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欧米と距離を置き、東へ軸足を移すドイツ / ドイツの国益と欧州の国益

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欧米と距離を置き、東へ軸足を移すドイツ
JBpress 2011.06.13(Mon) Financial Times

 筆者の記憶では、国の地理によって、その国の外交政策を知ることができると言ったのは確かナポレオンだった。全般的に言って、このルールはまだ有効だ。
 アンゲラ・メルケル首相率いるドイツの場合、意地の悪い観測筋なら、それを少し修正し、地理と並んで輸出市場も重要だと言うだろう。
 先日ワシントンを訪問したメルケル首相はバラク・オバマ大統領から大いに敬意を表された。19発の礼砲に続いて大統領自由勲章が授与され、ホワイトハウスできらびやかな晩餐会が催された。
 オバマ大統領の在任中にこれほど厚遇された欧州の指導者はほかにいない。ニコラ・サルコジ大統領のエリゼ宮殿では、腹の虫が収まらなかったに違いない。
*オバマ大統領が失いたくない欧州の大国
 慣例では、こうした行事は信頼できる同盟国に対するご褒美ということになっている。メルケル首相の場合、これほど温かい歓迎は、感謝の印というよりは期待の表れと言った方がいい。オバマ大統領は、英国との特別な関係にはまだ敬意を表しているかもしれないが、オバマ大統領が失いたくない欧州の大国はドイツなのだ。
 ホワイトハウスとドイツ首相府との関係は最近、とても友好的と言えるものではなかった。米独間では、リビアを巡る公然とした小競合いや、経済政策に関する論争、日本の福島原子力発電所の惨事を契機とする原子力エネルギーの将来を巡る見解の相違が生じた。
 メルケル首相がリビアへの軍事介入を認める国連決議を支持するのを拒んだ時、米国は、英国やフランスとともに失望した。ドイツは、安保理の投票を棄権することで、中国やインド、ブラジル、ロシアの仲間になる道を選んだ。
 ホワイトハウスの共同記者会見では、オバマ大統領はこの件をうまく言い繕った。ロバート・ゲーツ国防長官は、オバマ大統領ほど外交辞令が得意ではなく、米国の政府高官らが内々にささやいていた話を半ば公然と口にした。
 北大西洋条約機構(NATO)の理事会で、ドイツは西側の軍事同盟で自らの役割を十分に果たしていないと述べたのである。
 経済問題に関しては、世界の貿易不均衡にどう対処するかという議論で、ドイツは米国よりも中国の肩を持っている。メルケル首相の考えでは、問題は、中国の為替政策というより、米国の借り入れと支出だ。
*ユーロ圏の債務危機への対応、フクシマ後の脱原発・・・
 他のユーロ圏諸国に対するドイツの貿易黒字についても、メルケル首相はほとんど同じことを口にする。赤字国は、もっとドイツのようになるべきだというのだ。もちろん問題は、すべての国が黒字を計上するわけにはいかないということだ。
 米国政府は、ユーロ圏の債務危機に対するドイツの対応に苛立ってきた。ドイツは何とか仕事をしてきたが、辛うじてこなしているだけだ。
 オバマ大統領が2012年の大統領選の前に最も避けたいと思っているのは、ギリシャのデフォルト(債務不履行)に端を発する世界的な金融システムのメルトダウンだ。
 原発閉鎖に関しては、ドイツはもちろん自分なりの判断を下さなければならない。だが、メルケル首相のパニックは、異なる見方をしている国にとっては、状況を楽にするものではない。脱原発政策は、フランスの原子力業界が発電する電力に依存するドイツの現状と整合性を保つことも難しい。
 これらの小競合いは誇張されるきらいもある。米国とドイツは30年間にわたって、黒字国と赤字国のそれぞれの責任について議論してきている。そして確かに、米国の貿易赤字は、貯蓄よりも支出する傾向が強いことと関係がある。
*対外関係の力学に大きな変化
 ほかのところでは、ドイツは、リビアでの軍事行動を支持しない代わりに、アフガニスタンでの戦争には貢献している。ユーロ圏救済に対するためらいや、原子力産業の閉鎖に関する決定は、メルケル首相が直面する国内問題の大きさを示すものだ。
 だが、ドイツと他国との関係の力学は変化した。最近猛威を振るっている病原性大腸菌の大発生による近隣諸国の大騒ぎは、世論の風向きを示すものだ。
 スペインの農民に責任を負わせようとしたドイツ当局は間違っていた。だが、その後の反発にはそれ以上の感情が込められていた。ほかの欧州諸国の論評には、「聖人ぶった」ドイツは当然の報いを受けたのだ、という意識がうかがえた。
 以前より自己本位になっているドイツは、昔の同盟国との絆を緩めている。ドイツが戦後フランスと行った取引は、欧州統合に原動力を与えた。ドイツの本能的な汎大西洋主義は、米国の力に対するフランスの反感と釣り合いを保つ重りの役目を果たしていた。
 ドイツは今、欧州主義と汎大西洋主義という2つの錨を静かに上げているように見える。
 東西再統一から20年が経過し、メルケル首相率いるドイツは、自分なりの判断を下す傾向が強くなっている。世界的な勢力は東方にシフトしており、ドイツの名高い製造業にとっての機会も同じようにシフトした。
 中国は近い将来、フランスを抜いて、ドイツにとって最も利益の上がる輸出市場になる。インドやブラジル、ロシアもすぐ後に続いている。
 ドイツは、こうした流れに応じて地政学の羅針盤を設定し直している。そのため、ロシアの場合には、地理と輸出とを考え合わせ、ロシア政府の敏感な反応に合わせるよう計算された外交政策を定めている。
 リビアを巡る投票でドイツがBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)諸国の側に立っているように見えた
のは恐らく偶然だろうが、それでもやはり象徴的なものに見えた。
*ドイツの国益と欧州の国益
 ドイツの外交政策がかつて利他主義によって動かされていたという考え方は、以前から虚構だった。罪の意識は一定の役割を果たしていたが、実利的な政治も働いた。欧州の統合によって、ドイツは自国の経済を建て直すことができたし、米国との同盟によって再統一の可能性を存続させることできた。
 メルケル首相の世代が過去に置き去りにしたのは、ドイツの国益が欧州と密接不可分に結び付いているという直感的な信念だ。
 先月、ヘルムート・コール元首相が珍しく公の場に姿を現した時、我々はその変化を垣間見た。ユーロ圏の危機は結束を固める機会だ、とコール氏は述べた。「たとえいくらかコストがかかるとしても、我々もギリシャと一緒に道を歩まなければならない」と。
 今のドイツは、自国の利益を欧州の利益から切り離している。それは、フランスや英国がやっていることではないのか、分別のあるドイツ人がなぜ無責任なギリシャ人を支援しなければならないのか――。今はこんな話が聞かれる。
*「身勝手な大国」
 それに対する1つの答えは、無謀なドイツの銀行は他のほとんどの銀行より失うものが大きい、というものだ。
 もっと重大な答えは、ドイツが「普通」の大国として行動することを決めれば、欧州はバラバラになる、というものだ。ドイツはとにかく独り善がりになるにはあまりにも大きく、戦略的な位置に置かれてすぎているのだ(ナポレオンが言う地理)。
 筆者のドイツ人の友人の何人かは、外国人は、ドイツが明確な国益をはっきりと口にすることに慣れていないのだと言う。そして、昔の同盟国から次第に距離を置いているのは、計算された戦略的な動きというより、メルケル首相の政治的な弱さを反映したものだと話している。
 そうかもしれない。だが、同盟国が張っているレッテルは、身勝手な大国というレッテルなのだ。
 By Philip Stephens
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 米国への挑戦状:世界の盟主になりたい中国 BRICS首脳会議を主催して〜中国株式会社の研究(107)
JB PRESS〔中国〕2011.04.22(Fri)宮家 邦彦
 日本中が放射線量の増減に一喜一憂していた4月13〜14日、胡錦濤総書記は海南島で第3回BRICS首脳会議を主催していた。インド、ロシア、ブラジルに加え、今回から南アフリカも参加した。「BRICs」が「BRICS」に変わったことに気づいた日本人がどれだけいただろうか。
投資銀行が考えた「BRICs」  
 共同会見に臨む(左から)インドのマンモハン・シン首相、ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領、中国の胡錦濤国家主席、ブラジルのジルマ・ルセフ大統領、南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領〔AFPBB News〕
 「BRICs」という言葉が使われたのは2001年、米投資銀行大手ゴールドマン・サックスが投資家用に作成したニュースレターが最初だったと言われる。
 当時から、広大な領土と巨大な人口を持ち、急成長を続ける新興国家群の存在は関係者の間で注目されていた。
 あれから10年、今年から南アフリカが参加し、イラン高官もBRICs諸国との関係拡大を公言するようになった。
 当初は理念的に考えられ、半ば語呂合わせ的に命名されたBRICsだったが、今や国家グループとして自律的な進化を始めたかのようだ。
 ロシアとブラジルで開かれた過去2回のBRICs首脳会議のテーマは、基本的に経済問題だった。BRICs諸国が、G20と国連の役割を重視しつつ、より平等、多極的で民主的な国際社会・経済システムを目指して協力し合うという一般的な主張だったと記憶する。
 ところが、4月14日に発表された今年の首脳宣言には、微妙ながら重要な変化が見られた。昨年の共同コミュニケと読み比べれば、国連改革、リビア情勢、国際金融システム改革など、前回よりも政治的に踏み込んだ内容が随所に盛り込まれていることが分かる。
2011年BRICS首脳宣言
 今年の首脳宣言中、特に注目すべきは以下の諸点だ(括弧内の注は筆者のコメント)。
●安全保障理事会を含む国際連合の全面的改革が必要であり、中国とロシアは、インド、ブラジル、南アフリカの国際的地位・役割向上の重要性を再確認する
(注:欧米主導でつくられた現在の国連は不平等・不公平なシステムだと批判するが、インド、ブラジル、南アフリカの地位向上の重要性を唱える一方で、日本やドイツに言及しないことも同様に不平等、不公平ではないのか)
●中東・北アフリカ地域における混乱を深く憂慮し、武力行使は回避すべきである
(注:リビアなどで欧米諸国が安易に軍事介入を行っていることを批判しているようだが、BRICSとして軍事的手段に代わる解決策を提示しているわけではない)
●国際通貨基金(IMF)改革目標を早急に達成し、商品デリバティブ市場の規制を強化すべきである
(注:欧米主導の国際金融システムにおけるBRICS諸国の発言力・影響力を高めようとする主張であるが、ここでも具体的改善策は示されていない)
●安定性と確実性を伴う広範な国際準備通貨制度に基づく国際金融システムの改革・改善を支持する
(注:名指しは避けたものの、明らかに米ドル中心の現行国際通貨制度を強く批判するものだ、他方、中国の人民元の取り扱いなどの具体的解決策は提示していない)
●原子力エネルギーはBRICSにとって重要な要素であり、安全な原子力エネルギーの平和利用に関する国際協力を推進すべきである
(注:BRICSが経済成長を続けるため必要なエネルギーを確保しなければならないことは分かるが、このタイミングで敢えて原子力の重要性に言及することは実に興味深い)
「BRICS」を政治利用する中国
 以上のようなBRICS首脳会議の「政治化」を主導したのは、やはり中国であろう。中国は今回の首脳会議を大々的に宣伝しており、開催地である海南省三亜市のウェブサイトに今次首脳会議の公式サイトまで作っている。
 これに対し、欧米メディアの反応は総じて鈍いようだ。少なくとも、BRICS諸国が国際金融システムに対し挑戦し始めたといった警戒心は見られない。
 それどころか、BRICS経済が元気になることは米国にとっても有益であるといった楽観的な論調すら見られる。
 確かに中国などがこの種の主張をするのは初めてではない。その内容にも具体性がない。
 さらに、BRICS諸国と言っても一枚岩ではない。中印だけでも国境問題、貿易摩擦問題を抱えるなど、各国間の利益対立は決して小さくないからである。
 リーマン・ショック後の新たなパラダイムの中で、米国が相対的に弱体化することは避けられない。他方、BRICSを中心とする新興国側にも、米国に代わって新しい国際秩序をつくるだけの余力はなかろう。
 今のところ欧米諸国は、BRICSは「弱者同盟」に過ぎず、米国を中心とする欧米型システムを打ち破る力にはなり得ないと高を括っているのだろう。BRICS諸国側も当面は米国を中心とするグローバル経済の枠内で独自の主張を強めていくことになりそうだ。
BRICS=金磚国家
 ちなみに、第3回BRICS首脳会議は中国語で「金砖国家领导人第三次会晤」という。「金砖」とは「金磚(きんせん)」で金の延べ棒をも意味するようだ。「磚」とは煉瓦のこと、煉瓦は英語でBRICKだから、BRICS=金磚国家ということになるらしい。
 友人の中国語専門家に言わせると、これは一種の芸術なのだそうだ。未知の外来語に対し、漢字と英語の類推から、ぴったりの漢字新語を作る中国人の能力とセンスは誰も真似できないという。それはそうだろう。そんなことをするのは中国人だけなのだから。
 BRICSはBRICSなのだから、そのまま使えばいいではないか。中国語でDavidは大偉(ターウェイ)という。なぜわざわざ漢字化するのだろうか。
 趣味の問題かもしれないが、筆者には「金磚国家」など「洗練させたセンス」どころか、下手な「こじつけ」としか思えない。
 「金磚」は元々古代中国の珍しい武器の一種らしい。伝説によれば、金色をした円形敷石か瓦のようなもので、空に投げ上げると金光を発したという。
 つまり、BRICSとは、煉瓦は煉瓦でも、光り輝く煉瓦の国家群ということなのか。是非そうあってほしいものである。


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