原子力ムラから再稼働に『NO』 もんじゅ所管機構の労組が声明 研究者として責任「ストレステストも不十分」
中日新聞 特報 2012/05/17 Thu.
「たとえ数千年に一度の天災であっても、広範な放射能汚染で国を危機に陥れるようなものは運転すべきではない」。どこの脱原発団体のメッセージかと思えば、なんと原子力ムラ内部が発信源だった。日本原子力研究開発機構労働組合(通称・原研労組)の中央執行委員会が今年四月に出した声明文。高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)などを所管する独立行政法人で働く原子力の専門家たちが、再稼働にNOを突き付けるそのワケは---。(小倉貞俊)
■事故防げず悔い
「原子力ムラの片隅にいる者として、福島原発で事故を防げなかったことに悔いが残る」
今月十三日、さいたま市内で開かれた、埼玉県医療労働組合連合会の集会。講師として招かれた原研労組の岩井孝中央執行委員長(55)は、素直にこう詫びた。
講演のテーマは、放射能の健康への影響について。看護士ら約六十人を前に、「とても安心はできないが、過剰に怖がってもだめ。きちんと学んで、冷静に対応して」とアドバイス。原発事故を引き起こした国の対応に話が及ぶと「原子力の安全神話のもと、批判的な意見を無視してきた。拙速な再稼働には反対だ」と力説した。
原研労組は、茨城県東海村の日本原子力研究開発機構(原子力機構)内にある、二つの労組のうちの一つだ。日本原子力研究所(原研)の労組が母体で、原子力機構の全職員約四千人のうち二百八十人が加わる。原子力機構は二〇〇五年十月、原研と核燃料サイクル開発機構(サイクル機構)が統合して発足した。全労連にオブザーバー加盟する原研労組は、サイクル機構の流れを汲む「原子力ユニオン」とは方針を異にしている。
■客観性を心がけ
旧原研時代から、原研労組は原子力の安全性などについて問題提起してきたという。岩井氏は「原子力ムラの一員ではあるが、中立的な研究機関として誕生した原研の出自から、推進ありきではなく、常に客観性を心掛けてきた」と話す。
福島第一原発事故からひと月後の昨年四月十一日に出した声明では、早くも「日本の原子力政策を大幅に見直し、国の方針を転換せざるを得ないことは明白だ」と主張した。「事故を食い止められなかった責任について、原子力のプロとして何か発言すべきだと内部で声が上がった」と岩井氏。
その後も、組合員の意見交換を毎月のように実施。昨年末の組合員アンケートで約半数が「将来的に原発をなくすべきだ」と回答した。
実は原研労組はチェルノブイリ事故が起きた後の一九八九年、組合員に国内で大事故が起きる可能性についてアンケートを行っていた。回答した約三百人のうち「起こらない」と断言したのは11%。「将来にわたって安全基準が維持できるか心配」42%、「十分な安全は立証されていない」28%など、当時から少なくない人数が「安全神話」を疑っていた。
「『軽水炉』と呼ばれる現在主流のタイプは不安定で、さまざまな対策を講じなければ実用化できない代物。それなのに、日本はこれまで、『アメリカの原発の安全性は実証済み』として、独自に安全性を高めるような研究をしてこなかった」こうした原子力政策の進め方自体が問題であり、それが事故の遠因ともなった、と岩田氏考えている。
原研労組は「脱原発」でまとまっているわけではない。原子力をめぐる組合員の意見は「多少の手直しで継続する」から「手に負えないのでやめる」までさまざまだ。
岩井氏自身は「原子力はいったん白紙に戻って検証するべきだ」との立場という。
「例えば、東海第二原発はひびがたくさん入り、もはやリフォームで対応できるレベルではない。ほかの古い原発も構造計算が甘く、動かすのは非現実的だ」
にもかかわらず、政府は再稼働に躍起だ。岩井氏は「『福島と同じ規模の地震や津波に耐えられるかどうか』を再稼働を認める基準にするのはおかしい。福島クラスが最大のものだとなぜ言い切れるのか。まともな科学者で、あのストレステストを根拠にした再稼働を認める人間はいないはずだ」と釘を刺す。
■決めるのは国民
「フランスは『人が考えることには限界がある』という思想に基づき、過去の事故に学んできた。ベント(排気)時に放射性物質を除去するフィルターの設置がいい例だ。日本はどうか。今に至っても、教訓を生かそうとしていない」とも。
岩井氏が講演を依頼された数は昨年三月以降、四十回近い。事故前は、年に数回ほど。原子力機構職員としての外部発表は許可が要るため、組合活動の一環として要請に応えている。
「原子力ムラは閉鎖的だったが、だからこそ内部から声を上げることに意義がある。原子力政策を今後どうしていくのか、決めるのは『誰か』ではなく国民である『あなた』。その判断材料を提供していきたい」
原発批判労組は異例 電力総連に大半従う
原子力に携わる企業・団体の労組で声を上げるところは少ない。まして、原発に批判的な意見を発信するのは極めて異例だ。
電力会社など約二百三十社の労組は、産業別労組の上部団体である全国電力関連作業労働組合総連合(電力総連)に加盟しており、基本的な考え方は電力総連の方針に沿っている。
その電力総連は、原子力について「日本のエネルギー政策の一翼を担っていることに誇りを持っている」と推進の立場をとる。福島第一原発事故を受けた一一年九月の定期大会で「原発の在り方について検討を進める」との運動方針を採択したものの、事故そのものへの言及はない。
電力総連は日本労働組合総連合会(連合)の中核組織であり、政治団体「電力総連政治活動委員会」を通じて議員に資金提供するなど民主党を「票とカネ」でバックアップしてきた。
福島原発を所管する東京電力の労組は、声明文など事故に対する自らの考えを外部に説明するような情報発信は行っていない。東電労組の担当者は「企業内の労組であり、経営方針と異なった意見を積極的に打ち出すことはなじまない。エネルギー政策全体の考え方は、電力総連の方針に従っている」と話す。
また、再稼働問題を抱え、今夏の電力不足が危惧される関西電力でも、労組は沈黙。「安定した電力供給が使命であり、社の方針に逆行するようなことはあり得ない」と説明する。
一方、原子力機構のもうひとつの労組で、サイクル機構の労組の流れをくむ原子力ユニオンの場合はどうか。担当者は「使用済み核燃料サイクルの実現を目指しているため、原子力政策を批判することはない。そもそも労組は雇用の確保と労働条件の改善が目的であり、考え方を打ち出す場ではない」としている。 *強調(着色)、リンクは来栖
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◆「もんじゅ」運営 原子力機構 関連団体に「会費」/天下り先や自民党大島理森副総裁ら国会議員団体にも 2012-03-26 | 地震/原発/政治
もんじゅ運営 原子力機構 関連団体に「会費」8619万円
中日新聞2012年3月25日朝刊 1面
10年度文科省天下り先も
高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)を運営する独立行政法人「日本原子力研究開発機構」(茨城県東海村)が、2010年度、原子力関連の公益法人など81団体に「会費」名目で8619万円を支出していたことが本紙の取材で分かった。1口10万円の年会費に対して3千万円以上も支払っていた団体もあり、会費を隠れ蓑にして運営費を下支えしていた可能性もある。支出額が百万円を超える11団体のうち少なくとも7団体は文科省や経産省OBが役員を務めている。
■批判受け12年度95%減
原子力機構の運営費の大半は国の交付金で、税金の一部が原発を推進する天下り団体に流れていた。原子力機構は「不透明な支出があった」と認め、12年度から支出総額を95%減の364万円に大幅カットすると近く正式発表する。
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もんじゅ独法不透明支出 議員所属の団体にも 5年で1200万円
中日新聞2012年3月25日朝刊35面
高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)を運営する独立行政法人「日本原子力研究開発機構」(茨城県東海村)が、自民党を中心とする国会議員六人が役員を務める社団法人「原子燃料政策研究会」(東京都千代田区)に対し、「会費」として二〇一一年度までの五年間で千二百万円を支払っていたことが分かった。原発反対派は「核燃料サイクル事業の推進に政治力を利用していた」と批判している。
関係者によると、原子力機構は、前身の動力炉・核燃料開発事業団から原燃研究会の会員。一口一万二千円の年会費に対して二百口分、計二百四十万円を少なくとも〇七年度から毎年、支払っていた。
原燃研究会の会員は他に沖縄を除く電力九社や三菱重工業、東芝などの原子炉メーカー、竹中工務店などの大手ゼネコンを含む三十社と個人十七人。一〇年度は原子力機構の二百四十万円を含め三千六百四十万円の会費収入があったという。
原燃研究会は一九九二年、自民、旧社会党の国会議員らが原子力の平和利用や核燃料サイクルの推進などを目的に発足。機関誌「Plutonium(プルトニウム)」の発行のほか、〇四年に設立した超党派の国会議員でつくる「資源エネルギー長期政策議員研究会」(会長・甘利明元経済産業相、会員・百五人)に情報や資料の提供を行うなど活動を支援している。
公表資料によると、会長、副会長、理事は計十一人で、すべて無給の非常勤。会長は学識経験者だが、副会長の津島雄二元衆院議員をはじめ現・元衆参議員九人が役員に名を連ねる。
現職議員は六人で、自民党の大島理森副総裁、江渡聡徳、木村太郎の両副幹事長ら。三人はいずれも六ケ所村再処理工場など核燃施設のある青森県選出の衆院議員。民主党エネルギープロジェクトチーム座長の大畠章宏元経産相も一〇年九月の大臣就任まで理事を務めていた。
機構から多額の会費を受け取っていたことについて、研究会の担当者は本紙の取材に「会の趣旨に賛同していただいた」と話した。
理事を務める大島副総裁は「事務に関することは分からない」と文書で回答。大畠元経産相も事務所を通じて「純粋なエネルギー研究会だと認識し、参加してきた。大臣就任を機に現在は退会している」とコメントした。
機構は、所管する文部科学省OBの再就職先を含む八十の公益法人に「会費」として一〇年に約八千六百万円を支出していたが、批判を受け、一二年度は九割超削減して約三百六十万円とする方針を今月表明。原燃研究会についても退会し、支出をゼロにする方針。
日本原子力研究開発機構
原子力に関する研究や技術開発を目的とした独立行政法人。2005年10月に日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構が統合して発足した。理事9人のうち3人が原発を推進する文部科学省と経済産業省の元幹部。福島第一原発事故を受け、政府は夏までに、もんじゅを含めた核燃料サイクルの是非を決める方針。
「原発ムラ」の象徴
原子力資料情報室の伴英幸共同代表の話
原燃研究会は原発の族議員と経済界が結び付く「原発ムラ」の象徴のようだ。原子力機構は寄付のような会費を支払うことで、原子力政策を有利に進めたい狙いがあるのだろう。国会審議で議員が特別な配慮をするなど影響が懸念される。そもそも原子力機構の予算は国が決めており、その一部が国会議員が役員の団体に流れること自体がおかしい。