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東電トップに賠償機構 下河辺和彦氏/血税を危うい企業に渡す際のお目付け役が、貰う企業側の長に内定

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東電トップ 再稼働人事 新会長に賠償機構・下河辺氏
中日新聞 特報 2012/04/26
 血税を危うい企業に渡す際の「お目付け役」が、もらう企業側の長に内定した---こんな怪しげな話があるだろうか。東京電力の新会長に原子力損害賠償支援機構運営委員長の下河辺和彦弁護士が起用される。巨額の賠償に廃炉、除染費用で東電は「死に体」だ。本来なら法的整理が筋だが、民主党政権は原発の既得権益集団保護のため、それを避けてきた。今回の人事もその延長線上にある。(出田阿生・上田千秋)
 財界に断られたという事情はあるにせよ、今までレフェリー(審判)だった人がプレーヤーになるようなもの。ひどいモラルハザード(倫理観の欠如)だ」
 原子力委員会の新大綱策定会議メンバーである慶応大の金子勝教授(財政学)はそう語る。
 下河辺氏は東電にとって”身内”に等しい。「東電に関する経営・財務調査委員会」委員長を務めたが、福島第一原発1〜4号機の廃炉費用を一兆円余と見込むなど、”大甘”な査定で東電を債務超過から救った。
 今回の起用を「いい人事だ」と評した日本経団連の米倉弘昌会長など、財界が一様に歓迎したのも頷ける。
 「今の東電は(三ヶ月ごとの)四半期決算の直前に支援機構に賠償金を請求し、何とか黒字にしている。その組織のトップが乗り込んでくれば、ますます東電を救済するための資金が出るようになり、国民の負担が増えていく」(金子教授)
 下河辺氏の新会長内定を受け、東電と支援機構は二十七日に遅れていた「総合特別事業計画」(東電の再建計画)を政府に提出する。
 大手銀行は追加融資の条件として、原発の再稼働や家庭用電気料金値上げを挙げており、計画もそれらが盛り込まれるか否かが焦点となる。東電の生き残りには、減価償却済みの老朽原発を再稼働することが利幅が大きく、手っ取り早い。
 しかし、東電柏崎刈羽原発(新潟県)の周辺住民は二十三日、再稼働差し止めを求め、新潟地裁に提訴した。その代理人に名を連ねる脱原発弁護団全国連絡会代表の河合弘之弁護士は「もし下河辺氏が二日間でつくった穴だらけの安全基準で原発を再稼働させるというのなら、辞任要求を出すまでだ」と断言する。
 金子教授は再稼働や値上げは、時間を掛けて打ち出してくる可能性があると推測する。
 「家庭用料金値上げの影響は企業向けの比ではない。反発回避のため、まずはちょっとリストラをやる。資産を売り、企業年金を下げる・・・。その後に『リストラをやったのだから』という名目で料金を上げ、最後に再稼働、というシナリオを考えているのでは」
■“身内”起用「経産省のシナリオ」
 今回の人事を「すべて経済産業省のシナリオ通りだろう」とみるのは、内閣官房国家戦略室員を務めた富士通総研主任研究員の梶山恵司氏だ。
 「再稼働を協議する閣僚会合の配布資料には、電力不足により病院で死者が出るといった脅し文句が並んだ。事実上、今回の人事の担当官僚である枝野経産相も官僚の牙城の中で、孤立。抵抗するのは難しかったのだろう」と分析する。

政府、保護に躍起
 東電は帳簿上はともかく、実態は債務が資産を上回り、この先、収支が改善する見込みもない。にもかかわらず、政府が東電を解体、整理しようとしないのはなぜか。
■核燃サイクル・銀行・原発メーカー
 まず、各原発の使用済み核燃料を再利用する「核燃料サイクル」の維持だ。青森県六ヶ所村で日本原燃が運営する再処理工場には約二兆二千億円が注ぎ込まれ、サイクル全体にかけた費用は十兆円にも上るとされる。
 ここでの東電の存在は大きい。日本原燃の資本金四千億円のうち約千二百六十億円を出資。日本原燃の有価証券報告書によると、東電は一昨年三月末時点で、約二千九百億円の債務保証までしている。原発を再稼働せずにいずれ使用済み核燃料が出なくなれば、サイクルは確実に破綻する。
 メガバンクの貸し手責任回避もある。事故以前の出資に加え、三月に各行が同意した東電に対する追加支援額は、政府系の日本政策投資銀行の五千億円を筆頭に、三井住友銀行(一千億円)、みずほコーポレート銀行(六百億円)、三菱東京UFJ銀行(四百億円)。総出資額は計三兆円を超えている。これが貸し倒れとなれば、各行の経営状態に甚大な影響を与えるのは必至だ。
 これまで原子炉の製造を請け負ってきた三菱重工や日立、東芝などの重電メーカーへの打撃も大きい。さらには、電力各社でつくる電気事業連合会(電事連)や各社の労働組合と自民、民主両党の蜜月も背景にある。電事連会長の多くは、東電から輩出されている。
 原発を推進してきた勢力と構造を守るには、一時国有化されようと東電の存続は不可欠。そのために再稼働は欠かせない。下河辺氏は経営財務調査委時代から、その一端を担ってきた。
 とはいえ、このままでは、国民に危険と負担だけがのしかかる。東電をどうしたらよいのか。金子教授は「まずは発電会社と送配電会社に分け、送配電会社を売却する。さらに経営責任を問い、徹底したリストラをし、東電の企業年金をなくすぐらいのこともすべきだ。国が核燃料サイクルに出している原子力関係の予算の根本的な見直しも必要になる」と主張する。
 「銀行の貸し手責任も問うべきで、最低でも出資額の半分ぐらいは債権放棄させる。捻出した費用を賠償や除染、廃炉の費用に充てればいい」
 しかし、当の政府と東電は世論を無視し、再稼働に向けて懸命だ。一例は将来のエネルギー政策を決める経産省の総合資源エネルギー調査会基本問題委員会。先月二十七日の会合で事務局職員が作成した資料には、原発依存度を0%、20%、25%、35%とした四つのシナリオが示された。
 だが、20%以上は原発の現状維持か増設なくしては達成できず、脱原発派の委員八人が「恣意的」と激しく抗議した。
 梶山氏は「委員会では電力供給のベストミックス(最適な電源の組み合わせ)ばかりを議題にしている。全体のエネルギー政策の方向性を決めるべき時なのに、再稼働のために事務局が議題を限定している」とみる。
 「将来的なエネルギー需給を考えれば、エネルギー効率の向上と再生可能エネルギーを発展させる必要がある。その出発点が発送電分離。それを阻んでいるのが、原発を再稼働させようとしている政官財の人々だ」
 新会長の人事もそうした人々の思惑の中にある。
※デスクメモ
 東電人事に限らず、理屈の通らぬ話が多過ぎる。知人の障害者は電力不足は弱者にしわ寄せという枝野発言を聞いて「再稼働のダシに使うな」と憤った。「福島の事故で五十人死んだことを忘れたのか」。原発直下の精神科病院と施設で起きた悲劇を指す。福島で何が起きたのか。ほんの一年前なのだ。(牧デスク)
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