家族5人殺傷:懲役30年を支持 名古屋高裁
毎日新聞 2012年08月06日 13時57分(最終更新 08月06日 14時46分)
愛知県豊川市の自宅で自分の家族5人を殺傷したとして殺人罪などに問われた無職、岩瀬高之被告(32)の控訴審判決が6日、名古屋高裁であった。柴田秀樹裁判長は、懲役30年(求刑・無期懲役)とした1審・名古屋地裁岡崎支部の裁判員裁判の判決を支持し、弁護側の控訴を棄却した。
判決によると、岩瀬被告は家族にインターネットを解約されたことに怒り、10年4月17日未明、自宅で眠っていた家族を包丁で刺し、父一美さん(当時58歳)とめいの金丸友美ちゃん(同1歳)を殺害。母と友美ちゃんの両親である弟夫妻に重傷を負わせ、自宅に放火した。被告は一美さんの長男。
約15年間ひきこもり生活を送っていた岩瀬被告は、1審で精神鑑定の結果、知的障害と自閉症が認定された。このため、殺意の有無と責任能力が限定的だったかどうかが争点となった。
◆自閉症〈先天的な障害〉理解し支援充実急げ〜彼のような障害者も受け入れ可能/「豊川家族5人殺傷事件」 2012-01-31 | 社会
ニュースを問う 愛知・豊川の家族5人殺傷事件 自閉症理解し支援充実急げ
中日新聞2012/1/29Sun. 志方一雄(豊川通信局)
インターネットの切断に腹を立てた被告が家族5人を包丁で襲い、2人を殺害、3人に重傷を負わせた豊川家族5人殺傷事件。31歳の被告に自閉症という障害があり、判決が注目された名古屋地裁岡崎支部での公判をすべて傍聴してきた。社会に障害者を受け入れる体制がもう少し整っていれば、事件は防げたのではないかとの思いを抱いている。
■買い物に執着心
検察側、弁護側が被告に精神鑑定を実施。双方の鑑定医はともに被告を自閉症と認定した。
自閉症について私は「後天的な精神病の一種」という誤った認識を持っていた。「先天的な障害で、治療をしても治るものではない」。鑑定医はそう証言し、特徴的な症状として「こだわり」と「他人の気持ちが理解できない」点を挙げた。
被告が犯行時、強いこだわりを持っていたのが、インターネットによる買い物だった。物ではなく、買い物という行為そのものにこだわりがあった。事実、買った物のほとんどは段ボール箱のまま部屋に山積みされていた。「買い物へのこだわりをなくすにはどうすればよいか」。質問に医師は答えた。「他のものにこだわりが移るまでは治らない」
知的障害の程度は、被告自身が語る言葉が分りやすかった。被告は好きなテレビ番組を問われて「アンパンマン」と答えた。「それ以外の番組は難しくて話が分からない」。被告人質問でも、被告は大半の質問に「分らない」と繰り返した。
しかし自閉と知的の障害があったことを被告の母親は「知らなかった」と証言した。人とコミュニケーションが取れないという認識はあったはずだが、障害が原因とは思っていなかったようだ。
被告は中学を卒業後、製菓会社で菓子の箱詰めなどの仕事に就いた。1年後、入社した後輩に仕事を教えることができず、仕事を辞めた。家族が知らなかった障害を会社が知っていたとは思えないが、障害への配慮があれば仕事を続けられたかもしれない。
その後も被告が仕事を探した形跡はある。選んだのはチラシ配りの仕事。30万円を払えば仕事を紹介するというものだったが、詐欺だった。他人の意図を読むことができない被告は簡単にだまされ、この時、初めてクレジット会社に借金をした。その後は部屋にひきこもり、ネットに興味を抱き、やがてネットショッピングに夢中になった。
■家族知らず悲劇
借金が3百万円を超えたころ、家族は頻繁に関係機関に相談を持ちかけた。警察、保健所、県の相談窓口・・・。そこで教えられた実効性のある対応は「クレジットの解約」や「ネットの切断」だった。家族と被告の対立は深まり、とうとうネットを解約。被告がネットを復旧したため2度目の解約をし、その夜、悲劇が起きた。
買い物へのこだわりを障害による症状と認識していたら、家族の対応は違っていたのではないか。障害を知らなかったため、結果的に家族も被告も最悪の事態へ追い込まれたと思えてならない。
公判では希望も感じた。自閉症の障害者に住居を提供し、仕事を斡旋している障害者支援団体代表は「彼のような障害者も受け入れ可能」と断言した。
別の支援団体の女性代表は、自ら自閉症に悩んだ経験を話した。彼女は結婚して子どもを育て、社会生活を送りながら「こういう場合、相手はこう感じる」と1つ1つ学んでいったという。「今では通常の生活を送れる程度に人の気持ちを理解できるようになりました」と語る彼女を見て、自閉症は少しずつ克服できるのだと私には思えた。
自閉症や知的障害のある人のなかにも、優れた芸術や天才的な業績を残した人もいる。そういう人たちを社会が受け止め、支援できる体制づくりを急がねばならない。事件はその緊急性、重要性を私たちに示している。
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◆愛知・豊川の家族5人刺され2人死亡 30歳長男逮捕/外との接点絶たれ激高か2010-04-17 | 死刑/重刑/生命犯 問題
愛知・豊川の家族5人殺傷: 「ネット競売、借金300万円」 父、警察に相談
◇長男トラブル、父が警察に相談
愛知県豊川市の一家5人殺傷事件で、殺害された会社員、岩瀬一美さん(58)が事件直前、県警豊川署に「長男が自分のクレジットカードを勝手に使い、ネットオークションなどで200万〜300万円の借金を作った。どうすればいいか」と相談していたことが17日、分かった。捜査幹部が明らかにした。一美さんはその後、自宅の電話を止めてインターネットを使えなくしたという。同署は長男の高之容疑者(30)=殺人未遂容疑で逮捕=がこれに激高して家族を襲ったとみて調べている。【沢田勇、山口知】
◇けがの家族、刺し傷10カ所以上
捜査幹部や親族によると、高之容疑者は引きこもり状態にあった事件前、ネットに一日中没頭したうえ、ゲームなどをオークションなどで購入しては一美さん名義のカードで支払っていた。一美さんら家族は12〜15日に計8回、購入などに関するトラブルを巡って110番したり「これ以上エスカレートさせないためにはどうすればいいか」と同署に相談していた。
一方、一美さんの遺体には顔や首などに4カ所▽孫の金丸友美ちゃん(1)の遺体には額や左腕などに3カ所の刺し傷や切り傷があることが同署の調べで分かった。司法解剖で一美さんの死因は出血性ショックだった。
さらに妻正子さん(58)=1カ月の重傷=は顔や太ももなど10カ所▽三男文彦さん(22)の内縁の妻、金丸有香さん(27)=同=は首や手など17カ所▽文彦さん=2週間の軽傷=も顔や首など10カ所の傷があった。正子さんは顔に殴られた跡もあった。
高之容疑者は一美さんだけでなく他の4人も執拗(しつよう)に襲って自宅に火を放つなど、家族全員への殺意をうかがわせる行動を取っており、同署は動機の解明を急ぐ。
◇直前の12〜15日、警察に8回相談
家族が事件直前の12〜15日に計8回相談していた、高之容疑者とのトラブルについて、同署は8回とも、話し合いによる解決を助言したが、結果的に事件を防げなかった。高之容疑者の暴力や家族のけがは一度も確認されなかったうえ、11日以前には相談や通報は一度もなかったという。
同署によると、12日夜、岩瀬さんの次男(24)が「兄が父と口論して怖い」と署に通報。家族は駆け付けた署員に、高之容疑者のネットオークションでの借金を説明。署員の仲介で「借金はこれ以上せず、少しずつ返す」ことで和解したという。
13日夜には署で「クレジットカード会社から警察に被害届を出すよう言われた」と相談。署は「親族間の金銭トラブルは被害届を受理できない」と説明した。
15日にも「兄が物を投げたりして暴れている」などと110番があったが、けが人はなかった。【秋山信一】
毎日新聞 2010年4月18日 東京朝刊
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愛知5人殺傷:家族に強い怒り 長男、執拗に何度も刺す
毎日新聞2010年4月17日 21時52分 更新:4月18日 1時26分
愛知県豊川市の一家5人殺傷事件で、殺害された岩瀬一美さん(58)と孫の金丸友美ちゃん(1)の遺体にはそれぞれ3〜4カ所の傷があり、負傷した他の家族3人にも最多で17カ所に及ぶ傷があることが17日、県警豊川署の調べで分かった。同署は岩瀬さんに対する殺人未遂容疑で現行犯逮捕した長男の高之容疑者(30)が家族全員に強い殺意を持ち、包丁で何度も切りつけたとみて、詳しい動機を追及する。【山口知】
同署によると、岩瀬さんは顔や首など4カ所、友美ちゃんは額や左腕など3カ所に切り傷や刺し傷があった。発見時、岩瀬さんは心肺停止状態で、友美ちゃんは死亡していた。司法解剖で岩瀬さんの死因は出血性ショックだった。
さらに▽妻正子さん(58)=1カ月の重傷=は顔や太ももなど10カ所▽三男文彦さん(22)の内縁の妻、金丸有香さん(27)=同=は首や手など17カ所▽文彦さん=2週間の軽傷=も顔や首など10カ所−−の傷があった。正子さんは顔に殴られた跡もあった。いずれも命に別条はない。高之容疑者は現行犯逮捕された際、服に多量の返り血を浴びていた。
高之容疑者は逮捕直後に「インターネットの接続を父に解約されて腹が立った」と供述する一方、岩瀬さんだけでなく他の4人も執拗(しつよう)に襲って自宅に火を放つなど、家族全員への殺意をうかがわせる行動を取っている。13日には「兄が父の身分証で銀行口座を開設しようとしている」、15日には「次男とけんかしている」と家族が110番しており、同署は普段からの家族関係を調べるなどして動機の解明を急ぐ。
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一家5人刺され2人死亡 豊川、容疑の30歳長男逮捕
2010年4月17日 中日新聞夕刊
17日午前2時15分ごろ、愛知県豊川市伊奈町、会社員岩瀬一美さん(58)方で家族5人が刃物で相次いで刺され、岩瀬さんと孫の金丸友美ちゃん(1つ)が死亡した。妻の正子さん(58)と三男の内縁の妻の金丸有香さん(27)が首を切られ重傷、友美ちゃんの父親で三男の岩瀬文彦さん(22)が軽いけがをした。豊川署は殺人未遂の疑いで岩瀬さんの長男の高之容疑者(30)を現行犯逮捕。容疑を殺人に切り替えて調べる。
豊川署によると、岩瀬さんは首やこめかみ付近を、友美ちゃんは額や左肩などを刺されていた。
同署によると、高之容疑者は、2階で寝ていた正子さんを懐中電灯で照らし「おれのインターネットを解約したのはだれだ」と怒鳴り、1階台所から包丁を持ち出して正子さんと隣で寝ていた友美ちゃんを刺した。さらに1階で寝ていた岩瀬さんと、文彦さんと金丸さんを刺したとされる。その後、高之容疑者は2階自室の布団にライターで火をつけて逃げたという。自宅は2階部分が焼けた。岩瀬さん方は7人家族で、次男(24)は外出していた。
金丸さんが近所のアパートに駆け込み、住人が通報。駆け付けた署員が、自宅近くにいた高之容疑者を取り押さえた。高之容疑者は「父にインターネットを止められた。家が燃えてしまえと思った。家族を殺してやろうと思った」と話しているという。近所の人の話では同容疑者は15年ほど自宅に引きこもりの状態だったという。
現場は東海道線西小坂井駅近くの住宅街。
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愛知・豊川の家族5人殺傷:「何で解約したんだ」/外との接点絶たれ(その1)
◇寝ている家族次々 容疑の長男、トラブル絶えず
愛知県豊川市の会社員、岩瀬一美さん(58)方で17日未明に起きた一家5人殺傷事件。殺人未遂容疑で現行犯逮捕された無職の長男、高之容疑者(30)は家族を次々と包丁で刺し、1歳の幼子の命まで奪った。十数年前から自宅に引きこもっていたという高之容疑者。外の世界と自分をつないでいたインターネットの契約を家族に解約され、激高した末に事件を起こしたとみられる。【中村かさね、沢田勇、高木香奈、沢田均】
「何でおれのインターネットを解約したんだ」。県警豊川署によると、17日午前2時ごろ、2階の自室を出た高之容疑者は、母正子さん(58)の寝ている部屋を懐中電灯で照らしながら忍び入り、いきなりこう怒鳴った。正子さんの左脇腹と太ももを包丁で刺すと、隣で寝ていた三男文彦さん(22)の長女、金丸友美ちゃん(1)の顔や肩なども刺した。さらに1階へ下り、一美さん、文彦さん、文彦さんの内縁の妻、金丸有香さん(27)を次々と刺した後、ライターで自室の布団に火をつけて逃げた。
近所の人に異変を知らせたのは消防車のサイレンの音だった。「目が覚めて外に出ると、一美さんは心臓マッサージを受けていた。家族も次々と救急車に乗せられて……」。目撃した近所の男性は言葉を失った。
1時間後、自宅裏の葬儀場の敷地内で返り血を浴びて立っていた高之容疑者を、豊川署員が見つけた。
近所の住民によると、高之容疑者は十数年前から引きこもり状態だった。家庭内でトラブルを起こすことも多く、今月13日には父親名義で銀行口座を開こうと一美さんの身分証を取り上げて口論になった。
15日には次男(24)とけんかをした。いずれも家族では抑えきれず、110番で警察官が出動する騒ぎになった。
◇働いたがすぐに辞め
理髪店主(43)によると、高之容疑者は地元の公立中学を卒業後、一時期働いていたが、人付き合いが苦手ですぐに辞め、引きこもるようになったという。半年に1回くらい散髪に来たが、会話はなかったという。近所の女性(35)は「(高之容疑者以外の)6人で外出する姿も見かけ、普通の家族のようだった。でも警察がよく来ることもあって、近所では『変わった人がいる』といううわさがあった」と話していた。
愛知・豊川の家族5人殺傷:「何で解約したんだ」/外との接点絶たれ(その2止)
愛知県豊川市の家族5人殺傷事件からは「引きこもり」「インターネット」のキーワードが浮かぶ。
厚生労働省のホームページによると、引きこもりは、さまざまな要因によって社会的な参加の場面が狭まり、就労や就学などの自宅以外での生活の場が長期にわたって失われている状態のことを指す。
引きこもりの子どもや家族を支援しているNPO法人「フレンドスペース」(千葉県)の桝田宏子・カウンセリング部長は「引きこもりの人はトラブルを起こすなどの形で周囲にサインを出している。それが単なるトラブルなのか、何かのサインなのかを周囲が見極める力が必要だ」と話す。
桝田部長によると、引きこもりは国内に100万人前後存在する。親や周囲が就職など目に見える結果を追うことが引きこもりを長引かせる原因になるため、気長に見守る環境が必要という。「コミュニケーションの中で売り言葉に買い言葉で刺激するのはよくない」と警告する。
一方、インターネット社会に詳しい神戸大大学院工学研究科の森井昌克教授(情報通信工学)は今回の事件について「自分と他の世界との接点だったネットを切られたのが大きなショックで、『自分はもう終わりだ』と思って逆上したのではないか」と分析する。
森井教授によると、インターネットを切られて暴力事件を起こす例は他にもあるが、殺人にまで至るのはまれだという。
森井教授は「引きこもり状態でも30歳なら『自分はこれでいい』とは思っていなかったはずで、迷いがあったと思う。社会との接点だったネットが断たれて『自分の存在がなくなった』と感じたのではないか」と話した。【秋山信一、式守克史】
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◇「引きこもり」の人が起こしたとされる最近の事件
04年10月 両親を殺害したとして高校中退後に20年間引きこもっていた東大阪市の男(36)を逮捕。「将来に不安を感じた」と供述
11月 両親を鉄アレイで殴って殺害したとして水戸市の男(19)を逮捕。「しつけの厳しい祖父を殺す恐怖を克服するため、先に両親を殺した」と供述
同月 両親と姉を刺殺したとして高卒後に自宅に引きこもっていた茨城県土浦市の男(28)を逮捕。「いつか自分が殺されるので、その前に殺そうと思った」と供述
06年 5月 東京都杉並区で男(33)が両親を殺害後、焼身自殺。男は定職に就かず、引きこもりがちだった
08年 1月 母親と弟、妹を刺殺したとして小学校時代から引きこもりがちだった青森県八戸市の男(18)を逮捕
09年 7月 父親を殺害したとして千葉県大多喜町の男(20)を送検。インターネットの掲示板に「今から父、祖母、祖父を殺す」と予告していた
9月 妹を刺殺したとして高校中退後に引きこもっていた愛知県春日井市の男(22)を送検。「音がうるさかった」と供述
※年齢は事件当時
毎日新聞 2010年4月17日 中部夕刊