【佐藤優の眼光紙背】韓国は日本をナチス・ドイツと同一視させようとする謀略をめぐらしている
2012年08月30日 07:54
韓国は、李明博大統領を先頭に国家をあげて反日謀略をめぐらしている。具体的には、慰安婦問題を国際化することによって、日本はナチス・ドイツと同じ戦争国家であるという印象を国際社会、特に米国に植えつけ、竹島問題に関して有利な状況を作っていくことだ。
8月15日、日本の植民地支配からの解放を記念する「光復節」の演説で李明博大統領は、(8月15日読売新聞電子版)。
一部に「光復節」の演説で李明博大統領が、竹島問題に言及しなかったので、対日姿勢を軟化させたという見方があったが、そのような見方をする人は事柄の本質がわかっていない。李明博大統領は、国際世論を韓国に引き寄せることを考えいる。そのそも領土問題に関しては当事国以外の関心が低い。領土問題について声高に叫ぶと、地域情勢の悪化を国際社会が懸念し始める。特に領土問題で戦争を繰り返したヨーロッパ諸国では、領土問題で地域情勢を混乱させる国に対して忌避反応を示す。李明博大統領は、国際社会の反応を十分に計算した上で、慰安婦問題を「2国間の次元を超えた戦時の女性人権問題であり、人類の普遍的価値に反する行為」と主張し、ナチス・ドイツによるユダヤ人女性に対する強制避妊、人体実験、大量殺害などと同列に置き、日本を弾劾することを意図しているのだ。
李明博大統領の発言を踏まえて、今度は韓国外交通商省(外務省)が動き始めた。
*韓国、国連総会提起も視野 慰安婦問題の首相発言に反発
日本軍慰安婦問題で「強制連行の事実は確認できなかった」などとする野田佳彦首相らの発言を受け、韓国外交通商省報道官は28日の会見で「国連総会で適切な機会に(慰安婦問題について)提起する可能性を排除しない」と述べた。
野田首相の発言に対しては韓国で、「おわびと反省」を表明した1993年の河野洋平官房長官談話を否定するものとして反発が広がっている。報道官は「非常に不適切だ。被害者自身が証拠だ。これまでの反省を無効にする行為にしか見えない」と批判した。
一方、元慰安婦8人が暮らす「ナヌムの家」は「強制連行の確たる証拠はなかった」などと述べた橋下徹大阪市長や野田首相、全国会議員あてに「招待状」を送ることを決めた。「直接話をしたい」と29日に発送する。
国会の外交通商統一委員会は28日、「被害者への日本政府の公式謝罪と被害補償を求める決議」を採択。弁護士や学者ら170超の個人・団体も「日本はわずかな良心まで捨てるのか」とする共同声明を出した。
「政府が問題解決を怠り、被害者の人権を侵害している」とした韓国憲法裁の違憲決定から30日でまる1年となることもあり、関心が高まっている。(ソウル=中野晃)(8月28日、朝日新聞デジタル)*
韓国政府は、国連総会第三委員会(人権)に韓国は慰安婦問題を上程し、「慰安婦問題で反省していない日本はナチス・ドイツと同質だ」という反日キャンペーンを展開することであろう。
韓国の国会も動きが速い。28日に慰安婦問題に関して日本政府に公式の謝罪と賠償を要求する決議を採択した。
*韓国議会、慰安婦で日本に謝罪要求
【ソウル=加藤達也】韓国の国会外交通商統一委員会は28日、日本による朝鮮半島統治時代の「慰安婦」問題に関し、日本政府に公式の謝罪と賠償を要求する決議案を採択した。30日には本会議でも採択される見通し。
決議では慰安婦問題を「人類の普遍的価値に反する犯罪行為」と指摘し、日本政府に対し公式謝罪と賠償を要求。また「日本政府が歴史的責任を受け入れ、繰り返さないため」として「歴史教育」を求めている。
さらに要求を日本側に受け入れさせるため、韓国政府に対しても「日本との協議や国際社会への問題提起などあらゆる外交的努力を尽くすべきだ」としている。
採択過程では一部の議員から「慰安婦」という表現を「性奴隷」に変更するべきだとの意見も出たが、修正については今後検討するという。
一方、韓国外交通商省の趙(チョ)泰(テ)永(ヨン)報道官は28日の定例会見で、慰安婦問題をめぐり野田佳彦首相が27日に「強制連行を示す文書は確認できない」と述べたことに触れ、「過去の日本の謝罪と反省を無効化する行為だ」と非難した。
趙報道官はさらに「日本政府は(慰安婦に)苦痛を強いた事実を認識し、歴史に対して謙虚な姿勢を見せなければならない」と主張。「被害者が納得できるよう誠意ある措置を取るべきだ」と述べた。趙報道官は慰安婦問題の国連への提起についても「可能性は排除しない」とした。(8月28日、MSN産経ニュース)*
この決議では、としているが、韓国政府は「国会の要請」を理由に国連総会第三委員会(人権)の信義においてかなり強硬な対日非難を展開するであろう。日本の外交官が、説得力のある反論をしないと、国際社会でわれわれはナチス・ドイツと同類であるという印象ができてしまう。
ここで注意すべきなのが在米ユダヤ・ロビーの動向である。以前から韓国は、在米ユダヤ・ロビーを標的にして慰安婦問題とナチスのホロコーストを結びつけるインテリジェンス工作を行っている。
ホロコーストの生き残りにも、韓国側の要請に応える意向を表明した人々がいる。
*ナチスのホロコースト被害者「日本軍慰安婦の恨みと怒りは十分理解できる」
1943年2月に家族がドイツ・ナチスに処刑される場面を目の前で見たエデル・カッツさん(89)の声は震えた。カッツさんは「韓国の日本軍慰安婦生存者と会うと思うと胸が震える」と語った。
第2次世界大戦の同じ時代の被害者である日本軍慰安婦とホロコーストの生存者が来月13日(現地時間)にニューヨークで会う。ニューヨークで活動する韓国人有権者センター(KAVC)とニューヨーククイーンズコミュニティーカレッジ内のホロコーストセンターは21日の記者会見で、このように明らかにした。
この日の会見に出席したカッツさんの感慨は格別だった。ナチスの‘ユダヤ人狩り’を避けてポーランド南部の農家を転々としていたカッツさんの家族は運命とぶつかった。夜中に襲ったナチス兵士を避けようと、親と4人の兄弟姉妹は四方に逃走した。しかしすぐにカッツさんは銃で殴られて倒れた。しばらくして目を開けたカッツさんは両親と兄弟姉妹が処刑される場面を目撃した。しかしカッツさんは死んだふりをするしかなかった。血を流しながら雪の中に倒れていたカッツさんをドイツ兵士は死亡したと思って放置し、カッツさんは一命を取り留めた。
カッツさんは「その後も4カ月間にわたり屋根裏部屋に隠れながら過ごした恐怖は一生忘れない」とし「慰安婦の生存者が胸に抱いている恨みと怒りを誰よりも理解できる」と語った。
今回の行事は韓国で来月14日に開かれる日本大使館前の「水曜集会」に合わせたものだ。92年1月8日の水曜日に始めた慰安婦被害者のデモはこの日で1000回目を迎える。韓国からはイ・ヨンスさんら日本軍慰安婦被害者2人が参加する予定だ。イ・ヨンスさんは07年、米下院で日本軍慰安婦の被害惨状を証言している。
韓国人有権者センターはニューヨークホロコーストセンターと共同で、来年から東アジア歴史インターンシップ制度も導入する予定だ。(2011年11月23日、韓国・中央日本日本語版[電子版])*
国連本部のあるニューヨークの市会議員には、「慰安婦被害者は、ホロコーストの犠牲者のように同じ歴史の被害者だ」という認識に基づき、「これをホロコーストのように広く知らしめることに力になりたい」と宣言して、行動している人がいる。
*「慰安婦はホロコースト同様の被害者たち」 NY市議員が記念碑と追慕通りを推進
「米国で、第2次世界大戦でユダヤ人を弾圧したナチス・ドイツの蛮行を知らない人はいないが、日本軍慰安婦の存在を知る人は多くない。慰安婦被害者は、ホロコーストの犠牲者のように同じ歴史の被害者だ。これをホロコーストのように広く知らしめることに力になりたい」
18日、米ニューヨーク市クイーンズのフラッシング地区のオフィスで、東亜(トンア)日報のインタビューに答えたピーター・クー市会議員は、フラッシング地区に「第2の記念碑」の建立と「慰安婦『追慕』通り」の指定を推進している。海外で初めて米ニュージャージー州パリセイズ・パーク市に建立された慰安婦記念碑に続き、ニューヨーク市でも慰安婦問題を知らしめることを推進しているクー議員の行動に、日本人が連日抗議の書簡を送っており、米メディアも注目している。
クー議員は、「私たちが推進する事業は反日本的な事業ではなく、人類の長年の価値である人権の問題だ。日米関係の悪化を指摘する日本人の主張を受け入れることはできない」とし、「日本はホロコーストの被害者に謝罪したドイツのように、まず謝罪する姿勢を示さなければならない」と強調した。
クー議員は記者に、最近日本人から送られた20通の書簡を見せた。少ないものでA4用紙1枚、多い場合、添付物を入れて8枚の手紙は、単語だけ変えた同様の内容を別の日本人の名前で東京などからで送られてきた。彼らは一様に、「慰安婦は戦争中の売春婦(prostitute in a war time)だった。金を得るために働いた」とし、韓国政府と団体の主張は誤っていると主張した。
クー議員は、「ある日本人は、『もし慰安婦記念碑を建立する場合、日本国民はもとよりニューヨーク市を訪れる日本人観光客が大いに失望するだろう』という言葉で脅迫までした」と伝えた。そして、日本人が別のニューヨーク市議員にも、「ピーター・クー議員の記念碑建立を阻止してほしい」という内容の書簡を送ったことについて、「フラッシング地区で独自に推進できることであり、ニューヨーク市議会まで上る事案ではない。彼らは勘違いしているようだ」と話した。クー議員は、「数ヵ月前に、ブルームバーグ市長室からも内容を詳しく尋ねてきた」と述べ、様々な経路から圧力が表面化していることをほのめかした。しかし、「(日本のこのような動きが)記念碑の建立と慰安婦通りの推進に影響を及ぼすことはない」と明らかにした。
クー議員は、「すでにニューヨーク市に、フラッシング地区の慰安婦追慕通りを含め、25のニューヨーク市の通りの名称変更計画が上がっている。ブルームバーグ市長がこれを拒否することは難しい状況だ」とし、「ただ、記念碑建立の問題は、市の所有地を使う場合、多少複雑な事案だ」と付け加えた。しかし、「ニューヨーク市が許可しない場合、民間の用地や建物に建立する方法で必ず推進する」と強調した。
クー議員が韓国の慰安婦問題に関心を持つようになった直接的な契機は、フラッシング地区に多く居住する韓国人有権者や韓国人市民団体が2010年頃、訪ねてきて慰安婦の存在を伝えたことだった。クー議員は、「実はそれ以前は、慰安婦の存在を私も知らなかった。その後、関連セミナーやシンポジウムに参加し、この問題を米国内に知らせるべきだと決心した」と伝えた。そして、「このような悲しいことが再び起こってはいけない。米国の成長する世代に、人権を蹂躙した歴史の痛みを教え、再び起きないようにすることが私の使命だ」とも述べた。クー議員は、香港から1971年に移住した中国系米国人で、2010年1月1日にニューヨーク市議員に選出された。
一方、ニューヨークタイムズは19日付で、「ニュージャージーの慰安婦記念碑が長年の不和を深める」というタイトルの記事で、日本が最近、パリセイズ・パークにある慰安婦記念碑の撤去を要求して拒否された理由を詳細に紹介した。この記事には、世界中から200件近いコメントが寄せられたが、大半が日本の行為を批判する内容だった。あるネットユーザーは、「日本は米国に真珠湾記念碑の撤去を要求できるのか」と批判し、欧州に住むあるユーザーも、「記念碑の建立のために寄付する」と書き込んだ(2012年5月21日、韓国・東亜日報日本語版[電子版])*
韓国の政府、議会、マスメディアが一体になって、慰安婦問題とナチス・ドイツのホロコーストを結びつけた反日キャンペーンを行うことに対する日本外務省の認識が不十分だ(外務省のインテリジェンス部局である国際情報統括官組織は機能しているのだろうか?)
至急、日本政府、外務省、有識者などが在米ユダヤロビーに働きかけるとともに、東京のイスラエル大使館、またイスラエルではイスラエル首相、外務省、さらにモサド(諜報特務庁)とも緊密な連絡を取り、慰安婦問題に関する日本政府の取り組むについて説明し、本件がホロコーストとはまったく性質を異にする問題であることを理解させるロビー活動を展開する必要がある。本件に関しては、イスラエルが日本の説明と立場に理解を示すことが鍵になる。(2012年8月30日脱稿)
=======================================
【コラム】戦争犯罪の前でドイツとあまりにも違う日本
2012年09月07日08時40分 [ⓒ 中央日報/中央日報日本語版]
実際、韓国人はすでに知っていた。一部の日本の政治家が慰安婦強制動員の事実をいつか否定することを。したがって、日本の政治家が最近、日帝の侵略・残虐行為を否認する歌を合唱しても、日本の右翼の素顔だからと思うだけだ。過去の問題で彼らを信頼できないという事実を改めて確認したにすぎない。
ところが疑問が生じる。同じ第2次世界大戦の戦犯国家だが、日本とドイツはなぜこれほど違うのか。ドイツはノルマンディ上陸作戦、スターリングラード戦闘の犠牲者を称える戦勝国行事に政治家がほとんど毎年参加する。ナチスはドイツ人にとっても敵であることを明確にしている。日本の政治家に国際感覚があるのなら、隣国の太平洋戦争追悼行事に参加し、二度と侵略戦争をしないと約束しただろう。しかし実状はそれどころか、敗戦日の8月15日にA級戦犯の位牌を合祀した東京靖国神社で頭を下げる人が少なくない。その前では、旧日本軍の服装をした、侵略を象徴する旭日旗を持った高齢者が行進する。気の毒だ。こういう姿のため、国際社会で日本のイメージがひどく悪化しているというのに…。これを知らなければ、ギャグコンサート番組に出てくる‘町内の馬鹿ミョンフン’と同じで、もし知りながらもそうしているのなら‘勇敢な野郎たち’だろう。
ドイツでナチスの旗を掲げて行進すれば司法処理対象だ。ドイツはもちろん欧州のほぼすべての国は、過去のナチスによるホロコーストを否定する発言をしたり文章を書くだけでも処罰する。西欧でこれはグローバルスタンダードだ。ドイツ極左赤軍派出身から極右に転向したホルスト・マーラーは09年3月、ホロコーストを否定した罪でポツダム裁判所で懲役5年型を言い渡された。英国人作家リチャード・アーヴィングは同じ罪で、05年に第3国のオーストリアで逮捕され、13カ月間服役した。フランス大統領選に出馬した大物極右政治家ジャン=マリ・ルペンもこうした発言をし、フランスとドイツで罰金刑を受けた。良心の自由や表現の自由という弁論はここには適用されない。
代表的なホロコースト否定発言は「ナチスはユダヤ人を絶滅させるための公式的な政策を出したことはない」「生存者の証言は不正確または矛盾するケースが多くて信じられない」「ホロコーストはユダヤ人が支援を得るために騒いでいるものだ」などだ。ここでユダヤ人とホロコーストをそれぞれ韓国人と慰安婦、または中国人と南京大虐殺に変えれば、現在の日本の一部の政治家の妄言とほぼ一致する。ホロコースト否定に対する処罰はグローバルスタンダードだが、日本では政治家が率先して慰安婦や南京大虐殺否定発言を続けている。
第2次世界大戦後、ドイツは徹底的な脱ナチス化を追求し、ナチスの蛮行を子どもに教えている。過去の反省を通じて、隣国との進取的な未来を構想したのだ。しかし日本は脱軍国主義化と過去の歴史の反省、真実教育を拒否し、恥をかいている。
特に一部の日本の政治家は、韓国政府が独島(ドクト、日本名・竹島)問題に明確な態度を見せると、慰安婦強制動員の自国政府の責任を認めた河野談話を修正するという発言をしている。こうした戦争犯罪である慰安婦問題を、日帝が初めて強奪した韓半島領土の独島問題と連結したのは、両事件ともに侵略行為であることをよく知りながらも、そうではないと言い張っているという意味だ。
それなら今は韓国をはじめとする東アジア諸国が一緒に、グローバルスタンダードの確立に動くべきだ。日本の太平洋戦争侵略と残虐行為を否定する人は、もうどこの国でも逮捕し、処罰できるように立法措置をする必要がある。ナチス戦犯を公訴時効なしに追跡して断罪するように、太平洋戦争当時の反倫理的戦争犯罪も同じように扱ってこそ当然だ。
元慰安婦の女性が老後生活をしている京畿道広州の「ナムヌの家」をユネスコ世界文化遺産に登載する準備もしなければならない。1992年にソウル麻浦(マポ)に設立され、95年に移って定着したところだ。今は消えたアジア各国の旧日本軍侵略現場の代わりとし、ここを性的奴隷犯罪の象徴的な場所に指定しよう。将来、元慰安婦の女性が全員亡くなっても、ここだけはずっと残して、歴史を証言する場にしなければならない。ドイツが最近、ナチスのブーヘンバルト収容所の文化遺産登載を申請したように。歴史は記憶する人のものだ。
チェ・インテク論説委員
=========================================
◆ 韓国と中国に対する「思いやり歴史観」と決別せよ 偏狭なナショナリズムを煽らせないために 2012-09-08 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉
韓国と中国に対する思いやり歴史観と決別せよ 偏狭なナショナリズムを煽らせないために・・・
JBpress2012.09.08(土)川嶋 諭
歴史とはつまり勝者の歴史である。敗者の立場で書かれた歴史はほとんどの場合、書き残すことが認められてこなかった。また、歴史はたいていの場合、男の歴史でもあった。
■弱者、敗者が語る歴史には要注意
もう38年も前のことだから記憶は定かではないが、大学入試に失敗して駿台予備校に通っていたとき、上智大学の講師による「女が作った歴史」という授業を受けて、とにかく感銘を受けたのを覚えている。
受験用の覚える歴史とは全く違って生々しいだけでなく、見る位置を変えると歴史はこんなに違って見えてくるものだと、目から鱗が落ちる思いだった。
大学、大学院と理系に進んだが、父親や大学の指導教授などの大反対を押し切って出版社に入社したのは、あの歴史の講義が相当影響していたのではないか、と思うときがある。
さて、竹島や尖閣諸島の問題がこのところ喧しい。なぜいまなのか。
日本と韓国、中国のパワーバランスが崩れてきたためだろう。韓国の李明博大統領の日本を見下した発言がまさにそれを象徴している。
強い者が書いた歴史は確かに正しいとは限らない。しかし、弱い者が語る歴史も事実と反している場合がある。
いやむしろ、事実が捻じ曲げられている度合いはその方が高いと言える。加えて陰険で執拗な場合が多い。
迫害を受けた側はヒステリックになりがちなのはやむを得ない。そして、条件が整い公にしても構わないとなれば、事実以上の迫害を受けたように喧伝したがるものだ。
実は最近、日本人が主人公のそんな例を示唆されて非常に深く考えさせられたことがあった。場所は米国のワシントン州シアトルである。
シアトルはいま、米国の大都市の中では最も便利な街の1つかもしれない。シアトル・タコマ空港と市内を結ぶライトレールが2009年に完成、空港からわずか200円、40分ほどで市内に到着する。この7月からは全日空が成田から直行便を飛ばしている。
最も安いバスを使っても運賃が約1000円に必ず要求されるチップ、様々な停留所で客を拾いいちいちチケットのチェックを行って、1時間半から2時間はかかるニューヨークとは快適さが比べ物にならない。
■シアトルから始まった日本人の米国移民
港町であるシアトルは、市内から歩いてすぐのところに波止場がある。ここで対岸にあるベインブリッジ・アイランド行きのフェリーに乗る。フェリー代は1人約600円。帰りは無料である。
1時間弱の船旅を終えてベインブリッジ・アイランドに着くと、すぐに目抜き通りがある。女性に人気のカリフォルニア州カーメル(あるいはロスガトス)を少し(だいぶ)鄙びさせた風情だ。
目的地はもちろんそんな観光地ではない。米国の連邦政府が資金を出して作っている記念公園。何の記念かと言えば、第2次世界大戦中に日系移民を強制収容所へ送ってしまった記念だ。
日系の米国人だけを差別的に収容所へ送ったことに対する米国政府の悔悟の意が込められた公園である。収容所へ送られた人々の名前が彫られ、また日本語と英語で「もう二度とないように」との看板が到る所に掲げられている。
ベインブリッジ・アイランドには戦前、世界最大の製材所があり、ここに日本から大量の移民がやって来た。四国から来た人が多かったという。米国への本格的移民はここから始まったと言われている。
また、第2次世界大戦が始まると、ここに住んでいた日系人が真っ先に収容所へ送られた。そうしたことから、ベインブリッジ・アイランドに記念公園が作られたのである。
ただ、この公園は古いものではなく、最近作られた。案内をしてくれた竹村義明さんによるとまだ完全には出来上がっていないという。竹村さんは、1956年に西本願寺が布教のためにシアトルに派遣された「開教師」。
いまは布教活動から離れ、ベインブリッジ・アイランドに住んで日系移民の歴史を研究、様々な資料を集めて資料館を運営している。
その竹村さんと2人で記念公園を歩いていたら、突然、「これをどう思うか」と聞かれた。日系移民を収容所へ送った経緯が書かれた掲示の前でである。
「日系人は米国の軍人に銃を突きつけられ脅されて収容所へと送られたとある。でもこれは事実とは違うよ」■パールハーバーの衝撃を日本人も察しろと言う老人
竹村さんが何を言おうとしているのか、咄嗟には分からなかった。恐らくこちらが狼狽することは分かって言っていたのだろう。「考えておいて」と言ったまま話さなくなった。
そうしたら、ほとんど人気(ひとけ)のない公園に若い白人の米国人女性たちが歩いてきた。なぜこんなところに。せっかくだから理由を聞いてみた。しかし、残念ながら期待は裏切られた。
「大学の夏休みで実家に帰ってきたんだけど、こんな公園ができているというので来てみたの。米国と日本にはこんな歴史があったのね・・・」
彼女たちと別れ、駐車場へ向かって歩いていたら突然、向こうから80がらみの白人男性がやって来た。お年寄りとは思えない迫力がある。
私たちの前まで来て目を丸く見開いて言うのだった。
「孫が何を言ったか知らん。しかしな、私の考えを聞いてもらいたい。パールハーバーを日本軍が奇襲したときのことだ。わしはまだ4つの子供だった」
「あのとき、子供心にも衝撃が走ったもんだ。わしの母親は本当に腰が抜けて立ち上がれなくなってしまったのを覚えている。我々アメリカの庶民はみんなびっくりしたんだ」
「確かに、日系のアメリカ人だけをキャンプに送ったのはアメリカの恥だ。してはいけないことをしてしまった。日系人には本当に申し訳なく思う」
「しかしな、君たちには分かるまいが、アメリカが攻撃されたという事実は衝撃だった。ハワイの次は本土が攻撃されるかもしれないと皆本気でそう思った」
「日系人には悪いことをした。けれど、パールハーバーに攻撃を受けたアメリカの庶民がどんな思いだったか、それを日本人もしっかり考えるべきだと思う。言いたいのはそれだけだ」
目を充血させながらそう言い切ると自分の車へと帰っていった。しばらくして竹村さんが「さっきの話だけど・・・」と口を開いた。
■日系人が事実を曲げて書くことの恥
「さっき、ここに書いてあることは事実と違うと言ったよね。軍隊に銃で脅されて収容所へ連行されたと。実は、調べてみると日系移民のリーダーが米国の軍隊に頼んでいるんだよ」
「何をかって? 日系人の安全を守ってほしいと」
「つまり、軍隊に銃で脅されて連行されたのではなくて、日系人の方から軍隊に頼んでいるというのが事実なんだ」
「日本人を殺せなどと平気で言うアメリカ人がいっぱいいたらしい。そういう輩から身を守るために軍隊に頼んだという資料がきちんと残っている」
「それなのに、米国の軍隊に脅されて収容所へ連行されたという表記はいかがなものかと私は思う。それをさっき川嶋さんに聞きたかったのさ」
これは・・・。
ベインブリッジ・アイランドにはネイティブ・アメリカンの居住地区がいくつもある。シアトルの名前の由来になった酋長のお墓も残っている。その居住地では例外的にカジノが認められていて、ネイティブ・アメリカンの大切な収入となっている。
米国人はネイティブ・アメリカンを迫害し続けた歴史があり、それを悔いて様々な優遇政策を採ってきた。その1つがカジノの許可だった。
ネイティブ・アメリカンの居住地域に入ると、住民たちの雰囲気が大きく異なっているのを肌で感じ取ることができる。それは生活スタイルの違いから来ることもあるが、それとは別に覇気の差みたいなものを感じる。
■河野談話の見直しは間違いか?
米国の歴史の汚点を取り返すべく実施した優遇政策がネイティブ・アメリカンの生活力を奪ってしまっているのはよく言われることである。
自分たちのしでかしてしまったことを悔い改めることは民主国家にあっては必要である。しかし、それがある一線を超えてくると良い結果をもたらさない。
9月7日付の朝日新聞は「安倍元首相、思慮に欠ける歴史発言」と題する社説を掲げている。新生・自民党として、河野(洋平)談話と村山(富一)談話に代わる談話を閣議決定すべきだとの安倍発言に強く反発しているのだ。
そしてこう結んでいる。「偏狭なナショナリズムの応酬がエスカレートする恐れさえある」。果たしてそうだろうか。逆にいまの日韓関係は少々度が過ぎた悔悟の念が招いたのではないのか。
「対中韓戦略:軍事強国日本の強国ゆえのジレンマ」の記事で作家の佐藤優氏は次のように語っている。
「韓国について日本で言われていることには間違いが多すぎます。例えば李明博大統領の最近の動きは、任期切れを前に自己保身を図っているのだと言われますが、全然違う」
「自伝を読めば分かりますが、彼はもっと腹の据わった男です。その行動の背景には韓国を立て直したいという思いがある。過度の競争にさらされて不適応症を起こす子どもたくさんいることなどは象徴的ですが、韓国は今、構造的な危機に直面しているんです」
「李明博大統領が歴代大統領で初めて竹島に上陸したのは、いわばプチ帝国主義宣言です」
「国際情勢はここに来て帝国主義の時代になりつつありますが、今の韓国に帝国主義を実践するまでの力はない。でも歴史問題のカードを切れば、日本に対してなら韓国の言い分をすべて通せる、ということでしょう」
米国では韓国系米国人が慰安婦問題を取り上げて日本を激しく罵っている。英語での発信という強い影響力で日本を傷つけようとの意図が見える。南京事件の中国と同じ手口だ。その批判の多くは強烈な被害者意識から出ていて信憑性が乏しい。
私たちは歴史の持つ意味と力を十分に認識して行動しなければならない。譲り過ぎれば偏狭なナショナリズムをエスカレートさせるだけである。
<筆者プロフィール>
川嶋 諭 Satoshi Kawashima
早稲田大学理工学部卒、同大学院修了。日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。1988年に「日経ビジネス」に異動後20年間在籍した。副編集長、米シリコンバレー支局長、編集部長、日経ビジネスオンライン編集長、発行人を務めた後、2008年に日本ビジネスプレス設立。
. . . . . . .
〈来栖の独白2012/9/8 Sat.〉
日常、数冊並行して本を読んでいる。このところは、日高義樹氏の『なぜアメリカは日本に二発の原爆を落としたのか』などである。長くNHKの特派員として、またワシントン、ニューヨーク局長としてアメリカを見、知り尽くした人ならではのことが書かれていて、非常に興味深く面白いし、私のようなものには啓蒙の書でもある。
ところで、上のコラム冒頭に次のような文脈があり、私は泣いた。全くまったく同感である。
>歴史とはつまり勝者の歴史である。敗者の立場で書かれた歴史はほとんどの場合、書き残すことが認められてこなかった。また、歴史はたいていの場合、男の歴史でもあった。
先の戦争も、それに伴う東京裁判も、果ては「南京大虐殺」「従軍慰安婦」に至るまで、「勝者」の言い分に「敗者」であるわが国は唯々諾々と従わされた。広島・長崎への原爆投下について、今日までにアメリカは謝ったか。否、である。多くの市民(非戦闘員)を原爆の人体実験として殺戮しながら、一度も謝っていない。のみならず、その残虐性から目を逸らすため、「南京大虐殺」「従軍慰安婦」でっち上げに加担した。
日高義樹氏の『なぜアメリカは日本に二発の原爆を落としたのか』に以下の記述がある。
p73〜
ゴッドフレー・ホジソンがその著『ザ・カーネル』の中で指摘しているように、山本五十六司令官の率いる日本帝国連合艦隊の真珠湾攻撃は、戦術的には大成功だったが、戦略的にはむしろ失敗だった。その証拠にルーズベルトは奇襲以前から原爆をつくり、日本を原爆で攻撃しようとしていた。つまり戦略という大きな枠の中では、山本五十六司令官は敵の罠にはまったと言っても言い過ぎではないだろう。
p74〜
「アメリカは、日本海軍が真珠湾を奇襲攻撃する能力があるとは思っていなかった」
アメリカの多くの政治家や軍事専門家はこう考えているが、ルーズベルトは、「騙し討ち」だと宣言し、報復として原爆を投下することを決めた。アメリカは原爆投下の正当化のためには、南京事件すら利用したが、「勝てば官軍」という言葉のとおり、敗れた日本は完全に悪者にされ、原爆投下についても問答無用の立場に置かれてしまった。
エドワード・テラー博士をはじめアメリカの学者たちが指摘しているように、広島と長崎に対する原爆投下が本当に必要だったのか、アメリカにおいてすら再検証が続いているが、日本ではこれまでと同じように、二度と原爆の悲劇が起こらないように祈っているだけである。
p93〜
「安らかに眠って下さい。過ちは繰り返しませぬから」
原爆慰霊碑に刻まれたこの碑文の前で、日本人は60年あまり祈り続けてきた。被害者の霊を悼み祈るのは正しいことである。だが祈るのなら、この「過ち」とはいったい何だったのかを明確にし、祈ることによってそれが正されたかどうかを確かめるべきではないだろうか。
===============================
『日本人の誇り』藤原正彦著(文春新書)
===============================
石原慎太郎著『新・堕落論』新潮選書2011/7/20発行
-------------------------------------------------