インド ミサイル実験成功でも 世界が心配しない理由
WEDGE Infinity 2012年05月14日(Mon)岡崎研究所
インドが、射程500km超の核弾頭搭載型・長距離移動式ミサイル、「アグニ5号」の実験に成功したことを受けて、ウォールストリート・ジャーナル4月22日付社説がその意義を論じています。
すなわち、インドはアグニ5号を欧米に届く大陸間ミサイルに仕立てることが出来るだろう。そうなれば、米ロのミサイル技術の優位は脅かされることになる。これで、拡散防止軍備管理条約の愚かさが明らかになった。インドはNPTにも入っていないし、ミサイル技術管理レジームも独自開発で乗り越えた。インドのような国は、西側が作った様々な規制があるにもかかわらず、必要な兵器は開発するということだ。
しかし、世界はインドのことはあまり心配していない。米国はインドが不拡散でよい実績があると言っており、中国もインドはパートナーだと言っている。事前通告を受けたパキスタンも、何の反応も示さなかった、要するに、西側は、インドを軍事的脅威とは思ってはいないのであり、これが、イランや北朝鮮のミサイルや核開発に対するのと非常に違う点だ。
要は、重要なのは兵器自体ではなく、それを有する政権の在り方だ、ということだ。オバマ政権にも兵器自体が脅威だとする[軍縮屋]がいるが、引き金に手をかけているのが英首相キャメロンなのか、それとも金正恩かアハマドネジャドかで話は全く違ってくる。
このインドの実験で、中国は再考を促されるだろう。中国は、威圧的政策がアジア・太平洋地域における支配力の確立につながると思ったかもしれないが、実際は逆だ。日本、フィリピン、ベトナムは米国に接近するようになり、インドも中国を抑止しようとしている。
また、米国にとり、今回のインドの実験は、ミサイル防衛や衛星防衛への投資と、ならず者国家に大量破壊兵器を持たせない努力を強化する必要性を示している、と言っています。
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脅威は兵器そのものではなく、政権の性格から来る、という社説の主張はその通りでしょう。また、インドによるアグニ5号の実験成功は、インドの抑止力の強化という点で大きな動きであり、これは今後、地域情勢に影響を与えることになるでしょう。
その影響とは、一つには、これで中印間の全面戦争の可能性はほぼなくなったと考えられる状況が生じたことです。今後とも、中印間では、相互確証破壊状況が強化されていき、従って、中印領土紛争についても、中印双方が大きな紛争にエスカレートさせないよう気を使うことになるでしょう。軍事力という点では、中国の方が強くなりますが、インドも中国に耐え難い損害を与える能力がある、つまり十分な抑止力を持つ、と中国は考えるでしょう。その結果、中印はますます相互尊重の関係になると思われます。
また、印パ関係については、パキスタンもインドに対抗してミサイルや核兵器の増強を行うでしょう。パキスタンの核戦力は、現時点では、インドによる第1撃攻撃で破壊される危険性があり、その意味では、印パ間の核のにらみ合いは安定性が欠けていますが、これも徐々に相互確証破壊状況に近づき、安定していくと思われます。
さらに、これら印中パ3国間には、いわゆる「核による平和」が成立する可能性があります。この3国関係から核兵器の要素をなくしてしまうことはもう不可能でしょう。
また、米ロ中心の核軍縮プロセスに関しては、印中パ3国が共にも加わるか、あるいは3国共に加わらないかのどちらかしかあり得ず、実現はそう簡単ではありません。オバマの「核兵器なき世界」は、この3国関係を見ただけでも、見果てぬ夢に終わることは明らかです。
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◆鳩山氏の「方便」「抑止力」発言/憲法の前文、9条によって、尖閣は守れるか 2011-02-16 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉
「方便」発言:「米軍抑止力大きい」 防衛相、外相共に強調
【東京】北沢俊美防衛相は15日の記者会見で、鳩山由紀夫氏が普天間の県内移設に「抑止力」としたのは「方便」だと述べたことについて「沖縄や米国に誤ったメッセージにならないように、政府としてしっかりした対応はしていかなければならない」と話した。
海兵隊の抑止力については「海兵隊のプレゼンス(存在)は沖縄の地政学上からいっても、アジア太平洋地域の不安定化に対する抑止力は極めて大きいと認識している」と述べ、普天間の県内移設をあらためて確認した昨年5月の日米合意を順守する考えを重ねて強調した。
前原誠司外相は同日の会見で「米軍のプレゼンス、提供施設・区域の存在がこの地域の安定、日本の安全保障に大きな役割を果たしていることは紛れもない事実。鳩山政権の時も現在も普遍的に米軍の抑止力は変わらない」と述べた。
鳩山氏の側近として知られる大畠章宏国土交通相も「ご発言しない方がいいのではないか」と苦言を呈し「近々(鳩山氏に)お会いして真意を聞きたい」と述べた。
公明党の山口那津男代表も記者会見で「言語道断だ。日米関係に大きな影響を与え、沖縄県民の不信感を強める。菅直人首相の認識も強く問いただす必要がある」と批判した。
社民党の重野安正幹事長は民主党の岡田克也幹事長と会談した際、「沖縄県民の感情を逆なでする発言だ」と批判。同席した民主党の安住淳国対委員長も「われわれも怒っている。迷惑している」と同調した。(琉球新報)2011年2月16日
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〈来栖の独白2011/2/16〉
沖縄米海兵隊の存在について「抑止力」は「方便」とした鳩山元首相の発言が、メディアの音頭とりで物議を醸している。
普天間の問題は鳩山元首相が県外、海外を模索し、悩み尽くした末に出さざるを得なかった結論だった。鳩山氏が悩みに悩んでいた時期、国民は何をしていたか。自民党政権時代からこんにちまで、果たして日本国民は、沖縄県民の抱える痛苦に幾ばくかでも心を痛めただろうか。「沖縄」と言えば、リゾート地でしかなかったのではないか。仲井眞弘多知事でさえ、当初は県内移設を諒解していた。それなのに、民主党が公約で「海外・県外」を言った途端、国民も知事も、まるでそれまで沖縄のために祈ってきたかのように「海外・県外」と合唱し、鳩山氏を責めたてた。結果として辺野古移転を認めざるを得ない事になったが、鳩山氏一人を責めたてる問題ではないのではないか。
沖縄や防衛の問題を、果たしてどれほどの国民が大人の、成熟した視点で考えてきたといえるだろうか。私には疑わしい。防衛に関して自民党政治が対米隷属なら、それを嘲笑する社民党の沖縄基地政策は空理空論である。
「抑止」という言葉が行き交っている。
「抑止」は何を持って可能か、真剣に考えてみなければならない。「戦争放棄という、世にも類い稀な美しい理想、それを謳う日本国憲法が最大の抑止である」などと、抜け目ない国際社会を誤認し、とんでもないことを言う人たちもいる。そういう人たちに尋ねたい。「尖閣や北方領土は、どうやって守りますか」と。世界第2位の経済大国となり、核武装し、6兆円に余る軍事予算を計上する中国が尖閣の周辺を絶えず窺っている。メドベージェフは、昨年北方領土を視察した。これら、いずこも国益優先の国際社会の中で、どうやって我が国の領土と主権、独立を守るのだろう(アメリカからも、日本は独立しなければならない)。
鳩山さんが首相であった時期、我々が見せられたのは、この国が自民党政権時代から営々としてアメリカと一部の外務官僚に牛耳られてきた、という現実だった。アメリカと官僚に隷属、依存してきた、という現実であった。
「事なかれ」が真髄の官僚は、当然のことながらアメリカ追従の体制を壊すことによって惹起される「厄介」を背負いたくなかった。そのため、「海外・県外」を何とか実現したいと心砕く鳩山政権を冷徹に突き放したのである。小沢さんは言う。「事なかれ」が官僚の本領です、と。アメリカに逆らって苦労を背負い込み、自分に瑕疵を招くようなことだけはしたくない。それが、官僚の本意である。それゆえ官僚は、一切の協力を鳩山政権にしなかった。国の主権、領土、沖縄県民よりも、自分たち一部官僚の保身、安泰を優先したのである。
メディアは、鳩山氏の片言隻句を揶揄する資格はない。考えねばならない。
いま一度、問いたい。「抑止(力)」とは、何か。我が国の領土は、如何にして守るのか。憲法の前文、9条によって、尖閣は守れるだろうか。
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田母神俊雄著『田母神国軍 たったこれだけで日本は普通の国になる』(産経新聞出版)
p169〜
我が国が核武装を目指す場合、国内的な合意を取ることが相当に難しいし、また核武装国はこれを邪魔しようとするでしょう。(略)
日本の核アレルギーは相当なもので、核をアメリカに落とされたことも忘れてしまっているほどですが、1番の問題は、国民も政治家も核兵器がどういう兵器なのか、わかっていないということです。核兵器は先制攻撃に利用するものだと思われていますが、国際社会では「核兵器は防御の兵器」というのが常識です。
核兵器はその破壊力があまりにも強大であるために、核戦争に勝者はいません。核で先制攻撃したところで必ず報復されますから、これもまた負けに等しい。
ですから核は、「やれるならやってみろ、だけどやったら報復するぞ」と思わせておいて、実際は誰も使いはしないし、使わせもしないという“防御的”な兵器なのです。
また、核兵器は、これまでの通常兵器のように戦力の均衡というものを必要としません。通常兵器の場合は、相手国が100で自国が1というほどの戦力差をつけられていれば、たとえ1を持っていようとも何の抑止にもなりません。しかし、核の場合は、アメリカやロシアがそれを何千発保有していようが、インドや北朝鮮が数発持つだけで十分に抑止力になります。
日本の場合は、核武装について議論をするだけでも、核抑止力は向上します。外交交渉力も向上するのです。それだけでも、国際社会の中で日本の発言力は高まります。しかし、「核武装はしません」と公言した途端に、世界中から相手にされなくなるのです。(略)
アメリカもロシアも、自分たち以外の国に核武装をさせたくないのが本音です。NPTという枠組みで世界的に核軍縮を呼びかけていますが、あれはタテマエでしかありません。アメリカもロシアも「核を廃絶する方向に行くよ」と単なるジェスチャーをしているの過ぎないのです。
「私たちも核廃絶に向けて努力するのだから、いまから核武装しようとは考えないでください」ということで、本音は、「皆さんが核武装を考えなければ、私たち核保有国の優位は永遠に続きます」と言っているわけです。
そんな核保有国の意図もわからずに、日本の首相はそれにまともに乗っかってしまう。2009年9月、ニューヨークの国連本部で開かれた核軍縮・核不拡散に関する安全保障理事会の会合で、鳩山由紀夫首相(当時)は非核三原則を堅持すると改めて宣言しました。
鳩山さん本人は心の底から、そうすれば世界から尊敬されると思っているのだから重症です。当然ながら、世界中の国が、「馬鹿な首相もいるな」と思ったはずです。誰も言わないけれど、世界中の失笑を買ったのは明らかです。
あの場では、「日本は唯一の被爆国だからこそ、二度と核攻撃されないためにも核武装する権利がある」と言うべきでした。鳩山氏、ひいては日本の政治家は、「国際政治を動かしているのが核兵器だ」ということを全く理解していないのだから、呆れるばかりです。
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◆北方領土 解決の道はあるのか NHKスペシャル
2011年2月13日(日) 午後9時00分〜9時49分 総合テレビ
北方領土返還交渉…かつてない厳しい状況下で動き始めた外交交渉の行方を描く。
NHKはこの1年、北方領土にカメラを入れ島の姿を記録してきた。ロシア政府の投資で島は潤い、かつて日本の援助に頼った貧しい姿はすでにそこにはなかった。そして去年11月。メドベ−ジェフ大統領が国後島を訪問、実効支配への強い国家意思を見せつけた。
占領から66年、返還実現の最大のチャンスはソビエト崩壊で島の疲弊が進んだ時代だった。しかし、歴史の正義を求める思いと、ロシアを動かす現実的な外交戦略との間で日本は揺れ動き、交渉は毎回暗礁に乗り上げた。そして現在。ロシアは自国経済の躍進とともに日本への関心を低下させ、北方領土問題解決の意欲も遠のきつつあると言われる。日本に、まだチャンスはあるのか?
前原外相がロシア訪問を計画するなど、政府は“メドべ−ジェフ・ショック”を機に再び動き始めた。島を追われた元島民はすでに平均年齢77歳。残された時間が少なくなる中で“固有の領土”返還を求める日本にどんな戦略が必要なのか?これまでの交渉をスクープ証言・資料とともにたどりながら、ロシアの思惑を探り、追い詰められた領土交渉の進むべき道を探る。
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インド ミサイル実験成功でも 世界が心配しない理由/「核兵器は防御の兵器」核戦争に勝者はいない
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