早くも噂される 原監督は「今季限り」 次期監督に落合博満
現代ビジネス 2012.05.01
「ベンチ裏で選手たちが『チームが打てないのは監督のせいだ』と話していたと言うんです。
というのも原(辰徳)監督がシーズン開幕前に突然、『時にはスモールベースボールも必要だ』と言い出した。チーム全体で行っていたミーティングを撤廃し、個々にデータを配る手法に変えたんです。突然『ID野球を取り入れろ』と言われ、選手は混乱してしまった」(巨人担当記者)
昨年まで2年連続で優勝を逸し、焦りの見える指揮官に、開幕から約3週間で、早くも「今季限りで解任される」という噂が流れている。
「次期監督候補の一人だった吉村(禎章)コーチを解任して、?子分?の村田真一バッテリーコーチを打撃コーチに替えたり、『(阿部)慎之助が打たない』『小笠原(道大)がダメだ』など、敗因を選手に押しつけるようなコメントを出すようになったり、迷走している」(スポーツライター)
そんな原監督に代わる有力候補として名前が挙がっているのが、落合博満前中日監督だ。
「渡邉(恒雄)会長は、以前から原監督に『落合くんの野球を勉強しろ』と言うなど、落合氏の残した実績を高く評価しています。昨オフも、関係者を通じて監督就任を打診している。落合氏は、『あのフロントでは』と話しているが、可能性はゼロではない」(スポーツ紙デスク)
ただしコーチ経験もある、ある巨人OBはこのように指摘する。
「他に候補がいないから、ナベツネさんも『落合、落合』と言っていますが、落合は、勝つためには親会社も平気で無視する男です。いずれナベツネさんと衝突することは必至。
要はナベツネさんが、どれだけ全権を落合に委ねられるか、でしょう。今は落合も、それを見極めている状況です」
先日、落合氏はある講演会で、巨人の超過契約金騒動に触れ、
「私なら内部から機密がもれるようなズサンな情報管理はしない」
と話していたという。
落合氏はまた、
「ファンと共にというのも結構。ただし優勝という結果から外れなければね」
とも語っているが、原監督への皮肉に聞こえないこともない。
『週刊現代』2012年4月28日号より
==============================================
◆落合博満『オレ流采配』/「完全試合直前」山井の交代、アライバ謎のコンバート、WBCボイコット・・・ 2011-11-28 | 野球・・・など
落合博満「今明かされる『オレ流采配』の真実」
「完全試合直前」山井の交代、アライバ謎のコンバート、WBCボイコット・・・
現代ビジネス2011年11月28日(月)フライデー
■落合博満監督の信念は〈最大のファンサービスは、あくまで試合に勝つこと〉。最後までブレることはなかった
例えば0-1の敗戦が続いたとする。普通なら、打線の奮起を促すところだが、中日・落合博満監督(57)は違う。
〈投手陣を集め、こう言うだろう。「打線が援護できないのに、なぜ点を取られるんだ。おまえたちが0点に抑えてくれれば、打てなくても0対0の引き分けになる。勝てない時は負けない努力をするんだ」〉〈試合は「1点を守り抜くか、相手を『0』にすれば、負けない」のだ〉
0―1ではなかったものの、第1戦、第2戦ともに延長戦を2―1のロースコアで制した日本シリーズの戦いぶりに、確かに?オレ竜野球?の真髄が見て取れた。〈 〉内の言葉はすべて、落合監督の10年ぶりの書き下ろし作―その名もズバリ、『采配』(ダイヤモンド社)内での言葉だ。本誌は11月21日発売の本書をいち早く入手。そこには?不言実行の男?が胸に秘めていた「オレ流采配の真実」が記されていた。いくつか抜粋しよう。
*采配(1)絶対的信頼
3度も三冠王を獲った男が「投手力」を中心とした守りの野球を推し進めたのは〈私の好みではなく、勝つための選択〉だった。そしてその大事な投手陣を、落合監督は完全に任せ切った。
〈監督を務めて8年間、私が先発投手を決めたのは一度しかない。就任直後の2004年、開幕戦に川崎憲次郎を先発させた試合だ。つまり、私が監督になってからの2試合目からはすべて、森繁和ヘッドコーチが決めていた〉
誰が先発か知らない日もあった。
〈顔は怖いし、言葉遣いが少々乱暴に聞こえることもあるが、選手に対して並々ならぬ愛情を持っているのがよくわかる男だ〉
とは彼の森コーチ評だ。一度、実力を認めたら、責任持って100%任せ切る。この胆力と信頼が部下を育てるのだ。
*采配(2) 勝つことが最優先
'07 年の日本シリーズ第5戦。先発の山井大介(33)は8回まで日本ハム打線をノーヒットに抑えていた。完全試合達成となれば日本シリーズ史上初の快挙だったが、落合監督が9回のマウンドに送ったのは守護神・岩瀬仁紀(37)だった。
〈この日本シリーズの流れを冷静に見ていった時、もしこの試合に負けるようなことがあれば、札幌に戻った2試合も落としてしまう可能性が大きいと感じていた〉〈私はドラゴンズの監督である。そこで最優先しなければならないのは、「53年ぶりの日本一」という重い扉を開くための最善の策だった〉
ここで降板させたら、何と言われるか。だが、点差はわずかに1点。山井は右手薬指のマメを潰している―邪念を振り払い、選択したのが岩瀬の投入だった。
〈私の采配を支持した人には日本シリーズを制した監督が多いな、ということ以外、メディアや世間の反応については、どんな感想を抱くこともなかった。(中略)采配の是非は、それがもたらした結果とともに、歴史が評価してくれるのではないか〉
周囲に惑わされず、勝利のために最善を尽くす。リーダーはブレてはいけないのだ。
*采配(3)「アライバ」シャッフル
落合采配・最大のミステリーとしてファンの間で語られているのが、セカンド・荒木雅博(34)&ショート・井端弘和(36)の「アライバコンビ」のシャッフルだろう。6年連続でゴールデングラブ賞を獲った二人の守備位置を、 '10 年シーズンから落合監督は入れ替えたのだ。
〈彼らの適性だと判断した〉〈?慣れによる停滞?を取り除かなければいけない〉
というのがその理由。この年、荒木は自己最多の20失策を記録。井端は体調不良もあり、リタイア。コンバートは失敗に見えた。だが、指揮官はへこたれない。
〈この先、(荒木が)二塁手に戻るようなことがあれば、間違いなく以前を遥かに超えたプレーを見せるはずだ。遊撃手を経験したことにより、荒木の守備力は「上手い」から「凄い」というレベルに進化しているのだ〉
*采配(4) ベテラン重用の理由
落合政権下でレギュラーを奪取した生え抜きの野手はなんと、森野将彦(33)だけ。「若手を使わず、ベテランを贔屓する」と批判される所以(ゆえん)だが、この点、落合監督は否定しない。まだ時間がある若手と先がないベテラン、〈どちらがここ一番の場面で力を出すのか。それを考えると、ベテランを起用せざるを得ない〉と明言しているのだ。実際、日本シリーズで和田一浩(39)、谷繁元信(40)らが活躍しているだけに重い言葉である。
冷や飯を食わされている側にも目を向けよう。1年目から3割近い打率をマークしたのに出場機会が激減。「落合にスポイルされている」とファンに噂されている藤井淳志外野手(30)については、新聞紙上でのコメントと同様、〈勝負どころの打球判断に不安を感じていた〉と語っていた。だが、他の選手もエラーはする。彼が目の敵にされた理由はおそらく、別頁のこんな記述の中にある。
〈何も反省せずに失敗を繰り返すことは論外だが、失敗を引きずって無難なプレーしかしなくなることも成長の妨げになるのだ〉〈注意しなければ気づかないような小さなものでも、「手抜き」を放置するとチームに致命的な穴があく〉
*采配(5) WBCよりも契約
輝かしい成績を残したオレ竜、唯一の暗部が第2回WBCだろう。落合監督は代表監督就任を固辞。ドラゴンズの選手たちも辞退したことで、「球団をあげてボイコットするのか!」と批判されたのだ。
監督は今も納得がいっていない。自分は「優勝に向けて全力を尽くす」という中日との契約を優先させるべきであり、選手たちは〈契約書には明記されていない仕事をする場合には本人の意思が第一に尊重されるべき〉だったからだ。
「辞退理由を述べろ」との当時の論調はこう退けた。〈(故障など)選手のコンディションとは、言わば一事業主にとって?企業秘密?なのである〉と。
連覇しても解任。その無慈悲な現実を突きつけられた落合監督が口にしたのは、「契約だから」という一言だった。
オレ流とミスターとの比較、若手を伸ばすコツなど、同書には他にも落合節がビッシリ。自らの人生を采配するヒントになること、うけあいだ。
「フライデー」2011年12月2日号より
=======================
◆原優勝手記で落合挑発? WBC選手出さず、故障者隠し…
2009年9月25日16時56分配信 夕刊フジ
優勝手記での巨人・原辰徳監督(51)の挑発的な発言に対し、中日・落合博満監督(55)がどう反撃するか。消化試合になった28日からの今季最後のナゴヤドーム3連戦にも興味がわき、本番のクライマックスシリーズ(CS)が面白くなってきた。
24日付の読売新聞のスポーツ面に載った原監督の優勝手記。興味深かったのは、今年3月に行われたWBCの日本代表選手に中日が1人も派遣しなかった件に関してだ。
「WBCに中日の選手は一人も出場しなかった。どんなチーム事情があったかは分からないが、日本代表監督の立場としては『侍ジャパン』として戦えるメンバーが中日にはいなかったものとして、自分の中では消化せざるを得なかった」
全員出場辞退した中日勢抜きでWBCを連覇した結果があるから言える言葉だが、その後に刺激的な発言が続いている。
「野球の本質を理解した選手が多く、いつもスキのない野球を仕掛けてくる中日の強さには敬服するが、スポーツの原点から外れた閉塞感のようなものには違和感を覚えることがある。今年最初の3連戦、しかも敵地で中日に3連勝出来たことは格別の感があった」
チームの機密を盾に故障者も明かさない落合流管理野球を真っ向から批判したようなもの。それだけに、落合監督としても黙って受け流せる言葉ではないはず。
巨人のリーグ3連覇が決まった後、「オレがこの状況に手をこまねいていると思うか? 見くびるな」と声を大にし、10月17日から始まる3位とのCS第1ステージ、21日からのリーグ優勝の巨人との第2ステージへ向け万全の備えを宣言している。
今季ペナントレース最後の顔合わせになる28日からのナゴヤドーム3連戦にも興味が出てくる。本来なら単なる消化試合に過ぎないが、原監督の刺激的な優勝手記で何が起こっても不思議ではなくなったからだ。見どころ満載のCSのリハーサルとしてハプニングがあるのかどうか。乞うご期待だ。(夕刊フジ編集委員・江尻良文)
=====================================
◆『采配』落合博満/孤独に勝たなければ、勝負に勝てない/3つの敵/「負けない努力」が勝ちにつながる2011-11-25 | 野球・・・など
◆だからプロ野球は面白い 中日・森繁和元ヘッドコーチが初めて明かす 『参謀』--落合博満は何が違うのか 2012-04-13 | 野球・・・など
現代ビジネス2012年04月12日(木)週刊現代
落合監督は中日での8年間、Aクラスから落ちたことが一度もなかった。リーグ優勝は実に4度。名将と呼んでいいだろう。その落合監督の横には常にひとりの男が立っていた。彼こそが名将の「参謀」である。
■チームの情報を漏らせばクビ
落合監督はコーチに対して、いつも相当な努力を求めてきた。コーチ同士でも一軍担当か二軍担当か競争をさせる。チームはそういう緊張感にあふれていた。
たとえば、
「内角球のインパクトのポイントを後ろにするために、内角球をバットの芯でライトに運ぶ練習をしておけ!」
といったメニューの指示が、監督から私に出たとしよう。
当然、監督の話はバッティングコーチに伝えてそのコーチが選手と練習をするのだが、ときどき監督が見に来て、その打者の練習について注文がつく。
「あれで、メニューこなしたのか?練習やっているのか?」
もちろん監督はいつも打撃練習に付きっきりではなく、打者も基本的にコーチに任せている。
だから、「監督はいつも見ているわけじゃないから、見ていないときやっています」とバッティングコーチは思うのかもしれないが、
「今日はたまたまやっていなかったのかもわからんけども、オレが見ている限りではやってねえぞ」
と、監督は譲らない。
優秀なコーチとそうでないコーチの差は、この練習が成果をあげているのか、監督の狙いどおり、打者が打てているのかを、きちんと観察して評価できるかにある。
この観察力が、監督はどの打撃コーチよりも確かだ。見ていなくても、打者の結果を見れば想像がつくのだろう。監督の観察と指摘は実に的確だ。
打撃コーチにとっては相当厳しかったろうし、クビにならなかったコーチはおかげで鍛えられたと思う。
監督はナゴヤドームではいつもベンチの同じ位置に試合中座り続ける。いわば定点観測をすると、球場内のあらゆる動きが目に入り、いつもと違うことが見えてくるんだという。
井端(弘和/編集部注・以下同)と荒木(雅博)のコンバートも、あえて右打者に左ピッチャーをぶつけるのも、そういう観察から確信したものではないだろうか。
選手だけではなくて、我々コーチ陣に対しても、裏方に対しても、目配りというか、気配りをする。まったく動いていないようで、必ず何か見ている。
在任8年間でリーグ優勝4回。「現代の名監督」の名をほしいままにしながら、落合博満前中日ドラゴンズ監督は昨年、突如解任された。
落合氏が監督に就任した'04年から一貫して、「参謀」として落合中日を支え続けたのが、森繁和前ヘッドコーチだ。その信頼は厚く、落合氏には「またユニフォームを着るなら必ず森繁和を呼ぶ」と言わしめる。
西武、日本ハム、横浜そして中日と渡り歩いた、コーチ歴23年の森氏が、落合采配の秘密と自身の培ってきた「参謀の心得」を初めて明かす、『参謀---落合監督を支えた右腕の「見守る力」』(講談社)を著した。
監督は2003年、秋季キャンプでチームが始動してすぐに、コーチ陣を全員集めて、こう言った。
「チームの情報は絶対に漏らさないでほしい。いいことだろうと悪いことだろうと、それがこのメンバーの中で出るようだったら、いっさい一緒にはできないからな」
監督は最初から、そういう情報が監督の耳に入った時点で、一緒に野球はできないよ、つまりクビにすることもありうるよ、と宣言しているのだ。
情報管理といえば、岩瀬(仁紀)のことが象徴的だろう。
実は8年間で10回ほど、抑えの岩瀬を、登録抹消していないのに球場に呼ばなかったことがある。連投が続いたあと、あるいはちょっとした「違和感」を岩瀬が訴えたときなどである。岩瀬はわりあい早めに大事を取る傾向にあるのだが、本人がそう言ってきたら必ず、
「じゃあ明日は、休んでくれ」「病院に治療に行ってこい」
と本人の言葉を尊重した。ただし、もちろん岩瀬がストッパーとして控えていないことは全力で相手チームから隠した。わざと一旦球場に姿を見せさせておいて、誰にも知られないように帰したこともある。
岩瀬不在がバレたことは一度もないはずだ。
■ジャンケンで決めろ
情報漏洩を許さない、特例は作らない、だから8年間、中日は上位にいたのだと思う。
ただし、あまりにこの方針を徹底したことが、優勝したシーズンに、(正確には優勝しそうな状況で)監督はじめわれわれ首脳陣が8年間で契約満了で退団したことにも繋がったのだろう。
もちろん監督も私もそんなことは百も承知だ。それでも、少しの例外を許したり、政治的配慮で指導も情報管理も信用できないOBコーチを起用したり、そんな大人の配慮はいっさいしようとしなかった。
すべては、私たちの契約が「シーズン優勝と日本一を勝ち取ること」にあったからである。優勝を最優先に考える。優勝のためにならないことは絶対にしない。
この件に関しては監督もわれわれコーチ陣も、最後まで妥協することはなかった。
「へえ、今日は先発そいつなんだ」
と、試合前のメンバー表を書くときに監督に言われたこともある。監督に事前に先発を告げなかったことも二度や三度ではない。
「オレが先発知らないんだから、情報が漏れることもないだろう」
というわけだ。
とはいえ、事前に投手起用で悩むと相談することはよくあった。
たとえば3連戦の初戦に勝ったときに、あえて第2戦や第3戦の先発予定を変更して、ローテーションの谷間にする場合があった。
3連敗がなくなったから、次のカードに備えたいというケース。
そのうえで、たとえば前の日に右投手が投げて一応は勝ったけれど、その右投手が、けっこう打たれた場合もある。その場合、第2戦にもう一回右投手を持ってくるのがいいのか、少し力は落ちるけれども左ピッチャーを使うべきか悩むことが何度かあった。相手打線が右ピッチャーにはタイミングが合っているというイヤな感じがあるときだ。
正直、正解は結果を見てみないとわからない。
「監督、本当は今日投げさせる予定だったピッチャーを1日ずらして、3戦目に持っていきますよ」
「あ、いいよ。なんで?」
「3戦目に予定されていたピッチャーは本当は次のカードの頭にしたかったので。昨日勝ったし、そのほうがよいでしょう。問題は今日誰にするか。右の山井(大介)か左の長峰(昌司・現オリックス)か迷っているんです。昨日右ピッチャーで打たれているので」
こんな感じで話しながら先発を決めることが多かった。だが、このときの答えには驚いた。
「二人でジャンケンさせれば?」
「それで決めるんですか?」
「だって、おまえが、どちらかって言うとき、だいたいもう決まってんだろ?おまえが言うんだから」
「まあ、気持ち的には山井で決まってますが。でも・・・・・・ジャンケンしてみましょうか」
■選手との食事は事前に報告せよ
その日は、ピッチャーも谷間なので「きょうは誰?誰が投げるの?」と、どの投手も球場入りから興味津々。もう、みんな当日まで誰が先発なのかわからない。
私は彼らに聞かれるたびに、「おまえだよ、先発はおまえ」などと、みんなに言っておいたりする。
さて、その日、試合前の練習が終わってゲーム前にみんなが軽く食事する、そのミーティングの前に、
「おい、山井と長峰!ちょっと二人来い。ジャンケンしろ」
「・・・・・・はあ?」
「先発な」
で、山井がめでたくジャンケンに勝った。そこで山井に、「よし、先発」と言ったけれど、もしあれで山井が負けていたら、
「お、長峰、チャンスだぞ。こいつ3イニングしか持たないから、勝利投手、おまえに権利ある」
と言おうと思っていた。ジャンケンの前に「勝ったら先発」と言わないところがミソだ。そうしたら山井が勝ったので、「よし、行くぞ」となり、そういうゲームで、山井がきっちり勝ったことがあったのだ。
監督にはあとでこう言っておいた。
「ジャンケンさせて山井が勝ちましたから、山井先発で行きますよ」
「負けてたら?」
「わかってるでしょ?」
「そうだな、やっぱりな」
たまにはこんな感じになることもある。
ふざけて遊んでいるようだが、監督は私がほぼ山井で行くと決めているのに、どこか踏ん切りがつかないのを感じ、ジャンケンを持ち出したのだとあとで気づいた。
「シゲはいいよなあ、いつも投手会(投手陣での食事会)に呼ばれて、うらやましいよ。オレなんて誰も呼んでくれない」
落合監督は、よくこう言っていたものである。
8年間苦楽をともにした監督には、だいたいのことは常に報告するように心がけていた。
監督からも、
「特に選手と食事や飲みに行くときは事前に必ず報告してくれ」
と言われていたので、選手たちとの会合はすべて伝えていた。
そうすると、監督は「いいよなあ」と言いながら、「シゲ、これ持ってけ」と軍資金をポケットマネーから出してくれるのだ。
「監督は、リーダーは、嫌われる存在でいいんだ」
と、監督は覚悟を決めていたのだと思う。
特にバッテリーに関しては、監督は私にほとんどすべてを任せてくれており、「投手会」のようなグラウンド外のこともふくめて、こういうふうにカゲでいろいろ援助してくれた。
私は現場の責任者にして選手と監督とのパイプ役。先発投手の順番、リリーフ投手への交代、一軍二軍の入れ替えなど、よくぞここまで信頼してくれると驚くほど、任せてくれた。
もちろん迷ったときに最後の決断をするのは監督。責任を取る、批判されるのも監督だ。
■コーチの給料はオレが決める
選手に気持ちよく働いてもらう。
そのためにはコーチにも厳しいながらも、気持よく働いてもらう。
落合監督は、相当そこに気を遣っていたと思う。
「コーチの給料は、全部オレが決めたから」
監督は今も口にするのだが、実際、待遇は相当よくしてもらったと思う。
「給料も決めておいたから、年俸○○万な」
「えっ?」
「あっ少ねえか」
「いやいや、そんなにもらっていいんですか」
監督に言われた金額は、相場の倍、かつて西武で勝ち続けたときとあまり変わらないくらいの額だったから驚いたのだ。監督にはコーチの経験もなかったから、コーチの給料の相場など全然知らないのかと思ったら、そうでもなかった。
「バカ野郎、おまえが自宅から通えるなら○○万でもいいだろうけど、単身赴任で二つ家持って、あまり家に帰れなくなる責任ってのはオレにあるんだから、普通の倍が妥当だろう」
こうまで気を配られては、もう監督のためにやるしかない。
現役時代には、年俸交渉でとことん粘り、時に故なき批判をされながらも、後の選手の地位向上につとめ、監督となっても、コーチ、そして選手の地位向上につとめる落合監督は、やはり、球界の発展を考えた凄い人物というほかないのではないか。
監督は私と違って、2012年のシーズンはプロ野球界とは距離を置いている。
「どう勝とうか考えないでいいのが、こんなに気持ちがラクだとは思わなかったよ」
などと言っていたのだが、やはりドラゴンズの選手のことは気になるようだ。
「監督、新人の西川健太郎、あれはおもしろいですよ。案外早く出てくるかもわかりません」
「そうか、やっぱりそうだよな」
西川というのは、星稜高校から2位で入った右ピッチャーである。2011年のドラフト前、監督と資料を見ていてこれはおもしろいピッチャーだと、意見が一致したキレのあるピッチャーだ。
監督も早くも野球好きの虫がうずき出している感じなのである。
「週刊現代」2012年4月14日号より
=========================================
◆岩瀬仁紀 中日ドラゴンズ投手「クローザーの心得」/ 一度だけ、マウンド上で足が震えた〜落合 オレ流采配 2012-03-25 | 野球・・・など
-------------------------------------
◆セ・リーグ、今季の全試合で予告先発を導入/「勝つことが最大のファンサービス」と言った落合前監督 2012-03-08 | 野球・・・など
--------------------------------
◆「『勝つことが最大のファンサービス』と言った落合前監督の言葉は、正にその通り」中日選手会長 吉見一起2012-02-09 | 野球・・・など
ファンサービスのサイン攻めに選手は「勘弁してよ」
日刊ゲンダイ2012年2月9日
-----------------------------