのであれば、そういう方々の生活を支えるという事が行政の責任だと思います。
近藤氏:手立てというのは、どういう事になるのですかね。
小出氏:要するに、そういう所の人々はきっと孤立して生活をする事になると思いますので、食料の供給をどうするのか、あるいは電気・水・ガスというようなものをどうするのか、あるいは医療をどうするのか、という事を何か考えてそういう人達の生活を保障しなければいけない、と私は思います。でも、希望として言うなら、物凄い汚染地帯は捨てて、逃げて欲しいと思います。
近藤氏:先ほどから出ている子供達の3.8μSvの大本になっている20mSv、これは、政府が計画的避難区域に規定している基準ですよね。
小出氏:そうですね。
近藤氏:そうるすと、この計画的避難区域だの何だの、考え方も、先生の話を導入すれば、全ておかしくなって来ますよね。
小出氏:そうです。
近藤氏:そうすると今の区域の設定自体にいろいろな疑問がありそうですね。
小出氏:そうです。でも、これだけ酷い事故が起きてしまった訳ですから、もうどうにもならなくて、政府自身が追い詰められているという状況なのですね。ですから、原子力というものを許してしまった日本の大人として、やはり自分たちの責任を含めて、それに向き合わなければいけないと思います。ただ、子供たちだけは何とか守らなければいけない、というのが私の考え方です。
MC:でもそうなりますと、この区域から出て下さいというふうにお願いする時にいかに生活を保障するかという事とセットにして、政策を打っていかないといけないという事ですかね。
小出氏:おっしゃる通りです。
近藤氏;どれだけの方が警戒区域にいらっしゃるのか、私は数字は掴んでいませんけれどもたった一人の人間でも、それって何なんだ、という疑問があったら、とことん説明して納得していくだけの努力は最低限しなければいけないですよね。
小出氏:そうですね、それが政治の責任ですね。
近藤氏:だけど、そういう文脈の中で説明している風がないのですよね。
小出氏:はい、そうですね。
MC:さいたま市から頂いたおたよりがございまして(ラジオネーム略)、「私の夫や友人は建設業で仕事をしていますが、日給3万円で福島原発へ行ってくれないか、という話が来ました。夫も友人も全くの専門外なのですが、そんな話が来ています」という話なのですが、それで、「小出先生に伺いたいのですが」とおっしゃっているのです。「再び水素爆発をする恐れがありませんか」と。これは作業に行くかどうかという事をお考えになる、悩まれる所の大きなひとつのポイントかと思うのですが、この水素爆発の恐れというものについて、どうお考えですか。
小出氏:東京電力自身は、水素爆発の恐れはあると言っているのですね。恐れがあるからそれを防ぐために、格納容器という容器の中に窒素を入れなければいけないと言って作業をして来たのです。でも、入れても格納容器の内圧が上がらないという事は、既に格納容器が損傷しているという事なのです。ですから、そこから放射能が今現在漏れて来ているという状態にある訳です。少なくとも、東京電力が水素爆発の可能性があると言って作業をしている訳ですし、2号機、3号機に関しては、未だに何の作業も行われないままである訳です。私としては、1号機に水素爆発の恐れがあるというのであれば、2号機、3号機もあるだろうと思いますし、可能性が・・・私はあまり無いと思って来たのですが、やはりあると思っておかなければいけないのだろうと思います。
MC:そうですか。子供達をいかにして守るかという具体策というのも、小出先生がいろいろ言って下さったと思うのですけれども、政府が、本当にそこの補償をどういうふうに出せるかと言う事になって来た訳ですね。
小出氏:私は、策を出せないでもがいているのが現状ですけれども、本当にどうしていいのかよく分かりません。ですから、日本人の大人は今こそ知恵を絞って、子供たちを守るための策を出さなければいけないと思います。
MC:どうもありがとうございました。京都大学原子炉実験所助教の小出裕章先生に伺いました。
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