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政権選択の苦い教訓「消費増税」衆院通過/政治と大手メディアの劣化のなかで、光明のような中日東京新聞

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政権選択の苦い教訓「消費増税」衆院通過
中日新聞【社説】2012年6月27日
 「一体」改革法案が衆院を通過した。消費税は増税しないと衆院選で公約した民主党による約束違反は明白だ。苦い教訓は次の選挙にこそ生かしたい。
 有権者のやり場のない怒りは、どこにぶつけたらいいのだろう。
 二〇〇九年衆院選で、消費税は増税しないと公約して政権交代を実現した民主党議員が、敵対していた自民、公明両党と結託して消費税率引き上げ法案に賛成する。
 自民党とは違う脱官僚や政治主導、税金の無駄遣いを徹底的になくすことで「コンクリートから人へ」の政治実現を期待した有権者の民意は完全に踏みにじられた。
◆ルール違反は明白
 野田佳彦首相は、消費税を増税する理由を「社会保障改革を実現する上で、どうしても安定財源が必要だ。しっかりと国民で助け合う、支え合うための税金として消費税を充てる」と説明する。
 本格的な少子高齢化を迎え、社会保障制度を持続可能なものに抜本改革する必要はある。国の借金が一千兆円にも上る財政状況に対する危機感も首相と共有したい。いずれ消費税増税が避けられないだろうことも理解する。
 しかし、引き上げることはないと公約した消費税の増税法案を、衆院選を経ずに成立させてしまうことは、民主主義の明白なルール違反にほかならず、納得がいかない。
 政策の具体的な数値目標や達成時期、財源を明示して政権選択肢を示すのがマニフェスト政治だ。
 首相が〇九年衆院選時に公言したように「書いてあることは命懸けで実行する。書いてないことはやらない」というのは大前提だ。
 英国を本家とするマニフェストは日本では〇三年衆院選以降、各党が導入した。国民が政策によって政権を選ぶという、定着しつつあった流れを断ち切った野田首相の責任は極めて重い。
◆「棚上げ」か解散を
 もちろんマニフェストは万能ではなく、一文字たりとも変えてはならない「聖典」ではない。加えて日本政治は代議制民主主義だ。状況の変化に応じて公約と違う政策を、選挙を経ずに進めなければならない場合もあるだろう。
 例えば、原発政策。民主党マニフェストは「安全を第一として、原子力利用について着実に取り組む」と推進の立場だが、菅前内閣以降、十分とは言えないものの「脱原発依存」路線に転換した。
 それを公約違反と責め立てる人はまずいないだろう。福島第一原発事故を契機に、マニフェストが前提とした原子力の「安全神話」が崩れ、原子力ムラの利権構造が白日の下にさらされたからには、政策転換は当然だからだ。
 しかし、首相が消費税増税の前提とする少子高齢化は突然始まったことではない。増税路線への転換は、税金の無駄遣いをなくす努力を怠り、官僚支配を突き崩す政治生命を懸けた熱意が足りなかったことの当然の帰結である。少子高齢化は言い訳にすぎない。
 民主主義では結論とともに手続きも重要である。国民の理解を得るための手順を欠いた政策は、それがたとえ国民に必要だとしても理解や同意は得られないだろう。「信なくば立たず」である。
 首相がもし消費税増税が日本の将来に必要だと思うのなら、自公両党と組んで中央突破を図るのではなく、面倒でも手続きをやり直す労苦を惜しんではならない。
 首相が今すべきは小沢一郎元代表ら民主党内造反議員の処分ではなく、「国民会議」で一年以内に結論を得る社会保障改革の全体像が決まるまで消費税増税法案を棚上げするか、衆院を解散して国民に信を問うことだ。
 三年前の暑い夏、高い期待を担って誕生した民主党政権が今、国民の眼前にさらすのは、自民党に同化していく無残な姿である。
 首相はそれを「決められない政治」からの脱却というが、指弾されているのは、既得権益や官僚支配など「変えるべきことを決められない政治」だ。公約違反の消費税増税など決めない方がましだ。
 民主党政権の消費税増税路線への変わり身は、われわれ有権者にとっては苦い経験となったが、そこから得たものを、日本の政治を前進させる教訓としたい。
◆白紙委任ではない
 まず、マニフェストは完璧ではない。本当に実現できる政策かを見極め、選挙後も実現状況を監視する。白紙委任してはいけない。
 法案への賛否が議員の最も重要な政治行動である。各法案への投票行動を詳しく知る必要がある。
 政策で議員や政党を選ぶ。公約した政策を実現しようとしないのなら、次の選挙では投票しない。この循環を完成させない限り、日本の民主主義は前に進まない。
 有権者が投票する際の材料を十分に提供するのは、われわれ新聞の重要な仕事だと肝に銘じたい。
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東京新聞【筆洗】 2012年6月27日
 <一つの言葉で喧嘩(けんか)して/一つの言葉で仲直り/一つの言葉で頭がさがり/一つの言葉で笑いあい/一つの言葉で泣かされる>。東京・柴又の「寅(とら)さん記念館」にある「言葉は心」という詩だ▼映画評論家の故淀川長治さんがお坊さんから教わり、いつも口ずさんでいるのを映画監督の山田洋次さんが聞き、映画「男はつらいよ」の撮影現場に飾ったという。何げない言葉に人は喜び、傷つく。重ねるほど色あせて、心に届かなくなる言葉もある▼「心から、心から、心からお願い申し上げます」。野田佳彦首相は一昨日の臨時代議士会で懇願した。消費税関連法案の衆院本会議での採決前に、党の仲間に直接訴える最後の機会だったが、反対派議員は反発を強め、むしろ亀裂は深まったようだ▼きのうの本会議で、法案に反対票を投じた民主党の議員は五十七人。棄権も含めると、七十人を超える大量の“造反”議員が出て、民主党は事実上、分裂状態に陥った▼「マニフェストはルールがある。書いてあることは命懸けで実行する。書いてないことはやらないんです」「シロアリ退治しないで、消費税引き上げなんですか?」。首相が選挙応援の演説で訴えてからまだ三年もたっていない▼政権交代して財務副大臣、財務相を経験したとたん、首相はマニフェストを忘れ増税一直線に変心した。言葉は心。心からそう思う。
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夕歩道
中日新聞2012年6月27日
 平家物語などに登場する鵺(ぬえ)。サルの顔、タヌキの胴体、トラの手足を持つという。元来は夜に鳴く鳥らしい。物の怪(け)と恐れられ、えたいの知れぬ人物をさす。そういえば、民主党にも多くの鵺が。
 筆頭は、この期に及んで党内融和しか言わぬ幹事長。政党の体をなしていないのは明らか。マニフェスト違反の消費増税派は言語道断。造反派も選挙目当てが丸見え。しかし、欠席や棄権は鵺だ。
 旗を鮮明にすれば批判を受ける。でも、それこそが議員の責務。えたいの知れぬ鵺には次の選挙で票を投じる材料もない。重要政策の賛否を問う本紙調査にだんまりの議員ら。これも鵺だろうね。
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〈来栖の独白 2012年6月27日〉
 政治と大手メディアの劣化のなかで、中日(東京)新聞というペーパーを得ていることを私は喜びたい。昨日の消費税増税法案衆院可決についても、その感を強くした。野田内閣と自民党・公明党連立による消費税増税は非道である。反対した小沢一郎氏らの行動に対して、中日新聞社説は次のように言う。
>首相が今すべきは小沢一郎元代表ら民主党内造反議員の処分ではなく、「国民会議」で一年以内に結論を得る社会保障改革の全体像が決まるまで消費税増税法案を棚上げするか、衆院を解散して国民に信を問うことだ。
 そして、光明のような心強い末尾。
>有権者が投票する際の材料を十分に提供するのは、われわれ新聞の重要な仕事だと肝に銘じたい。


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