クローズアップ2012:嘉田知事、新党結成 三つどもえ構図に一石 中小政党、利害一致
毎日新聞 2012年11月28日 大阪朝刊
滋賀県の嘉田由紀子知事が27日、日本未来の党の結党に踏み切ったのは、日本維新の会の「原発ゼロ」方針の後退がきっかけだった。一方で、埋没を恐れた中小政党側からは「選挙の顔」として嘉田氏に期待する声があり、両者の思いが合致した。脱原発を求める国民の声の受け皿になれれば、「民主VS自民・公明VS日本維新の会」という衆院選の構図に一石を投じる可能性が出てきた。【姜弘修、加藤明子、中島和哉、平野光芳】
嘉田氏は記者会見で「自民党は原発の安全神話を作り、事故への備えを怠り、福島事故に対する反省がなく、原発推進とも取れるマニフェストを発表した」と批判。そのうえで「(事故の)重い責任を感じることなく、経済性だけで原子力政策を推進することは国家としての品格を失い、倫理上も許されない」と強調した。
嘉田氏の脱原発への思いは強い。昨年3月の福島第1原発事故後、段階を踏んで原発を減らす「卒原発」を提唱。今夏前には関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働問題で橋下徹大阪市長とともに言動が注目された。ただ、計画停電の恐れで再稼働を限定的に認めざるを得ず、国や関電との交渉で「安全協定一つ結べない。かなり無力感を感じた」と話していた。
再稼働問題で共同戦線を張った橋下氏が今月に入り、旧太陽の党との合流で「原発ゼロ」の旗を降ろしたことに「仲間を失った」(今月20日の会見)と落胆。知事周辺は「衆院選が終わったら、『自公維』政権ができて、原発問題は顧みられなくなる。その危機感から、知事は自分の政治生命をかける決断をしたのだろう」とみる。
10月末の会見では「第三極」結集の動きに対し「イタリアで言えば中道左派、オリーブの木のようなものも一方で求められているのでは」と発言。衆院解散が早まったことで、自分が打って出るのは「先週末がタイムリミットだとは言っていた」(知事側近)という。
そうした中、動いたのが国民の生活が第一の小沢一郎代表だった。小沢氏は当初、第三極が連携する「オリーブの木」構想を目指していたが、維新との連携に失敗。同じく維新との合流ができなかった「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党(脱原発)」(共同代表・河村たかし名古屋市長ら)との連携などにかじを切っていた。
小沢氏はこれらの勢力結集のための「顔」として嘉田氏に期待。嘉田氏周辺は「10月ごろから知事への働きかけがあった」と明かす。
小沢氏から党首への就任要請を受けた嘉田氏は、脱原発勢力の結集を条件に挙げていた。24日に嘉田氏と小沢氏の会談が行われ、結集に一定のめどがついたことから、新党旗揚げにつながった。
ただ、生活との合流で、小沢色が強まることへの抵抗感があるのも事実。党幹部の構成などはこれからの課題で、波乱要因もある。
地方議員らが参加する「緑の党」の須黒奈緒共同代表は27日、「脱原発勢力がまとまることは意義がある」と歓迎したが、合流は考えていないとした。
◇維新、存在感に黄信号
「嘉田知事を中心とするグループはいきなり脱原発と言うが、いつまでにできるのか、誰もプランを持っていない」。27日、遊説先の山形県酒田市で、日本維新の会の橋下徹代表代行は、未来を強く批判した。さらに「どれだけ高い目標やスローガンを掲げても絶対に実行できない。嘉田知事は政治グループを束ねた経験がない」とボルテージを上げた。
橋下氏が警戒を強めるのは、「民主、自民、維新の三つどもえの構図を演出し、存在感を際立たせる」という維新の衆院選の戦術が揺らぎかねないからだ。27日の仙台市の遊説で「自民、民主、維新が並んでいる。同じ土俵に上がった」と訴えるなど、橋下氏は「2大政党対維新」の対決を再三強調してきた。
しかし、未来が存在感を発揮し始めれば、第三極勢力内での維新の優位もおぼつかなくなる。さらに、未来に合流する生活と脱原発の両党に対し、維新は本拠地・大阪の5選挙区で競合、関東でも激突する。合流を断念したみんなとの選挙区のすみ分けも進まず、第三極間のつぶし合いはさらに激化する。
政策面でも、未来が前面に据える原発政策は維新のアキレスけんだ。「可及的速やかな原発廃止」「2030年代原発ゼロ」などと訴えていた橋下氏だが、旧太陽の党との合流時の合意には「脱原発」の文言さえ外し、ブレーンからも批判が出ていた。未来の代表代行に就任する飯田哲也・環境エネルギー政策研究所長も、橋下氏のブレーンの一人。維新の松井一郎幹事長は27日夜、飯田氏の代表代行就任について報道陣に問われ、「全然知らなかった。それならあまり(原発政策に)違いが出ないことになるかも……」と困惑を隠せなかった。
「絶対に党首を受けるべきだ。原発問題を徹底して論戦しましょう」と26日に嘉田氏にメールで呼びかけ、27日朝には民放の報道番組で「脱原発の方向は大賛成」と歩調を合わせてみせたものの、夜には徹底批判に転じた橋下氏。対応に苦慮がにじむが、29日の維新の公約発表に向け、再び脱原発にかじを切るか決断を迫られている。
◇「地方行政甘くない」「国政へ関わりおかしくない」 兼職に知事ら賛否
嘉田氏は知事職を続けながら党首に就く意向だ。橋下徹大阪市長も日本維新の会代表を一時兼務し、現在も代表代行として党を事実上率いている。相次ぐ国政政党の党首と首長の兼務だが、その是非には議論がある。
前宮城県知事の浅野史郎・慶応大教授(地方自治論)は「そもそも有権者は、県や市のためにしっかりと仕事をしてもらいたいと首長を選ぶ。党首就任が、有権者の望みなのか疑問がある」と指摘する。仁坂吉伸和歌山県知事も27日の記者会見で、「首長はそれぞれの選挙民から負託を受けている。私は県民のために100%献身する。あまり理解できない」。また、湯崎英彦広島県知事は同日の記者会見で「(私自身は)知事職で手いっぱいだ。地方行政はそんなに甘いものじゃない」と苦言を呈した。
一方、元神奈川県逗子市長の富野暉一郎龍谷大教授(地方自治論)は、「知事や市長は特別職であり、国政に関わることはおかしくない。国政への関与も政党の機関決定を通じてであり、党首が国会議員である必要はない」という。
◇未来政治塾の塾生擁立意向
嘉田氏は27日夜、滋賀県庁で記者団に、自らが塾長を務める「未来政治塾」の塾生を衆院選に擁立する意向を明らかにした。女性1人はほぼ決まっているという。
ある塾生によると、約30人が24日に京都市内で集まり、塾生の擁立について議論した。「勉強したことを発揮するのは今しかないんじゃないか」と前向きな声が上がり、人選を進めている。
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混迷の先:’12師走・衆院選 日本未来の党 嘉田氏、一時結党断念 飯田氏説得「突っ込もう」
毎日新聞 2012年11月28日 大阪夕刊
衆院選公示の1週間前に新党「日本未来の党」結党を宣言した嘉田由紀子・滋賀県知事は、結党の決断に数日揺れ動き、結党宣言直前には断念会見まで検討していたことが関係者の話で分かった。周囲は嘉田知事の突然の決断に驚き、県議会や職員らからは「県政に支障が出る」「大きな実験だ」など困惑と期待の声が上がっている。【加藤明子、姜弘修】
「いろいろごめん。このままでは県が動かなくなる」。27日に結党宣言した嘉田知事は同日朝、側近にメールでこう漏らしていた。しかし、間もなくして判断は一転。新党の代表代行となる飯田哲也(てつなり)・大阪府市特別顧問から「ここまで来たら後退はない。突っ込もう」とのメールを受け、新党結成を決めた。
関係者によると、嘉田知事らは当初、衆院選は来年春ごろとみて水面下で準備。しかし突然の解散で一時白紙になった。嘉田知事のグループでは「もう無理やな」とあきらめムードだった。今週に入って嘉田知事の新党結成を目指す動きが報道され、県議会で少数与党の嘉田知事は、議会各派への根回しが済まない前に報道が出たことに苦慮した。
「幕引きの仕方を教えて」。一時、結党断念の方向に傾いた嘉田知事は周囲にこう漏らし、27日に国政断念を表明する方向で検討に入っていたという。
嘉田知事は27日夜、報道陣に結党への経緯を振り返り、「仲間がいてこそ、右腕がいてこそ。飯田さんの決断は大きいです」と話した。
一方、県議会の佐野高典議長は「知事は24時間では足らないくらい行政課題の解決に当たらないといけない。県政に大きな支障が出る。それなら石原(慎太郎)前都知事のように、お辞めになって党首に専念すればという県民の声もある」と語り、28日、議長として嘉田知事に真意を問う申し入れをする意向を示した。
嘉田知事の今回の行動に対し、県幹部は「なぜ国政なのか。公務との両立は不可能。県議会も始まるのに」と漏らした。別の幹部は「遠くなった感じ。地方から国政に対して挑戦する壮大な実験を間近で見られ、こちらとしても刺激になる。今までは地域のスターだったが、日本を動かす人になるのだろう」と受け止めていた。
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◆ 「日本未来の党」「小沢さん使いこなす」かいらい批判に反論 / “小沢氏は苦いが効果的な薬” 2012-11-30 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
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◆ これは絵空事ではない 「日本未来の党」 比例で40%、76議席を固めている 2012-11-30 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
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2012師走・衆院選/「未来」嘉田氏、一時結党断念 飯田哲也氏説得「ここまで来たら後退はない。突っ込もう」
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