「東京地裁判決は小沢さん無罪をこのように説明している〜判決批判する前に読んでほしい!」
情報流通促進計画by日隅一雄(ヤメ蚊) 2012/04/29
小沢さん無罪判決について、テレビは、「判決が、石川秘書から小沢さんが収支報告書に嘘の記載をすることの説明を受けていたと認定している」にもかかわらず、「判決が、この記載が違法であることについて認識していなかった可能性がある」としたのは、まったく変で、限りなく黒に近い、などと批判しているが、これがまったく間違いであることを、裁判所がマスコミに配布した判決要旨全文を引用して説明します。まず、確認してほしいのは、「判決が、石川秘書から小沢さんが収支報告書に嘘の記載をすることの説明を受けていたと認定している」というのは、小沢さんが「嘘」だと認識していたということではない、ということです。石川秘書からの報告が事実と違っていたのは間違いないが、それを事実と違うと小沢さんが認識していたかどうかは、また別の問題です。つまり、石川秘書からの報告は事実と違っていたが、小沢さんはそれが事実と違うとは認識していなかった可能性がある、というのが今回の判決のツボなのです。
詳細は、後回しにします。忙しい人のために、まず、判決の重要部分を示します。多くのマスメディアは、この重要部分をすっ飛ばしているので、判決がおかしいかのように感じる。
判決が認めた「うそ」の内容とは、小沢さんの資金管理団体「陸山会」の政治資金収支報告書について、【(1)元代表が04年10月に石川議員に手渡した4億円を記載せず(2)同月に土地を購入し代金を決済しながら05年分報告書に記載をずらしたこと】(毎日新聞クローズアップ2012 ※2)の2点だ。つまり、小沢さんが土地購入のために2004年10月に秘書に渡した4億円が陵山会の収入として記載されていないこと、(2)土地購入が実際には、2004年中になされていたのにもかかわらず、2004年度の報告書には記載せず、2005年度の報告書に記載した、ということだ。
※2 クローズアップ2012:小沢元代表無罪判決 「法廷で黒白」かすむ
(1)について、判決が指摘しているのは、【小沢さんは、自分が秘書に渡した4億円は自分名義でりそな銀行に預金され、それを担保としてりそな銀行から陵山会が、4億円を借り入れたと考えていた可能性がある】ということだ。
そうであれば、小沢さんから陸山会への貸し付けということにはならないので、小沢さんは、事実をそのまま収支報告書に記載したと考えることになる。
判決要旨全文(※1)では、次のように説明されている(90頁)。
※1 http://shina.jp/a/wp-content/uploads/2012/04/ozawa.pdf
赤線部分に注目してください。裁判所が、小沢さんの認識として、自分名義で担保提供されたと考えていることは明らかです。
そして、そのように考えることは、不合理ではない。小沢さん個人が担保提供するのであれば、小沢さん個人の名義で行うのが普通だからです。そのことは、たとえば、あなたが、会社を経営しているとして、会社が短期の運転資金を借り入れる際に、あなたの預金を担保にする場合、会社名義の預金にして担保にするか、それともあなたの名義で預金にして担保にするかを考えれば、明白でしょう。小沢さんも、自分の名義で預金され、担保提供されたと考えたと判断するのが自然です。あえて、会社名義とすることに利益があるなら、別だが、そのような利益があったとは言いがたいし、小沢さんがそのような利益を認識していたとも言いがたい。
うその(2)についても、次のように丁寧に認定している(83〜84頁)。
このような個別の認定を踏まえた上、
として(85頁)、小沢さんが先送りされたことについて、問題がないと考えていた可能性がある、と認定している。
以上のように判決(要旨全文)を読めば、いかに、今回の判決が丁寧に認定をしているか、しかも、小沢さんに不利に認定してでも無罪とせざるを得ない、という認定をしているかが、よく分かる。
ここから、先は、判決要旨全文の内容を読む際の参考になるように、判決要旨全文を少し詳しく説明しようと思います。時間のあるときに読んでください。GWのいま、いい機会かもしれません(笑)。
では、始めます。本件のように、実際に実行した人ではなく、それに関与した人について共謀としての罪を問う場合、それぞれの認識に違いがあることを前提に、事案を検討しないといけない。たとえば、事務所に押し入って強盗殺人を実行した人が最初から抵抗したら殺すつもりでいても、外で見張りを担当した人は、絶対にこの時間、事務所に人がいないという実行した人の説明を信じていた場合、殺人についてまで責任を問うことはできない。
また、多数の人が関与した事件の場合、それぞれの思惑があるため、取り調べ段階に入ってからの供述はあまり信用できないという覚悟が必要だ。特に取り調べが何度も行われた場合、捜査官の影響で、供述が変わってくる可能性が大きい。
そこで、本件のような場合、まず、客観的事実がどのようなものであるかを認定した上、その客観的事実のもとでは、普通、このような認識があったはずだということを推察する。そして、その認識ではないとするべき特別な事情があるかどうか、を検討し、さらに供述内容との矛盾などを検討することになる。
その結果、結論から述べますが、分かりやすく書くと、裁判所は、【小沢さんはいったん、現金4億円を土地の購入代金として使うために、石川秘書に渡したが、急きょ、預金担保の手法を使うこととなり、この現金4億円を小沢さん名義の預金としたうえ、その預金を担保として小沢さん名義で4億円を借り入れ、これを土地購入代金として陸山会に貸し付けた、と考えた可能性がある】と認定したのです。時期遅れについては、本当に取引そのものを遅らせたのだと思っていた可能性があったという認定です。その認定もすごく丁寧です。ここまで判決に書かれたら、もうお手上げです。やはり、起訴する事案ではなかったわけです。
⇒「東京地裁判決は小沢さん無罪をこのように説明している〜判決批判する前に読んでほしい」日隅一雄?
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関連: 【クローズアップ2012:小沢元代表無罪判決 「法廷で黒白」かすむ】
小沢一郎・民主党元代表を無罪とした26日の東京地裁判決は虚偽記載に一定程度関与したことを認めつつ、記載の必要性を具体的に認識していたか疑問として共謀を否定した。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則を重視した形だが、公判で「秘書任せ」を繰り返した政治姿勢を「政治資金規正法の精神に照らして芳しくない」と批判するなど厳しい文言も目立つ。検察審査会が「法廷で黒白を」と託した裁判は捜査の不手際が発覚した検察だけでなく、元代表側にも「苦い」内容だった。【和田武士、鈴木一生、石川淳一】
◇違法性認識、示せず
判決は、事務担当の秘書だった衆院議員、石川知裕被告(38)ら元秘書3人の有罪判決(昨年9月)と同様、元代表の資金管理団体「陸山会」の04、05年分政治資金収支報告書を虚偽記載と判断した。さらに、小沢元代表が収支報告書を作成した元秘書らから報告を受け、了承していたと認めた。それにもかかわらず「共謀」の成立を否定したのは、元代表が虚偽記載の違法性を認識していたかどうかについて、検察官役の指定弁護士が立証しきれていないと結論づけたためだ。
判決が虚偽記載を認めたのは(1)元代表が04年10月に石川議員に手渡した4億円を記載せず(2)同月に土地を購入し代金を決済しながら05年分報告書に記載をずらしたこと。
判決は(1)について「陸山会の借入金に当たり、記載の必要があったのに公になることを避け、対外的に説明ができるよう銀行から同額の融資を受けた」と指摘。(2)も「04年分に記載すべきだった」とし、公表をずらした動機を「石川議員が、マスコミから追及されるなどして元代表が政治的に不利益を被る可能性を避けるためだった」とした。また、融資書類に元代表の署名・押印があったことなど複数の状況証拠や、元代表に報告し了承を受けたと認めた後任秘書の池田光智被告(34)の調書などを積極的に評価し、元代表の「報告・了承」を認定した。
ただし、石川議員は土地購入を05年分収支報告書に記載するため、実際の登記や代金決済日を05年に遅らせようと、元代表に説明した上で不動産業者と交渉。結果的に決済繰り延べに失敗し虚偽記載に至ったが、判決は「元代表がこうした経緯を正確に認識しておらず、支払いを(石川議員の説明通り)05年だったと思った可能性がある」と推認した。
4億円についても「元代表が土地購入原資とならず、同額の銀行融資における担保(定期預金)となったと認識し、報告書への計上の必要性を認識していなかった可能性がある」と判断。「元代表が違法性を認識していたと断定できない」として、刑事責任を否定した。背景には、石川議員が融資書類に元代表の署名を求めた際、どこまで元代表に具体的な説明をしていたのかが、指定弁護士側の証拠からは判然としないことなどがあった。
元検事の高井康行弁護士は「検察が証拠不十分とした案件で、裁判所もより慎重に判断したのだろう」とみる。その上で「二つの事実について、違法との認識があったということを高裁で立証できると考えれば控訴の可能性があるだろう」と話した。
◇不手際捜査、深い痛手
「『報告・了承』だけでは共謀を認める証拠が弱いという判決の判断は、うち(検察)と同じ。驚きはない」。小沢元代表を2度不起訴(容疑不十分)とした検察当局では、結果を淡々と受け止める声が目立った。
元代表が問われた政治資金規正法の虚偽記載罪は捜査当局にとって扱いづらい「武器」だ。秘書などが務める会計責任者に政治資金収支報告書の記載・提出義務があり責任が集中し、政治家が責任を問われるのは会計責任者の選任・監督の両方で過失があるか、会計責任者らと共謀した場合に限られるからだ。
過去に選任・監督の違反で起訴されたケースはない。共謀立証の壁も極めて高く、03年に自民党の坂井隆憲衆院議員(当時)が億単位の裏献金を報告書に記載せず逮捕された事例などごくわずかだ。東京地検特捜部の経験がある検事は「秘書が政治家を裏切らない限り、取り調べで『秘書任せ』の弁解を崩すのは難しい」と明かす。
元代表を巡る捜査では「立件すべきだ」「容疑不十分ではなく起訴猶予がふさわしい」との声もあった。だが、判決を聞いた法務・検察幹部は「政治家の立件は100%有罪にできる自信が必要。(強制起訴した)検察審は尊重するが、検察が起訴基準を変えることはない」と強調した。
とはいえ「火種」はくすぶる。元秘書の石川知裕衆院議員から再聴取した田代政弘検事が実際にはないやり取りを捜査報告書に記載していた問題だ。
判決は「事実に反する捜査報告書を作成し、検察審査会の判断を誤らせることは決して許されない」として、「経緯や原因の究明については、検察が十分調査し、対応することが相当」と注文を付けた。2月の調書採否決定時にも、検察捜査の在り方は厳しく問われている。
◇対象事件で被告“連勝” 強制起訴、見直し発展も
検察審査会の強制起訴制度は司法制度改革の一環として裁判員制度と併せて09年5月に導入された。これまで6事件8人が強制起訴の対象となったが、小沢元代表への判決は、詐欺罪に問われた沖縄県の会社社長を無罪とした那覇地裁判決に続いて2例目。2件続けての無罪で、強制起訴制度の見直し論議に発展する可能性もある。
検察が再捜査を含めて不起訴とした事件を強制起訴することには当初から「ハードルの低さ」が指摘されていた。このため無罪の連発も、法曹界では「驚く必要はない」というのが大方の見方だ。今後、強制起訴された被告に対して無罪判決が積み上がれば「『起訴すべきだ』との議決の適否についての目安ができていく」と読む法務省関係者もいる。
一方、民主党の小沢系議員ら超党派でつくる勉強会「新しい政策研究会」は26日の総会で検察審査会のあり方を議論。民主党の東祥三衆院議員は「専門家の検察が徹底的な捜査をして起訴できなかったことが、なぜ強制起訴に至ってしまったのか。こういうことが許されれば国民全般にわたる問題になる」と強調した。
だが、強制起訴制度の導入時には民主党議員も賛成した経緯もあり、法曹関係者からは「ご都合主義」との冷ややかな声も漏れる。元代表の主任弁護人、弘中惇一郎弁護士も26日の記者会見で「『(検察審が)とりあえず起訴して裁判所の判断を仰ぐ』というのはどうかと思うが、1、2件無罪になったからすぐに見直すというのは逆の極論ではないか」との見方を示した。
毎日新聞 2012年4月27日 東京朝刊
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