自衛隊は「国防軍」 自民が新改憲案 天皇 日本の元首
東京新聞2012年4月28日 朝刊
自民党は二十七日、新たな憲法改正案を発表した。自衛隊を国防軍と位置付け、自衛権の保持を明記。有事やテロ、大災害の時に国民は国などの公的機関の指示に従うことを義務とした緊急事態条項を新設した。
新改憲案では、戦争放棄をうたった現行の九条一項をほぼ踏襲した上で、戦力不保持を記した二項を削除し、自衛権の保持を追加。国防軍は首相を最高指揮官とし、国際貢献も任務とした。
緊急事態条項では、他国の攻撃や内乱、地震などの際に、首相が緊急事態宣言を発令。首相は必要な財政措置や地方自治体の首長への指示を行う。国民は緊急事態時に国民の生命や財産を守るために国などの指示に従うことを義務とした。
天皇は日本の元首と明記。国旗は日章旗、国家は君が代と定め、国民は尊重することを義務付けた。
国民に保障された自由や権利は「責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」と規定。公益や公の秩序を害する活動などは禁止する条項を新たに盛り込んだ。
新改憲案は二〇〇五年にまとめた「草案」を補強、修正した。日本が主権を回復したサンフランシスコ講和条約の発効から六十年にあたる二十八日に合わせて発表された。
◆人権より秩序優先 保守色強く、「国」を意識
自民党が発表した新たな憲法改正案は天皇を元首と位置付け、自衛隊を国防軍とするなど、保守色の強いものとなった。「国」を強く意識し、公共の秩序を守るためには国民の自由や権利が制約されることが盛り込まれ、人権より秩序優先の改憲案となった。
新改憲案は、前文の結びで「日本国民は、良き伝統とわれわれの国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する」と宣言。「伝統」「国家」と保守色の強い言葉が並んだ。
自衛隊については、改憲案のたたき台の段階では「自衛軍」としていたが、国と国民を守る軍隊という位置付けを明確にするため「国防軍」となった。現行憲法の国民主権は守りながらも、国家元首は天皇と規定。国旗や国歌も新たに明記した。
いずれも自民党を支え、伝統を重んじる保守層を強く意識した改正だ。自民党が保守にこだわるのは、次期衆院選で民主党との差別化をはかるためだ。
自民、民主両党は消費税増税など政策面で重なる部分が多くなっている。自民党にとって改憲で「保守」をアピールすることは、民主党との違いを明確に示せる数少ない要素といえる。
だが、保守層の支持を意識して国を重んじるあまりに、国民に保障されている自由や権利には、現行憲法にはなかった一定の制限をつける傾向が見える。
現行憲法では、国民の自由や権利は「公共の福祉」に反しない範囲で保障されている。「公共の福祉」に反しないとは、自分と他者の人権が衝突した際にバランスよく調整することと解釈するのが通説だ。
新改憲案では「公共の福祉」は「公益及び公の秩序」となり、個人同士の関係よりも、国全体の秩序が優先される趣旨に変えている。背景には、党内にある「(現行憲法は)個人主義を助長しすぎる」という考え方がある。
新設された緊急事態条項でも、個人の自由や権利は制約され、国の指示に従うことが義務化される。基本的人権が最大限尊重されるとうたっているものの、時と場合によっては人権が侵害される事態も予想され、国民の間で賛否を呼ぶ可能性がある。 (上野実輝彦)
<自民改憲草案要旨>
【前文】日本国は、国民統合の象徴である天皇を頂く国家。日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を貴び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
【天皇】天皇は、日本国の元首。国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。日本国民は、国旗および国歌を尊重しなければならない。
【九条】日本国民は、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇および武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。前項の規定は自衛権の発動を妨げない。内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。国は、領土、領海および領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
【国民の権利義務】国および地方自治体その他の公共団体は、特定宗教のための教育、宗教的活動をしてはならない。ただし、社会的儀礼の範囲を超えないものは、この限りではない。
【緊急事態】内閣総理大臣は、外部からの武力攻撃、社会秩序の混乱、地震等による自然災害において、緊急事態を宣言できる。
【憲法改正】衆院または参院の議員の発議により、両院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決、国民に提案してその承認を得なければならない。
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【風を読む】
論説委員長・中静敬一郎 軍隊でなければならぬ理由
産経ニュース2012.2.28 08:08
少しずつ、着々と、東シナ海における日本の排他的経済水域(EEZ)が、「中国の海」と化している。2月19日、沖縄県久米島近海の日本のEEZ内で海洋調査中の海上保安庁測量船が、中国国家海洋局の「海監66」から無線で調査の中止を要求された。海保測量船が中国政府公船から調査中止を求められたのは一昨年5月以来、3回目だ。今回、中国船は中間線から最も日本寄りの海域に入り込んできた。
自国の主権的権利が公然と否定されていることへの日本政府の外交ルートによる申し入れは「中止要求は受け入れられない」。山根隆治外務副大臣は記者会見で、「中国の反応次第で抗議するのか」と尋ねられ、「反応が何かあれば、当然対応する」と語った。こんな形式的な申し入れしかできぬ野田佳彦政権の主権意識の希薄さにはあきれ果てるが、底流には、戦後日本が国の独立と安全を守ることにあまりに無頓着だったことがある。因循姑息(いんじゅんこそく)なやり方がなお続いているのである。
昨年8月、中国の漁業監視船は尖閣諸島沖の日本領海に侵入した。国連海洋法条約は領海内の無害でない行為を防止するため、必要な措置を取れると定めている。列国の軍隊はこれに沿って排除行動を取るが、日本だけはなぜか、排除できないようにしている
国内法に排除規定がないことに加え、自衛隊に国際法上の軍隊としての機能と権限を与えていないためである。例えば、中国が行動をエスカレートさせ、海上自衛隊艦船に海上警備行動が発令されたとしても、退去要請という警察権の行使しかできない。実はこうした日本の弱みを周辺国は見抜き、付け込んできている。北朝鮮による拉致事件も日本の抑止力が機能していたら、起こりはしなかった。
自衛隊を軍隊として国際法に基づく自衛行動を取れるようにしなければ、より大きな危難を呼び込みかねない。憲法第9条の改正が待ったなしの理由である。
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