「核心的利益」発言 中国の意図は尖閣奪取だ
産経ニュース2012.5.15 03:26[主張]
日本は万全の備えと覚悟を
北京での日中韓首脳会議(サミット)に合わせて設定された野田佳彦首相と中国の温家宝首相との個別会談で沖縄・尖閣諸島をめぐって応酬があり、温首相が「(中国の)核心的利益と重大な関心事を尊重することが大事だ」と発言した。
「核心的利益」とは、中国にとって安全保障上譲ることができない国家利益をさす。尖閣問題と関連付けながら、中国首脳が、これを口にしたことは初めてであり、きわめて重大である。
≪野田首相の反論は当然≫
温首相は「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国領土だ」と改めて強調している。中国公船による尖閣周辺の領海侵犯が常態化している状況下、温首相の発言は海洋権益の拡大を狙う中国が尖閣奪取の意図を明確にしたと受け止められる。尖閣問題が新たな局面に入ったとの危機認識が必要だ。
温首相の発言に対し、野田首相が「尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らか」と反論し、さらに、「中国の海洋活動の活発化が日本国民の感情を刺激している」と指摘したのは当然だ。首脳レベルでは尖閣問題にふれないようにしてきたこれまでの民主党政権の方針を転換したことは意味がある。
ただ、両首相は「日中関係の大局に影響を与えることは好ましくないとの認識で一致した」という。問題を棚上げにしても解決にはつながらない。
今回の「核心的利益」発言の背景には、中国側の思惑が見え隠れしている。
温首相は尖閣問題に加え、東京での「世界ウイグル会議」に出席したラビア・カーディル議長に対する日本側のビザ発給を批判したという。中国側はウイグル問題を「核心的利益」としている。
一方で、中国国営新華社通信や中国中央テレビは、ウイグルと尖閣の問題を並べ、温首相が「中国の核心的利益と重大な懸案事項を尊重するよう日本に求めた」と報じた。尖閣問題での対日強硬姿勢を強調する中国側の宣伝工作に振り回されてはならない。
台湾やチベット、ウイグル問題など中国の「核心的利益」を尖閣問題にまで拡大したともとれる発言の口実として、中国側は石原慎太郎東京都知事が先月発表した都による尖閣諸島の購入計画を意識しているようにみえる。
都が開設した購入資金の寄付金口座には半月で5億円以上が集まった。日本の国内世論の高まりに中国が危機感を強めている。
次期最高指導者に内定している習近平国家副主席は今月訪中した日中友好議員連盟に対し、「核心的利益」との文言を使って石原知事を暗に批判した。日本にしてみれば、知事の計画は尖閣諸島を守り、実効統治を強化していくための有効な提案だ。習副主席の発言もまた、中国側の勝手な言い分と言わざるを得ない。
≪海保法改正案の成立を≫
政権指導部の交代が行われる今秋の共産党大会を前に、中国では重慶市党委員会書記だった薄煕来氏の中央政治局員解任をめぐるスキャンダルや、盲目の人権活動家、陳光誠氏の米国出国問題など社会安定を揺るがす出来事が続いている。国内の統制をはかる意味でも、中国は尖閣で強く出ざるを得ないのではないか。
そうした状況を念頭に日本は戦略を練る必要がある。
野田首相が温首相との会談の翌日に求めていた胡錦濤国家主席との首脳会談は中国側が応じなかった。きわめて残念だ。
中断されたままになっている東シナ海のガス田共同開発をめぐる交渉再開については温首相から具体的な時期を引き出すことはできなかったが、粘り強く再開を迫るべきだ。さらに、15日から中国浙江省で開催される東シナ海での危機管理を話し合う事務レベルの海洋協議も継続が必要だ。
また、野田首相は、中国漁船衝突事件で強制起訴された中国人船長の身柄引き渡しを温首相に直接求めるべきだった。
最も重要なのは、領土を守るための具体的行動である。
すでに国会に提出された海上警察権強化に向けた海上保安庁法などの改正案は早急に成立させなければならない。野田政権には、尖閣諸島での自衛隊常駐や警戒監視レーダーの設置など、実効統治を強めるための具体的行動と覚悟が求められている。
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温首相、ウイグル会議で野田首相に激しく抗議
中国新聞 '12/5/15
【北京共同=伊藤豪】中国の温家宝首相が13日の野田佳彦首相との日中首脳会談で、亡命ウイグル人組織を束ねる「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル主席への日本政府の査証(ビザ)発給について「テロリストを国内に入れるのは許せない」と激しい言葉で抗議していたことが14日、分かった。複数の外交筋が明らかにした。
発言は首脳会談前半の少人数会合でなされた。日本外務省は「(中国側は)原則的立場の表明があった」などとあいまいに説明していた。中国指導部がカーディル氏の日本入国を重大視していることが明確となり、今後の日中関係に尾を引く可能性がある。
胡錦濤国家主席と野田首相による14日の個別会談が実現しなかったのはこの問題が影響したとみられる。
少人数会合は中国側の要請で開催され、大部分のやりとりがカーディル氏と沖縄県・尖閣諸島(中国名・釣魚島)の問題だったという。
日本外務省の説明によると、温首相は首脳会談の中で「中国の核心的利益と重大な関心事項を尊重することが大事だ」と述べ、台湾やチベットなど中国が譲歩できない問題に用いる「核心的利益」という言葉で日本側をけん制した。これも少人数会合でのやりとりとみられる。
野田首相は人権活動家、陳光誠氏の処遇に手を焼く中国の現状を踏まえ、日中人権対話再開を求めて反撃したという。
少人数会合は、日本側が野田首相のほか、斎藤勁官房副長官や長島昭久首相補佐官ら、中国側は温首相のほか、楊潔箎(よう・けつち)外相や傅瑩(ふ・えい)外務次官らが出席した。
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【日中首脳会談】
「核心的利益」めぐり食い違い
産経ニュース2012.5.15 00:54
野田佳彦首相と中国の温家宝首相による13日の首脳会談をめぐり、中国政府は温首相が尖閣諸島を「核心的利益」と主張したともとれる説明を国内メディアに行っている。日本側は否定しているが、“宣伝戦”は中国ペースで進んでいる。
中国国営新華社通信は、温首相が会談で「新疆ウイグル自治区に関わる問題や釣魚島(尖閣諸島)問題などについて、日本にこれら核心的利益と重大な懸案事項で中国の立場を尊重し、慎重かつ穏便に処理することを求めた」と報道した。
受け取り方によっては尖閣諸島も中国の「核心的利益」に含まれているとも理解できる。東京都の石原慎太郎知事が尖閣諸島の買い取りを表明したことで対日不満が高まっていることを受け「日本に強い姿勢を示した」と国内向けにアピールする狙いがありそうだ。
中国共産党機関紙、人民日報は1月に尖閣諸島を「核心的利益」と表現。習近平国家副主席も今月3日、訪中した高村正彦元外相らに「核心的利益を持つ問題については慎重な態度をとるべきだ」と述べ、明言はしなかったが石原氏の尖閣諸島購入方針を牽制(けんせい)した。
「核心的利益」とは、どんな代償を払っても守らなければならない決心を示すときに使われる中国の外交用語。武力行使も躊躇(ちゅうちょ)しないという意味がこめられている。チベットや台湾、新疆の独立問題を言及するときに使われてきた。
ただ、中国には尖閣諸島を「核心的利益」と断定できない事情がある。日本が実効支配している尖閣諸島でこの言葉を使いながら、何も行動を起こさなければ「核心的な利益」の持つ迫力が弱まり、台湾やチベット問題の重要性を軽減してしまう恐れがあるからだ。
日本側は「温首相から尖閣諸島をめぐる問題と、核心的利益という言葉とを結び付ける発言はなかった」(藤村修官房長官)と説明したが、会談内容を拡大解釈する中国側の姿勢について問題視はしていない。
外務省幹部は会談前、「中国が尖閣諸島を核心的利益としているか高い関心を寄せている」と述べたが、野田首相は温首相が言及した「核心的利益」が何を指しているのか問わなかった。
野田首相は会談で東シナ海における中国艦船の動向について「日本国民の感情を刺激している」と懸念を表明したとはいえ、事前の政府内の打ち合わせでは中国側が尖閣問題を持ち出さなければ言及しないことになっていた。
政府内には「中国は権力移行期にあり、過度に中国世論を刺激するのはよくない」(日中外交筋)との見方が根強い。今後も中国側の出方を見定めた上で日本の対応を決めるという「受け身の外交」が続きそうだ。(杉本康士、北京 矢板明夫)
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◆ 「核心的利益」中国は主権や領土に関わる問題で外国に妥協しない姿勢を強めた 2011-07-18 | 国際/防衛/中国
拡大する「核心利益」 中国外交を懸念する
2011年7月18日中日新聞【社説】
中国は主権や領土にかかわる問題を「核心的利益」として外国に妥協しない姿勢を強めた。その範囲も野放図に広げ、周辺諸国の警戒を招いている。
「国家の主権と安全、発展は外交の最優先任務だ」「国家の核心的利益にかかわる問題は絶対に、いかなる妥協も譲歩もしない」
中国外務省の馬朝旭報道局長が最近、党機関紙に発表した文章の一節。軍やマスコミばかりか外交官にも勇ましい発言が目立つようになった。今月下旬、インドネシアで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)などの外相会議では中国への対応が焦点になる。
*2009年の大転換
?小平時代、中国は経済発展を最優先に融通を利かせた外交を展開した。日本の尖閣諸島に対する領有権を主張しても外交の争点にせず「次世代に任せよう」と問題を棚上げしたのは代表例だ。
江沢民時代はとう路線を基本的に引き継ぎ、それに続く胡錦濤政権も二〇〇二年の発足以来、「隣国を友」とする協調的な外交姿勢をとってきた。それがおかしくなるのは、08年の金融危機を中国が各国に先駆けて克服し「突如、大国になった自分を発見した」(中国人研究者)ころからだ。
09年7月に世界から大使を集めて開いた第11回駐外使節会議で、胡国家主席は「外交は国家の主権、安全、発展に貢献しなくてはならない」と言い切った。
?氏が示した「韜光(とうこう)養晦(ようかい)、有所作為」(能力を隠して力を蓄え少しばかりのことをする)という抑制的な外交方針を「堅持韜光養晦、積極有所作為」に修正した。能力を隠し、力を蓄える姿勢を堅持するが、これまでより積極的に外交に出るという意味か。
*台湾から南シナ海へ
同月開かれた初の米中戦略・経済対話で、胡主席側近の戴(たい)秉国(へいこく)国務委員(副首相級)は核心的利益を「第一に(社会主義の)基本制度と国家安全の擁護、第二に国家主権と領土の保全、第三に経済社会の安定した発展」と述べた。
それまで中国は外国に譲歩や妥協ができない核心的利益を台湾問題に限ってきた。その範囲を大幅に広げたのは外交の「09年転換」ともいえる重要な変更だったが、外国は気付くのが遅れた。
その証拠に、同年11月、オバマ大統領訪中時に発表された米中共同声明には、主権と領土で「両国が核心的利益を尊重し合う」との一節が入った。米国は後に、うかつさに気付き11年1月の胡主席訪米時の共同声明では「核心的利益」という言葉を拒否した。
その後も核心的利益論は独り歩きを始める。09年12月に来日した習近平副主席は「台湾、チベット、新疆ウイグル自治区の問題は核心的利益」と述べた。
10年3月には訪中したスタインバーグ米国務副長官に、中国政府高官が「南シナ海は核心的利益」と語ったといわれる。米国は強く反発し、介入を避けてきた中国と東南アジア諸国による南シナ海の島々の領有権争いに対し「航海の自由」を掲げて中国をけん制し東南アジアに肩入れを始める。
あわてた中国は「指導者が南シナ海を核心的利益と公式に語ったことはない」(外務省高官)と言い訳し、米国との対決回避を図った。しかし、東シナ海や南シナ海など外国との係争地域を核心的利益から除くと表明することもなく周辺国の疑いは消えていない。
主権や領土問題で妥協を拒否する政府の姿勢は、対外強硬論が勢いづく軍や海上実力部隊による独断専行の危険を高めた。
08年12月、尖閣周辺の日本領海に、中国の海上保安庁に当たる国家海洋局東海海監総隊の巡視船二隻が進入し、9時間も徘徊して尖閣への主権を主張する事件が起きた。
中国の外交関係者によると、その後の内部会議で航行を指揮した司令官が尖閣周辺進入を独断で決意し、進入時は無線を切り本部の帰還命令をさえぎったと得意げに報告したという。南シナ海でも今年5月、中国艦船がベトナムの資源探査船のケーブルを切断する事件が相次いだ。ベトナム政府は中国指導部による指示ではなく、海洋当局による「功名争い」が原因と判断していると報じられた。
*抑えきかない下克上
こうした「下克上」も政府が核心的利益をふりかざし、勇ましい物言いを続けている以上、処分や規制のしようがない。戦前の日本は前線の司令官が政府や軍中央さえ無視して中国の戦線を拡大した。マスコミが報じる戦果に国民は熱狂し、破滅の道をたどった。
外交当局がふりかざす核心的利益論と前線の功名争いで中国は同じ轍(てつ)を踏むおそれがある。中国政府は一刻も早く核心的利益の範囲から外国との係争地域を除き、過剰な宣伝を戒めるべきだ。 *強調(太字)は来栖
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◆『最終目標は天皇の処刑 中国「日本解放工作」の恐るべき全貌』 ペマ・ギャルポ著 飛鳥新社 2012-04-28 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉
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「核心的利益」中国の意図は尖閣奪取だ/中国は主権や領土に関わる問題で外国に妥協しない姿勢を強めた
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