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誤算「小沢氏を確実に黒にできる証拠がない」起訴して無罪だったら、検察は政治に乗っ取られてしまう

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 陸山会事件判決 小沢一郎元代表に無罪
供述頼み 検察に誤算 崩れた裏金シナリオ
中日新聞 8面 2012/4/27Fri.
 政治資金規正法違反(虚偽記入)罪で強制起訴された民主党の小沢一郎元代表に、東京地裁は26日、無罪を言い渡した。政治資金収支報告書の虚偽記入を認める一方、元秘書との共謀はなかったと判断。さらに虚偽捜査報告書問題を引き起こした東京地検特捜部の捜査手法を批判。裁判を通じて「市民の判断」に基づく強制起訴制度の課題も浮かび上がった。政界実力者をめぐる歴史的な裁判から見えたものは何か。

■突破できる
 一人の政治家の立件に、東京地検特捜部は2年以上こだわり続けた。しかし、関係者の取り調べは難航し、証拠もそろわぬまま検察内部の意見は対立した。結局、自ら起訴することもできず、最強と言われた捜査機関は自滅した。歯車はどこで狂ったのか。
 「石川さえ逮捕すれば、必ず壁を突破できます」。2010年1月、特捜部長と陸山会事件を担当する最高検検事は小沢元代表の立件へ向け、秘書だった石川知裕衆院議員(38)逮捕の必要性を検察幹部に説得していた。
 特捜部が描いた筋書きはこうだ。陸山会は04年10月、東京都世田谷区に秘書寮建設のために土地を購入。元代表が用立てた4億円の中には、ゼネコンからの裏金が含まれていたはずだ--。
 事情聴取で、中堅ゼネコン水谷建設(三重県桑名市)の元社長は「04年10月に都内のホテルロビーで石川議員に現金5000万円を渡した」と、胆沢ダム(岩手県奥州市)の工事受注をめぐり裏金を渡したことを認めた。特捜部は、土地購入と時期が重なる資金授受を突破口に元代表に迫ろうとした。
 一方、石川議員は元社長との面識を否定したが、国会開会を目前に強制捜査すべきだと特捜部長らは主張。慎重姿勢だった検察首脳も最終的に首を縦に振り、10年1月15日に石川議員らを逮捕した。
 「現職議員の逮捕で現場は引き返せず、無理をしたのかもしれない。逮捕せずに捜査を続けていたら、捜査報告書などの問題は発覚どころか、そもそも起こらなかったんじゃないか」。当時の首脳の一人は、そんな思いが頭をよぎる。

■幹部の妄想
 「あのゼネコンは2億円、この下請は5000万円、小沢に裏金を渡したはずだ」
 石川議員ら元秘書3人を逮捕したころ、地検10階の執務室で特捜部長は部下たちに語っていた。捜査現場のリーダー格である主任検事はゼネコン各社の一斉聴取で応援に来ていた検事に「特捜と小沢との全面戦争だ」とハッパをかけた。
 小沢事務所とゼネコンの癒着の有無の解明に、特捜部は全力を注いだ。連日、聴取に呼ばれた各社の担当者らは「検事は裏金を渡しただろ、の一点張りだった」と明かす。
 結局、裏金にむすび付く供述は出てこない。捜査にあたった検事も「机をたたこうが、怒鳴ろうが担当者らは話さない。裏金は根拠のない思い込みだ」、「現場では上司への不満が渦巻いた。
 大阪地検特捜部から応援に入った前田恒彦元検事(44)は元代表の公判で証言。「裏金の筋書きは一部の検察幹部の妄想だった。もう少し小沢先生や奥様の資金周りを捜査すべきだったのではないかと思う」
 元秘書らの供述調書、陸山会名義の口座、土地登記簿の写し・・・。元代表の裁判で検察官役を務めた大室俊三弁護士(62)は、検察から引き継いだ証拠を見て、「意外に少ない」と驚いた。さらに、確定申告書や資産報告書など、元代表の個人資産の状況を示すものはなかった。
 「ゼネコンしか頭になかったのかな」。リクルート事件など特捜部が手がけた事件の被告を弁護した大室弁護士は、捜査の不十分さを直感した。

■内部で対立
 元秘書の拘留満期となる10年2月4日に向け、検察内部では元代表立件の可否が繰り返し議論された。
 〈供述なしでも、秘書との共謀を十分裏付けることができる」。担当の最高検検事は、あくまで元代表の起訴を主張。根拠は、「元代表が銀行融資の書類に署名をしていたこと。さらに、4億円を提供しながら、土地購入当日に同額の銀行融資を受けるという不自然さもあった。最高検検事は「客観的な動かぬ証拠。小沢氏を有罪にできる」と強調した。
 しかし、ほかの検察幹部の見方は違った。元代表に収支報告書の内容を報告し、了承を得たと認めた石川議員ら元秘書の調書は「具体性がなく、公判で否認されたら決め手を欠く」として、共謀を裏付けるのは困難との意見が大勢を占めた。
 ゼネコンへの捜査で、4億円に直接結びつく裏金も判明せず、「特捜部を信じたのが間違いだった」と語る幹部もいた。起訴を主張した最高検検事は、孤立していった。
 「小沢氏を確実に黒にできる証拠がない」。最終判断は不起訴。捜査現場にはこれに納得する者もいれば、上層部に不信感を抱くものもいた。当時の検察首脳の一人は「検察の良識を見せた。起訴して無罪だったら、検察は政治に乗っ取られてしまう」と語った。
 しかし、別の首脳は断言した。「内部で意見が対立し、時間をかけすぎた捜査は必ず失敗する。陸山会事件の捜査は大失敗だ。それを特捜部が自覚していないなら、未来は暗い。
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検察の敗北 「特捜体質」敗因に / “巨悪”を設定/「検審」を誤導、冤罪の温床の危険 〈小沢無罪判決〉 2012-04-27 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア 
 小沢元代表無罪判決 「特捜体質」敗因に
中日新聞 2012/4/27Fri.  特 報  
 小沢一郎民主党元代表の無罪判決は「検察の敗北」である。判決では、検察審査会が議決し、強制起訴される基となった東京地検特捜部作成の捜査報告書を「虚偽」と指弾した。かつて政治家の巨悪を摘発した特捜部は今、冤罪捜査の“連鎖”から「解体論」もささやかれる。地に落ちた信頼を回復する手立てはあるのか。(出田阿生、小倉貞俊)
 「また捏造か」---。衝撃の事実が明らかになったのは、昨年12月の法廷だった。
 東京地検特捜部の田代政弘検事=現在は法務総合研究所付=の証人尋問。検察審査会(以下検審)が1回目の「起訴相当」を出した後の2010年5月、田代検事が小沢氏の元秘書・石川知裕衆院議員を再聴取した際の捜査報告書に、ウソが書かれていることが判明した。
 報告書では「国会議員として支持してくれた選挙民を裏切ることになる」と説得する田代検事に、石川知裕議員が「結構効いた。こらえ切れなくなって『小沢先生に報告し、了承も得ました』って話したんですよ」と答えたことになっている。
 しかしその会話は、石川議員がかばんに隠していたICレコーダーの録音にはなかった。田代検事は「記憶が混同した」と主張したが、東京地裁は取り調べを非難。立証の柱だった石川議員らの調書29通を却下した。
 捜査報告書は検審新聞が強制起訴の条件である2回目の「起訴相当」を出す際、有力な判断材料となった。「小沢氏を起訴できなかった特捜部が、代わりに検審に起訴させようと工作したのではないか」と疑う声すら上がった。
 「特捜検察の闇」などの著書があるジャーナリストの魚住昭氏は「田代検事一人で作成したわけがない。特捜部の一部の幹部たちが、小沢氏を強制起訴させるために報告書を作らせたのは間違いないだろう」と話す。
 検察への信頼を大きく失墜させたのは、大阪地検特捜部が手がけた障碍者郵便制度不正事件だ。担当した前田恒彦元検事が証拠品のフロッピーディスクのデータを改竄していたことが判明。村木厚子・元厚労局長は無罪となった。
 前田元検事証拠隠滅罪で懲役1年6月の実刑となり、上司の元特捜部長と元副部長も先月30日に犯人隠避で執行猶予付き有罪判決=いずれも控訴=を受けた。
■“巨悪”を設定
 「捜査のほころびは今に始まった話ではない。昔は巧妙に隠していたが、今は手法がずさんになって、ばれはじめただけ」と魚住氏は続ける。
 「特捜検察の問題というのは、個人の資質ではなく、あくまでもシステムの問題。大事件をつくろうとするあまり、“巨悪”を設定して、無理筋でも押し切る。これは戦前からの遺伝子だ」
 戦前も大事件ではチームを作り、強大な力を持っていた。戦後もその力を存続させたい検察幹部が、日本版の米連邦捜査局(FBI)の結成をめざし、連合国軍総司令部(GHQ)と駆け引きを繰り広げた。そして1948年に起きた汚職の昭和電工事件で実力を示し、独自捜査専門の特捜部が発足したという。
 田中角栄元首相が裁かれた76年のロッキード事件、88年のリクルート事件、92〜93年の金丸信元自民党副総裁の巨額脱税事件・・・。特捜部は内定から起訴まで独自捜査権限を持ち「検察の花形」ともいわれてきた。
■「検審を誤導」
 「それが90年代後半からどんどん立件のハードルが下がってきた」と魚住氏。バブル期の不良債権をめぐる長銀・日債銀の粉飾事件では、いずれも無罪判決が確定。
 証券取引法違反などの罪で経済界の寵児が実刑判決を受けたライブドア事件などでも、検察側の構図に「市場の実態と合っていない」との疑問が投げられた。魚住氏は「大事件をつくろうとするのは、検察の地位向上と検察官個人の栄達のため。引退後に特捜事件の弁護人をしたり、公的機関のトップに就任といったOBの権益確保にもつながるからだ」と指摘した。
 ほかのジャーナリストはどう見ているか。まず検審について、青木理氏は「検審はもともと、検察が何らかの政治的思惑や組織の都合で起訴しなかった『恣意的な不起訴』を市民目線でチェックするためにつくられた機関。今回は検察が『どうしても起訴したかったのに見立ても捜査も不十分だったケース』であり、本来のあるべき姿とは逆だ」と解説。その上で「制度の趣旨を理解していない検審にも問題があるが、もっとも非があるのは検審を誤導した特捜部の一部暴走検事たちだ」と強調する。
 大谷明宏氏も「現行の制度のままでは冤罪の温床になりかねず、危険だ」と話す。検審の議決による強制起訴は、2009年5月に制度が始まった。先月、詐欺罪に問われた投資会社社長が那覇地裁で無罪判決を受けるなど、今回で強制起訴の無罪判決は2例目だ。
 大谷氏は「検察審査員の11人の素人が、検察の恣意的な資料を基に判断するのは難しく、虚偽報告書を見破れるわけもない。裁判員裁判に合わせて枠組みを作った拙速な制度であり、国会の力でやめさせるべきだ」。
 特捜検察の在り方についてはどうか。青木氏は「起訴した裁判は99%有罪になり、外部からのチェック機能もない最強権力だが、絶対的な権力は必ず腐敗する。特捜はなくした方が良く、どうしても必要なら検察の外に別の組織をつくるべきだ」と語る。
 一方、大谷氏は「自民党の長期政権の腐敗を監視し、『巨悪は眠らせない』との特捜理念は大事で、防腐剤の役割を果たす点で存在意義がある。陸山会事件のように政権交代のタイミングで動いて『国策捜査』の疑惑を受けないようにし、扱う事件は100%可視化する必要がある」。
 捜査報告書の虚偽作成問題で、検察トップの笠間治雄検事総長は先月5日、都内の講演で「検証する」と述べたが、身内による内部調査だ。
■低い危機意識
 元検事の郷原信郎弁護士は「検察の在り方検討会議」の委員を務め、今月17日に委員や法務・検察幹部の懇親会に参加した。同じくジャーナリストの江川紹子氏が障害者郵便制度不正事件などのさらなる検証を求める書面を配ったが、法務省幹部は「まずは乾杯」と呼びかけた。郷原氏は「組織として深刻な事態なのに、検察は当事者意識が薄すぎる」と嘆く。
 郷原氏と魚住氏は口をそろえる。「組織的な関与を調べるべきだ。第三者機関による徹底した検証と反省なくして、国民の信頼は回復しない」
 江川氏も同じ意見で「いったん『特捜』という金看板を取り外し、今の時代に適した捜査のやり方などを抜本的に見直すべきだ」と話した。
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小沢元代表無罪  許せぬ検察の市民誤導
中日新聞 2012年4月27日 社説
 政治資金規正法違反に問われた民主党元代表小沢一郎被告は無罪だった。元秘書らとの共謀を示す調書などが排斥されたからだ。市民による検察審査会の判断を誤らせた検察の捜査こそ問題だ。
 「事実に反する内容の捜査報告書を作成した上で、検察審査会に送付することがあってはならない」と裁判長は述べた。
 小沢元代表の裁判は、新しい検察審制度に基づき、市民による起訴議決を経て、強制起訴されたものだった。
 つまり、市民が判断の中核としたとみられる検察側の書類そのものが虚偽だった点を、裁判所が糾弾したわけだ。
 問題の報告書は元秘書の石川知裕衆院議員が小沢氏の関与を認めた理由の部分だ。「検事から『親分を守るためにうそをつけば選挙民を裏切ることになる』と言われたのが効いた」と石川議員は述べたという。だが、実際にはそのようなやりとりがないことが、録音記録で明らかになった。
 検察が虚偽の文書を用いて、市民を誤導したと指弾されてもやむを得まい。石川議員の供述調書も、検事の違法な威迫、誘導があり、裁判で証拠採用されなかった。取り調べ過程の全面録画(可視化)の議論は加速しよう。
 そもそも、巨額なカネはゼネコンから小沢元代表側へと渡ったという見立てで、捜査は始まった。上司から「特捜部と小沢の全面戦争だ」とハッパをかけられたという元検事の証言も法廷で出た。今回の判決でも「検事は見立てに沿う供述を得ることに力を注いでいた」と厳しく批判された。予断となった特捜検察の手法をあらためて見直さざるを得まい。
 検察審の在り方も論議を呼びそうだ。検察の大きな裁量を見直し、市民に事実上の起訴権限が与えられた新制度は評価できる。その特徴は黒白を法廷決着させたい意思だろう。一方で、強制起訴の乱用を懸念する声もある。
 今回の裁判でも、弁護側は「検察が意図的に検察審に誤った判断をさせた」と主張していた。これは検察審の悪用であり、事実なら言語道断である。市民の議論をサポートする弁護士を複数制にしたり、容疑者に弁明機会を与えるなど、改善点を模索したい。
 小沢元代表は法廷で「関心は天下国家の話。収支報告書を見たことすらない」とも語った。政治資金制度の根幹部分を改正することも急務といえよう。
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コラム 筆洗
東京新聞2012年4月27日
 「江戸の敵を長崎で討つ」。検察審査会に提出した捜査報告書が偽造されていた驚くべき事実に、こんな言葉が浮かぶ。検察審査会を利用し、自らは起訴を断念した政治家の命脈を絶とうとしたのではないか。そう疑われても仕方のない捜査だった▼民主党の小沢一郎元代表にきのう、無罪判決が下された。小沢氏に道義的な責任は残るが、この裁判の敗者は誰かと考えてみた。強制起訴した検察審査会や指定弁護人ではない。法廷には姿がなかった検察組織である▼ロッキード、リクルート事件など、政治家や高級官僚を立件した輝かしい歴史がある特捜検察も、有罪立証には綱渡りの場面があった。負の遺産は継承されず、残ったのは尊大な世直し意識だった。その姿は無謀な戦争に突き進んだ昭和の軍官僚たちの姿と重なる▼日露戦争は革命思想が浸透したロシア国内の混乱の要因もあり、薄氷を踏む勝利だった。陸軍参謀本部が残したのは、司馬遼太郎さんが「明治後日本で発行された最大の愚書」と憤るほど都合の悪い事実を隠蔽(いんぺい)した戦史だ▼実戦の経験のない若手将校には完勝したイメージだけが残り、その慢心は昭和の戦争で日本を破滅に導いた。二つの戦争で旗を振り続けたのは新聞だった▼筆者は長く検察を取材してきた。特捜検察をおごり高ぶらせた責任を顧みなければならない、と自省を込めて書く。
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