中日新聞【社説】
原発依存率 「寿命」を待つより前に
2012年5月27日
二〇三〇年の原発依存をどうするか。経済産業省の総合資源エネルギー調査会が、0〜35%の選択肢を提示した。忘れてはならないのは、それまでに国内の原発の大半が動けなくなるということだ。
十八年後、原発に電力の35%を頼るという案は、とても現実的ではない。新増設が必要で、福島の事故以前より、原発依存が大きく高まることになる。
福島の惨状、事態を収拾できない政府の無策、何より、五十基の原子炉すべてが停止中のこの現実を直視するなら、そんな数字を持ち出す真意が分からない。
一度は外す流れもあったが、早期原発廃止を目指す0%、緩やかに減らす15%、一定の割合で維持する20〜25%、市場に任せ、数値目標を設けない−とともに、最終案に残された。五案は、政府のエネルギー・環境会議を経て、エネルギー基本計画に反映される。
新基本計画は、福島事故の反省に立ち、温室効果ガス削減のために鳩山内閣が打ち出した原発新増設路線をゼロから見直して、この夏をめどに策定される。明らかに、脱原発依存が念頭にある。だとすれば、将来原発にどれだけ頼るのか、という目標の設定に、そもそも意味があるのだろうか。
政府は原子炉等規制法を改正し、原発に四十年の“寿命”を設ける方針だ。三〇年には、すでに六割以上が使命を終える。
私たちは福島の事故に打ちのめされ、多くを学んだ。地震国日本で、原発の新増設はもはや不可能といっていい。これが基本計画の大前提ではないか。
基本計画の基になるエネルギー政策基本法は「市場原理の活用」をうたう。米国では一九七九年のスリーマイル事故以来、商業用原発の新設が途絶えた。事故後規制が強化されたため、採算が合わなくなり、事業者側が控えたからだ。今年二月、三十四年ぶりに、二基の新設が許可された。建設時の債務保証を三倍に増やすという支援の風を、米政府が送ったからだ。安全という基準に照らせば、市場原理も原発に、退場を求めていることに変わりはない。
原発の寿命が四十年なら、最も新しい北海道電力泊3号機が止まる二〇四九年には、この国からすべて姿を消す。新たな基本計画も、その日を待たずに、火力を無理なく活用しながら、風力や太陽光を代替エネルギーから基幹エネルギーへと育てるためのたたき台にとどめるべきだ。
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原発依存率 「寿命」を待つより前に
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