国民主権を裏切る政治
田中良紹の「国会探検」2012年6月3日20:05
消費増税を主張する勢力の本音は消費税を選挙の争点にしたくない事だと私は書いてきた。だから「話し合い解散」とか「大連立」を口にする。「話し合い解散」は与野党に対立がない時の解散であり、「大連立」は与野党がなくなることだから対立もない。つまり「話し合い解散」や「大連立」なら選挙をやっても消費税が争点になる事はないと考えている。増税派はそれほど消費税が選挙争点になる事を恐れている。
それもそのはずで、これまで消費税を掲げた政権が選挙に勝ったためしはない。大平政権は堂々と選挙に掲げたが過半数を割り込む大惨敗をした。中曽根政権は「大型間接税をやらない」と公約して衆参ダブル選挙に大勝したが、300議席を得るや「売上税導入」にとりかかった。
つまり大平政権のように堂々と選挙で国民の審判を受けるのではなく、増税しないと公約して選挙に勝ち、その勝利をテコに選挙のないうちに増税を強行しようとしたのである。それは国民主権を無視する行為で、世論が強く反発したため中曽根総理はすぐに「売上税」を引っ込めて竹下政権に先送りした。
磐石な議席を引き継いだ竹下総理も選挙の争点にせず、数の優位で消費税法案を強行採決した。しかし竹下総理は消費税の問題点を国民に明らかにして理解を得る努力をし、消費税と所得減税を抱き合わせてトータルでは2兆円を越える減税をやった。それでも翌年の参議院選挙で自民党は歴史的敗北を喫し、33年ぶりに「ねじれ」が生まれて日本政治混迷のきっかけを作った。つまり選挙争点にしないで消費税を成立させても、次の選挙で与党は敗北するのである。
消費税率を3%から5%に引き上げた橋本総理も、引き上げ後の参議院選挙に敗れて退陣し、現在の消費税率は与党の選挙敗北を代償に実現されてきた。今回も例外でない事は容易に想像がつく。今の経済状況は以前よりも悪いので、増税できるタイミングでない事は世界の学者も認めている。だから増税を強行すれば国民の鉄槌が下る。それをいかに避けるかの思惑が「話し合い解散」や「大連立」の背後にある。
しかしそれは国民主権を裏切る政治である。国政のあり方を最終的に決める権限は国民にあり、重要な国家の方針を国民に聞かずに決定する事は国民主権に反する。国民の権限は選挙を通じて行使されるから、重大な問題を選挙の争点にしない考えは国民主権を冒涜している。
その意味で消費税を選挙で堂々と掲げた大平総理は国民主権を尊重していたと言える。しかしそれ以後の政権はそうではない。中曽根総理は増税しないと公約して選挙に勝ち、選挙に勝つと増税を言い出したのだから甚だしく国民主権を冒涜した。竹下政権も選挙の争点にする事なく消費税を成立させたが、ただ竹下総理は減税との抱き合わせで国民負担を減らし、国民に説明する努力は見せた。
09年の民主党マニフェストは、消費増税をする前に選挙で国民に信を問うと明記している。大平総理以来久々に国民主権を尊重する真っ当な姿勢を見せた。ところがそのうちに成立させる前に選挙をするのではなく、成立させた後で、実施の前に選挙をやると変わった。これをどう捉えるかだが、なかなかに政治的である。
消費税法案を作成した段階で国民の審判を仰ぎ、国民の支持が得られれば消費税法案を成立させるのか、そうではなく法案の審議と採決を国民に見せ、誰が賛成し、誰が反対したかを国民に知らせてから選挙をやるかの違いになる。賛成した側が選挙で勝利すれば消費税は実施されるが、反対した側が勝利すれば成立した消費税は実施されない事になる。
選挙で国民の信を問うてから法案を成立させるのが常識だが、成立させた後で実施を争点に国民の信を問う方法もありうると私は思う。国民は審議の内容と成立した法案の中身を知った上で実施させるかどうかを選挙で判断するのである。成立させてしまえば国民は反対しなくなるとの見方もあるだろうが、それほど国民は甘くないと私は思う。
ところで自民党や民主党の一部が主張する「話し合い解散」や「大連立」は思惑通りに行くのだろうか。全く行かないと私は見ている。国民の見ている前で自民党が「話し合い解散しろ」と迫れば迫るほど、国民には与野党野合の総選挙に見える。自民党は民主党政権の実績を選挙争点にしたいだろうが、野合の総選挙となればその原因である消費税に国民の目は向く。最近では自民党の中からも「話し合い解散などと子供じみた事を言うな」と執行部の未熟さを指摘する声が出ている。
一方で消費税反対の勢力は民主党内にも地方首長の勢力にも存在する。その勢力が存在する限り、消費税が選挙争点になる事は避けられない。民主党が分裂選挙になればますます国民の目は消費税に向けられる。また民主党と自民党が「大連立」を組めば、これも消費税を巡る対立を浮き上がらせて次の選挙争点は消費税という事になる。
野田総理が「政治生命を賭けて」この国会での成立を強行すれば、近づく選挙を消費税法案と切り離して行う事はきわめて難しい。そうなれば選挙は民主党と自民党の戦いではない。消費税の実施を認める勢力と反対する勢力との戦いになる。仮に消費増税派が衆議院選挙で勝利しても、来年の参議院選挙で「ねじれ」が生まれる可能性があり実施に赤信号が灯る。
二つの選挙を制しないと消費税の実施は実現しないのである。その過程で消費税を軸とする政界再編が促進する。それは同時に国民主権を尊重するのはどちらかという問題も提起する。「野田総理が成立させようとしている消費税は国家の存立に関わる重大問題。消費税に反対する小沢元代表は民主党の中の権力闘争で政局を仕掛けている」と解説する愚かな評論家もいるが、小沢氏は国民の理解も了解もなしに増税して良いのかと主張しているだけである。つまりこれは国民主権を尊重して消費税を増税するか、無視して増税するか、国民主権を裏切る政治はどちらかという問題なのである。
投稿者:田中良紹 日時:2012年6月3日20:05
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◆総選挙という話〜そうなったら、国民は消費税のでたらめと原発再稼働のでたらめに鉄鎚を下すだろう 2012-06-06 | 政治
目くらましの内閣改造は一時しのぎ。9月の新首相誕生で解散総選挙か?ならば「増税」「原発再稼働」を争点にマニフェスト違反の民主党に鉄槌を
現代ビジネス「ニュースの深層」2012年06月04日(月)高橋洋一
野田・小沢再会談は予想どおり物別れで終わった。これで本コラムで再三にわたり指摘してきたように、民主・自民の増税大連立の方向が決定的になった。
今回の再会談は、野田総理にとってそれなりに収穫はあった。野田総理は、内閣改造と自民党との協議について了解をもらったからだ。内閣改造は総理の専権事項なので了解というのはおかしな話であるが、総理から内々の人事話があったのかもしれない。誰でも事前に人事話を聞いて悪い気がしないはずだ。輿石幹事長を更迭するという話もあったが、結局は党人事をいじらずに、内閣改造だけとなった。
輿石幹事長の会見にあったが、野田総理は「この会期内に採決しないと成立しないから、そういう方向で行く」という話があり、「それは私も同じだ。」といっている。会期内採決にめどがたったことも、野田総理には大きな前進だろう。
野田総理は社会保障と税の一体改革というが、その実体は社会保障を薄皮とし、中身は消費税増税たっぷりの薄皮饅頭だ。これは菅政権で与謝野氏を取り込んでから既定路線だ。与謝野氏は消費税増税だけをやりたかったので、社会保障は二の次だった。民主党の社会保障改革を徹底的に批判していたので、民主党の社会保障はこれでズタズタになった。薄皮を取り除けば消費税増税だけなので、賛成の野田民主と谷垣自民、反対の小沢氏という構図だと、小沢斬りで野田民主と谷垣自民が手を組むしかなくなる。
問題は解散であった。谷垣自民としては、ただ消費税増税だけだと、増税大連立・野合といわれる。そこで解散総選挙を言わざるを得なかった。解散権は総理の専権事項だ。民主党でどのような議論があっても、野田総理一人を説得すれば行使できる。
ところが、一票の格差で今は違憲状態と最高裁にいわれている。総理の解散権は縛られないというものの、さすがにこのまま解散総選挙を行うのはリスクがある。解散総選挙のためには少なくとも選挙制度改正を行う必要がある。解散総選挙を嫌う民主党はノラリクラリとしていた。
ここで自民党がぶち壊すといえば違う展開になっただろうが、自民党内長老グループは解散を回避しあわよくば民主・自民の大連立で閣僚ポストでも欲しいという人が多い。その結果、今国会の解散は遠のく一方だが、消費税増税法案は着々と時計が進み、6月上中旬の公聴会以降いつでも採決されても不思議でない状態だ。
谷垣自民党総裁も解散は強くいえなくなってきている。もうタイミングを失っているし、下手に言い出せば自民党内の谷垣おろしが勃発しかねないからだ。
消費税増税で解散なしというのは、国民にとっては悪夢のような話だが、財務省にとっては好ましいシナリオだ。財務省は、今の野田・谷垣のゴールデンコンビの時しか増税はできないと考えている。そのために増税にマスコミを籠絡して必死だ。一方、解散総選挙については、ひょっとして増税に反対する第三極がでてきて、増税廃止法案を出して増税をひっくり返すのを怖れている。
今総選挙であれば、4割の増税賛成票を民主・自民が奪い合って、残り6割の増税反対票を第3極がとるかもしれないからだ。ということは、民主と自民にとっても、第三極の勢いが落ちるまで総選挙を先送りしたくなるわけだ。
増税は民主党のマニフェスト違反にもかかわらず、解散なしで国民は文句をいえない。増税のために民主党へ政権交代したわけでない。こんな約束違反を許したら、次の選挙ではマニフェストなぞ見向きもされなくなって、政治不信になるだろう。
■野田内閣総辞職ならマスコミは喜んで飛びつくだけ
マスコミは消費税増税・解散なしでも、何かネタを探すので、総辞職(野田総理のクビ)あたりのネタに喜んで飛びつく。目先ネタに目がくらみ、マニフェスト違反にもかかわらず解散なしを追求できないだろう。
次の選挙になってもマニフェストは堂々と破るものという感じになるのではないか。それほど今回の消費税増税は罪作りなものだ。
大飯原発の再稼働をめぐっては、関西広域連合の知事たちが、立場一転して事実上の容認したことで、野田総理は、関係3閣僚との会合を開いて、再稼働を最終判断するだろう。これもひどいものだ。
政府・民主党・関電は、極めて卑怯な方法で、関西の首長らを「事実上容認」に追い込んだ。「15%足りないが、いいのか」「このままでは大停電が起こる」「停電が起これば病院への電力も止まり、急病人が死亡しかねない」と恫喝とも受け止められるキャンペーンを展開していたという話だ。ピークロード・プライシングも出してくるのが遅すぎる。1年も前からわかっていたのにである。住民を人質に、実質的におどしをかけていたとしたら、これほどひどい話はない。
■9月に解散はあるのか
国民はどうしたらいいのだろうか。民主党某幹部は、消費税と原発を次期総選挙の争点にならないように、今のうちから決着済みにしたいという。しかし。それは大間違いだ。
消費税では、凍結法案や税率再引き下げ法案を掲げることはできる。原発も暫定基準なので、本格基準まで再停止するという政策の選択肢がある。
ひょっとしたら大阪維新の会やみんなの党などの第三極はそうした政策の対立軸をだすだろう。9月の民主代表選のあとに、今うわされている新しい代表(小沢氏にも適当な距離感といわれている)でご祝儀支持率が上がったら、総選挙という話もでている。そうなったら、国民は消費税のでたらめと原発再稼働のでたらめに鉄鎚を下すだろう。
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◆消費税の政治学 田中良紹の「国会探検」 2012-05-20 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
消費税の政治学
2012年5月18日 23:25
消費増税を決める国会審議がようやくスタートした。連休前にもスタートするはずであったが会期末まで1ヶ月という時点でのスタートである。審議の先行きは不透明で、野田総理の増税路線を後押ししてきたメディアに疑心暗鬼が生まれつつある。
そもそも自分たちだけは消費税の適用除外にしてもらおうと、財務省に尻尾を振って増税路線を推進するメディアにまともな消費税報道など出来るはずもないが、メディアは増税をマニフェストに掲げた自民党とマニフェストを覆して増税に政治生命を賭けると言い切る野田総理のタテマエを信じているだけだから現下の政治を読む事が出来ない。
私は昨年11月のG20で野田総理が消費増税を国際公約し、消費税政局がスタートしてからメディアの「話し合い解散」とか「小沢抜き大連立」とかの報道に疑問を呈してきた。それは一方の「願望」を代弁しているだけで、いささかも政治を読み解いてはいないからである。波乱万丈が予想される政局を読むためにはまず与野党の本音を探る必要がある。
野田政権が誕生してから行なわれた3回の党首討論は壊れたレコードのように同じ議論を繰り返した。自民党の谷垣総裁の発言からは野田総理の「不退転の決意」を信用していない様子が分かる。だから与野党協議を求められてもそれに乗れない。「閣議決定をするのが先だ」とか、「マニフェストを変更しろ」とか、「民主党内の反対派を切れ」とか次々に条件をつける。そして最後に必ず「一日も早く解散を」と総選挙を迫る。
自民党は09年の総選挙で議席数を181減らし、結党以来初めて衆議院第一党の座を明け渡した。従って現在の自民党は現職議員に匹敵する数の浪人を抱えている。浪人は早く選挙をやってもらわないと金が持たない。自民党が何が何でも民主党を批判して選挙に追い込もうとするのはそのためである。国民のためにじっくり政策を磨いて政権を取り戻す余裕がない。
一方で自民党は消費税が選挙に不利である事を誰よりも良く知っている。1979年の総選挙で大平内閣は消費税を掲げて過半数を割り込む大惨敗を喫した。竹下内閣は強行採決で消費税法案を成立させたが、リクルート事件もあって退陣を余儀なくされ、次の宇野内閣が参議院選挙で歴史的敗北を喫した。また消費税を3%から5%に上げた橋本内閣はそのために不況を招いて参議院選挙に敗れ、最近では民主党の菅内閣が突然消費増税を打ち上げてやはり参議院選挙に敗れている。消費税を上げる前でも後でもそれが争点になれば例外なく選挙には負けるのである。
だから自民党は消費税を選挙の争点にしたくない。しかし野田総理が消費税を成立させてからでないと解散しないと明言しているので成立に協力しないと解散も実現しない。そこから「話し合い解散」とか「大連立」という「願望」が出てくる。「赤信号みんなで渡れば怖くない」にしたいのが本音で、みんなで組んで増税をやれば選挙の争点にはならないと信じたいのである。
ではそうした「願望」が実現するかといえば簡単ではない。まず第三党の公明党の立場がなくなる。公明党はこれまで自民党と組んできた経緯から「社会保障と税の一体改革」に反対はできないが、増税路線に巻き込まれたくはない。自民党とは逆に消費税法案の成立に反対してから選挙に臨みたい。山口代表は党首討論で毎回「社会保障の中身が分からないのに協力は出来ない」と繰り返している。
さらに民主党最大勢力の小沢グループが反対している事で「願望」はなお難しい。仮に自民党と民主党執行部が組んで消費税成立を強行すれば民主党は分裂し、消費税を巡って政界は二つに割れる。そうなれば次の選挙は否応なく消費税の実施を認めるかどうかが争点になる。その時「統治構造を変えて行政の無駄を省け」と主張する地方首長の勢力が選挙に参戦してくる。まさに増税路線と統治構造の変革路線とで政界再編が本格化する。
その時、自民党の中に増税を掲げて選挙に打って出る候補者がどれほどいるか見ものである。同じ事は民主党にも言えるが、消費増税を主張する勢力が選挙に勝って政権を取る保障はどこにもない。世界の趨勢は緊縮財政や増税路線が選挙で敗北し続けている。日本だけが例外になれるかをこれから政治家たちは自問自答する事になる。
しかも世界最大の財政赤字と言いながら、日本国債の金利は下落傾向にある。増税を急がなければならない理由はない。さらに消費税率25%のスウェーデンが、それでも社会保障を維持できず、年金支給開始年齢を75歳に引き上げようとしている。増税だけではいずれ社会保障は維持できなくなる事の証左である。社会の仕組みそのものを見直さないと少子高齢化には太刀打ちできない事を福祉の先進国が教えてくれている。
従って国会はそうした視野に立った議論をすべきである。竹下内閣が3%の消費税を決めた時には審議に3ヶ月の時間をかけた。わずか1ヶ月の議論で結論を出す必要などさらさらない。現在の政治は何よりも震災からの復興と原発問題、そして世界経済の動向に目を凝らし、「社会保障と税の一体改革」は長期的視野から時間をかけて議論する事が望ましいのである。
ところが消費税をかけられると会社が潰れると恐れる新聞社とその系列のテレビ局は、自分たちの利益のために消費増税推進報道を行なって財務省に尻尾を振っている。そのため妙なバイアスのかかった報道が横行する。この消費税政局を読み解くためにはまずはメディアの報道を無視するところから始めなければならないようである。
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◆消費税の政治学2 田中良紹の「国会探検」2012-05-29 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
消費税の政治学2
田中良紹の「国会探検」田中良紹:2012年5月28日 03:46
野田総理と小沢元代表の会談が揣摩臆測を呼んでいる。揣摩臆測を呼ぶのは当然で、会談はそれを狙って設定されたと私は見ている。周囲を疑心暗鬼にさせながら、誰がどう言うか、世の流れはどうかを見極めて、両者はそれぞれ対応を考えるのである。野田総理が輿石幹事長に命じて設定させたというところを見ると、会談を必要としているのは野田総理である。
両者を対立軸でしか見る事のないメディアは、会談が決裂するか、合意するか、協議継続となるかの三通りをシミュレーションして、民主党が分裂するか、野田総理が窮地に陥るかどうかだけを見ている。そして増税推進の立場から、野田総理が自民党と手を組み小沢切りを決断すべきだと主張する。しかし両者がのっぴきならない対立関係にあるならそもそも会談は設定されない。そうでない事を前提にすれば自民党分裂とか自公分断とかのシナリオが出てくる可能性もある。
とにかく予算を成立させて国民生活に支障が出ないようにするのが最大使命の通常国会で、予算執行に欠かせない赤字国債発行法案が成立してもいないのに、増税の議論をしているのだからこの国会は普通でない。だから普通でない事が起きても不思議ではない。二人の会談が行なわれる週には、他の重要法案の審議が始まる事もあり、会談はその行方とも当然に絡んでくる。
先週の国会は「社会保障と税の一体改革特別委員会」の審議を中心に動いたが、野党が追及していた点を私なりに整理してみる。まず野党は野田総理が「法案成立に政治生命を賭ける」という言葉とは裏腹に全く本気度を見せていない事を追及した。
「ねじれ国会」だから法案成立のためには野党の協力が絶対に必要である。しかし野田総理にその姿勢がまるでない。参議院で問責を受けた2閣僚の更迭を迫っても応じない。増税は09年総選挙のマニフェスト違反であるのにそれも認めない。与野党間には社会保障政策に違いがあるのにひたすら協力を迫ってくる。成立させる気があるならば民主党の法案を撤回して自民党案を丸呑みにしろと野党第一党の自民党は迫った。
町村信孝議員は激しい調子で「言葉だけで行動が伴わない松下政経塾流政治家」と野田総理をこき下ろし、竹下亘議員は「兄の竹下登が消費税を導入した時は所得税減税もやり、トータル2兆6千万円の減税だった。橋本内閣が消費税を上げた時はプラスマイナスゼロ。今回は13兆円を越える初めての大規模増税だが、全く国民に説明する努力がない」と今回の増税がこれまでとは違う純粋の増税であることを強調した。
こうした議論を聞くとメディアが言うように野田総理が自民党と組んで消費税法案を成立させる事も難しいように思える。自民党は民主党が09年に国民を騙した事を認めて国民に謝罪をした上で自民党案を丸呑みしない限り協力しないと言っているのである。民主党は自民党に吸収されてしまえと言わんばかりである。
しかし一方で自民党は野田総理の「不退転の決意」を千載一遇の好機と捉えている。特別委員会の自民党筆頭理事である伊吹文明議員は「野田総理が勉強されて我々と同じところに来ていただいた事を大歓迎している」と評価した上で、消費税問題で自民党の司令塔となっている立場からタテマエではない本音の部分を開陳した。
まず消費税は社会保障のためではない。財政赤字を解消するために行なわなければならない。社会保障費がどんどん伸びてきて国民には分かり易いから社会保障のためと言うだけで、お金に色がついているわけではない。 本当は小泉政権が人気があった時に消費税を上げておくべきだった。ところが税金を上げないで社会保障費をカットしてしまった。これが自民党の大失敗である。09年の選挙でいつもは選挙に来ない子供づれの若夫婦が大勢来た。そして自民党が選挙に負けた。
自民党が消費税法案に協力する見返りに「話し合い解散」をするなどという子供じみた話を私はしない。野田総理は今国会で消費税法案を通すと言っているが実施の前に総選挙が必ずある。そこで民主党が負けると消費税は実施できなくなる。だから民主党案では駄目なので、野田総理は自民党案を成立させる方法でしか消費税を上げることは出来ない。
つまり伊吹氏は野田総理が消費税法案を成立させる時に、中身は自民党案でなければ実施にたどり着けないと言っている。だったら自民党は民主党政権を終らせて、自分で消費税法案を提案すれば良いと思うが、それは出来ないのだ。それをやると自民党が選挙に負けてしまう。だから「不退転の決意」の野田総理に成立までやらせ、民主党が選挙に負けて自民党が政権についても、中身を自民党案にしておけば継続して実施できると考えている。野田総理に選挙の防波堤になれと言っているのである。
自民党の税制調査会長である野田毅議員は、自自連立の時に小沢氏が作らせた消費税増税案の内容を示して、野田―小沢会談で総理が小沢氏を説得する材料に使うようアドバイスしたが、「総理は小沢さんを説得しきらんと思う」と悲観的見通しを述べた。そして「民主党内から66人が造反すると消費税法案は衆議院も通らない」と小沢グループに対する警戒感を露にし、野田総理には厳しい選択が待ち受けていると同情してみせた。
こうした議論から見えてくるのは「社会保障と税の一体改革」とは国民向けの目くらましであり、実体は民主党が無駄を削る事をやめた事と、金融市場の動向を恐れて財政均衡に走る政府の姿である。要するに国際社会の恫喝に恐れをなしている話である。
また「話し合い解散」も「大連立」もメディアの願望に過ぎず、与党も野党も政治家は消費税と選挙が絡まる事を恐れ、誰も野田総理の本気度を信用していないのに、それに付け入るしかないと考え、一方で消費税を推進してきた小沢氏が反対する真意を読み解いてはいないという事である。政局の入り口でみなまだ手探りしている。
田中良紹2012年5月28日03:46
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◆政治的事件の政治的控訴 田中良紹の「国会探検」 2012-05-10 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
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◆【政治的事件の政治的判決】 田中良紹の「国会探検」 2012-04-28 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
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◆小沢一郎裁判=「官僚支配に従う者」と「国民主権を打ち立てようとする者」とを見分けるリトマス紙である 2011-10-10 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
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◆「小沢一郎氏を国会証人喚問」の愚劣 2011-10-20 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア