検察も頭を抱えるまさかの控訴 陸山会「茶番」裁判は笑止千万
週刊朝日2012/05/25号
民主党の小沢一郎元代表(69)の「無罪判決」を受けて検察官役の指定弁護士が下した判断は「控訴」だった。さしもの剛腕も、やっと終わったかに見えた裁判が一転して続くことにウンザリしたことだろう。本誌が再三、報じてきたように、この陸山会裁判に“正義”はない。不毛な茶番劇は、国民にとって何の利益ももたらさないのだ。
控訴の報を受けて、法務省や検察の内部からは、
「もう終わりにしてほしかった・・・」
との声が漏れたという。
それはそうだろう。裁判が続くことで、最も困るのは検察かもしれない。一審で問題になった捜査報告書の虚偽記載疑惑など、彼らが闇に葬り去りたい“不祥事”が蒸し返される。「もうやめてほしい」というのが本音なのだ。
ある検察幹部が語る。
「検察と聞いて『まさか』と思いました。もう、このまますんなりと小沢氏の無罪で終わってほしかった。『控訴はヤバイ』というのが正直な心境です。今回の判決では、無罪という結論以上に、我々があれほど捜査に力を入れた『水谷建設からの闇献金』疑惑が一蹴され、4億円は小沢氏の個人資産と認定されたのが痛い。検察としては、もうこれ以上、引きずられたくないという思いなんです。6月で退任する予定の笠間治雄検事総長も控訴を知って『本当なのか!?』と驚いていたそうですから」
検察上層部の間では、笠間検事総長の勇退を機に、もろもろの“懸案事項”にカタをつけ、心機一転、新体制につなげたいという思惑があるとも伝え聞く。しかし、小沢氏控訴となれば、目算が狂ってくる。
検察の最大のアキレス腱は、本誌が前号、前々号と2回にわたってスクープした検察の「極秘捜査報告書」の存在である。
検察審査会(以下、検審)が小沢氏に1度目の「起訴相当」議決を出した直後2010年4月末から5月中旬にかけて作成された計6通の報告書は、その後、検審に資料として提出され、同年9月の小沢氏の「強制起訴」議決に大きな影響を与えた。そこには、田代政弘検事(45)=当時、東京地検特捜部=による虚偽の報告書が含まれるだけでなく、「小沢起訴」に向けて、検察が組織ぐるみで検審の“誤導”を狙ったかのような内容が記されていたのだ。
「控訴審では、この捜査報告書の問題が取り上げられる可能性がある。そうなれば、また世間の批判を浴びるでしょう。検察内部では5月中にも、虚偽記載をした田代検事を不起訴もしくは起訴猶予処分としたうえで、人事上の行政処分で済ませようという流れができている。それなのに高裁で新たな認定がされれば、世論が沸騰する。検察としては絶対にふれられたくない問題なのです」(同前)
事実、本誌の報道以降、報告書をめぐって見過ごせない問題が浮上している。
当時の佐久間達哉特捜部長(55)が、この6通の報告書の一つ、斎藤隆博副部長の作成した報告書にアンダーラインを引いて強調したり、供述内容を書き加えるなど、大幅に加筆していた、と読売新聞(5月5日付朝刊)が報じた。
斎藤報告書の宛先は佐久間氏その人である。いったい誰に見せるために、自分宛の資料に入念に手を加えたのか。しかもこの斎藤報告書は、小沢氏を起訴するべしとした検審の「議決書」で、内容・論点ともに大幅に引用されているのだ。
先の検察幹部の不安は、決して杞憂ではない。
小沢氏の弁護側は一審で、検審による強制起訴自体が無効だとして公訴棄却を求めた。東京地裁は判決で、起訴自体の無効は認めなかったが、検察の捜査手法を厳しく非難した。弁護側が再度、棄却を主張すれば、これらの報告書の問題が浮上するのは目に見えている。佐久間、斎藤両氏ら当時の特捜幹部らを証人申請することもできるのである。
元検事の郷原信郎弁護士もこう指摘するのだ。
「一審で、捜査報告書にかかわって証人となったのは、田代検事だけ。その他の報告書は、控訴審で小沢氏側が攻める有効なポイントになり得る」
一方で、いざ控訴審になったところで、指定弁護士側が打てる手立ては限られている。控訴した9日の会見で指定弁護士は、
「一審判決には見過ごせない事実誤認があり、控訴審で充分修正が可能だと判断した」
と強弁したが、司法関係者の間では「控訴審で有罪になる可能性は低い」との見方が大勢だ。
指定弁護士は「補充捜査をして新証拠を出す可能性もある」としているが、一審で争点や証拠を絞り込む「公判前整理手続き」を経た控訴審で、新たな証拠を提出するには「やむを得ない事情」が必要になる。さらに最高裁は今年2月、「事実認定が経験則や論理法則からみてよほど不合理でない限り、一審を尊重すべきだ」との判断を示している。
「指定弁護士が新証拠を提出するのは難しいし、提出できたとしても、裁判所が採否を決める際のハードルは高い。一審と同じ証拠で審理をして、高裁が違った評価をしてくれたら、という“神頼み”の裁判になるのではないか」(郷原氏)
■新証拠がないと逆転は至難の業
そもそも一審の無罪判決を覆す自信が「100%あるわけではない」(指定弁護士)という状態で、無罪となった被告を控訴していいのかという問題がある。
検察審査会法には、控訴権に関する明文規定がない。一般の刑事裁判で検察が控訴・上告を検討する場合には、上級庁との協議を重ねて組織として結論を出す。しかし、検審による強制起訴の裁判では、たった3人の指定弁護士が密室の議論で控訴を決めてしまう。
よく考えてほしい。小沢氏は、東京地検特捜部による執拗な捜査の末、2度にわたって「不起訴」と判断された。それでも検審によって強制起訴され、その結果が「無罪判決」である。
しかも、今回の判決では、当初から検察が狙っていた「ゼネコンからの裏金」どころか、政治資金収支報告書の「期ズレ」問題ですら、小沢氏の「故意」を明確に否定している。
認定された元秘書石川知裕衆院議員らの虚偽記入についてさえ「単なる形式的、その場しのぎ的なもので、悪質な”隠蔽・偽装工作”ではなかったとしているのだ。
あれだけ宣伝された小沢氏の巨大疑獄事件は、いったいどこへいってしまったのか。いま問われているのは結局、収支報告書の“書き方”の問題にすぎない。
先の検察幹部はこう語る。
「一審判決をめぐって、『主文は無罪だが内容はグレー』などといわれるが、検察内ではむしろ『よく書けている』という評価だ。まだるっこしい書き方だが、あらゆる点についてキチンと判断している。新証拠が望めない以上、これをひっくり返すことは難しい」
世間で「悪党」のイメージが強い小沢氏だから、なしくずしで許されているが、今回の控訴は、日本の刑事訴訟制度の根幹を揺るがしかねない“事件”なのだ。
控訴審が始まるのは、早くても数ヶ月か半年程度先と見られている。まさに膨大な時間の無駄。そこに一つの意味を見だすとすれば、検察がひた隠す「真実」がさらに明らかになる可能性が生まれたことだけだ。
今西憲之氏+本誌取材班
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