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原子力ムラ 復権へ“フル稼働” 中日新聞 特報

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原子力ムラ 復権へ“フル稼働”
中日新聞 特報 2012/06/30
 首相官邸周辺は二十九日も「再稼働反対」を訴える人びとに埋め尽くされた。しかし、原子力ムラも巻き返しを「フル稼働」している。核燃料サイクルを扱う原子力委員会は「秘密会合」が暴露されたにもかかわらず、その“成果”を報告した。その数日前には、青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場がガラス固化試験を再開。電力各社も再稼働を明言した。脱原発の攻防は、天王山の様相を見せている。(上田千秋、小倉貞俊)
核燃サイクル執着
 「大臣一同から頼まれた仕事を期限に間に合うよう終わらせただけだ」
 霞が関・中央合同庁舎4号館七階の角部屋にある原子力政策担当室。内閣府原子力委員会(近藤駿介委員長)の事務局を担当する中村雅人参事官は「核燃料サイクル政策の選択肢」を原子力委が二十一日に決定したことが拙速過ぎないか、という質問にこう答えた。
 「拙速過ぎる」という見方には理由がある。政策担当室と同階の会議室で開かれた原発推進派だけの「秘密会合」の存在が先月下旬、毎日新聞の報道で明るみに出た。
■書き換え疑惑「選択肢」決定
 核燃サイクルの存続を検討する原子力委の部会「原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会」の報告書が、電力会社などの要望を受け、書き換えられたのではという疑惑が浮上。政府は内閣府の副大臣と職員六人という”内輪”の検証チームを設け、調査を始めたばかりだった。
 ところが、小委の報告書は原子力委員会で検討され、その原子力委の報告書は閣僚でつくるエネルギー・環境会議に提出されてしまった。この夏に決定される新しいエネルギー基本政策を策定するための基本資料だ。
 報告書に記された選択肢は、二〇三〇年時点の原発依存度を「0%」「15%」「20〜25%」の三パターンに分け、使用済み核燃料をどう処理するか、六ヶ所村の再処理工場、高速増殖原型炉「もんじゅ」の扱いをどうするかを提示している。
 中村氏は「エネルギー・環境会議から『六月中に方針を決めるので、それまでに出すように』との指示を受けていた。五人の原子力委員が選択肢を決定した。委員の意向がすべて」と話した。
 ただ、この「選択肢」を問題視する声は強い。小委のメンバーである原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「小委の報告書の段階では、三つに分けた依存度それぞれに再処理、直接処分、二つの併存を想定し、そのメリット、デメリットを記していた。だが、原子力委の報告書では『依存度が15%なら併存』と決めつけている。これは書き換えに等しい」と憤る。
 さらに「依存度15%」の場合、もんじゅは「五年程度運転し、実用化を見極める」と記されているが、伴氏は「そもそも小委では、もんじゅについて議論したことすらなかった」と批判した。
 書き換えなどの疑惑の調査は「関係者からの聞き取りや資料の請求段階」(中村参事官)で、第三者委員会などを設ける予定はないという。伴氏は「やらせ検証で幕を引かれる恐れがある」と懸念する。
■もんじゅ新機器/電力各社「再稼動」
 核燃サイクル費用は東京電力の電気料金値上げ案にも「原子力バックエンド(後処理)費用」として年間六百六十八億円分が計上されている。
 そもそも政府の「脱原発依存」方針に従えば、核燃サイクルはいらないはずだ。しかしここに来て、申し合わせたかのように、核燃サイクル維持や再稼働に向けた動きが激しくなっている。
 政府は十六日、関西電力大飯原発3,4号機の再稼働を正式に決定。それに呼応したかのように日本原燃は十八日、六ヶ所村再処理工場で、高レベル放射性廃液のガラス固化試験を再開した。試験はトラブルで〇八年十二月から中断していた。
 さらに政府の行政刷新会議で政策仕分けの対象にもなった「もんじゅ」も動き出した。経済産業省原子力安全・保安院は二十一日、一〇年八月の事故の復旧作業を受け、新しい機器の正常な作動を確認したと発表した。運営主体の日本原子力研究開発機構は三月、試験計画の作成契約を東芝と三菱重工業に計約一億円で発注していた。
 加えて原子力基本法の附則に「わが国の安全保障に資する」との文言が入れられた。「核燃サイクルをなくしたくないという意図が働いている」との指摘がある。
 改正原子炉等規制法には、原子力規制委発足後に運転制限の妥当性を見直す規定が盛り込まれた。運転期間を四十年に制限する方針は危うい。
 電力各社が株主総会を開いた二十七日も、これまでの議論がなかったかのように、各社の最高幹部から再稼働を当然とする発言が相次いだ。
 総会終了後に、就任後初の会見に臨んだ東電の下河辺和彦会長は、柏崎刈羽原発(新潟県)について「新生東電を経営する上で根幹の一つだ」と発言。北海道や東北、九州など各電力会社の総会でも同趣旨の発言が続いた。極め付きは大飯原発の再稼働が決まったばかりの関西電力。八木誠社長は会見で「原発は重要な電源と考えている。脱原発は全く(考えに)ない」と言い放った。
 既成事実を積み上げるべく世論を無視し、再稼働と核燃サイクルの維持に突き進む原子力ムラ。日本弁護士連合会の山岸憲司会長は二十八日、秘密会合問題で原子力委に対して、「中立性、公平性、公開性を欠いている」と批判、「エネルギー政策全体を聖域なしに討議していくべきだ」とする声明を発表した。
 原子力委の新大綱策定会議委員を務める慶応大の金子勝教授(財政学)は「国民的議論がないまま物事が進んでいる。再処理をやめて日本原燃の経営が行き詰れば、多額の出資をしている東京電力や関西電力に与えるマイナス影響は大きい。最初から原子力委のシナリオは決まっている」と語る。
 核燃サイクルをめぐる三つの選択肢については「原子力委にとっては、核燃サイクルを残すことさえできればよく、再処理と直接処分の併存で十分と考えているのだろう。あえて『全量再処理』という選択肢を残したのも、あたかも原子力委が世論に配慮した印象を与えるように考えているからだ」と分析する。その上で、こう展望した。
■事故 なかったかのよう
 「無理に再稼働を進めようとすればするほど、小さなミスやトラブルが起き、かえって国民の反発を招いている。電力各社はこのまま、福島原発事故などなかったかのように押し切れると考えているのだろう。だが、すでにそうできない状況に事態は進展している」
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