芸人を叩いた果てに、「生活保護費10%引き下げ」などナンセンス!歳入庁と背番号制で「本当の社会保障と税の一体改革」を
現代ビジネス ニュースの深層
2012年05月28日(月)高橋 洋一
ある芸人の件がきっかけで、生活保護問題が急にクローズアップされた。週刊誌で取り上げられてから、テレビなどで露出度の高い自民党議員がプレイアップし、ちょっと社会現象になった。
こうした個別問題がきっかけになって、制度の理解が深まり、制度が改善されていくのであれば、いいことだ(そのために、個別問題に深入りするつもりはないので、名前などは周知の事実になっているが、ここではあえて記さない)。
今回の件では、福祉事務所の人と相談しながらやったという話を信じれば、不正受給とは関係ないだろう。しかし、生活保護の問題で関心が高いのは、多くの人が生活保護には不正受給があるのではないかと疑っていることがある。今年3月1日に公表された2010年度の不正受給は2万5355件、128億7426万円だった。もっとも、生活保護費は3.3兆円なので不正受給は0.4%しかない。
■実は国際的にみても少ない日本の生活保護受給者
日本の生活保護費は、国際的にみても、給付総額は少なく保護されている人も驚くほど少ない。やや古く1999年の数字であるが、日本、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、OECD平均の公的扶助総額の対GDP比は、それぞれ0.3%、4.1%、2.0%、2.0%、3.7%、2.4%だ。現時点でみても日本は0.7%程度である。
また、日本、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、OECD平均の公的扶助を与えられている人の総人口に占める比率は、それぞれ0.7%、15.9%、2.3%、5.2%、10.0%、7.4%だ。現時点でみても日本は1.4%程度にすぎず、先進国の中で際立って低い数字である。もっとも、生活保護者一人当たりの金額は先進国の中でも高い。
こうした点は日本の素晴らしさともいえる。そのように金額・人数ともに少なかったのが、近年増えてきたのであるから、余計人々の関心が不正受給などに集まっているのだろう。
こうした背景や「自助」で民主党の差別化を図れるという思惑から、自民党では、3月には「生活保護に関するプロジェクトチーム」を設置。(1)給付水準の10%引き下げ(2)食費や住宅扶助の現物支給(3)自立促進・就労支援(4)過剰診療防止による医療費扶助抑制(5)自治体の調査権限強化−という「生活保護見直しの5つの柱」をまとめた。
5月23日の衆院社会保障・税一体改革特別委員会で自民党の茂木敏充政調会長が「5つの柱」の受け入れを迫ると、首相は「総じて4か3・5ぐらいは同じではないか」と現物給付を除く項目に賛意を示し、生活保護で方針転換を示唆した。
■合理性がない生活保護の10%カット
25日の同特別委でも、永岡桂子氏(自民)が生活保護費10%引き下げを求めると、小宮山洋子厚労相は「自民党の提案も参考にして検討したい」と述べ、年末をめどに基準見直しを約束した。政権交代時の2009年9月生活保護者数が175万だったが、今年2月には210万と35万人も増加していることから、対応を余儀なくされているわけだ。
たしかに、鳩山政権下の2009年12月、厚労省は「速やかな保護決定」を通知して、生活保護者、生活保護金額の増加を後押しした。
もっとも、経済状況を細かく分析する必要がある。生活保護世帯の世帯類型をみると、高齢者世帯42%、母子世帯8%、障害者世帯12%、傷病者世帯21%、その他世帯17%になっている。このうち、経済的な困難と思われるのが、高齢者世帯、母子世帯、その他世帯の計67%になる(下図参照 省略=来栖)。
デフレになると所得が失われ、失業が増える。このためインフレ率と失業率の間には逆相関があり、この関係はフィリップス曲線として知られている。そうであれば、インフレ率と生活保護増加率にも逆相関がありそうだ。実際、1990年からの生活保護者増加率と(マイナス表示の)インフレ率を書くと両者の動きは一致し、相関係数は▲0.9となる(下図 省略=来栖)。インフレ率が▲1%だと、生活保護者は5%(10万人程度)増加する。
こうした分析からいえることは、特定の事案をきっかけとして、生活保護費を10%カットするなどの措置を行うことに合理性はない。むしろ民主党政権になってデフレ脱却しなかったので、経済苦境に陥り、それが生活保護者の増加を招いた公算が強いので、急ぐべきはデフレからの脱却である。生活保護者増加率とインフレ率の逆相関を使えば、インフレ率が2%程度になれば、10%の生活保護費の削減は可能である。
その上で、特定の事案から、今のルールであれば扶養者などの生活保護の条件のチェックに甘い点があるのは否めない。不正受給の噂が絶えないのは、役所の側のチェック体制に問題があるのだろう。
実際、厚労省(社会保険関係)は徴収については法的には税と同じで、給付(公金支出)についても「負の税」として厳格に行うべきところ、税との扱いの差は大きい。本コラムでは歳入庁の話をしてきた(例えば、昨年7月4日「消費税増税の前に、歳入庁を設立し、「消えた社会保険料12兆円」を取り戻せ 国有資産を売却し、天下り先の民営化もせよ」)が、国民背番号の導入とともに歳入庁を創設し、社会保障(徴収・給付)と税を一体として運用しなければいけない(これが本来の意味での社会保障と税の一体改革!)。
国民背番号と歳入庁を作ると、ベーシック・インカムに通じる「負の所得税」(具体的には、先進国で既に導入されている給付付き税額控除が第一歩)が導入できる。すると、生活保護を含む厚労省の中で縦割り社会保障を一括して一元的に行うことが可能となってくる。そこまでいけば、生活保護に伴う認定の不合理性などが排除され、客観的な所得・資産がほぼ完璧に行われる中で、生活保護制度も「負の所得税」に吸収されてくる。もちろん、この段階では不正給付は格段に少なくなるはずだ。
■民主も自民も代表が9月に交代し、総選挙に?
現在で、この「負の所得税」を政策体系として組み入れているのは、橋下徹大阪市長が率いる「大阪維新の会」だろう。その政策は、すでにみんなの党が取り入れ、そのほかの第三極もとりいれようとしている。しかし、民主・自民の既存政党はなかなか取り入れられない。そこで、来たる総選挙の一つの争点にして、政策競争をすれば、生活保護でしっかりした「解答」を見いだせるだろう。
総選挙といえば、谷垣禎一自民党総裁は今国会で解散に追い込むというが、今の国会の民主・自民両党の布陣を見ていると、消費税増税法案は6月4日に公聴会が設定されて、その後はいつ通っても不思議でない。しかし、解散は選挙制度改正案もまったく手がついていないので事実上解散できる状況でない。今週は、野田−小沢会談がセットされるというが、小沢氏の増税反対を確認するだけのセレモニーで、何回か会談は継続されるだろう。おそらく、小沢氏が反対でも党を割らないようにしてくれといい、小沢氏のほうも解散さえなければいいのだろう。とても消費税増税反対だけで、党を割って出て行く可能性は少ないだろう。仮に出て行っても、第三極と連携するのが難しいからだ。
自民の長老派の国会対応は増税容認で、解散がなくても、民主と大連立で組み、閣僚ポストを手に入れたくて仕方ないようだ。
自民の若手(参議院)はどうでるかわからないが、衆院で民主と自民が組むと、小沢グループが抜けても3分の2の圧倒的多数になって再議決可能で、1ヶ月ほど国会を延長すれば参議院で否決されても消費税増税法案は通る。しかも、この場合、記名採決ではないので、小沢グループなど増税反対勢力の面子も立つ。
筆者の予想は好ましいモノでないが、消費税増税法案成立で総選挙なしだ。総選挙なしだが、9月の民主党代表選と自民党総裁戦で両党の看板が代わり、その直後にご祝儀を期待して総選挙があるかもしれない、と予想している。
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◆小宮山洋子厚労相こそよっぽどのワル バッシングに便乗 河本問題で騒げば騒ぐほど、権力の思うツボ 2012-05-28 | 政治(経済/社会保障/TPP)
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◆野田・小沢会談 輿石氏と三者三様の思惑が一致したため実現 週刊ポスト2012年6月8日号 2012-05-28 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
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芸人を叩いた果てに、「生活保護費10%引き下げ」/民主も自民も代表が9月に交代し、総選挙に?
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