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カンボジアに腐敗と大虐殺をもたらした中国 いまは反日の国を避けて日本企業が続々進出

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カンボジアに腐敗と大虐殺をもたらした中国 いまは反日の国を避けて日本企業が続々進出
JBpress 2012.10.20(土) 川嶋 諭
 10月17日午後2時、カンボジアの首都プノンペンにノロドム・シアヌーク元国王の遺体が中国の北京から到着した。空港から首相府に向かう幹線道路や独立記念塔が立つシアヌーク通り周辺は通行止めになり、約10万人の喪章をつけた市民が元国王の到着を出迎えた。
■シアヌーク元国王の死は歴史の大きな転換点
 この日を境に、不思議とプノンペンは雨がほとんど降らない日が続くようになった。本格的な乾季に入り始めたということだろうが、信心深いカンボジア国民は、天の涙が出尽くしたと思ったに違いない。
  いまや著しい経済発展を遂げ始めているカンボジア経済。その発展を担っている経済人の多くは、シアヌーク元国王(殿下=国王に即位したあとその座を父であるノロドム・スラマリット氏に譲り自らは首相になって実際の執政者となったためこの呼称が使われることも多い)の死は、古いカンボジアの終わりと受け止める人が多い。
  「周辺のタイやベトナムが急速な発展を遂げるなか、カンボジアはその忌まわしい過去もあって外資が進出を躊躇し、取り残されてきた感がある」
  「元国王の死は国民にとって悲しいことに違いないが、新しいカンボジアが幕を開けるきっかけにもなってほしい」
  東京三菱UFJ銀行の服田俊也・プノンペン駐在所長はこのように話す。
  カンボジアと言えば、クメール・ルージュを誰しも即座に思い浮かべる。
  赤いクメール人を意味する言葉で名付け親はシアヌーク元国王だ。カンボジア共産党、別名をリーダーの名前を取ってポルポト派とも呼ばれる。
  「クメール・ルージュは、カンボジア全土に300以上ものキリングフィールド、大量処刑場を作り、300万人以上の国民を虐殺した。当時の人口は約800万人。国民の3分の1以上が虐殺されたことになる」
  首都プノンペンにあるカンボジア最大のキリングフィールド、チュンエク大量虐殺センターの解説はこのように語る。
 激しい拷問の挙句、貴重な銃弾を消費させないためカンボジア人が家畜の屠殺に使ってきた硬い木の皮で喉をかき切って殺し、そのまま穴に蹴落とす。苦しさに打ちひしがれ、のたうち回る犠牲者を冷たく見守る若きクメール・ルージュの兵士たち。あたりには人間の血と肉が腐った異様な臭いが充満していた・・・。
  チュンエク大量虐殺センターを訪れると、この世とは思えない光景が目に浮かんでくる。恐らく、映画『キリングフィールド』の残像が記憶のどこかに残っているのだろう。それが呼び覚まされて、さらに映画ではカットされた残酷さを加えられたかのようだ。
■宗教と知恵を否定した残虐性の純粋培養
 武士の情けは露ほどもないこのような残虐なことがなぜできるのか。それは人類の知恵や宗教を否定した無知極まる人間だからこそ引き起こせたのだろう。人間の中に潜む残虐性が純粋培養された結果であるような気がする。
  共産主義が持つ実に恐ろしい一面である。
  大量の知識人たちを虐殺してしまった影響は、惨劇から30年以上経ったいまでも垣間見ることができる。カンボジア国営テレビの支援に日本から来ている金廣純子さんは次のように語る。
  「カンボジアでは午前7時に国歌を流すようにしているのですが、私が来て以来、7時に始まったためしは一度もありません。ことほどさように、すべてがいい加減。ところが、保管されていたVTRにたまたま残っていたポルポト政権以前の番組は、極めて洗練されているんです。この国では時代の針が完全に逆回転してしまったんだと思いました」
  カンボジアにとって中国の関係は切っても切り離せない。クメール・ルージュを支援し続けてきたのは中国共産党であり、ポルポトはそもそも文化大革命に強く影響を受けたと言われる。また、シアヌーク元国王が北京で暮らしていたことからも関係の深さがうかがえる。
  東京三菱UFJ銀行の服田さんの調査によれば、カンボジアへの直接投資でも中国が他を圧倒している。1994年から2011年9月までの累計で、中国からの直接投資は88億660万ドル(認可ベース)。2位は韓国で40億270万ドル。日本はわずか1億5200万ドルに過ぎない。
  日本や欧米先進国が投資を躊躇するなか、中国が支援し続けてきたことが数字のうえでもはっきり見て取れる。ただし、これらの投資の大半は不動産関連だという。
  カンボジアはアジアでは珍しく土地所有規制の緩い国で、外国籍でもカンボジア人との共同名義なら49%までの土地所有ができる。また、多層建築物の2階以上部分については100%の所有も認められている。
 中国からの投資の多さは、土地に目がない中国人特有のビジネス感覚がもたらしたものと言えそうである。同じように韓国からの投資もその多くは不動産関連だそうだ。
  タイやベトナムに比べて経済発展が著しく遅れてきたことを考えると、それらの投資がカンボジアの経済発展に大きく寄与してきたとは言いがたい。
  残忍なクメール・ルージュのポルポト政権がこの国を掌握できたのも、実は中国の影響が強かった。ガンの治療で北京にいたシアヌーク元国王(当時の肩書きは国家元首)の留守を狙ったクーデターで政権を取ったのがロン・ノル将軍だった。
■中国人の妻がもたらした腐敗
 国家元首不在中のクーデターは成功したものの、ロン・ノル政権が反ベトナムキャンペーンを繰り広げた反動でベトナム軍や米軍のカンボジア侵攻を許すなど、政権基盤が外から激しく揺らぎ始める。
  一方、ロン・ノル将軍の妻が中国人で中国系住民を優遇した政策を取り続けた結果、政権が腐敗して国民の不満が爆発するという内からの崩壊も加わって、共産主義、クメール・ルージュの勢力伸張を許す結果となった。
  もちろん、クメール・ルージュには中国政府も最大限の支援をし続けていた。クメール・ルージュの兵士が持つ自動小銃はすべて中国製だった。
  カンボジアはこのように中国とは切っても切れない間柄にある。その深い関係のなかで政権の腐敗とクメール・ルージュによる大虐殺が引き起こされることになったのだ。
  シアヌーク元国王の死は、カンボジアがその忌まわしい歴史に一区切りをつけ、周辺の国と同じように大きな発展を遂げるきっかけとなることを願いたい。
  日本企業もここにきてカンボジア進出ラッシュが続いている。2012年9月末時点でカンボジアの日本商工会議所に加盟する企業は96社となり、とりわけ経済特区に進出する日本企業が増えているそうだ。
  「中国や韓国などの投資が不動産中心だったのに対し、経済特区への進出では日本企業が他を圧倒しています。この国が必要としている製造業の発展に日本への期待は非常に高まっています」と東京三菱UFJ銀行の服田さんは話す。
 そうした日本企業にカンボジア人を紹介する人材派遣会社も新しく登場している。鳴海貴紀さんは、日本の厚生労働省を退官してクリエイティブ・ダイヤモンド・リンクスという人材紹介会社を立ち上げた。
  日本のハローワークで働いた経験を生かし、人材紹介という形でカンボジアの経済発展に貢献したいと話す。以前、タイの記事(「さらばニッポン、企業と人材の流出が止まらない」)で紹介したパーソネルコンサルタントのカンボジア版とも言える。
  カンボジアへの日本企業の進出ラッシュは、実は中国による反日デモの影響で加速しているという面が強い。タイには中国リスクを恐れて洪水のように日本企業が進出し、人手不足と賃金高騰が大きな問題となり始めている。
  飽和しつつあるタイを避けてカンボジアを目指す企業が増えているのである。そのカンボジアは東南アジア諸国の中でも中国が最も強い影響力を持ってきた国の1つということは、不思議な巡り合わせではある。
*川嶋 諭 Satoshi Kawashima
 早稲田大学理工学部卒、同大学院修了。日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。1988年に「日経ビジネス」に異動後20年間在籍した。副編集長、米シリコンバレー支局長、編集部長、日経ビジネスオンライン編集長、発行人を務めた後、2008年に日本ビジネスプレス設立。
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