打算むき出し 政局混迷 増税法案 政争の具に 自民 解散要求「今なら選挙勝てる」
中日新聞 核心 2012/08/08
消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法案をめぐる与野党攻防は、国民には理解不能な展開となっている。法案採決前にそれぞれが党利党略をむき出しにする中、増税法案は完全に「政争の具」と化している。分かり難いことばかりの現状の中で、特に分からない三つの「謎」と、その背景を追った。(政治部・岩田仲弘、清水俊介)
? 自民の対応
今回、特に行動が分かり難いのは自民党だ。自民党は消費税増税が必要との立場で、二〇一〇年の参院選挙で10%引き上げを明確に主張した。国会審議の場でも堂々と訴えていた。
民主、公明両党との協議は、自民党が主導した部分も多く、主張の多くが盛り込まれた。その自民党が法案成立前の内閣不信任決議案と野田佳彦首相の問責決議案を提出しようとしている。これは三党合意の破棄を意味する。
そんな対応をとる理由を自民党は「衆院解散の確約がないから」と説明する。三党合意の段階で解散の時期の話し合いはなく、「後付け」の感は否めない。
自民党が解散にこだわるのは「今なら勝てる」に尽きる。公明党幹部は「自民党の最近の調査では、自民党が過半数近く獲得できるという結果が出たようだ。それで強硬姿勢を取るようになった」と分析。これが本当なら、党利のために自分たちがまとめた合意を蹴散らすことになる。
自民党の姿勢に対し、支持者の慎重論を押し切ってまで三党合意を優先させた公明党は強く反対。六日夜の自民党との幹事長、国対委員長レベルの会談では、三党合意を破棄するなら自民党との協力関係を見直す考えを伝えた。
自民党内でも、支持者から激しい批判を受けて三党合意は優先すべきだという意見も高まったため、七日になって「解散の確約がなければ採決に応じない」という条件は取り下げた。だが可決されれば参院審議が止まる問責決議案の提出を検討し続ける。解散の確約がなければ「採決に応じない」が「不信任、問責は出す」に変わったに過ぎない。
? 「呉越同舟」
七日、自民党よりも一足先にその他の野党各党が不信任、問責決議案を提出した。自民党が提出すると、一時的に不信任二本、問責二本の決議案が提出されることになる。
採決される時は、慣例では大会派、つまり自民党が提出する決議案が取り扱われることになる。その場合、増税賛成勢力と反対勢力が共闘して決議案可決を図ることになり「何でもありの政界でも、見たことがないような呉越同舟」(民主党幹部)となる。
? 首相の焦り
深刻な内部分裂を抱える民主党。増税関連法案の参院での採決にあたっては、十分な審議時間を確保し、その間に党内の造反予備軍を懐柔することが必須だった。輿石東幹事長ら執行部は八月下旬ごろの採決を念頭に置いていた。
一方、首相は自民党の求めに対し、譲歩を重ね採決の前倒しを指示。二十日から十日、さらには自民党が求めている八日の採決を丸呑みした。これは、法案の成立を最重視する首相の焦りが原因だ。
だが、党内対策はほとんど手付かずの状態のまま、六月二十六日の衆院採決前には首相自らが慎重派らに協力を要請したが、それでも党内の五十七人が反対票を投じた。
採決を急ぐ首相に対し、党内の反対派、慎重派の不満は高まっており、参院で多数の造反が出る可能性は、むしろ高まっている。こういった首相の姿勢に対し、輿石氏は強い不快感を隠さない。
さらに、問責決議案が可決されれば採決日程、法案の成否は見通せなくなる。民主党内から「せいては事を仕損じる」とのため息も漏れる。
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消費税増税法案 国民に信を問う潮時だ
中日〈東京〉新聞 社説 2012年8月8日
内閣不信任決議案と首相問責決議案が提出された。民主党マニフェストに違反する消費税増税の強行は許されない。野田佳彦首相にとって衆院を解散して国民に信を問う潮時ではないのか。
不信任決議案と問責決議案を提出したのは自民、公明両党以外の野党各党だ。提案理由を「消費税増税は民主党の公約違反で、国民の声に背く野田内閣は信任に値しない」とする。
不信任決議案はいまのところ否決される公算が大きいが、問責決議は可決される可能性がある。決議には法的拘束力はないものの、可決されればすべての国会審議が止まる。首相は重く受け止めるべきだ。
消費税を増税する社会保障と税の「一体」改革法案は、二〇〇九年衆院選の民主党マニフェストに反する。盛り込まれておらず、消費税増税はしないと公約して政権に就いたのではなかったか。
消費税増税に転換するのなら、衆院を解散して国民にその是非を問うのが筋だ。公約違反と理解しながら強行するのは、国民に対するだまし討ちと言ってもよい。
自民党は首相が衆院解散を確約しなければ、ほかの野党とは別に不信任決議案と問責決議案を独自に提出するという。野田内閣の支持率が低迷するうちに衆院選に持ち込んだ方が党勢拡大が見込めると踏んだのだろう。
しかし、消費税増税という民主党のマニフェスト違反に加担しながら、解散の確約がなければ「一体」改革法案の成立に協力しないというのは理解しがたい。
社会保障改革を先送りし、政府や国会の無駄にも切り込まず、消費税だけが増税される、名ばかりの「一体」改革法案は本来、成立させるべきではない。
とはいえ、国民の生活に大きな影響を与える消費税増税を衆院解散の取引材料にしてもよいのか。自民党の対応は、党利党略との批判を免れないのではないか。
国権の最高機関であり、唯一の立法機関である国会の仕事は、法律をつくり、国民の生活のために政策を実現することだ。
しかし、歳入の四割を占める赤字国債発行のための特例公債法案や、衆院「一票の格差」是正など緊急を要する案件も手付かずだ。そんな状況で、与野党は責任を果たしたと胸を張れるのだろうか。
消費税増税前にやるべき改革、処理すべき案件は数多くある。それをやろうとしない首相にはもはや政権を委ねることはできない。
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打算むき出し 増税法案 政争の具に 自民 解散要求〜今なら選挙勝てる/「国民に信を問う潮時だ」社説
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