乏しい証拠…手探りの指定弁護士 小沢氏の裁判は何を残したのか
産経新聞 11月13日(火)11時59分配信
「民意」に対する司法の答えは、2度目も無罪だった。小沢氏の裁判は強制起訴制度のあり方に何を残したのか。波紋は広がり続ける。
◆規正法の限界浮き彫りに
「控訴棄却」の言葉に、天を仰いだ。目の前では約1年9カ月前に起訴した小沢一郎(70)が証言台の前でゆっくりと頭を垂れ、2度目の無罪判決をかみしめるようにそのまま数秒、動かなかった。
元民主党代表で、「国民の生活が第一」代表となった小沢が、資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐり政治資金規正法違反(虚偽記載)罪に問われた法廷。検察官役を務めた指定弁護士の大室俊三(63)は淡々と判決理由の読み上げに聞き入った。
「原判決が犯罪の証明がないとして無罪を言い渡したのは正当」「一部を除きおおむね首肯できる」…。
東京高裁第4刑事部の裁判長、小川正持(しょうじ)(63)が約1時間にわたり読み上げた判決は、1審が認定した元秘書の衆院議員、石川知裕(39)らの虚偽記載の一部についても故意を否定。指定弁護士にとっては認定が“後退”した。
「良かった」。法廷では目を閉じたまま表情を変えることがなかった小沢だが、弁護団から判決内容の説明を受けると喜んだ様子だったという。主任弁護人として弁護団を率いた弘中惇一郎(67)は「良い判決だ。思った以上だ。事件全体として犯罪がなかった、とはっきり言っている」と判決を評価した。
一方、指定弁護士の村本道夫(58)は「本件の不可思議な処理について、控訴審は向き合っていないんじゃないか」と悔しさをにじませ、大室は言葉を選びながらこう答えた。「(裁判所を)説得できるだけの力量がなかったという意味では、自分たちの能力不足を恥じ、責任を感じるべきだといわれれば、おっしゃる通りと思う」
■「逃げるわけには」
現役政治家のカネの疑惑に法廷で黒白をつける−。検察審査会の「民意」を受けた前例のない裁判は、指定弁護士にとっても手探りの中での挑戦だった。
指定弁護士の一人は、職務を引き受けた際の心境をこう語る。「難しい事件であっても、逃げるわけにはいかないと思った」。しかし、検察から引き継いだ証拠は予想以上に乏しく、どこにどんな証拠があるのか、収集作業にも時間を奪われた。村本は「検察官とは別に捜査すべきだと意気込んだが、できなかった」と振り返る。
指定弁護士が最も葛藤したのは、控訴判断だ。
小沢を無罪とした1審判決に対する納得できない思いは3人に共通していた。一方で、その決断を慎重にさせたのは、本来の弁護士としての立場だ。「控訴審で覆せる確証まではないのに、被告人の立場を長引かせていいのか」。議論は控訴表明当日まで続いた。
悩み抜いた末に控訴を決断。だが、控訴審はさらに厳しい現実を突きつけた。
1審後に寄せられた、小沢の土地取引に関する情報提供。指定弁護士は裏付けを進めたが、有力証言は得られなかった。「みんな小沢さんの周辺者だから。誰も話をしてくれなかった」。指定弁護士の一人は捜査の難しさをこぼす。
控訴審での被告人質問も弁護側の拒否により断念。何とか協力を得て作成した調書も証拠採用には至らず、1時間で結審した。
■落胆の色にじませ
「裁判で何かが分かるのではないか。強制起訴制度で政治とカネの問題に切り込むことができるのではないか。そう期待したが、むなしい結果だ」。審査を検審に申し立て、法廷に「真相解明」を託した市民団体のメンバーは控訴審判決に落胆の色をにじませた。
検審で審査補助員を務めた弁護士の吉田繁実(61)も「結局、会計処理を秘書任せにしておけば『故意がない』として罰せられないということ。もはや政治資金規正法で政治家を立件することはできない」と憤る。ただ、吉田はこうも続けた。「無罪判決は規正法の限界を浮き彫りにした。これが今後の改革につなげられれば、検審の議決、そして公判は決して無駄ではなかったはずだ」(敬称、呼称略)
最終更新:11月13日(火)13時39分
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小沢代表無罪 元秘書の「無計画性」が1審より“明確な無罪”導く
配信元:産経新聞 2012/11/13 00:44更新
元民主党代表で「国民の生活が第一」代表、小沢一郎氏(70)に無罪を言い渡した12日の東京高裁判決は「限りなく『クロ』に近い」との声も上がった1審東京地裁判決とは異なり、元秘書らの虚偽記載の故意についても一部を認めないなど弁護側の主張に近づいた。根拠として随所に挙げられたのは、元秘書の「無計画性」。1審より“明確な無罪”が示されたのと引き換えに、小沢事務所のずさんな会計処理が改めて浮かんだ側面もある。
■前提から判断覆す
1審判決は石川知裕衆院議員(39)ら元秘書が作成した政治資金収支報告書の虚偽記載を前提として、違法行為について小沢氏との「報告・了承」があったと判断。その上で、「違法性を認識していなかった可能性」に触れ、無罪を導いた。
指定弁護士が控訴審で争ったのはこの「違法性の認識」だった。平成16年10月の土地購入を翌年分の収支報告書に記載した「公表先送り」について、1審は「取引自体が翌年に先送りされたと認識していた可能性」に言及。これに対し、小沢氏自身が購入時に銀行の関連融資書類に署名していることなどを挙げ、「近日中に取引が行われることを認識していた」などと反論していた。
だが、控訴審判決は前提となったはずの元秘書の虚偽記載の違法性から、判断を覆していった。
石川議員は土地購入時、直前になり取引全体を翌年にずらすよう不動産業者側に要請。しかし、合意を得られず登記のみを翌年に移す契約を結んだ。
実体として所有権が陸山会側に移動している点を、1審は「契約書を読めば、専門家でなくても容易に理解できる」と判断。石川議員の故意を認定したが、高裁の小川正(しょう)持(じ)裁判長は「慌ただしい状況の中でその場しのぎの処理を行い、十分な検討をしなかったことはあり得る」と指摘した。
秘書側に明確な違法性の認識がなければ、「報告・了承」の有無を問わず、小沢氏が「違法性の認識」を抱いたとはいえない。小沢氏の共謀を認めなかった1審について「判決に影響する事実誤認はない」と結論付けた。
無罪の色が濃くなった高裁判決だが、小沢氏側の完勝とはいえない。報告書記載に対する誤った「思い込み」、簿外処理の「安易な認識」、摘発を受ける危険への「甘い考え」…。元秘書が虚偽記載の違法性、重大性を認識していなかった点については、厳しい言葉が並んだ。
簿外処理の動機についても「追及取材、批判的報道を避ける目的だった」と“隠蔽工作”を認定。16年の土地取得費の支出を17年分の収支報告書に記載した点は、元秘書らの違法認定が維持された。「収支報告書の作成、提出を秘書に任せきりにしている」。小沢氏に対しこう苦言を呈した1審の判決時と同様、小沢氏の責任が改めて問われている。
■陸山会事件 小沢一郎氏の資金管理団体「陸山会」が平成16年に行った東京都世田谷区の土地購入を、翌17年分の政治資金収支報告書に虚偽記載したなどとされる事件。石川知裕衆院議員ら元秘書3人が22年、東京地検特捜部に逮捕、起訴され、1審で有罪判決を受けた。3人とも控訴中。一方、小沢氏は嫌疑不十分で不起訴とされたが、東京第5検察審査会の2度の議決を経て、検察官役の指定弁護士が昨年1月に強制起訴。1審東京地裁で今年4月、無罪が言い渡され、指定弁護士が控訴していた。
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〈来栖の独白2012/11/13 Tue.〉
従来は「小沢一郎氏(ほどの人)に無断で、秘書たちが勝手なことをするはずがない。小沢氏の了解のうえで、万事とりしきった。小沢氏は知っていた」という世間・メディアの見方・論調だったが、裁判所がここまで小沢無罪を重ねると、今度は「小沢氏は万事を秘書に任せきりにしていたので罪を免れた」というモードになる。
1審の公判廷で小沢氏は「私の関心は天下国家のこと」と陳述した。実際そうだったと思う。だから、そのために秘書がいて、手足となって動く。そうする日々のなかで、秘書は代議士(政治家)がどのように天下国家のために働くのか目の当たりにし、やがて代議士となるべく研鑚を積む。
検察官役の指定弁護士も、変な人たちだ。政治資金規正法がいかなるものか、したがって小沢無罪を最もよく理解しているのが、彼等だろう。ならば、もうこのあたりで正気を取り戻し、弁護士本来の使命に立ち還るべきだ。
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◆ 「政治資金規正法を皆さん勘違い。小沢さんがいなくなることはプロの政治家がいなくなること」安田弁護士 2011-07-21 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
7/19緊急シンポジウム!! ''ニッポン''は何を守ろうとしているのか!H.22-06-08
「唯一はっきりしている条文があるんです。政治資金規正法で処罰されるのは、会計責任者だけなんです。政治家は処罰されないんです。政治家は処罰の対象から外れているんです。始めから、そういう法律なんです。そもそも法律の目的というのは、会計責任者が責任を持って会計の結果について報告する、ということが義務付けられているんです。ところが皆さん、勘違いしている。小沢さんが秘書と一蓮托生で処罰されるべきだと。これほど法律違反、法律の主旨に反することは、ないんです。つまり、どこかで法律が歪められて、トリッキー歪められて、つまり、政治資金規正法は政治家取締法なんだというふうに完全に勘違いしている。この勘違い、実は検察審査会も、まったく同じ評決をしているわけですね。小沢さんは、これだけ権力を持っている人間が、小沢さんの指示なしに物事が行われるはずがない、と。しかし法律の枠組みは、およそそんなことは無いんです。もし小沢さんが有罪になるとすればですね、責任者との共犯なんです、あくまでも。単に、知っていたとか、報告受けていたとか、そんなことでは共犯になるはずありませんね。これは、税理士さんが「これで申告しますよ」と言って「ああ、はい、どうぞ」って言ったら共犯になるか、といえば、そんなことはないわけなんです。ですからもし小沢さんが共犯になるとすれば「おい、石川、こうやれ」という形ですね。「こうやらんと許さんぞ」と、指示・命令、絶対的に服従させたと、そういう場合に初めて共犯として存在する。それを皆さん、完全に誤解している。大変な誤解(笑)。それで、皆さん、恐らくテレビなどで論評していらっしゃる。
次の問題です。政治資金規正法の中に、何を記載せよとか、どのような会計原則に則れとか、何一つ書いてないんです。ですからたとえば、ちょっとお金を借りましたとか、立て替えて貰いましたとか、或いは、今日帳簿に載せるよりは来年のほうに載せとこうか、というような話は、本当に虚偽記載になるのかどうか、或いはそれを載せなければならないのかどうか、それさえもあの法律の中には書いてないんですよ。つまり、虚偽を記載してはいかん、という話だけなんですよ。何が虚偽なのか、さえ書いていない。しかしそれを検察が勝手に解釈してですね、例えば今回の場合の、今年載せずに来年載せたということが犯罪だと、虚偽だと、やったわけです。或いはAという政治団体からお金貰った、それを実はこうだった、違う人だった、と言って、それは虚偽だというわけですね。しかしAという政治団体を通して貰ったんだから、それを記載するのは当たり前の話でして、それを虚偽といえるかどうか、それこそ大変大きな問題なわけです。ですから小沢さんの一昨年の問題、或いは今年の問題、いずれも法律の解釈を彼らがやって初めて有罪に出来るだけの話でして。ですから立法者の条文とは違うんですね。
ですからこの間(かん)も法律が守られずにどんどんどんどんきている。今回典型的なことはですね、石川さんが逮捕されました。しかしその2日後、3日後ですかね、3日後には国会が開かれるわけです。国会が開かれた場合、国会議員を逮捕するためには国会の議員の議決の承諾がないといけないわけなんです。それを抜き打ち的に、先達する形で石川さんを逮捕する。これは立法権に対する侵害じゃないですか。つまり憲法違反の事を彼ら、やっているわけです。つまり憲法に違反している行為に対する批判がどこにもない。これは、私ももう、大変びっくりしたわけです。
検察はしっかりと政治をやっている、というふうに私は理解しているんです。例えば今回、石川さんの弁護をやっていて3日目か4日目ですかね、あ、検察はこれを狙っているな、というのは大体、私も、石川さんが検察にどういうことを言われているかというのを聞いて分かるんです。
つまり検察は小沢さんを逮捕することは恐らく不可能だろうと最初から思った。しかし検察審査会で勝負をかける、ということを彼らは考えている。彼らのやり方はこうだな、と。検察審査会で起訴相当を取ることによって小沢さんの政治生命を奪う、と。そのシナリオ通りに見事に小沢さんの政治生命はなくなってしまった。ま、これが今回のシナリオでですね。小沢さんを直接起訴すれば当然全面戦争になってしまうわけでして。むしろ国民を総動員して、或いは市民という名を、怒れる11人の市民を使って小沢さんの政治生命を奪うという戦術に彼ら、でてきた。
で検察審査会も、トリック、ま、検察審査会には助言者といってですね、弁護士がその場に同席していろんな助言をするわけです。法律の解釈とかそういうものを。恐らくその助言者がとんでもない助言をしたんだろうと思うんです。どういうことかというと、政治資金規正法は政治家の犯罪、取締法なんだという解説をしたんだと思うんです。
ですからとんでもない、検察でさえ起訴しなかったものを検察審査会が起訴相当という結論をだしたんだろうと、そしてそのことを検察は最初から予想、予定していたんだろうと、そう思うわけです。
先に、情緒的な風潮の中で有罪無罪が決まっていくと、そういう話がありましたけど、私は思うんですね。弁護士は弁護士として、政治家は政治家として、メディアの人間はメディアの人間として、それぞれの人間がプロ的な精神を持ってそれぞれの職責を全面的に発揮すれば、おそらくこんな体たらくな状態にはならんだろうと思うんです。法廷でも、捜査段階から弁護士が弁護人として責任をしっかりと果たせば、恐らく情緒的な社会の動きに対してたえることが出来る、十分に弁護して勝つことが出来るだろうと思うんですね。
プロ性がどんどん抜けていく、今回の政権交代でも、ま、アマチュアの集団というか、益々プロがなくなる。小沢さんがいなくなることは、プロがいなくなる、そういうことだろうな、と。崩壊の社会が来たな、と。プロが居なくなるということは、結局情緒的なものに流されるし、或いは、世間の風潮に流される、とこういう時代に益々突入したな、と思っているんです。
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◆この国が恐ろしいのは、総ての権力が同じ方向を向いて走り、正義より自分たちの足元ばかり気にしている点だ2011-10-03 | 政治/検察/メディア/小沢一郎
小沢「抹殺裁判」わが国はいつからこんなに恐ろしい国になったんだ
【これでいいのか暗黒ニッポン】秘書3人の「とんでもない有罪判決」に誰もが口をつぐんだ
ならば、小沢一郎を贈収賄で逮捕したらどうか。秘書3人に対する東京地裁判断によれば、小沢はゼネコン談合の元締めで、見返りに1億円の闇献金を受け取った重罪人だ。しかし、判事も検察も、「アイツは大悪人」と吠え立てる新聞・テレビや野党でさえも、そうはいわない。「法と証拠」に基づく公正な裁判だと誰も信じていないからだ。目的は「小沢の政界退場」のみ。日本は恐ろしい国になった。
*裁判長は「検事の身内」
小沢一郎・民主党元代表の元秘書3人の判決内容は1週間も前から司法記者クラブにリークされていた。
「全員有罪で禁固刑が出される。判決文は相当長いものになる」
という内容で、もちろん政界にも広く伝えられていた。日本の司法が、いかに政治勢力、行政権力、報道権力と癒着し、最初から出来レースで進められているかを示す“証拠”だ。
情報通り、9月29日、登石郁郎裁判長は3時間以上にわたって判決文を読み上げ、石川知裕被告以下3人全員に執行猶予付きの禁固刑を下した(3人はただちに控訴)。
「異例の法廷」だった。検察が提出した証拠のうち、石川被告らの調書11通を「不正な取り調べが行われた」と認定して不採用にしており、一時は「無罪判決確実」とみられた。なにしろ、もともと物証のほとんどない裁判で、検察の頼りは、脅しや不正によって作り上げた調書ばかりだったのだから当然である。村木事件で証拠のFDをを改竄して冤罪事件を起した前田恒彦元検事が取り調べを担当し、石川知裕は別の検事が不正な取り調べを行った模様を録音していた。
この奇怪な判決文を書いた裁判長の経歴に、ヒントがあるかもしれない。
登石裁判長は93年から3年間、法務省刑事局付検事として勤務した経験を持つ。裁判所と法務・検察の人事交流(判検交流)は毎年、数十人規模で行われており、かねてから「99・9%有罪」という日本の「検察負け知らず裁判」の温床だと批判されてきた。
そうした声も意識したのだろう。裁判官が法務省に出向する場合、ほとんどが民事局で、刑事局は少ない。法廷で顔を合わす検事と隣の席で仕事をするのは、いかにも癒着に見える。が、登石氏はその数少ない1人だった。その“貴重な人材”が検察の威信をかけた裁判うを担当し、現場の検事からは「これで勝った」と喝采が出たのは偶然なのか。
結果を見て思えば、登石裁判長は最初から判決を決めていたのではないか。だからこそ証拠不採用で「検察に対しても厳しい姿勢」を演出し、癒着との批判をかわそうと考えたなら筋は通る。
判決のおかしさは、「小沢は大悪人」と呼ぶマスコミや野党、そして検察にもよくわかっている。だから、はっきりと「談合の見返りに裏献金を受け取った」と認定されているのもかかわらず、これを「贈収賄事件」という者が出てこない。
新聞の論調も判決直後は威勢がよかったが、その後は「野党が証人喚問を要求」などと、ずいぶん及び腰である。
「さすがに判決文を読んで、社内やクラブ内でも、これはヤバイんじゃないかという声が多かった。報道も慎重にしている」
民法司法クラブ記者は声を潜めて語る。そう思うなら、「慎重に小沢批判」ではなく、堂々と裁判所批判」をすればいいが、そんな度胸はどこにもない。
*「同じ罪状」は枚挙に暇なし
裁判とは、「法と証拠」に基づいて進められるべきものだ。それをしないのは独裁政権か、民主主義以前の社会である。日本はどちらだったのだろうか。
「法」の観点から、専門家は判決に強い疑義を提起している。
小林節慶応大学法学部教授(憲法)は刑事裁判の原則に反すると指摘する。
「判決は憲法31条に基づく『推定無罪』の原則をないがしろにしている。今回は逆に、『疑わしい』ことを理由に有罪判決が出ている」
判決文には「推認される」「〜と見るのが自然」など、裁判官の心証だけで重要な争点が事実と認定されている箇所が非常に多い。
落合洋司弁護士は、その推定のずさんさに、元検察官らしい視点で大きな危険を見出す。
「裁判官が石川、池田両被告の調書11通を不採用にしたことで、3被告の共謀を示す証拠と証言が何もなくなった。ところが、判決は『会計責任者だから知っていたはず』『強い関心を持っていたはず』といった程度の推論を重ねて共謀を認定している。『合理的で疑い得ない立証』は不十分です。こういった手法が採用されれば、冤罪が生み出される危険が懸念されます」
次々と発覚する冤罪事件の共通する原因は、検察の「自白調書主義」と裁判官の「検察絶対ドグマ」だった。それが全く改められなかったのだから、検察関係者たちが「画期的判決」と膝を打ったのも道理だ。
法律論でいうなら、もうひとつ完全に無視されたのが「法の下の平等」だ。
公判では、陸山会の土地購入が正しく報告されていたかという容疑(これ自体が形式犯罪でしかないが)とともに、西松建設からのダミー献金事件も併せて審理された。
ここでも検察側の立証は完全に腰砕けになり、検察自身が証人に立てた西松建設元部長が、「政治団体はダミーではなく実体があった」と証言した。ところが判決は、「政治団体としての実体はなかった」とし、違法献金だったと認定した。
では百歩譲ってそれが正しいとしよう。
問題の西松建設の政治団体からは、小沢氏以外にも自民党の森喜朗・元首相、二階俊博・元経済産業相、尾身幸次・元財務相、民主党の山岡賢次・国家公安委員長、国民新党の自見庄三郎・金融相をはじめ多くの政治家が献金やパーティ券購入を受けている。当然、彼らも小沢氏と並んで違法献金を立件されなければならないはずだ。
ところが検察は、森氏や尾身氏ら自民党実力者には捜査さえ行なわず、二階氏については会計責任者を事情聴取しただけで不起訴にした。
それに、このケースのような企業や業界が作る政治団体は、どこも同じような運営をしている。これがダミーというなら、恐らく政治家の9割以上が違法献金を受けていることになる。
また、陸山会(小沢氏の政治資金管理団体)が違法だと断じられた政治団体による不動産取得についても、町村信孝・元官房長官は政治資金で不動産を購入し、堂々と政治資金収支報告書に記載していた。しかも町村氏の場合、買った不動産は後に自宅として格安で買い取ったのである。さらに、みんなの党の江田憲司・幹事長はじめ、素知らぬ顔で小沢批判を繰り返す政治家のなかに、20人以上の「不動産購入者」がいる。
今回、大問題のように論じられている収支報告書への「期ずれ記載」や「不記載」に至っては、まさに枚挙に暇がない。2011年の政治資金収支報告書の修正は現在までに約500件にも達している。すべて会計責任者を禁固刑にすべきだ。
そもそも、小沢氏が問われた個人的な運転資金の貸付など、どの政治家も報告書に記載していない。小沢氏だけが正直に書き、それが「書き方が違う」と断罪されているのである。
*「4億円の原資」真相証言
「証拠」の面では、判決はもっとデタラメだ。
登石裁判長は、水谷建設から小沢氏側への1億円闇献金を認定した。
ダム建設工事に参入するため、当時の社長が04年10月5日、石川被告にホテルの喫茶店で5000万円を渡し、さらに05年4月19日に、大久保被告に5000万円を渡したという。
そう推定された根拠は、当時の社長が「渡した」と証言したことと、当日の喫茶店の領収書があっただけ。一方で、元社長の運転手の業務日誌にはホテルに行った記録はなく、社長から報告を受けていた同社の元会長も、「会社から裏金が出たことは事実だが、渡されたとは確認していない」と証言し、元社長による横領の疑いを強く匂わせた。
例によって裁判長は、元社長の証言と領収書を「信用できる」、受け取りを否定する被告らの証言は「信用できない」として、あっさり裏金を認定した。
よく考えてもらいたい。表ざたにできない違法な献金を、社長が1人で紙袋に入れて持っていき、政治家本人もいない、しかも衆人環視の喫茶店で、秘書に「はい、どうぞ」と渡すことなど考えられるだろうか。
「裏献金を渡す場合、渡すほうも受け取るほうも、カネが行方不明になることを1番恐れる。あとから、“そんなカネは知らん”となっても誰も真相解明できないからだ。だから受け渡しの際には双方とも複数の幹部が同席して秘密を共有し、相互監視する。密室でやることはいうまでもない」
自民党のベテラン秘書はそう解説する。この通りの場面がバレた珍しいケースが、自民党を揺るがした日歯連事件だった。
ところで、そもそも検察は、土地購入に充てられたとされる「4億円」の原資に闇献金が含まれていたかどうか立証していない。それなのに地裁が無理に闇献金を認定した理由は、この4億円を「原資を明確に説明することが困難」(判決文)としないと、なぜ収支報告書に記載しなければならないか、という動機が説明できなくなるからだ。
それにしても、不記載とされたのは「4億円」を借り直したり、返済したりした1部のやり取りだけで、現に報告書には「小澤一郎借入金 4億円」と記載されている。検察や裁判所の見解によれば、小沢氏の事務所では、表に出せないカネを報告書に堂々と記載するのだという。どう繕っても無理筋の解釈なのだ。
本誌は検察もマスコミも明らかにできなかった4億円の原資について、10年2月12日号で明らかにした。小沢氏の父・佐重喜氏の代から取引していた旧安田信託銀行(現・みずほ信託銀行)神田支店の当時の担当者への直接取材に成功し、小沢氏が父から相続した個人資金を「ビッグ」という貸付信託で運用し、解約時には元利合わせて少なくとも3億6000万円の払い戻しを受けていたという証言を得た。しかも、当時の貸付信託では利息分の記録が残らず、検察が「4億円の原資が足りない」と考えたのは、利息を見落としていたからだろう、というプロならではの指摘もあった。
*小沢の罪状は国家反逆罪か
今回の事件が小沢事務所ぐるみの贈収賄であるなら、ただちに小沢氏本人を含めて容疑者を逮捕すべきだ。それこそが政治浄化につながる。が、第1章でも触れたように、新聞・テレビもこれが本当に贈収賄だとは思っていない。「ゼネコン裏金 認定」(朝日)などと報じながら、なぜか政治資金規正法違反より重大な公共事業をめぐる贈収賄事件を独自に検証しようとしないのがその証拠だ。
わかりやすいのがTBSである。同局は検察が小沢氏への事情聴取に乗り出した昨年1月、「ウラ金献金疑惑、居合わせた人物が核心証言」と銘打って、水谷建設元社長が石川被告に5000万円を手渡した場に同席したという人物の証言を“スクープ”した。ところがその後、この証言は2度と放映されていない。以前、本誌が「放映しないのか」と問い質した際も、「何ともいえない」と尻込みした。つまり、ガセネタだという自覚があるのだろう。
今回、思いがけず裁判所がそれを追認してくれたのだから、今こそTBSは封印した“スクープ”をまた出せばいい。今度はお墨付きがあるのだから、「これが真相だ」と押し切れるかもしれない。が、そうはしようとしない。
ここに、この事件の最もどす黒い裏がある。
つまり、マスコミ、政界、そしていまやそれらを完全に掌握してコントロールする霞が関の巨大権力の目的は、政治浄化でもなければ犯罪の立件でもない。「小沢の政界退場」さえ実現できれば、あとはどうでもいいのである。
新聞や野党の言葉をよく見ればわかる。「小沢は議員辞職せよ」とはいっても、「贈収賄で逮捕せよ」とは決して言わない。小沢氏が、それら既存権力に20年にわたって嫌われ続けてきた経緯と理由は、ここで述べる紙数はない。が、小沢氏を支持する国民も、そうでない国民も、同氏がマスコミ、既存政党、官僚から恐れられ、嫌われていることは否定しないだろう。
かのロッキード事件での「コーチャン証言」をご記憶だろうか。検察は、田中角栄元首相に賄賂を渡したとされたロッキード社元会長のコーチャン氏に、免責と引き替えに調書を取る「嘱託尋問調書」という超法規的手段を用い、田中氏を有罪に導いた。さすがに最高裁は同調書には証拠能力がないとしたが、田中氏は公判の長期化で復権の機会がないまま死去し、公訴棄却された。
一方、後に発覚したグラマン事件では、米国証券取引委員会が岸信介元首相、福田赳夫元首相らに賄賂が渡されたことを告発したが、日本の検察は政界捜査を断念した。
官僚出身で親米派だった岸、福田氏らは当時の「国家権力」にとって重要な人物であり、一方で「叩き上げ」「列島改造」の田中氏は時のエスタブリッシュメントにとっては目障りで、アメリカからも脅威とみられて警戒されていた。
裁判は「法と証拠」に基づくものだとすでに述べたが、その根拠にあるべき最も重要なものは「正義」である。国家権力が法を曲げて個人に牙をむくことは、あってはならないが起こりうることだ。しかし、先進国家では誰かが「正義」を奉じてそれを暴き、止めようとするものである。
この国が恐ろしいのは、すべての権力が同じ方向を向いて走り、正義より自分たちの足元ばかり気にしている点だ。これは一政治家に対する好悪、一事件の真偽を超えた問題である。
恐らく、このような裁判がまかり通り、誰も「おかしい」と口を開かなくなれば、小沢氏自身も「有罪確定」とみて間違いない。その罪状は何だろう。「国家反逆罪」だといわれればわかりやすいが、そんな気の利いた言葉は、荒涼とした今の権力からは出てこない。
その法廷で裁かれるのは、この国の「正義」なのかもしれない。
※週刊ポスト2011年10月14日号
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