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「無罪判決」で始まる小沢一郎の逆襲 週刊ポスト 2012.NOV.11.23号

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「無罪判決」で始まる小沢一郎の逆襲 〈閉塞政治に風穴が空く〉 週刊ポスト2012/11/23号
 ---「第3極と第5列の峻別」に費やした2か月を経て、ついに口にした「そろそろ動く時期が来た」の真意とは---  

          

 理解し難い強制起訴で「刑事被告人」となってから1年9か月、「豪腕」に懸けられた手枷がいよいよ外れる。この間、小沢一郎氏は民主党と訣別して野党第2党の党首となり、次の選挙では「民主にも自民にも与さない第3極」としての闘いを宣言して、来る時に備えてきた。折りしも、その「第3極」が迷走、混乱を見せている中、枷を解いた小沢氏はどのような政治行動に出るのか---。
■「11・12」に怯えまくった官邸
 それは小沢一郎氏の再起動予告だった。
 小沢氏は11月5日の記者会見で、「第3極に話し合いを呼びかけるか」と問われると、「今は自分たちの選挙準備で忙しいが・・・」と前置きした上で、珍しく積極的な言葉を付け加えた。「それが一段落して、いろんな方がお話をそろそろするかという気分になれば、したいと思う」
 なぜかこの発言について、新聞・テレビは報じなかった。だが、会見を聞いていた「国民の生活が第一」の議員は、11月12日に東京高裁で行われる陸山会事件の控訴審判決を意識した言葉だと確信した。
 「小沢代表は控訴棄却判決、つまり無罪確定を確信している。これまでは誰かと会談すれば、その相手が”刑事被告人と組むのか”と批判されて困るのではないかという配慮があったと思う。が、晴れて完全無罪を勝ち取れば、維新の会や減税日本をはじめ第3極政党と協議をするのに障害はなくなる。『そろそろ時期だ』というのは、判決後には話し合いの環境が整うと考えているからでしょう」
 この無罪判決は小沢氏に「刑事被告人」のレッテルを貼ることで政治活動を制約してきた民主党や自民党が恐れている事態でもある。
 民主党は菅内閣以来、被告となった小沢氏を党員資格停止処分にして代表選出馬の道を塞ぎ、野田内閣の政権幹部たちは、支持率が下がると「党内のゴタゴタが原因」と消費増税に反対を唱える小沢氏に責任転嫁し、消費税造反組議員を処分して離党に追いやった。
 その小沢氏離党を待っていたように自民党と公明党は民主党との3党合意で消費増税法を成立させ、小沢氏が政権から離れて以後、民自公による増税談合政治がなし崩し的に進んだ。それを根回ししたのが霞が関、財務省であり、大メディアもこぞって野田首相に「小沢切り」を煽った。
 特に岡田克也・副総理はじめ民主党執行部は「小沢氏の強制起訴」を理由に党員資格停止にしただけに、無罪判決なら処分が間違っていたことがハッキリする。そのため、民主党内では11月初めから「無罪判決の衝撃」をいかにして打ち消すかという“ダメージコントロール作戦”が飛び交った。「新聞は『無罪判決と政治責任は別』という論調で足並みを揃えるようだが、『控訴棄却、無罪確定へ』という報道を薄めるにはそれでは不十分だ。官邸は判決当日に、法務省がやりたがっている麻原彰晃の死刑執行をぶつけるのではないか」(野田グループ若手議員)
 そんな情報や、「12日に野田首相と安倍晋三・自民党総裁が12月解散・総選挙を具体的に話し合う」という解散合意説まで流れていたほどだから、官邸や執行部がいかに”判決隠し”に腐心していたかが窺える。
 が、小沢氏の「そろそろ時期が」という認識は、単に無罪判決が出ればフリーハンドを得られるというだけの理由ではない。
 この2か月間、維新の国政政党(日本維新の会)旗揚げ、あるいは石原慎太郎氏の都知事辞任・新党結成表明の中で、橋下徹・大阪市長を中心に石原氏、渡辺喜美・みんなの党代表、減税日本の河村たかし・名古屋市長、平沼赳夫・たちあがれ日本代表らが相次いで合従連衡のための党首会談を重ねてメディアの注目を集めた。が、小沢氏は「第3極お祭り騒ぎ」から一貫して距離を置いてきた。
「代表は10月中旬のドイツ視察から帰国すると、候補者選考に集中していた。10月23日に24人の第2次公認を発表する前には、『家族の了解を得ていない』という新人に、『すぐに取れ』と指示してその場で決断させるなど、矢継ぎ早に決めていった」(生活議員)
 小沢氏は総選挙に100人程度の候補を立てると表明し、現在までに53人の公認を決めた。「選挙準備で忙しい」という通りに候補者選びに没頭していたことがわかるが、合従連衡にあえて加わらなかったのはなぜだったのか。
■自民党の補完勢力を見定める
 小沢側近の表現を借りれば、「小沢さんはこの間、第3極と第5列の違いを見極めようとしていた」ということになる。
 側近が続ける。
「小沢さんは橋下維新の国政政党化や石原新党の動きに慌てる生活の幹部たちに、『動かなくていい。今のままでは(彼らは)第3極にはなりようがない』と止めていた。小沢さんにとってオリーブの木とは、民主党にも自民党にも与しない第3の政治勢力のことだが、橋下維新や石原新党をはじめ他の政党が3極を自称しながら、実際は選挙後に自民党と組む補完勢力になるのではないかと外から動きを注視していた」
 国民が「第3極」を標榜する橋下維新や石原新党などに期待しているのも、民自2大政党に代わって改革を進める姿勢で、間違っても「自民党の補完勢力」となることではないはずだ。
 しかし、小沢氏は石原新党について疑念を語った。
「石原さんは自民党との連携を視野に入れているという話を風の噂に聞いています。それと統治機構を変えるというのは全く対立する理念じゃないかと私は思います」
 現在の中央集権、官僚主導の政治体制をつくってきたのは自民党政権であり、その自民党との連携を考えている勢力に政治機構の改革はできないという主張だ。
 実際、石原新党の母体となる「たちあがれ日本」は、平沼赳夫氏ら自民党の郵政民営化造反組が結成したが、消費増税法案には民自公とともに賛成、原発推進を掲げるなど、政策的には”オールド自民党”。現在は参院で自民党と統一会派を組み、すでに名実共に自民の補完勢力となっている。
 小沢氏がそう見ているのであれば、橋下氏が石原氏やたちあがれ日本と組むかどうかは、多数派形成のために自民党の補完勢力と手を組むのか、それとも「真の第3極」として改革を目指すのかを判断する格好の材料だったに違いない。
 しかし、橋下氏は石原氏について「尊敬できる点を挙げたらきりがない」といいながらも石原新党との提携については終始、「政策と価値観の一致が前提」との立場を崩さず、第3極の軸足を変えなかった。石原氏と平沼氏がさる11月3日、京都に出向いて橋下氏、松井一郎・維新幹事長(大阪府知事)と協議したときも、「小異を捨てるべきだ」という石原氏に、橋下氏は「政策の一致が必要だ」と主張して会談はいったん物別れに終わった。その後も交渉は続いているものの、政策重視は一貫している。
 「動かなくていい」と指示していた小沢氏と、わざわざ関西まで出掛けて維新人気に擦り寄る長老政治家2人の行動は対照的だが、興味深いのは、橋下氏が平沼氏に「政策の一致がなければ組めない」と伝えたのと同じ日(3日)、小沢氏と盟友関係にある新党大地・真民主の鈴木宗男氏が大阪で松井氏と会談したことである。
 新党大地の関係者は、「10月中旬に橋下さんが日本維新の会結成の挨拶回りに来たとき、協議をしようという話になった。たまたま宗男代表が大阪に行く日程があったのでその日に松井氏と会談した」と経緯を語るが、偶然とは思えない。
 宗男氏は10月27日、地元・北海道で「日本中を回って聞こえてくるのは、『民主党にはがっかりだ。自民党にはこりごりだ』という声だ。来週中には小沢さんに会い、11月の頭には日本維新の会と協議に入る」と予告していた。小沢氏と何らかの摺り合わせをした上での大阪行きだったとみるのが自然だろう。
 そう見ると、小沢氏が「そろそろ時期だ」と第3極連合に動く構えを示しているのは、無条件で石原氏と組もうとしない橋下氏の姿勢を見て、自民党の補完勢力にはならない真の第3極と判断したからではないか。「中央集権打破」という理念や脱原発、消費増税反対という政策の面でも、たちあがれ日本より国民の生活が第一の方が維新と近いことは間違いない。
 だからといって橋下維新と国民の生活が第一の連携が容易に運ぶとは思えない。
 宗男-松井会談では、宗男氏が「中央集権打破で第3極がまとまるべきだ」という小沢氏の考えを伝えたのに対し、松井氏は「小沢氏は『政権交代の原点は2009年のマニフェストだ』と言っているが、そのマニフェストにはばら撒き政策があり、維新の政策とは違う」と提携に難色を示したとされる。
 鈴木氏は帰京後、小沢氏と会って松井氏との会談内容を報告している。
 11月5日の会見で小沢氏は、松井氏の発言について問われ、少し首をひねりながらこう答えた。
「鈴木宗男先生からその趣旨の話は聞きました。どこがどう違うのか、自分たちはどうしたいのか、そういうことについて議論したことがありませんので、その真意がよくわかりません。もし、議論する機会が訪れた時にはゆっくり話できればと思います」
 “自分と会う時には議論ができるようにもっと相違点を勉強してきて欲しい”---小沢氏の言い分にはそんなメッセージが込められていたのではないか。
■またも「小沢VS反小沢」の煽動
 では、小沢氏が、「いろんな方がお話をそろそろするかという気分になれば」と投げかけたのに対し、橋下氏はどう応じるのか。
 橋下氏自身は、石原氏を「尊敬できる」というのと同様に、小沢氏を「統治機構を変えるという、強い思いを持った政治家なのは間違いない」と評価してきたが、維新内部には小沢アレルギーが強く、「第3極か、自民党との連携を視野に入れるか」という路線の違いもある。自民連携派の代表格が幹事長の松井氏だ。
「松井知事は自民党の安倍総裁とパイプが太い。総選挙後には自民党と組んで大阪都構想など維新の政策を進めるのが現実的だという志向が強い」(橋下ブレーンの1人)と見られている。
 松井氏は石原新党との提携にも前向きで、「橋下代表に石原氏や平沼氏との会談を急ぐように促した」(維新関係者)とされ、維新の府議団からも「石原新党と組めば支持率が挽回できる」と提携を期待する声が高まっている。
 しかし、小沢氏が宗男氏を“使者”として維新にアプローチしたのと同時に、橋下氏も「小沢無罪判決」を待っていたフシがある。
 先の橋下ブレーンが言う。「松井氏が自民寄りに傾斜しかけた時に、橋下氏は軌道修正させた。安倍総裁が誕生した後、松井氏が『自民党と連携という話にはならない』と言い切ったのがそうだ。橋下氏は維新の人気が脆いと知っており、自民と組むと思われたり、安直に石原新党と組んだりすれば支持を失うとわかっている。一方で、小沢氏のことも既得権との戦いに欠かせない政治家として排除していない。判決後に小沢氏のオリーブの木が民自に対抗する1つの軸になり得るかを見定めている」
 まさに「11月12日」を節目と捉えて、橋下氏も小沢氏とのトップ会談の間合いを図っていると見るのである。
 それこそ既成政党や大メディアが最も恐れる状況だ。
 大手メディアの記者は、石原新党をはじめ第3極政党が動くたびに、「小沢氏との提携を考えるか」と質問し、否定的な発言を引き出すことが定番のパターンになっている。民自の既成政党やメディアは、過去20年間繰り返されてきた「小沢VS反小沢」の対立構図を第3極にも持ち込んでいる。その様はむしろ、「小沢の逆襲」がいよいよ現実味を帯びてきたことへの「過剰な防衛本能」に見える。
 小沢氏は記者会見で軽妙なカウンターを放った。記者が「FNNが行った世論調査で、消費税と原発対策で違った意見の政党が連立しても構わないという人が半数を超え、第3極の連携に期待する人も6割にのぼる」と指摘して感想を求めると、首を傾げる仕草を見せながらこう答えた。
「調査の結果が不可解です。全然筋が通らない。ですから、その世論調査についての論評はできません」
 その声は「小沢氏は起訴されるべきか」という世論調査で強制起訴の道筋を開き、その後は「刑事被告人だから」と小沢氏の脱原発論や増税批判には正当性がないかのように世論操作してきた大メディアを中心とする既得権勢力への反撃の号砲のように響いた。
※スペイン内戦(1936〜39年)の際、首都マドリードに4個師団を率いて進攻する反政府軍の将軍が、「マドリードにいる第5番目の軍(第5列)が蜂起する」とラジオ演説したことが起源。転じて、味方の中の集団で利敵行為をする「裏切り者」「スパイ」の意味として使われる。
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