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中国人の「象牙愛好」がアフリカ内戦を激化させている

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中国人の「象牙愛好」がアフリカ内戦を激化させている
産経ニュース2012.9.23 12:00[大阪から世界を読む]

        

ケニア北部で密猟され牙を抜かれたアフリカゾウの死体をみる姚明氏=2012年8月16日(AP)
 アフリカゾウの密猟と象牙の密輸がワースト記録を更新している。中国で所得が伸び、「需要」を押し上げているためだ。価格が高騰して密輸のうまみを高め、アフリカでは武装勢力による密猟が激化した。象牙の人気がアフリカゾウを殺し、内戦に油を注ぐという悪循環を招いている。
(坂本英彰)
■組織的な犯行
 「5年間で半分に減った。この調子が10年も続けば、絶滅に向かうことは確実です」
 米ニューヨークに本部を置く自然保護団体WCSスタッフとして、アフリカ中部コンゴ共和国に滞在する西原智昭さん(50)の危機感は強い。
 同国北部2万平方キロの範囲でモニタリング調査したところ、2006年から11年に、アフリカゾウの一種でジャングルに住むマルミミゾウが1万頭から5000頭に半減していた。
 「ほとんどは密猟でしょう。由々しき事態です」
 調査地は今年、世界自然遺産に登録されるほどの貴重な自然が残っているエリアだ。森林伐採の道路が延び、アフリカ奥地にも密猟が忍び寄っているという。
 2月、カメルーン北部の自然保護区に惨状が現出した。頭の前部分が切り落とされたゾウの死体が、累々と横たわったのだ。牙が抜き取られ、あとは腐るがままに放置された。
 数週間にわたる密猟で200から300頭が殺され、現地調査した世界自然保護基金(WWF)の専門家は「大きいゾウも小さいゾウも関係なくシステマチックにやられた」と、怒りを抑えきれない。
 大規模密猟の首謀者は、スーダンの武装組織ジャンジャウィードだと疑われている。30万人以上が虐殺され「世界最悪の人道危機」と言われるダルフール紛争の当事者だ。近隣のチャドや中央アフリカでも組織的密猟を行ってきたとされる。
■泥沼化した内戦の“犠牲者”
 生きるため貧しい地元民が密猟に手を染める。そんな密猟はまだ牧歌的だ。「象牙2本売れば労働者の3カ月分に給料になる」(西原さん)という密猟はいま、武装組織の重要な資金源になっている。
 自動小銃カラシニコフ(AK47)やマシンガンを装備したトラックで、何百キロも遠征する。政情が不安定な中部アフリカには、子供の誘拐で悪名高いウガンダの反政府武装勢力「神の抵抗軍(LRA)」など、密猟が疑われる勢力がいくつもある。象牙の需要は泥沼化した内戦の、さらなる混迷を促しているのだ。
 象牙は1989年、希少動植物の保護を目的とするワシントン条約で国際取引が禁止された。地下に潜った象牙取引は近年、相当な勢いで伸びているとみられる。米紙ニューヨーク・タイムズは、昨年は記録を更新する38・8トン(ゾウ4000頭以上)の象牙が世界で押収されたと伝えた。
 ワシントン条約締約国会議で出された報告書によると、過去3年間の0・8トン以上の大規模押収で、行く先が判明した54%は中国向け。2位タイの12%を大きく上回る。アフリカゾウの密猟も昨年は、過去10年で最悪としている。
「組織犯罪集団が圧倒的な役割を果たしていることが示唆される」と報告書は指摘する。アフリカから積み出された象牙の多くはマレーシアやベトナムなど第三国を経由し、巧妙に中国に持ち込まれるという。
■逮捕者の9割は中国人
 「あなたも象牙を探しに来たのか」
 西原氏はアフリカで、石油プロジェクト関係の中国人に言われたことがある。
 仕事などでアフリカに入る中国人による、違法な持ち帰りが増えている。ケニアの野生生物管理官は英BBCに「象牙密輸で空港で逮捕される90%は中国人だ」と話した。
 古くから象牙を珍重してきた中国だが、近年の人気ぶりは異常だ。需要が急増して価格も急騰している。
 米ウォール・ストリートジャーナルは環境保護団体調べとして昨年、中国での売買価格を報じた。2008年には1キロ157ドル(約1万2千円)だったが、11年には最高7000ドル(約56万円)に跳ね上がった。「アフリカに入る中国人労働者の、象牙への誘惑が強まっている」という。
 8月、元NBAバスケットボールのスター選手、姚明氏がケニアを訪れた。
 「象牙を欲しいと思うひとがいなければ、密猟の必要もないのです」
 中国国営テレビで視聴者に呼びかけた姚明氏は、密猟撲滅キャンペーンの広告塔だ。中国への批判の高まりを受け、政府も啓発に本腰を入れ始めた。ドキュメンタリーを制作し、中国人の象牙愛好がもたらす悲劇を伝える。
■原因は意識の低さ?
 国際取引が全面禁止された後の2008年、中国は南アフリカやナミビアなどアフリカ南部4カ国から例外的に一度限りの合法輸入が認められた。ゾウの管理が行き届いたこれらの国では、自然死した個体の象牙を輸出したいとの要望があるためだ。
 中国国内では合法的に流通する象牙に混入する形で密輸象牙の「洗浄」が行われていると、ワシントン条約の報告書は厳しく指摘する。証明書添付が徹底しないなど抜け穴が多く、消費者の意識の低さも不正の温床だ。
 英紙ガーディアンは野生動物監視団体スタッフの嘆息を伝えた。「乳歯のように牙が生え代わると思っている人もいるのです」
 かつて印鑑用などに大量の象牙を合法輸入していた日本も、アフリカゾウとは縁が深い。2009年のワシントン条約報告書では「中国とは対照的に押収事例にほとんど関与していない」と称賛されたが、2007年には大阪南港で約3トン押収された事件が発覚するなど、密輸と無関係とはいえない。
 日本は象牙の国際取引の禁止後、1999年と2008年の2度にわたり一回限りの合法輸入が認められた唯一の国だ。象牙消費国として特異な立場にあり、それだけアフリカゾウの保護や国際ルールの順守に対する責任も重い。
 大阪の伝統芸能、文楽に欠かせない三味線のバチには象牙が使われている。アフリカゾウが置かれた現実は、大阪の人にも無関係ではない。
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