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被ばく線量が限度の250?シーベルトを超えた東電社員、新たに6人、計8人に

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原発の現場作業員、安全管理の現実を語る
WSJ日本版 2011年6月14日21:52 

 【大垣】坂本正之さんは3月、世界で最も危険な原子力発電所に降り立った。そのとき、防護服について30分間説明を受けたが、それ以外はほとんど準備がなかった。
 坂本さんは56歳。30人の従業員を抱える中部地方の建設会社、北陸工機の代表取締役だ。福島第1原子力発電所の原子炉が煙を吐き、ガンマ線がにじみでていた頃、がれきを撤去し、泥を運び出すために雇われた。坂本さんはそれまで防護服を着たこともなかったし、線量計を使ったこともなかった。平常時であれば、原発で働く際に必要とされる事務手続きもまだ行っていない。
 原発で働く作業員の安全がどのような状況なのか、坂本さんによる詳しい説明から見えてくる。東京電力は6月13日、6人の作業員の被ばく線量が限度を超えた可能性が高いことを明らかにした。これまでの合計では8人となる。この限度は、今回の事故に限って基準を緩めて定められた値だ。
 中学卒業の坂本さんは、国の危機を救わなければという「ミッション」を感じると話す。だが同時に、頭がよくないから怖くないとも冗談を言う。「本当に賢い人たちはシーベルトとかベクレルというものに対して知識があるから、非常に怖いというか不信感、不安感がある。無学、無知というのは考えてみたら非常にありがたい」 原発現場の片付けで、東京電力が頼っているのは坂本さんのような人たちだ。つまり、立ち向かう危険についてあまり知識も理解もなく、トレーニングも受けていない下請け業者や労働者だ。
 事故から数カ月間、坂本さんが話した問題は混乱により次第にひどくなっていった。地震と津波により、放射線量を測定し、作業員を管理するシステムが機能しなくなった。坂本さんや他の6人ほどへの取材から、東京電力がその代替策をなかなか実施しなかったことも明らかになった。
 東京電力はこの問題を認識している。「原子炉冷却を第一にしている。一般的に遅いと言われるかもしれないが、できるだけ早く全力で取り組んでいる」と、東京電力の広報担当者は話す。
 東京電力は5月の報告書で、放射線環境で働くうえでの正式な登録を行っていない作業員がいることを明らかにした。最初の数週間、線量計が不足していた頃には、多くの作業員が線量計を持っていなかった。
 ある大手建設会社に雇われた数人の作業員は、採用された時には原発で働くとは知らされなかったという。
 東京電力の広報担当者は、作業員は適切な訓練を受けたと考えていると話した。また、原発内部で働く下請け業者や他社の作業員に関しては、東京電力には責任はないとも言う。
 東京電力の5月の報告書を受けて、原子力安全・保安院は、5人の女性作業員を正式に登録せず、汚染された建物内で作業を行う作業員にマスクを着用させなかったのは違法であるとして、厳重注意とした。日本には放射線の被ばくや作業員の安全に関してさまざまな法律があるが、違反に対する罰則はほとんどない。
 原子力安全・保安院は線量計の不足や、他の作業員の安全に関する問題についても東京電力を追求した。緊急事態であったことを考えると、作業員の訓練や被ばく量の追跡に関して、東京電力が一時的な措置としてとった手法は適切だったという。しかし、放射線の管理や作業員の安全に関して、可能な限り早く正常に戻すようにと命じた。
 1カ月ほど前、福島第1原発の指令センターで働く人々から不思議なほど高い放射線量が検出された。これにより、センターが汚染され、数千人の作業員が放射性粒子を体内に取り込んでいた可能性が高いことが分かった。 また、東京電力は2300人余りの作業員の被ばく量を検査し、数百人で値が高くなっているのを発見した。厚生労働省は6月7日、原発に調査員を送り、作業員の安全管理について調査すると発表した。
 細川律夫厚生労働相は5月31日、記者団に対し 「私としても大変驚いており、遺憾に思っているところだ」と話した。厚生労働省は東京電力と関連会社の関電工に対して、労働安全衛生法違反についての是正勧告を行った。また、東京電力に対して今月、福島第1原発で事故発生以降に働いた人たちの内部被ばく量の検査を完了するよう命じた。
 厚生労働省の推計では、これまで7800人が福島第1原発で仕事をしたという。東京電力では、まずは事故が最もひどかった3月に働いた3726人の検査を行っている。
 東京電力の広報担当者によると、原発での暑さと放射線の問題を改善するため、冷却ジェルを入れたベストや、タングステンでできたベストを導入するという。作業員の休憩所をもっと作り、医師が必ず常駐するようにするとも話した。
 この間坂本さんは、自身のミスに対処していた。3月にトラック運転手を募集した際、間違った勤務地を職業案内所に伝えたのだ。運転手は、不当に第1原発に派遣されたと苦情を訴えた。雇用者は正しい職務内容を伝えなければならないとする法律に違反しているという。
 坂本さんは話す。「普通にこなせるなと思っていたが、自分が犯したミスを思うと、どうも普通の精神状態じゃなかった」
 髪を五分刈りにした多弁な坂本さんは、大垣市にある小さな家で自分の会社を経営している。坂本さんの運営する北陸工機は、通常は高速道路やダムで配管工事を行っている。3月11日の大震災の後すぐに、復旧作業を請け負えないかとの電話が入り始めた。
 3月15日、二つの原子炉で爆発が起こった。その翌日、坂本さんと10人の作業員はJヴィレッジに向かった。原発から南に25キロほど離れたサッカー関連の施設で、原発対応の拠点となっている場所だ。そこで検診を受け、東京電力から30分ほど、放射線と防護服についての講習を受けた。
 その日聞いたことは、ほとんど忘れてしまったと坂本さんは言う。だが、強く印象に残ったことがある。それは、石をひっくり返す時は注意しろ、なぜなら放射性物質が隠れているかもしれないから、ということだ。
 「海で石をめくると、小さいカニがいる。それは、ザリガニであったり、大きなタラバガニであったりする。線量をこうむった時、それがザリガニであったらいいが、大きなタラバが出た時もある」
 坂本さんの1日は6時半に始まった。作業員が着替えを始める時間だ。下着、フードつきの防護服、3枚重ねにした手袋と靴のカバーを身につける。袖口とズボンのすそにテープを貼ってすき間をふさぐ。マスクを着け、フードとマスクのすき間をふさぐように、お互いにテープを貼り合う。
 次に、指令センターに向かう。施設の中で唯一電気が通り、放射線をさえぎる厚い壁がある場所だ。ここで外側の服を脱いでシュレッダーにかけ、被ばく量を計る。その日の仕事を聞き、もう一度身支度を調える。坂本さんはこれを1日に少なくとも3回は繰り返した。食事の時や休憩、トイレに行くときなどだ。
 防護服を身につけると、外界から完全に切り離された感じがする。「手袋してゴム手袋して、さらに皮手袋をして袖口をテープで巻いて。自分の世界から遮断して、自分をパックして閉じ込めてしまったような作業環境は、われわれの世界ではあまりない。宇宙船に乗って月にいくという人はあんなものをしてね」
 現場では、作業員たちは携帯電話サイズの線量計を胸のポケットに入れ、累積での被ばく量を記録した。放射線のレベルが跳ね上がると、線量計のアラームが鳴る。
 問題は、全員に行き渡るだけの線量計がなかったことだ。坂本さんによると、通常4人のチームで1人だけが線量計を持っていた。しかし、原発で長年働いてきた作業員は、各人が一つずつ持たなければならないと知っていた。彼らは苦情を訴え、それが原子力安全・保安院の厳重注意につながり、東京電力は線量計の供給を増やすよう命じられた。
 恐ろしい場面もあった。3月20日頃、3号機の格納庫から黒い煙が上がっていたのを見たのだ。誰かが「坂本さん、走って」と叫んだ。
 坂本さんは運転していた車から飛び出した。降りたのは水たまりの中だった。水が放射能に汚染されていたら、非常に危険だったかもしれない。幸運なことに、検査で放射線量の上昇は見られなかった。しかし、その後すぐ、関電工の二人の作業員が、それほど幸運ではなかったことが分かった。汚染された水に入って、10万マイクロシーベルト以上(原発作業員が5年間で浴びる放射線の限度以上)の被ばくをしていたのだ。
 時間が経過し、危険が去り始めたように見えてくると、坂本さんや他の原発作業員は少し手を抜き始めた。坂本さんの会社の従業員が、降雨時に防水用ポンチョを着ず、汚染された雨水で防護服が濡れるに任せたことがあった。坂本さんは彼らを叱ったという。
 また一時期、坂本さんたちが仕事をしていた場所の放射線量が、通常レベル近くに下がった。そこで、マスクとフードのすき間をテープで貼るのをやめた。予防措置は本当に必要だったのかと、坂本さんは疑問に思ったという。「言われたことを守って、服を着て作業しますけれども、それが何だと思っていますから」
 坂本さんは4月23日に原発で働くのをやめたが、また戻るだろうと話す。彼の小さな会社は、まだ原発に10人ほどの従業員を派遣している。坂本さんは原発で5週間仕事をし、累積被ばく量は2万5000マイクロシーベルトをわずかに上回る水準だったという。日本の原発の作業員が通常、1年間で浴びる限度の半分強だ。
 6月初旬、坂本さんは再び福島を訪れ、北陸工機を雇った建設会社の関係者と現在の問題を話し合った。作業員の健康問題は大きなテーマだったという。
 賃金についても話した。最初の2カ月間、坂本さんの従業員は通常2万円から2万5000円の日給の2.5倍を受け取ったという。この日坂本さんが聞かされたのは、原発内の非常事態は収束したと東京電力が宣言したことだった。新たな賃金は、通常のわずか5割増しだ。
記者: Phred Dvorak 
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福島第1原発:作業員内部被ばく100ミリシーベルト限度
2011年6月14日 13時6分 更新:6月14日 14時20分
 東京電力福島第1原発の緊急作業で、被ばく線量が限度の250ミリシーベルトを超えた東電社員が新たに6人判明し、計8人となった問題で、細川律夫厚生労働相は14日、内部被ばくで100ミリシーベルトを超える作業員を作業から外すよう東電に指示した。同省は13日に内部被ばくと外部被ばくを合わせて200ミリシーベルト超の東電社員ら計12人を外すよう指示しており、東電は厚労相の指示を受けてさらに20人前後を作業から外す見通し。【井上英介、岡田英】
 ◇厚労相、東電に指示
 細川厚労相は14日の閣議後会見で「250ミリシーベルトを超えるような方がさらに増えたのは大変遺憾に思っている」と不快感を表明した。同省は今後も、内部被ばく100ミリシーベルト超で緊急作業から外すよう東電を指導していく。
 緊急作業での被ばく問題で同省は、東電の40代と30代の男性社員2人の被ばく線量計が精密検査で600ミリシーベルト台だったとして10日に是正を勧告。さらに13日、震災発生時から緊急作業に従事していた東電社員や協力会社員2367人の簡易検査結果の報告を東電から受け、この中で内部被ばくと外部被ばくの合計で250ミリシーベルト超が新たに6人判明した。
 報告ではこのほか200ミリシーベルト超〜250ミリシーベルトが6人▽150ミリシーベルト超〜200ミリシーベルトが21人▽100ミリシーベルト超〜150ミリシーベルトが67人。合計200ミリシーベルト以内でも内部被ばくだけで100ミリシーベルト超の該当者は20人前後に上った。厚労相は内部被ばくが深刻に影響しかねない点を考慮し厳しく指導する姿勢を示したとみられる。
 同省によると、原発事故を収束させる緊急作業には、震災以降これまでに計約7800人が従事。東電は、このうち線量が高いとみられる震災直後から従事していた3726人について暫定的な被ばく線量の確定を急いでいる。しかし、震災発生から3カ月が経過した13日の時点でも報告は2367人どまりだ。
 今後の作業への影響について松本純一原子力・立地本部長代理は会見で「全面マスクなど放射線管理はしており、現在の作業状況からみると、作業員が足りなくなる事態にはない」との見方を示した。
 ◇解説…防護策の徹底求め
 厚生労働省が作業員の「内部被ばく」の線量が100ミリシーベルトを超えた場合、緊急作業から外すよう東電に徹底させたのは、緊急時の特例として引き上げられた線量限度250ミリシーベルトを超えた作業員8人のうち、内部被ばく量だけで上限を超えていたのが6人に上るなど、東京電力の管理の甘さにある。
 内部被ばくは、放射性物質を吸い込むなどして体内で継続的に被ばくする。時間と共に排せつされ、排せつも含めた「半減期」は成人ではヨウ素131で約7日、セシウム137で約90日だが、白血球の一時的な減少や、がんの発生確率がわずかに上がる恐れがあり、健康への影響が心配される。
 内部被ばくは「ホールボディーカウンター」という機器で測定する。しかし、福島第1原発にある4台は空気中の放射線量が高すぎて正確に測定できず、主に福島県いわき市の東電施設2台でしか検査できない。結果が判明するまで約1週間もかかるなど実態把握が遅れている。
 今回の厚労省の指示は、東電の管理体制が不十分なためのものだが、検査や対策に手間取れば今後の作業への影響が懸念される。東電には長期にわたっての健康管理はもちろんのこと、再発防止のため防護策の徹底が求められる。【奥山智己】毎日JP


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