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同盟脅かす米の「財政の崖」

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同盟脅かす米の「財政の崖」
産経ニュース2012.11.17 03:05 【土・日曜日に書く】論説副委員長・高畑昭男
 再選を果たしたオバマ米大統領にとって、当面最大の課題が「財政の崖」の回避にあることは、既に多くの人が指摘する通りだ。
 ブッシュ前政権以来の大型減税が今年末に失効し、来年初めには債務上限問題に端を発する歳出強制削減が発動される。このダブルパンチを食らって、米財政が急な崖から突き落とされるような危機に陥るのが「財政の崖」だ。
 財政縮減の総額は5600億ドル(約45兆円)にのぼり、日本の年間新規国債発行額に匹敵するという。米経済は来年前半で3%近いマイナス成長に陥り、「世界成長率の半分が吹っ飛ぶ」という見方まである。
 ◆1兆ドル消える事態も
 だが、経済もさることながら、日本の安全にとってもっと心配なことは、米国防費が長期にわたる削減を強いられることだろう。
 オバマ政権は既に今後10年で4870億ドル(39兆円)の削減を迫られている。政府と議会が来年1月までに手を打たなければ、最悪の場合、さらに5千億ドルの削減を追加される恐れもあるという。
 合わせて「10年で1兆ドル」という長期・大幅削減は何を意味するのか。単純計算でも年に1千億ドル(8兆円)という削減幅は、日本の防衛関係費(平成24年度4・6兆円)の2年分に近い額だ。
 日本の安全保障の基軸が日米同盟にあるのはいうまでもない。両国を合わせた金額で考えれば、日本が仮に防衛予算を2倍に増やしたとしても、米側でほぼ同じ金額が毎年削られていくことを意味する。これは、同盟としてまさに深刻というほかはない。
 パネッタ国防長官は今年1月、「5年間で陸軍8万、海兵隊2万の約10万人を削減する」などの計画を発表した。これに伴い、空軍ではステルス戦闘機F35の調達の4割が先送りされ、海軍でも新規の建艦数が退役艦船の数に追いつかない状態に陥りつつある。
 それでなくとも今年の中国の国防費(1064億ドル)はドル換算で初めて1千億ドルの大台に乗り、日本の防衛予算の1・8倍に膨張した。過去24年間、ほぼ毎年2桁増のすさまじい増強ぶりだ。
 ◆海洋覇権狙う中国
 米中の差は絶対額でまだ5倍近くあるとはいうものの、彼我の削減・増強のペースを考えると、5年後、10年後が思いやられる。
 こうした削減の嵐の中で、オバマ氏は「全体の削減は避けられないが、アジア太平洋の米軍プレゼンスは堅持する」と約束した。17日からのアジア歴訪でも「アジア太平洋重視外交」の継続と強化を怠りなくアピールする方針だ。
 それでも、外交というソフトパワーを支える基盤は、ハードな軍事力の備えがあってこそだ。この鉄則を忘れてはなるまい。
 胡錦濤体制から習近平体制へ指導部が交代した中国は、「強固な国防と強大な軍隊」を柱に「海洋強国を建設する」(胡錦濤氏の政治報告)という。海洋権益の拡大に一層の拍車がかかりそうだ。
 その先にあるのは、東シナ海、南シナ海に米軍を寄せつけない接近阻止・領域拒否戦略(A2・AD)に加え、西太平洋に及ぶ海洋覇権を力ずくで樹立することだと欧米の戦略専門家は指摘する。
 日本固有の領土である尖閣諸島の奪取を狙った攻勢も、その一環としてとらえる必要がある。尖閣防衛は日本の平和と安全に直結するだけでなく、アジア太平洋全体の秩序と安定の維持につながる重要な戦略的課題という認識が欠かせないのはこのためだ。
 不幸にして米国が「財政の崖」に突入し、米国防費の削減や不足が恒常的現実となる事態に備えるためにも、日本は自助努力を飛躍的に高めるとともに、日米の共同防衛態勢の強化や効率化を進めることが不可欠といえる。
 まずは自らの防衛に一層の責任を持ち、その決意を内外に示すために防衛費の思い切った増強と充実が必要だ。集団的自衛権の行使容認、普天間飛行場移設促進を含む米軍再編の加速、日米防衛指針の見直しなども早急に進めなければならない。同盟の抑止力の実効性を維持する上で、カネ、ヒト、モノの相互提供や交換を工夫していくことも重要な課題になる。
 ◆防衛費の増強・充実を
 また、仮に「崖」が避けられたとしても、イランの核問題やシリア情勢などで米国の力が再び中東に割かれる事態があり得る。その場合でも、日本が同盟国としてアジア太平洋の守りをいかに補完するか、インド洋や中東で米国に対してどんな支援ができるかなどについて両国間で協議しておくことが今後欠かせないだろう。
 オバマ氏が直面している「財政の崖」は、日本の防衛と国民の安全も崖っぷちに立たせる恐れが強い。政府は、間違っても「対岸の火事」などと傍観していいはずはない。(たかはた あきお)
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『帝国の終焉』(「スーパーパワー」でなくなった同盟国・アメリカ)日高義樹著 2012年2月13日第1版第1刷発行 PHP研究所


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