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難解だが、「小沢一郎」の人間力/周りの人たちは小沢に惚れ込み、仕えている。彼はウソをつかない。

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菅首相にとどめを刺す寸前だった小沢一郎の「人間力」
現代ビジネス 田崎史郎
「ニュースの深層」(2011.06.06)
 民主党首脳部もわたしたちも、民主党元代表・小沢一郎のパワーを小さく見過ぎているのではなかろうか。今回の「内閣不信任案政局」を見ていて、そう思った。
 たしかに、最後は前首相・鳩山由紀夫にはしごを外されたために、内閣不信任決議案可決に至らず、首相・菅直人にとどめを刺すことはできなかった。しかし、民主党内で造反組が小沢グループを中心にして可決に必要な80人前後に積み上がってくると予測した人はどれくらいいただろうか? なぜ、小沢の意向でこれだけの衆院議員が動くのだろうか?
 小沢の動きは分かりづらい。しかし、こと政局のことに関して、彼はウソをつかない。彼の発する言葉を注意深く観察していれば、どんな行動を取るか、おおよその察しはつく。
 小沢は本気だと思ったのは、統一地方選前半戦が終了した直後の4月13日に、小沢が発表した短い「見解」だった。
「地震、津波による被災者の方々への対応は遅々として進んでいません。また、福島第1原発の初動対応の遅れをはじめ、菅直人首相自身のリーダーシップの見えないままの無責任な内閣の対応は、今後、さらなる災禍を招きかねない状況となっています」
 この見解で、小沢は菅政権が続くことが「さらなる災禍を招く」と表明した。明らかな菅政権打倒宣言である。その3日後、小沢はインターネット番組に出演し、「最近の心境としては、自分自身のことや民主党政権うんぬんのレベルではない。このままだと大変だと分かっていながら傍観しているのは、歴史の批判に堪えられない」と語った。
 この段階で、菅を支える人たちはその異常に気付き、対策を打たなければならない。小沢は、民主党結束へのこだわりを喪失し、ここで動かないことは「歴史の批判に堪えられない」とまで語ったのだから。
 しかし、鳩山が小沢に4月29日、倒閣回避を要請し、小沢が「連休中に熟慮する」と答えたことが政権側の楽観論に拍車を掛けた。
 小沢が連休中の5月5日、千葉県一宮町で地元の漁業関係者との懇談で「今までは我慢してきたが、これからは行動する」と決意表明していたにもかかわらず、だ。
 菅政権側が対策を打ち始めたのは、自民、公明両党が内閣不信任案の早期提出に向けて調整を開始した5月23日以降のことだ。それでも同25日夜、党執行部の1人に情勢を聞くと、楽観的だった。
「不信任案に賛成するのは30人以下と思っている。会派離脱申請組の16人を含めてそれぐらいだ。あと欠席組がちょぼちょぼ。読みが甘かったにしても、40人ぐらいだろう。署名はそんなにあつまっていない。署名しているのはせいぜい50人程度。このうち、署名しただけで賛成はしない、という人がいる」
*「小沢切り」に失敗した執行部
 この1週間後には造反組は執行部が想定した倍に膨れあがっていた。これを目の当たりにした自民党幹部は「小沢はすごい。何の権力も持っていないのに、首相を辞めさせる寸前にまで追い込んだのだから」と語った。
 しかし、小沢と敵対する政権側には、小沢の力をできるだけ低く見ようという思いが強い。敵の戦力を見誤ることは敗北につながる。小沢の力を過小評価することは昨年夏の民主党代表選当時と同じであり、菅らは何度も失敗しているのにまた同じ失敗を繰り返している。
 小沢の力の淵源を解説するのに、「選挙とカネ」と説明すると分かりやすいが、それで分かった気になるのは、少し違うのではないかと思う。現在の小沢は、民主党内で蚊帳の外に置かれ、選挙の面倒を見られるわけでも、金をまけるわけでもない。前回の総選挙で世話になったといっても、それは代表選での投票で十分に返している。
 政治家には、人に仕えるタイプと、ポストに仕えるタイプがいる。菅の周りにいる人たちはほとんど、その役職に就いているから菅を支えるというポストに仕えるタイプだ。これに対し、小沢の周りにいる人たちは小沢に惚れ込み、仕えている。
 その求心力をもたらしているのはおそらく小沢の「人間力」だ。菅の人間力はないに等しいが、小沢には十分にあると見なければ、この政局における議員の動きを理解することができないのではないか。
 それにうすうす気付いているからこそ、幹事長・岡田克也ら執行部側は、小沢が本会議を欠席したことを理由にして、除籍(除名)処分に踏み切ろうとした。しかし、参院議員会長・輿石東の反発に遭って失敗に終わった。言い換えると、「小沢切り」に失敗した。
 それでも、執行部側は「小沢の力は落ちていくから心配ない」と言う。そんな甘いことを言っていると、次の政局でふたたび肝を冷やすことになるのではないか。(敬称略)
*強調(太字)は、来栖
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〈筆者プロフィール〉
田崎史郎(たざき・しろう)
 時事通信社解説委員長。1950年、福井県生まれ。時事通信入社後、政治部エース記者として活躍するなど、30年を超える政界取材を もとにした分析には定評がある。『梶山静六 死に顔に笑みをたたえて』(講談社刊)ほか 著書多数。テレビ朝日系「報道ステーション」でもコメンテーターを務める。
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