山口・光の母子殺害:実名本訴訟 毎日新聞社の勝訴確定
山口県光市の母子殺害事件で、被告の元少年(30)=差し戻し控訴審で死刑、上告中=の実名を記した本の著者、増田美智子さん(30)ら2人が「社説で名誉を傷付けられた」として、毎日新聞社に賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は7日付で、著者側の上告を棄却する決定を出した。本社の勝訴とした2審判決(10年12月)が確定した。
増田さんらは「(取材した)当事者に知らせることなく出版しようとした」などの社説の記述は事実に反すると提訴。1審の東京地裁判決(10年6月)と東京高裁判決はいずれも前提事実に誤りはないと認定。「社会的に議論のある問題を取り上げ、出版倫理の観点から問題提起している」と社説の公益性を認めた。
◇毎日新聞社社長室広報担当の話
当社の主張が十分に認められた決定と受け止めています。
毎日新聞 2011年6月9日 東京朝刊
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◆光市母子殺害事件実名表記本「利益優先」「増刷行為=決定を待つのが出版倫理ではないか」2009-11-12 | 光市母子殺害事件
社説:光事件実名本 妥当な決定ではあるが
少年事件における出版・表現の自由はどこまで認められるのか。99年に起きた山口県光市の母子殺害事件をめぐり、当時18歳だった被告の元少年(28)を実名表記したルポルタージュ本につい、広島地裁が元少年側の出版差し止めの仮処分申し立てを却下する決定をした。
内容の一部に元少年に対するプライバシーの侵害行為はあるが、出版によって回復困難な損害を受けるとまでは認められない、というのが理由だ。検閲につながりかねない出版物の差し止めは、プライバシー侵害による損害の程度が極めて大きい場合に限定すべきだという従来の司法判断の延長線上の結論であり、妥当といえるのではないか。
元少年は昨年4月、広島高裁の差し戻し控訴審で死刑を言い渡され、上告中だ。今、全国で最も注目される少年事件の被告といっていい。本は元少年の実名(名字)から「■■君を殺して何になる」というタイトルが付けられている。書名自体が、少年時の罪で起訴された者の実名表記を禁じる少年法に違反するため、出版界に波紋を呼び、先月7日の発売時の書店の対応も分かれた。
著者はフリーのライターで、死刑判決以後、元少年と文通や面会を重ねたという。本は、そのやりとりや手紙の引用、元少年の父親や友人ら関係者への取材内容を中心に構成している。題名どおり元少年の死刑判決に懐疑的な内容だが、少年側の弁護団は反発した。原稿を事前に確認させる約束が守られず、内容も元少年の人格権を侵害すると主張した。
決定は、事前に原稿を見せる約束があったとはいえないと判断し、差し止め請求は退けた。だが、今回の出版については、表現の自由が守られたと楽観できないのも事実だ。
決定が「事前確認行為なく書籍を出版したことの是非はともかく」と結論に注釈を付けたように、当事者に知らせることなく出版しようとした行為は、いかにも不意打ち的だ。また、元少年側が先月5日に仮処分を申し立てた後、初版が売り切れると2万部増刷した行為も適切だろうか。決定を待つのがせめてもの出版倫理ではないか。
なぜ実名を書かねばならなかったのか。著者は「少年の実像を知ってもらうのには欠かせない」と説明するが、十分な説得力があるだろうか。これまでの経緯をみると、利益優先との批判はやむを得ない側面もある。
決定は、元少年から著者への手紙や、中学時代の顔写真を掲載した点について、プライバシーを侵害すると認定した。今回の出版については、既に損害賠償を求める訴えが別に起こされている。そちらで十分な審理を尽くしてほしい。毎日新聞 2009年11月11日 東京朝刊
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