「共和党全国大会で完璧に「無視」、どんどん忘れられていく日本」古森 義久
JBpress 2012.09.05(水)
米国大統領選挙に向けての共和党全国大会では、多数の演説の中で「日本」という言葉がただの一度も聞かれず、米国にとっての日本の比重の減少を改めて印象づけた――。
米国の大統領選挙はいよいよ本番を迎えた。共和党側の正副大統領候補を決める党全国大会は8月27日から30日までの4日間、フロリダ州のタンパ市で開かれた。大統領候補にミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事、副大統領候補にはポール・ライアン下院議員がそれぞれ指名された。
民主党も9月3日からノースカロライナ州のシャーロッツビルで全国大会を開き、現職のバラク・オバマ大統領とジョセフ・バイデン副大統領をそれぞれ候補に指名することが確定している。9月6日夜にはその民主党側の指名が受諾される。その結果、両党の正副大統領候補が最終的に決まり、11月6日の投票日に向けての本番の選挙戦が始まることになる。
■党大会の演説は米国の関心事のバロメーター
さて私自身はワシントンからタンパに出かけ、まず共和党全国大会の取材にあたった。運悪くハリケーンが現地に接近して、雨や風が激しくなり、1日目の8月27日は開会こそ宣言されたものの、ほとんどの行事がキャンセルされた。このため正味は28日から3日間の行事日程となった。
私のアメリカ大統領選挙取材も1970年代後半からだから、ずいぶんと回を重ねることになった。全国党大会の取材は1980年が最初だった。以来、中間にブランクがいろいろあったとはいえ、30年を超える体験となる。
その体験を踏まえて、今度の共和党全国大会を見ると、わが「JAPAN」の名がよくも悪くも、ただの一度も出てこないというのが大きな特徴だった。これまでの党大会では、日本は批判されるにせよ、賞賛されるにせよ、なんらかの形でその国名が一度ぐらいは出るのが普通だった。だから言及ゼロというのは、やはり、いまの米側の日本への認識の低さを映し出しているように感じられたのだった。
米国の選挙の1つのプロセスにすぎない党大会で特定の国の名前が出るか出ないかで、米側のその国に対する認識や政策を推し量ることは短絡的かつ軽率すぎるかもしれない。
だが、次の大統領候補を決めるこの種の党大会では、その党の全米各地からのメンバー多数が連夜、総出で内政から外交まで国の状況を語り尽くすのである。そこで述べられる山のような言葉の数々は、米国の時の関心事についてのなんらかのバロメーターとなることもまた否定はできない。
そんな基準から、日本への実際の言及があるか否かを至近距離からじっくりと、考察してみた。その結果は「ゼロ」だった。3日の間、午後7時から11時ごろまで、大会場の壇上に登場して、なんらかのスピーチをする共和党の各層各地の代表たちは合計80人ほどに上った。私はそのほとんどに耳を傾けた。その結果、私が認識した限り、「日本」の名はついに一度たりとも出てこなかったのである。この現象は異例だった。
■日本は「衰退と苦境に陥ってきた国」
共和党全国大会での圧巻は、やはりロムニー氏の候補指名の受諾演説だった。この演説でロムニー氏は自分自身の公私の軌跡や信念を語り、政府よりも民間、全体よりも個人に重点を置く「小さな政府」への信奉を強調した。
ロムニー氏は経済、内政から軍事、外交に至るまでの政策も語った。その中ではイランの国名を挙げ、その核兵器開発への動きをオバマ政権が十分に阻んでいないと非難した。ロシアの独裁者、プーチン大統領にオバマ大統領が迎合しているとも批判した。また、米国がいったんはポーランドに約束したミサイル防衛共同開発をオバマ政権が放棄したことも糾弾した。中国の膨張をも指摘して、米国が財政面で中国に依存する状況から脱することをも誓った。
そしてロムニー氏は米国の同盟諸国については、イスラエルの国名を挙げて、連携の強化を表明する一方、オバマ政権がそうした年来の同盟相手をないがしろにしている、と批判したのだった。
だが、これだけ多数の諸国への言及があっても、日本の名はないのである。
もっともロムニー氏がこの共和党大会の少し前に日本の名を挙げて批判的な言辞を述べたことは話題になった。8月9日、ニューヨーク市での集会で「われわれは日本ではない。10年あるいは1世紀もの間、衰退と苦境に陥ってきた国にはならない」と述べたのだった。
日本を、政治や経済が失墜した国家の最も顕著な実例と見ての言明だった。しかし日本の衰退を「1世紀」などと評する点では明らかに暴言であり、失言だった。
とはいえ、おそらくそれがロムニー氏の本音だったのだろう。そんな日本への認識が本音としてあるのならば、気勢を高めるべき党大会での重要演説で日本に触れる動機はなおさらなくなってしまうのも当然と言えよう。
■外交に関する演説でも日本の名は登場せず
党大会での外交政策についての演説ではコンドリーザ・ライス氏の言葉が満場の関心を集めた。ライス氏はブッシュ前政権の国務長官を務めた黒人女性である。共和党側につく政治姿勢は明確にしてきた人物だ。
ライス氏は「アラブの春」にオバマ政権がきちんとした支援の態勢をとらなかったとして批判した。シリアの国名を挙げ、オバマ政権は「背後からの指導」しかしなかったことを非難した。
中国やロシアが米欧のアラブ民主化支援に反対することを指摘して、オバマ政権がその中国とロシアに断固とした対応をとらないことをも批判した。ライス氏はさらに同盟国や友好国との絆の強化をアピールし、その対象としてイスラエル、ポーランド、フィリピン、コロンビアなどの諸国の名を具体的に挙げた。
ライス氏は国際的な人道や衛生の課題にからんでは、ウガンダ、ジンバブエ、ハイチなどの諸国の名前を挙げた。そして米国にとっての最大の課題として「台頭する中国」を指摘して、中国の経済や貿易の政策の閉鎖性を非難するのだった。
こうした国名の列挙の背後には、いずれもオバマ政権のそれら諸国への政策が不適切だとする批判が込められていた。だが日本への言及はまったくないままだった。
前回の2008年の大統領選挙で共和党候補となったジョン・マケイン上院議員も今回の全国大会で演説した。国際的な安全保障や外交に重点を置く演説だった。
マケイン議員は特にオバマ政権の国際的なリーダーシップの欠如を批判した。「友好国や同盟国に米国の指導力を疑わせてはならない」として、その実例にまずイスラエルの国名を挙げるのだった。
マケイン議員は「われわれは自国の利益や価値観の進展をどう守るかに関して、ロシアや中国に拒否権を与えるようなことがあってはならない」と述べ、ここでも具体的な国名を挙げていた。しかしアジアでの最大の同盟国であるはずの日本、世界第3位の経済大国である日本への言及は何もないのである。
繰り返すが、共和党全国大会で日本の名が出なかったから、米国全体が日本への関心を失ったのだなどと一気に断定するのは過剰な反応だろう。だが日本への関心や注意の減少の1つの象徴的な実例だと見ることはできそうである。
米国で日本がいまやその重みを急速に減らしているという現実は、日本側としても少なくとも認識しておくことが肝要だろう。
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◆ 中国 増長する威圧経済外交〜南シナ海紛争/「永遠の摩擦」覚悟を〜東シナ海の尖閣諸島 古森義久 2012-08-11 | 国際/中国 アジア
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◆ 中国の尖閣への動きに、日本がすぐに実行すべき5つの対策〜「中国を刺激するな」論の欠陥 古森 義久 2012-07-25 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉
尖閣諸島を守るために日本がすぐに実行すべき5つの対策
古森 義久Yoshihisa Komori JBpress2012.07.25(水)
これまで2回のリポートでは南シナ海領有権紛争での中国の理不尽な態度を伝え、中国の海洋戦略一般の特徴を説明してきた。この戦略は当然、東シナ海の日本の尖閣諸島に対する中国の領有権主張をも含んでいる。
では日本は中国の尖閣への動きにどう対応すべきなのか。ワシントンでの米国側の考察や意見をも踏まえながら、私自身の見解を述べてみよう。
【その1】 実効統治を強化せよ
第1に日本が取るべき行動は、尖閣諸島の実効統治の強化である。
自国領土を自国固有の領土として確保するためには、当然ながら、その統治を内外に鮮明にしなければならない。ごく自明の基本である。だが、わが日本政府はその自明な措置さえをも長年、避けてきた。日本政府は尖閣に対しては、「中国を刺激しないため」という理由で日本国民の接近や上陸を長年、禁じてきた。灯台の建設まで阻んできた。つまり尖閣の統治をあえて明確にしないという政策を取ってきたのだ。
だが、その結果はどうだったか。
2010年9月には中国漁船が尖閣付近の日本領海に堂々と侵入し、わが海上保安庁の巡視船に体当たりした。その前後から中国の漁業監視船と称する艦艇が頻繁に尖閣領海に侵入するようになった。しかも中国当局は尖閣諸島を中国領土だとする宣言をますます先鋭にしてきた。最近では沖縄でさえ日本領土ではないという趣旨の中国政府高官らの言明が目立ってきた。中国側は日本がいかに「刺激しない」ための宥和策を取っても、尖閣を自国領土だとする主張を薄めはしないのである。いや逆に、その主張を強めたと言えるのだ。
「中国を刺激するな」論の欠陥は、他の実例でもいやというほど実証された。東シナ海の海洋資源を巡る日中紛争である。日本と中国は排他的経済水域(EEZ)の境界線が競合する海域での石油やガスの開発を巡って、主張を衝突させた。日本政府は「中国を刺激するな」という思考から、その海域での資源開発を日本企業に対しては禁止した。だが、中国は政府機関自体がどんどん開発を進めてしまった。しかも日本政府はその中国の動きを目前に見ながら放置したのだった。
だから「中国を刺激するな」論の背後には、場合によっては紛争の核心である尖閣の主権を譲ってもよいとするような思惑がにじんでいると言える。中国を反発させない、中国を刺激しない。こんなことが日本側の最終目的ならば、そもそも尖閣諸島の領有権でも、東シナ海でのガス田開発の権利でも、中国の要求通りに譲り渡してしまえば、よいことになる。
だが尖閣は日本固有の領土であり、その保持が日本国民のコンセンサスである。だとすれば、「中国を刺激するな」論を排して、日本の尖閣諸島での実効統治を強化せねばならない。東京都による購入も、国有化も、その目的に沿った措置として歓迎できるだろう。
【その2】 自衛隊を常駐させて防衛力を強化せよ
第2には、尖閣諸島の防衛強化である。
中国は他国との領有権紛争では、決して譲歩しない。相手が妥協したからといって、中国も妥協するという発想はツユほどもない。多国間の交渉で紛争を解決するという方法も排除する。国際機関の調停や裁定にも一切、応じない、という方針は中国政府の公式政策として言明している。これらの特徴は本連載の前回までで伝えてきたとおりである。
国家同士の争いで、一方が譲歩も妥協も国際調停も排除するとなると、解決策としては他方だけの全面的な屈服、あるいは力の行使だけが残される。でなければ、両国間に「永遠の摩擦」が続く。中国からすれば、全面的に屈服しない相手には軍事力行使という手段で自国の主張を飲ませようとする方法だけがオプションとして残ることにもなる。
現実に中国は、自国が主権を唱える外国統治の領土に対しては、軍事力を容易に行使してきた。中国が領土紛争で軍事力を使う「敷居」は極めて低いのである。これまで書いたように、中国海軍は1974年、南ベトナムが統治していた南沙諸島に軍事攻撃をかけ、いくつかの島を奪った。94年には中国軍はフィリピンが統治していた中沙諸島のミスチフという環礁を襲って、奪取した。南ベトナムからは米軍が撤退し、フィリピンでは米軍がスービック基地を放棄して、いずれも防衛面では弱体になった時期だった。中国は領土紛争では軍事力に依存し、しかも相手の軍事力が弱いと判断した際に攻撃に出るのである。相手が強ければ、軍事力は使わない。歴史がそんな軌跡を明示しているのだ。
だから日本も尖閣諸島を日本固有の領土として保持したいならば、その防衛のための軍事力を強く保たねばならない。尖閣への自衛隊の常駐も、基地建設も、適切な手段だろう。尖閣防衛の軍事力を強めることが、中国の軍事攻撃を抑える抑止力となるのである。
韓国が日本領土の竹島を不当に占拠して、軍事基地まで建設してしまったことが、日本側の士気をどれだけ弱くしたことか。その実例を見れば、尖閣に自衛隊を配備することの対外的な効果がよく分かるだろう。また尖閣周辺での海上自衛隊、航空自衛隊の軍事能力を高めることも当然、尖閣防衛に直結している。
【3】 日米同盟を強化し、集団的自衛権を解禁せよ
第3は日米同盟の強化である。
この対策はもちろん尖閣防衛の軍事能力強化と一体になっている。米国は日米安全保障条約により、日本の統治下にある領土が第三国からの攻撃を受けた場合、日本と共同してその反撃にあたることを責務としている。そしてその条約の責務は尖閣諸島にも適用されることは、オバマ政権の高官たちも公式に認めている。だから中国がもし尖閣に対して軍事攻撃をかける場合、その敵となる相手は単に日本だけではなく、米軍となる。その展望が中国にとっては最も恐れる危険であり、そのことが中国の軍事力行使への最大のブレーキとなる。日米同盟による抑止である。
しかし肝心の日本に有事での断固たる自国領土防衛の意欲や能力がなければ、米国の共同防衛誓約の実行も当然視はできなくなる。まして、いまの米国はオバマ政権下で「アジア重視戦略」を唱えながらも、その一方で、画期的な国防費削減を計画している。だから日本の防衛力強化にかける期待も当然、高くなる。だが、その日本は民主党政権下で、防衛費も事実上の削減を続け、米国との軍事面での連携も怠りがちである。日米同盟の強化には程遠い状態なのだ。特に最近の米軍の新型輸送機「MV-22 オスプレイ」の日本配備に対する日本側のメディアなどの反対論議は、日米同盟の強化や日本の安全保障への配慮が皆無のように見える。
そこで求められる同盟強化の最有効の対策は、日本の集団的自衛権の解禁である。野田政権はその展望をほのめかし始めた。だが単なるリップサービスである気配も濃い。しかし現実に日本政府が憲法第9条のいまの解釈を変えて、「日本も世界の他の諸国と同様に集団的自衛権を行使できる」と宣言すれば、日本の防衛へのそのプラスは絶大となる。まず最初に米国との軍事面での連携が強化されるからだ。その強化は当然、尖閣諸島の防衛の増強につながる。
そもそも近年の米国では民主、共和の党派を問わず、官民の両方で「日本の集団的自衛権の行使禁止は日米同盟強化への障害になっている」という認識が高まってきた。同盟というのは本来、集団防衛態勢なのである。同盟の相手が第三国に攻撃されれば、自国への攻撃と見なして、その相手を助けて反撃する。その意思と能力が第三国に攻撃を思い留まらせる抑止となる。そんな構造が世界の安全保障の現実なのである。
しかし日本だけは自国を助けてくれる米国でさえ、その艦艇や将兵が日本の領土や領海から100メートル離れた地点で第三国の攻撃をむざむざと受けても、助けはしないと宣言しているのに等しいのだ。
尖閣諸島の防衛でも、現在の集団的自衛権の行使を自ら禁じた日本は尖閣の至近の海域で日本防衛任務に就く米軍が中国軍の攻撃を受けても、実際の支援はできないことになっている。その海域が日本の領海でなければ、目前で攻撃を受ける米軍さえ、応援できないのだ。この変則に終止符を打つことは尖閣防衛の強化に直結する。
【その4】 東南アジア諸国との連携を強化せよ
第4は国際的な連携や発言の強化である。
中国は、自国がからんだ領有権紛争を国際的な舞台に出すことを一切、拒む。多国間の協議に委ねることにも絶対反対する。この7月の東南アジア諸国連合(ASEAN)の一連の会議での展開が、その現実を明示した。
だから日本にとってはこの中国の忌避を逆手に取って、南シナ海で中国の膨張の被害を受けるフィリピンやベトナムと連携を強めることが有効である。
南シナ海での領有権紛争に関する「行動宣言」を東シナ海にまで拡大することを提案するのも一考だろう。海洋領有権紛争での軍事力行使の禁止などをうたうこの「行動宣言」に、中国は署名をしながらも、拘束力を持たせる提案には頑強に反対を続けている。
日本としてはこの「行動宣言」に拘束力を持たせることを求める東南アジア諸国との国際連帯を保つことが有益なのは明白である。中国の理不尽で危険な領土拡張に悩まされる諸国と、できるだけ幅の広い国際連携を組むことが日本にとって役立つわけだ。
同時にその国際連携の出発点として、日本はまず国際的な場で自国の尖閣諸島領有の権利がいかに正当であるかを積極果敢に主張しなければならない。この主張自体が従来の日本政府の「中国を刺激するな」論の否定となる。
尖閣諸島の日本帰属は歴史的にも法的にも十二分の根拠が存在する。中国の主張は極めて弱い。その事実を国際的に広める時期がすでに来たと言える。だが日本政府はこれまで尖閣諸島の領有権の正当性を国際的に語ることはなかったのである。
中国の主張を完全に否定し、「領土問題は存在しない」とする日本政府の公式な立場からすれば、その経緯にも理はあるが、中国のいまの公然たる挑戦を見ると、領土紛争は認めないままにせよ、中国の主張の不当を対外的に宣伝することも必要になってきたと言えよう。
中国は国連海洋法条約が決めた排他的経済水域(EEZ)や大陸棚に関する規約や合意をも公然と無視している。日本が中国のそうした側面を国際的な場で指摘することは、尖閣諸島防衛への外交的な得点ともなるだろう。中国の尖閣奪取への動きが国際的な課題である現実をアピールすることともなる。
【その5】 日本国内で中国の脅威と対策を議論せよ
さて、第5は中国の実態についての日本国内での国政議論の開始である。
日本にとって中国の動向はいまや国家の基本を揺さぶるほど巨大なファクターとなった。日本の固有の領土である尖閣諸島を奪取しようという動きはその象徴だと言える。中国は日本の安全保障にとっていま最大の潜在脅威であり、懸念の対象である。いや、安保だけに留まらず、経済や金融の面でも、中国は日本の国家としての進路を大きく動かしうる存在なのだ。
しかしそれほど重要な中国の実態を国政の場で体系的、政策的に論じようという努力が日本には存在しない。国政の場での中国に関する研究や議論がないのである。
この点、米国は対照的である。政府は経済面で毎年、中国が世界貿易機関(WTO)の規則をどこまで順守したかを詳述する調査報告を発表する。中国の軍事力の実態に光をあてる調査報告を公表する。中国の人権弾圧の実態や宗教の自由抑圧の状況を年次報告の形で批判する。政府と議会の合同の「中国に関する議会・政府委員会」という組織があって、公聴会や調査報告によって、中国の人権状況に恒常的に光を当てている。
また、議会の諮問機関「米中経済安保調査委員会」は、米中経済関係が米国の国家安全保障に与える影響に焦点をしぼり、立体的な調査と発表を続けている。民間でも多数の大手シンクタンクが中国の軍事や経済を研究して、その結果を公表する。その結果、最近のワシントンでは文字どおり連日、中国についての研究や討論のイベントが催されているのだ。
一方、日本では中国研究自体はもちろんなされてはいるが、国会のような国政の公式の場で中国のあり方が論じられることはまず稀である。中国を単に批判的に取り上げる中国叩きではなく、中国の軍事態勢や海洋戦略を冷静に調査し、その結果を国民一般にも伝わる形で公表し、議論するという作業が国会を主体に実施されてしかるべきだろう。日本にとっての中国の比重はそれほど巨大なのである。
中国が尖閣諸島に対し、どのような戦略や思考を抱いているのかなど、日本国民全体が理解できる形で、国政の舞台で論じられるべきだ。そうすれば国民の間で尖閣を守ろうという意識が自然と高まるだろう。
以上が尖閣諸島を守るための日本側の取るべき政策についての5つの具体的な提案である。
*古森 義久 Yoshihisa Komori
産経新聞ワシントン駐在編集特別委員・論説委員。1963年慶應義塾大学経済学部卒業後、毎日新聞入社。72年から南ベトナムのサイゴン特派員。75年サイゴン支局長。76年ワシントン特派員。81年米国カーネギー財団国際平和研究所上級研究員。83年毎日新聞東京本社政治部編集委員。87年毎日新聞を退社して産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長などを経て、2001年から現職。2010年より国際教養大学客員教授を兼務。『日中再考』『オバマ大統領と日本沈没』『アメリカはなぜ日本を助けるのか』『「中国の正体」を暴く』など著書多数。
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◆増大する赤い脅威は冷戦時代のソ連を凌ぐ! 日本も「中国の研究」に一流の人材を投入せよ 2012-03-06 | 国際/中国
増大する赤い脅威は冷戦時代のソ連を凌ぐ! 日本も「中国の研究」に一流の人材を投入せよ
(SAPIO 2012年2月22日号掲載)
文=古森義久、中嶋嶺雄
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◆「中国の正体」に気がつかない日本 米国の専門家が分析する中国軍拡の最終目標とは2012-02-08 | 国際/防衛/(中国・・・)
JBpress 2012.02.08(水)古森 義久
米国の国政の場では、2012年となっても中国の軍事力増強が依然、重大な課題となったままである。いや、中国の軍拡が米国の安全保障や防衛に投射する重みは、これまで以上となった。今や熱気を増す大統領選挙の予備選でも、対中政策、特に中国の軍拡への対応策は各候補の間で主要な論争点ともなってきた。
中国の軍拡は、わが日本にとっては多様な意味で米国にとってよりも、さらに切迫した課題である。日本の安全保障や領土保全に深刻な影を投げる懸念の対象だと言える。
だが、日本では中国の軍拡が国政上の論題となることがない。一体なぜなのか。そんな現状のままでよいのか。
■中国はこの20年間、前年比で2桁増額の軍拡を続行
私はこのほど『「中国の正体」を暴く』(小学館101新書)という書を世に出した。自著の単なる宣伝とも思われるリスクをあえて覚悟の上で、今回は、この書が問う諸点を提起したい。中国の史上前例のない大規模な軍事力の増強と膨張が、日本にとって明らかな脅威として拡大しているからである。今そこにある危機に対し、日本国内の注意を喚起したいからでもある。
この書の副題は、「アメリカが威信をかける『赤い脅威研究』の現場から」。本書に付けられたキャッチコピーの一部から、概要が分かっていただけると思う。
「450発の核弾頭、空母、ステルス戦闘機、衛星破壊兵器、宇宙基地、サイバー攻撃・・・」
「増大するその脅威はかつてのソ連を凌ぐ!」
「今、アメリカが最も恐れる国」
「ワシントン発! 中国研究の先鋭たちを徹底取材」
「サイバー攻撃に関する限り米中戦争はもう始まりました」
この書の主体は米国側の政府や議会、さらには官民の専門家たちが中国の軍拡をどう見るのかの報告である。
中国が公式に発表する国防予算だけでも、ここ20年ほど一貫して前年比で2桁増の大幅な増額を果たしてきたことは周知の事実である。その上に公表されない領域での核兵器や弾道ミサイル、空母、潜水艦、駆逐艦、戦闘機などのハードウエアの増強がさらに顕著なのだ。
■中国の軍拡は米国や日本への明らかな挑戦
中国の軍事の秘密の動向は米国でしか実態をつかめない部分が大きい。なにしろ唯一のスーパーパワーたる米国の情報収集力は全世界でも抜群なのである。日本が足元にも及ばないほどの諜報の能力をも有している。人工衛星や偵察機による偵察、ハイテク手段による軍事通信の傍受、あるいはサイバー手段による軍事情報の取得などの能力は米国ならでは、である。
私は『「中国の正体」を暴く』で、米国の中国軍事研究の専門家たち少なくとも12人に詳細なインタビューをして、彼らの見解をまとめて発表した。
その結果、浮かび上がった全体像としては、第1に、中国の大軍拡が疾走していく方向には、どう見ても米国が標的として位置づけられているという特徴が明白なのだ。
第2には、中国の軍拡は日本や台湾に重大な影響を及ぼし、その背後に存在する米国のアジア政策とぶつかるだけでなく、米国主導の現行の国際秩序へのチャレンジとなってきたという特徴がさらに屹立する。
つまり、中国の軍拡は米国や日本への明らかな挑戦なのである。米国の専門家たちの大多数は少なくともそう見ているのだ。
こうした特徴は私が本書で最初に紹介した米国防総省相対評価(ネットアセスメント)局の現職顧問、マイケル・ピルズベリー氏の次のような言葉にまず総括されていた。
「中国がなぜ軍事力を増強するのか。いくつかの事実を見ると答えが自然に浮かび上がります」
「まず現在、中国人民解放軍が開発を急ぐ対艦弾道ミサイル(ASBM)は明らかに米軍の原子力空母を標的にしています。この特定のミサイルが長距離で狙う艦艇というのは、米国しか保有していないのです」
「中国は2007年1月に人工衛星を破壊するミサイルを発射し、見事に標的の破壊に成功しました。この種の標的も米軍以外にはありません。米軍が実際の軍事作戦で人工衛星の通信や偵察の機能に全面依存することを熟知しての動きでした」
■中国の軍拡の目標は台湾制圧の先にある
中国の軍拡の最終目標については、従来、米国の専門家たちの間で意見が2つに分かれていた。
第1はその究極目標が台湾有事にあるとする意見だった。中国は台湾を自国領土と完全に見なしており、その独立宣言などに対しては軍事力を使ってでも、阻止や抑止をすることを宣言している。中国はそうした有事のために台湾を侵攻し、占領できる軍事能力を保持しているという見方である。台湾有事以上には軍事的な野望はないという示唆がその背後にはあった。
第2は、中国が台湾有事への準備を超えて、軍事能力を強化し、東アジア全体や西太平洋全域で米国の軍事プレゼンスを抑え、後退させるところまでに戦略目標を置いているのだ、という見解である。
しかし私が2011年全体を費やして実行した一連のインタビューでは、米国の専門家たちの間では、すでに第2の見解が圧倒的となったことが明白だった。
つまり中国は米国や米軍を主目標に位置づけて、台湾制圧を超えての遠大な目標に向けて軍事能力を強めている、という認識が米国でのほぼコンセンサスとなってきたのだ。
■日本に対する歴史的に特別な敵対意識
では、中国の軍拡は日本にとって何を意味するのか。米国側の専門家たちが日本がらみで語ったことは注視に値する。
ヘリテージ財団の首席中国研究員、ディーン・チェン氏は以下のような考察を述べた。
「中国はもちろん日本を米国の同盟国として一体に位置づけ、警戒をしています。しかしそれだけではない点を認識しておく必要があります。私が会見した人民解放軍のある将軍は『私たちは米国とは和解や協調を達成できるかもしれないが、日本とはそうはいかない。日本は中国にとって、なお軍事的な脅威として残っていくだろう』ともらしました。日本に対しては歴史的に特別な敵対意識が存在するというのです」
アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート(AEI)の中国研究員で元国防総省中国部長のダン・ブルーメンソール氏も次のように語った。
「中国には、日本に対して歴史上の記憶や怒り、そして修正主義の激しい意識が存在します。その意識は中国共産党のプロパガンダで強められ、煽られ、今や中国が軍事力でも日本より優位に立ち、日本を威嚇する能力を持つことによって是正されるべきだというのです」
要するに、中国共産党には軍事面でも日本を圧倒しておくことが歴史的な目標だとするような伝統がある、というのである。
だからこそ、現在の中国の軍拡は日本で真剣に認識され、論議されるべきだろう。だが現実には国政の主要課題には決して上がることがない。私はこの点での日本の危機に対しても、この書で警鐘を鳴らしたいのである。
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◆南京大虐殺/河村たかし名古屋市長/『日本人の誇り』藤原正彦2012-02-28 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉
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米国にとっての日本の比重の減少/日本は「衰退と苦境に陥ってきた国」
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