衆院選 田中、小沢両氏の「王国」崩壊
産経新聞 2012年12月18日08時02分
■田中氏、65年続いてきた地盤 地元との乖離「もう代わって…」
今回の衆院選では、父の田中角栄元首相が築いた地盤を守ってきた民主党の田中真紀子氏(68)が落選した。角栄氏にならった日本未来の党の小沢一郎氏(70)の地元岩手県では全4選挙区の未来候補で当選したのは小沢氏だけ。強固だった2つの「王国」はなぜ崩壊したのか。
支持者失望
「目覚ましなしでよく眠れました」。落選から一夜明けた17日朝、宿泊していた新潟県長岡市内のホテルを出た真紀子氏はすがすがしい表情でそう話した。
今後の政治活動については「これまでいただいてきた支持を反映させる努力をしたい」と継続する考えを示し、参院選などへのくら替えについては否定した。
真紀子氏の選挙区、新潟5区は角栄氏が昭和22年に衆院選で初当選して以来、65年続いてきた地盤。その強固さから「田中王国」と呼ばれ、この間の19年、真紀子氏も死守してきた。
初めての敗北に真紀子氏は「民主党に期待したのに期待外れだったというか、そのリバウンドだったと思う」と話す。後援会幹部も「要は(民主党への)逆風なんだって。それしかない」と強調した。
しかし、ある新潟県議は「普段の活動で選挙区に関わる機会は少なく、支持者が離れていった」と真紀子氏陣営の見方を否定する。地元政界では真紀子氏と地元との乖離(かいり)を王国崩壊の原因とみている。
鉄の結束を誇り、強力な集票力を発揮した角栄氏の後援会「越山会」(解散)は旧会員たちの高齢化が進み、真紀子氏から離れていった有力者もいる。昨年には「国家老」と呼ばれた角栄氏の元秘書が死去。真紀子氏を破った自民党の長島忠美氏(61)の選対本部長を務めたのは、越山会の元幹部だった。
別の県議は「今回選挙区を回っていると、『長島さんがいい』というより『もうそろそろ真紀子さんから代わってほしい』という人が結構いた」と話す。
「真紀子さんを支持する地元議員は県議も市議もいないんじゃないか」ともいう。
真紀子氏と地元との距離が離れる中、支持を広げていったのが長島氏だった。「真紀子氏とは対照的に長島氏は現場主義で、有権者と膝詰めで話をする」と説明する政界関係者もいる。
17日午前、長岡駅近くにある真紀子氏の事務所に人の姿はなかった。事務所内に貼られた真紀子氏のポスターにはこんなキャッチフレーズが記されていた。
《現場第一主義!》
■小沢氏、「数は力」保てず 旧態依然の政治「終わりにしよう」
影響力低下
「県民が小沢氏にノーを突きつけた。旧態依然とした政治や選挙は終わりにしようというメッセージだ。これで世代交代ですよ」
小沢氏に敗れた岩手4区の自民党、藤原崇氏(29)=比例復活=の選対幹部は17日、今回の衆院選をこう総括した。小沢氏の得票数は平成21年衆院選(約13万4千票)と比べ約5万6千票も減少。藤原氏陣営は「次は選挙区でも勝機がある」とみる。
小選挙区制が導入された平成8年以降、4区ある岩手県では新進党、自由党、民主党と小沢氏が率いる政党は常に3議席以上を確保。前回選挙では4議席を独占した。岩手が「小沢王国」と呼ばれるゆえんだ。
「後援会組織をフル活動させ、各家庭を網の目のように張り巡らせる」(元小沢氏陣営幹部)という選挙基盤は師と仰ぐ角栄氏と同じ手法で築いたとされ、4区以外の候補者陣営にも徹底させていたという。
だが、小沢氏の民主党離党や公示直前の未来への合流に、国会議員や県議の一部が反発。3選挙区で民主党が候補者を立てたことで、支持基盤が重なる分裂選挙となった。
選挙戦終盤には小沢氏自身が地元入りし、てこ入れにも動いた。にもかかわらず、結果は過去最低の1勝だけで、王国の崩壊を印象づけた。小沢氏の後援会幹部は“敗因”について「政策が浸透する時間がなかった。あと1カ月あればもっと勝てた。組織は弱くなっていない」と弁明する。
一方、対立陣営側は小沢氏本人の政治姿勢を要因に挙げた。東日本大震災の被災地では小沢氏が復興よりも政局を優先したとの不満がくすぶった。小沢氏から離反した民主党県議は「小沢氏は被災者に寄り添ったとはいえない。惰性で『小沢』『小沢氏系の候補』と書いてきた有権者がようやく気づいた」と分析する。
「小沢氏の魅力は『数は力』。数が保てない小沢氏からは仲間も有権者もこれからもっと離れていく」。自民党県連関係者はこう話し、小沢氏の影響力は「なくなった」と言い切った。
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未来、続々沈む 宮城2区・斎藤氏「申し訳ない」
河北新報2012年12月17日月曜日
東北の小選挙区に立候補した日本未来の党の前議員たちは、岩手4区の小沢一郎さん(70)を除き苦杯をなめた。
「私の政策の訴えが足りなかった。申し訳ない」。宮城2区の斎藤恭紀さん(43)は仙台市泉区の事務所で頭を下げた。
前回は民主党公認で15万8000票を獲得した。消費税増税に反発して離党し、新党きづなを経て未来に合流した。
「党は変わっても政策はぶれない」と主張したが、反応は冷ややかだった。「未来の党として存在感を発揮できなかった」と悔やんだ。
福島2区の太田和美さん(33)も涙をのんだ。前回は千葉7区から国替えして民主党から立ち、政権交代の象徴的存在になった。太田さんは「福島の地に足を着けて巻き返す」と誓った。
福島1区の石原洋三郎さん(39)も民主党除名組。再選を阻まれ「不徳の致すところ」と支持者にわびた。原発ゼロと増税廃止を訴えたが、自民党元議員の厚い組織力にはね返された。
青森1区の横山北斗さん(49)も3選を逃し、7年間守った議席を失った。環太平洋連携協定(TPP)への反対を鮮明にしたが上昇できなかった。横山さんは「支持していただいた方に申し訳ない」と繰り返した。
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東北比例 公明「1」自民「5」民主4減「3」未来「1」
河北新報2012年12月17日月曜日
比例東北は、自民が前回より1議席多い5議席を獲得し第1党に返り咲いた。民主は前回から4議席減らし3議席の大惨敗。初挑戦の第三極勢力は維新が2人、未来とみんなは各1人が復活当選した。比例単独で臨んだ公明と共産は各1議席を死守した。社民は1996年に小選挙区比例代表並立制が導入されて以来、初めて議席を失った。
自民は名簿1位に並べた24人中19人が小選挙区で当選したため、選挙区で敗れた5人全員が復活した。内訳は岩手3人、宮城1人、福島1人。
岩手1区の新人高橋比奈子さん(54)は盛岡市の事務所で「有権者に思いが届いた」と感極まった表情で話した。岩手3区の新人橋本英教さん(45)は大船渡市の事務所で「長い間、支えていただき感謝したい」と深々と頭を下げた。
岩手4区の新人藤原崇さん(29)は北上市の事務所で「岩手と日本を変える」と喜びを爆発させた。未来の前議員小沢一郎さん(70)を相手に大善戦し「小沢王国」の本丸に地歩を築いた。
維新は元参院議員で福島4区の新人小熊慎司さん(44)が名簿1位で早々と復活当選を決めた。未来は岩手2区の前議員畑浩治さん(49)が惜敗率1位で復活し「厳しい戦いだった」と振り返った。みんなは宮城1区の新人林宙紀さん(35)が議席を獲得した。
◎公明、悲願届かず
公明党は比例東北で1議席を守り抜き、党幹事長で前議員の井上義久さん(65)が7選を果たした。目標に掲げた悲願の2議席目には、今回も届かなかった。
党本部に詰める井上さんの留守を預かった党宮城県本部(仙台市若林区)では、当選確実の報が入ると拍手がわき、集まった支持者の間にほっとした空気が広がった。
名簿順位2位の新人真山祐一さん(31)は井上さんとともに東北を行脚し、「復興の先頭に立たせてほしい」と訴え続けたが、及ばなかった。
◆ 納まるべきところに納まった衆院選挙結果/早期に憲法改正に取り掛かって貰いたい/謝罪外交は断ち切ろう 2012-12-17 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
〈来栖の独白2012/12/17 Mon. 〉
昨日の衆議院選挙結果は、「納まるべきところに納まった」という感じだ。とりわけ外交・防衛の問題は民主党政権には任せられないから、自民党が三分の二以上の議席を確保したのは喜ばしい。
この上は、早期に憲法改正に取り掛かってもらいたい。厳密に言うなら「改正」ではなく、現憲法破棄、新憲法創設だ。先ず憲法96条を改正してから、という考えもあるのかもしれないが、日本を取り巻く領土・領海の問題は一刻の猶予もならぬほど緊迫している。
アメリカにおいてもブッシュ政権の後半頃から、日本国憲法改正を望む声は高くなった。現在の自縄自縛憲法では集団的自衛権はあっても行使はできず、アメリカが日本を守るだけ(片務)だからだ。
戦勝国から宛がわれた憲法は廃棄して、国際社会の通念上からも真っ当と見られる憲法、半国家ではなく、領土・領海を守ろうとする普通の国家を建設しよう。謝罪外交は断ち切ろう。
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自公圧勝 国家再生へ責任は重い 安倍氏は現実重視の道歩め
2012.12.17 05:49 [主張]
3年余にわたる民主党政権の迷走と停滞に、ようやく終止符を打つことができた。
第46回衆院選は、自民党が公明党と併せて参院で否決された法案を衆院で再可決できる320議席を確保する圧勝となった。民主党は壊滅的敗北を喫し、日本の舵取りは再び自公両党に託された。
日本は内外ともに危機的な状況に直面しており、今月下旬に発足する安倍晋三政権の責任は極めて重い。
自民党への雪崩現象が生じたのは、民主党政権に対する不信と批判が強かったのはむろんだが、安倍氏の「強い日本を取り戻す」などの危機克服に向けた訴えが国民に支持されたことが大きい。
≪信失い惨敗した民主党≫
安倍氏は政治への信頼を回復することに加え、国家の立て直しに邁進(まいしん)してもらいたい。
留意すべきは、国論を二分する政策課題について国民が現実的な判断を下したといえることだ。
尖閣諸島の実効統治強化策について自民党は国家公務員常駐などを掲げた。民主党は「中国を刺激する」などと強化策を否定し、自民党の主張を「排外主義」と批判したが、国民は中国の攻勢に何もしない方策よりも、領土・主権を具体的に守ることを選んだ。
原発・エネルギー政策では民主党など多くの政党が「脱原発」を掲げ、「原発ゼロ」の時期を競い合う論争を展開したが、自民党は「無責任な議論」と批判した。
安倍氏も「安全性が確認されれば必要な原発は再稼働する」と語った。産業空洞化を回避し、安価で安定的な電力供給には再稼働が欠かせないとの現実的判断が評価されたといえる。
野田佳彦首相は民主党惨敗の責任を取って党代表辞任を表明した。党は既に国民の信や政権の正統性を失っていた。ばらまき政策を並べた政権公約は破綻し、公約にない消費税増税法を通したことへの反発は強く、明確な「即時退場」を突き付けられた。
ただ、参院のねじれ状態は解消されておらず、新政権は社会保障・税の一体改革で民自公による三党合意を尊重する必要がある。
第三極勢力の日本維新の会は既成政党への批判の受け皿となり、主要政党の仲間入りを果たした。日本未来の党は惨敗した。
注目したいのは、憲法改正草案を既にまとめている自民党に加え、自主憲法制定を掲げた維新、さらに改憲の方向性を示しているみんなの党と、新憲法を志向する勢力が大量の議席を占めたことである。今回の政権枠組みに結びつくものではないとしても、国のありようを根本的に変える憲法をめぐる政界再編の潮流が拡大する可能性を秘めている。
安倍氏が唱えた外交立て直しの主眼は、民主党政権が普天間飛行場移設問題の迷走などで悪化させた日米関係を修復し、同盟を強化・充実することにある。
≪多数を占めた改憲勢力≫
安倍氏は16日夜、早期訪米とオバマ大統領との信頼構築に意欲を示した。弾道ミサイル発射を強行した北朝鮮や中国への対応で速やかに緊密な連携を図ることが必要だ。焦点は、公約にも挙げた集団的自衛権の行使容認にある。公明党は慎重だが、新政権は行使を禁じている憲法解釈の変更に踏み込むべきだ。
保守を志向する安倍カラーを新政権としてどう打ち出していくのかも問われる。
6年前の首相当時、安倍氏は教育基本法改正、防衛庁の省昇格、国民投票法成立を果たした。やり残した大きな仕事は靖国神社参拝と政府の歴史認識見直しだ。
安倍氏は靖国参拝について「国の指導者が参拝し、英霊に尊崇の念を表するのは当然」とし、首相在任中に参拝しなかったことを「痛恨の極み」と述べている。
根拠なしに慰安婦強制連行を認めた平成5年の河野洋平官房長官談話についても「私たちの子孫にこの不名誉を背負わせるわけにはいかない」と新たな談話を出す必要性を主張している。
首相当時に「強制連行を直接示す資料はない」との政府答弁書を閣議決定したものの「広義の強制性があった」として河野談話を踏襲し、不徹底さも指摘された。
保守色を打ち出した「安倍自民党」に期待した有権者も多いはずだ。謝罪外交を断ち切るため、従来の政府見解などをいかに見直していくかも重要課題となる。
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◆『憲法が日本を亡ぼす』古森義久著 海竜社 2012年11月15日 第1刷発行
はじめに 国家が国民を守れない半国家
p1〜
○世界でも異端な日本憲法
「日本は国際社会のモンスターというわけですか。危険なイヌはいつまでも鎖につないでおけ、というのに等しいですね」
アメリカ人の中堅学者ベン・セルフ氏のこんな発言に、思わず、うなずかされた。日本は世界でも他に例のない現憲法を保持しつづけねばならないという主張に対して、セルフ氏が反論したのだった。
p2〜
だがその改憲、護憲いずれの立場にも共通していたのは、日本の憲法が自国の防衛や安全保障をがんじがらめに縛りつけている点で、世界でも異端だという認識だった。
p3〜
事実、日本国憲法は「国権の発動としての戦争」はもちろんのこと、「戦力」も「交戦権」も、「集団的自衛権」もみずからに禁じている。憲法第9条を文字どおりに読めば、自国の防衛も、自国民の生命や財産の防衛も、同盟国アメリカとの共同の防衛も、国連平和維持のための防衛活動も、軍事力を使うことはなにもかもできないという解釈になる。日本には自衛のためでも、世界平和のためでも、「軍」はあってはならないのだ。
○日本は「危険な」イヌなのか?
現実には日本はその普通の解釈の網目をぬう形で自衛隊の存在を「純粋な自衛なら可能」という概念をどうにか認めているだけである。だが、イラクに駐留した自衛隊がいかなる戦闘も許されず、バングラデシュの軍隊に守ってもらわねばならなかったという異様な状況こそが、日本国憲法の本来の姿なのだ。
自縄自縛とはこのことだろう。いまの世界ではどの主権国家にとっても自国の領土や自国民の生命を守るために防衛行動、軍事行動を取るという権利は自明とされる。いや、自国や自国民を守る意思や能力や権利があってこそ、国家が国家たりうる要件だろう。国民にとっての国家の責務でもある。
だが日本にはその権利がない。その点では日本は半国家である。ハンディキャップ国家とも評される。国際的にみて明らかに異常なこんな状態がなぜ日本だけで続くのか。
「いまの日本は古代ギリシャの猛将ユリシーズが柱に縛られた状態ともいえるでしょう」
p4〜
「アメリカも日本が憲法を改正して集団的自衛権を行使できるようにすることを求めると、やがて後悔するかもしれません。悪魔がいったんビンから出ると、もう元には戻らないというたとえがあります」
日本を悪魔にまでたとえる、こうした趣旨の発言が続いたところで、冒頭に紹介したセルフ氏の言葉が出たのだった。
彼は次のようにも述べていた。
「全世界の主権国家がみな保有している権利を日本だけに許してはならないというのは、日本国民を先天的に危険な民族と暗に断じて信頼しないという偏見であり、差別ですね」
p5〜
○アメリカによる押しつけ憲法
本書で詳述するように、日本国憲法は完全なアメリカ製である。しかも日本がアメリカの占領下にある時期にアメリカ側によって書かれ、押しつけられた。米側としては憲法での最大の目的は日本を二度と軍事強国にしないことだった。そのためには主権国家としての最低要件となる自衛の権利までをも奪おうとしていた。
p6〜
あの激しい日米間の戦争を考えれば、まったく理不尽な目的だったともいえないだろう。
しかし、日本側でも憲法は長年、国民多数派の支持を得てきた。とくに日本を世界の異端児とする憲法9条への支持が強かった。(略)
アメリカの政策や日米同盟に反対し、ソ連や共産主義に傾く左翼勢力がとくに現憲法の堅持を強く叫んだ。日本国憲法を「平和憲法」と呼び、それに反対したり、留保をつける側はあたかも平和を嫌う勢力であるかのように描いて見せるレトリック戦術も、左翼が真っ先に推し進めた。
アメリカがつくった憲法を反米勢力が最も強く守ろうとしたことは皮肉だった。だがこの憲法の半国家性をみれば、現体制下での国家の力を弱めておくことが反体制派の政治目的に会うことは明白だった。
p70〜
第3章 外敵には服従の「8月の平和論」
1 日本の「平和主義」と世界の現実
○内向きで自虐の「8月の平和論」
日本とアメリカはいうまでもなく同盟国同士である。だが、そもそも同盟国とはなんなのか。
同名パートナーとは、まず第1に安全保障面でおたがいに助け合う共同防衛の誓約を交し合った相手である。なにか危険が起きれば、いっしょに守りましょう、という約束が土台となる。
p72〜
日本では毎年、8月になると、「平和」が熱っぽく語られる。その平和論は「戦争の絶対否定」という前提と一体になっている。
8月の広島と長崎への原爆投下の犠牲者の追悼の日、さらには終戦記念日へと続く期間、平和の絶対視、そして戦争の絶対否定が強調されるわけだ。(略)
日本の「8月の平和」は、いつも内向きの悔悟にまず彩られる。戦争の惨状への自責や自戒が主体となる。とにかく悪かったのは、わが日本だというのである。「日本人が間違いや罪を犯したからこそ、戦争という災禍をもたらした」という自責が顕著である。
その自責は、ときには自虐にまで走っていく。(略)そして、いかなる武力の行使をも否定する。
p73〜
8月の平和の祈念は、戦争犠牲者の霊への祈りとも一体となっているのだ。戦争の悲惨と平和の恩恵をとにかく理屈抜きに訴えることは、それなりに意義はあるといえよう。
○「奴隷の平和」でもよいのか
だが、この内省に徹する平和の考え方を日本の安全保障の観点からみると、重大な欠落が浮かび上がる。国際的にみても異端である。
日本の「8月の平和論」は平和の内容を論じず、単に平和を戦争や軍事衝突のない状態としかみていないのだ。その点が重大な欠落であり、国際的にも、アメリカとくらべても、異端なのである。
日本での大多数の平和への希求は、戦争のない状態を保つことへの絶対性を叫ぶだけに終わっている。守るべき平和の内容がまったく語られない点が特徴である。
「平和というのは単に軍事衝突がないという状態ではありません。あらゆる個人の固有の権利と尊厳に基づく平和こそ正しい平和なのです」
この言葉はアメリカのオバマ大統領の言明である。2009年12月10日、ノーベル平和賞の受賞の際の演説だった。
p74〜
平和が単に戦争のない状態を指すならば、「奴隷の平和」もある。国民が外国の支配者の隷属の下にある、あるいは自国でも絶対専制の独裁者の弾圧の下にある。でも、平和ではある。
あるいは「自由なき平和」もあり得る。戦争はないが、国民は自由を与えられていない。国家としての自由もない。「腐敗の平和」ならば、統治の側が徹底して腐敗しているが、平和は保たれている。
さらに「不平等の平和」「貧困の平和」といえば、一般国民が経済的にひどく搾取されて、貧しさをきわめるが、戦争だけはない、ということだろう。
日本の「8月の平和論」では、こうした平和の質は一切問われない。とにかく戦争さえなければよい、という大前提なのだ。
その背後には軍事力さえなくせば、戦争はなく、平和が守られるというような情緒的な志向がちらつく。
2010年の8月6日の広島での原爆被災の式典で、秋葉忠利市長(当時)が日本の安全保障の枢要な柱の「核のカサ」、つまり核抑止を一方的に放棄することを求めたのも、その範疇だといえる。
自分たちが軍備を放棄すれば他の諸国も同様に応じ、戦争や侵略は起きない、という非武装の発想の発露だろう。
p75〜
○オバマ大統領の求める「平和」との違い
平和を守るための、絶対に確実な方法というのが1つある。それは、いかなる相手の武力の威嚇や行使にも一切、抵抗せず、相手の命令や要求に従うことである。
そもそも戦争や軍事力の行使は、それ自体が目的ではない。あくまでも手段である。国家は戦争以外の何らかの目的があってこそ、戦争という手段に走るのだ。
戦争によって自国の領土を守る。あるいは自国領を拡大する。経済利益を増す。政治的な要求を貫く。
こうした多様な目標の達成のために、国家は多様な手段を試みる。そして平和的な方法ではどうにも不可能と判断されたときに、最後の手段として戦争、つまり軍事力の行使にいたるのである。それが戦争の構造だといえる。
だから攻撃を受ける側が相手の要求にすべて素直に応じれば、戦争は絶対に起きない。要求を受け入れる側の国家や国民にとっては服従や被支配となるが、戦争だけは起きない、という意味での「平和」は守られる。
日本の「8月の平和論」はこの範疇の非武装、無抵抗、服従の平和とみなさざるを得ない。なぜなら、オバマ大統領のように、あるいは他の諸国のように、平和に一定の条件をつけ、その条件が守られないときは、一時、平和を犠牲にして戦うこともある、という姿勢はまったくないからだ。
オバマ大統領は前記のノーベル賞受賞演説で、戦争についても語った。「正義の戦争」という概念だった。
「正義の戦争というのは存在します。国家間の紛争があらゆる手段での解決が試みられて成功しない場合、武力で解決するというケースは歴史的にも受け入れられてきました。武力の行使が単に必要というだけでなく、道義的にも正当化されるという実例は多々あります。第2次世界大戦でアメリカをはじめとする連合国側がナチスの第3帝国を(戦争で)打ち破ったのは、その(戦争の)正当性を立証する最も顕著な例でしょう」
オバマ大統領はこうした趣旨を述べて、アメリカが続けるアフガニスタンでの戦争も、アメリカに対する9・11同時テロの実行犯グループへの対処として、必要な戦争なのだと強調するのだった。
これが国際的な現実なのである。決してアメリカだけではない。どの国家も自国を守るため、あるいは自国の致命的な利益を守るためには、最悪の場合、武力という手段にも頼る、という基本姿勢を揺るがせにしていない。それが国家の国民に対する責務とさえみなされているのだ。
p77〜
だから「8月の平和論」も、この世界の現実を考えるべきだろう。その現実から頭をもたげてくる疑問の1つは、「では、もし日本が侵略を受けそうな場合、どうするのか」である。
日本の領土の一部を求めて、特定の外国が武力の威嚇をかけてきた場合、「8月の平和論」に従えば、一切の武力での対応も、その意図の表明もしてはならないことになる。
だが、現実には威嚇を実際の侵略へとつなげないためには、断固たる抑止が有効である。相手がもし反撃してくれば、こちらも反撃をして、手痛い損害を与える。その構えが相手に侵略を思い留まらせる。戦争を防ぐ。それが抑止の論理であり、現実なのである。
この理論にも、現実にも、一切背を向けているのが、日本の「8月の平和論」のようにみえるのだ。そしてそのことがアメリカとの同盟関係の運営でも、折に触れて障害となるのである。
p78〜
2 日本のソフト・パワーの欠陥
○ハード・パワーは欠かせない
「日本が対外政策として唱えるソフト・パワーというのは、オキシモーランです」
ワシントンで、こんな指摘を聞き、ぎくりとした。
英語のオキシモーラン(Oxymoron)という言葉は「矛盾語法」という意味である。たとえば、「晴天の雨の日」とか「悲嘆の楽天主義者」というような撞着の表現を指す。つじつまの合わない、相反する言葉づかいだと思えばよい。(略)
p79〜
日本のソフト・パワーとは、国際社会での安全保障や平和のためには、軍事や政治そのものというハードな方法ではなく、経済援助とか対話とか文化というソフトな方法でのぞむという概念である。その極端なところは、おそらく鳩山元首相の「友愛」だろう。とくに日本では「世界の平和を日本のソフト・パワーで守る」という趣旨のスローガンに人気がある。
ところが、クリングナー氏はパワーというのはそもそもソフトではなく、堅固で強固な実際の力のことだと指摘するのだ。つまり、パワーはハードなのだという。そのパワーにソフトという形容をつけて並列におくことは語法として矛盾、つまりオキシモーランだというのである。
クリングナー氏が語る。
「日本の識者たちは、このソフト・パワーなるものによる目に見えない影響力によって、アジアでの尊敬を勝ち得ているとよく主張します。しかし、はたからみれば、安全保障や軍事の責任を逃れる口実として映ります。平和を守り、戦争やテロを防ぐには、安全保障の実効のある措置が不可欠です」
p80〜
確かにこの当時、激しく展開されていたアフガニスタンでのテロ勢力との戦いでも、まず必要とされるのは軍事面での封じ込め作業であり、抑止だった。日本はこのハードな領域には加わらず、経済援助とかタリバンから帰順した元戦士たちの社会復帰支援というソフトな活動だけに留まっていた。(略)
クリングナー氏の主張は、つまりは、日本は危険なハード作業はせず、カネだけですむ安全でソフトな作業ばかりをしてきた、というわけだ。最小限の貢献に対し最大限の受益を得ているのが、日本だというのである。
「安全保障の実現にはまずハード・パワーが必要であり、ソフト・パワーはそれを側面から補強はするでしょう。しかし、ハード・パワーを代替することは絶対にできません」
p81〜
となると、日本が他の諸国とともに安全保障の難題に直面し、自国はソフト・パワーとしてしか機能しないと宣言すれば、ハードな作業は他の国々に押しつけることを意味してしまう。クリングナー氏は、そうした日本の特異な態度を批判しているのだった。(略)
p82〜
しかし、日本が国際安全保障ではソフトな活動しかできない、あるいは、しようとしないという特殊体質の歴史をさかのぼっていくと、どうしても憲法にぶつかる。
憲法9条が戦争を禁じ、戦力の保持を禁じ、日本領土以外での軍事力の行使はすべて禁止しているからだ。現行の解釈は各国と共同での国際平和維持活動の際に必要な集団的自衛権さえも禁じている。前項で述べた「8月の平和論」も、たぶんに憲法の影響が大きいといえよう。
日本の憲法がアメリカ側によって起草された経緯を考えれば、戦後の日本が対外的にソフトな活動しか取れないのは、そもそもアメリカのせいなのだ、という反論もできるだろう。アメリカは日本の憲法を単に起草しただけではなく、戦後の長い年月、日本にとっての防衛面での自縄自縛の第9条を支持さえしてきた。日本の憲法改正には反対、というアメリカ側の識者も多かった。
ところがその点でのアメリカ側の意向も、最近はすっかり変わってきたようなのだ。共和党のブッシュ政権時代には、政府高官までが、日米同盟をより効果的に機能させるには日本が集団的自衛権を行使できるようになるべきだ、と語っていた。
p83〜
オバマ政権の中盤から後半にかけての時期、アメリカ側では、日本が憲法を改正したほうが日米同盟のより効果的な機能には有利だとする意見が広がり、ほぼ超党派となってきたようなのだ。
p158〜
第6章 防衛強化を迫るアメリカ
2 日本の中距離ミサイル配備案
○中国膨張がアジアを変えた
「日本は中国を射程におさめる中距離ミサイルの配備を考えるべきだ」---。
アメリカの元政府高官ら5人によるこんな提言がワシントンで発表された。20011年9月のことである。
日米安保関係の長い歴史でも、前例のないショッキングな提案だった。日本側の防衛政策をめぐる現状をみれば、とんでもない提案だとも言えよう。憲法上の制約という議論がすぐに出てくるし、そもそも大震災の被害から立ち直っていない日本にとって、新鋭兵器の調達自体が財政面ではまず不可能に近い。
しかし、この提案をしたアメリカ側の専門家たちは、歴代の政権で日本を含むアジアの安全保障に深くかかわってきた元高官である。日本の防衛の現実を知らないはずがない。
p162〜
中国は射程約1800キロの準中距離弾道ミサイル(MRBM)の主力DF21Cを90基ほど配備して、非核の通常弾頭を日本全土に打ち込める能力を有している。同じ中距離の射程1500キロ巡航ミサイルDH10も総数400基ほどを備えて、同様に日本を射程におさめている。米国防総省の情報では、中国側のこれら中距離ミサイルは台湾有事には日本の嘉手納、横田、三沢などの米空軍基地を攻撃する任務を与えられているという。
しかし、アメリカ側は中国のこれほどの大量の中距離ミサイルに対して、同種の中距離ミサイルを地上配備ではまったく保有していない。1章で述べたとおり、アメリカは東西冷戦時代のソ連との軍縮によって中距離ミサイルを全廃してしまったのだ。ロシアも同様である。
p163〜
だからこの階級のミサイルを配備は、いまや中国の独壇場なのである。
「中国は日本を攻撃できる中距離ミサイルを配備して、脅威を高めているが、日本側ももし中国のミサイルを攻撃を受けた場合、同種のミサイルをで即時に中国の要衝を攻撃できる能力を保持すれば、中国への効果的な抑止力となる」
衝突しうる2国間の軍事対立では力の均衡が戦争を防ぐという原則である。抑止と均衡の原則だともいえる。
実際にアメリカとソ連のかつての対立をみても、中距離ミサイルは双方が均衡に近い状態に達したところで相互に全廃とという基本が決められた。一方だけがミサイル保有というのでは、全廃や削減のインセンティブは生まれない。だから、中国の中距離ミサイルを無力化し、抑止するためには日本側も同種のミサイルを保有することが効果的だというのである。
日本がこの提案の方向へと動けば、日米同盟の従来の片務性を減らし、双務的な相互防衛へと近づくことを意味する。アメリカも対日同盟の有効な機能の維持には、もはや日本の積極果敢な協力を不可欠とみなす、というところまできてしまったようなのである。
p164〜
3 アメリカで始まる日本の核武装論議
○中国ミサイルをの脅威
アメリカ議会の有力議員が日本に核武装を考え、論じることを促した。日本側で大きくは取り上げられはしなかったが、さまざまな意味で衝撃的な発言だった。アメリカ連邦議会の議員がなかば公開の場で、日本も核兵器を開発することを論議すべきだと、正面から提言したことは、それまで前例がなかった。
この衝撃的な発言を直接に聞いたのは、2011年7月10日からワシントンを訪れた拉致関連の合同代表団だった。
p165〜
さて、この訪米団は、7月14日までアメリカ側のオバマ政権高官たちや、連邦議会の上下両院議員ら合計14人と面会し、新たな協力や連帯への誓約の言葉を得た。核武装発言はこの対米協議の過程で11日、下院外交委員会の有力メンバー、スティーブ・シャボット議員(共和党)から出たのだった。
p166〜
続いて、東祥三議員がアメリカが北朝鮮に圧力をかけることを要請し、後に拉致問題担当の国務大臣となる松原議員がオバマ政権が検討している北朝鮮への食糧援助を実行しないように求めた。
シャボット議員も同調して、北朝鮮には融和の手を差し伸べても、こちらが望む行動はとらず、むしろこちらが強硬措置をとったときに、譲歩してくる、と述べた。
p167〜
○日本の核武装が拉致を解決する
そのうえでシャボット議員は、次のように発言した。
「北朝鮮の核兵器開発は韓国、日本、台湾、アメリカのすべてにとって脅威なのだから、北朝鮮に対しては食糧も燃料も与えるべきではありません。圧力をかけることに私も賛成です」
「私は日本に対し、なにをすべきだと述べる立場にはないが、北朝鮮に最大の圧力をかけられる国は中国であり、中国は日本をライバルとしてみています」
「だから、もし日本が自国の核兵器プログラムの開発を真剣に考えているとなれば、中国は日本が核武装を止めることを条件に、北朝鮮に核兵器の開発を止めるよう圧力をかけるでしょう」
肝心な部分はこれだけの短い発言ではあったが、その内容の核心はまさに日本への核武装の勧めなのである。北朝鮮の核兵器開発を停止させるために、日本も核兵器開発を真剣に考えるべきだ、というのである。
そしてその勧めの背後には、北朝鮮が核開発を止めるほどの圧力を受ければ、当然、日本人拉致でも大きな譲歩をしてくるだろう、という示唆が明らかに存在する。
p168〜
つまりは北朝鮮に核兵器開発と日本人拉致と両方での譲歩を迫るために、日本も独自に核武装を考えよ、と奨励するのである。
日本の核武装は中国が最も嫌がるから、中国は日本が核武装しそうになれば、北朝鮮に圧力をかけて、北の核武装を止めさせるだろう、という理窟だった。
* 古森 義久 Yoshihisa Komori
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◆『なぜアメリカは日本に二発の原爆を落としたのか』日高義樹著《ハドソン研究所首席研究員》 2012年07月25日1刷発行 PHP研究所
p1〜
まえがき
日本の人々が、半世紀以上にわたって広島と長崎で毎年、「二度と原爆の過ちは犯しません」と、祈りを捧げている間に世界では、核兵器を持つ国が増えつづけている。アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国に加えて、イスラエル、パキスタン、インドの3ヵ国がすでに核兵器を持ち、北朝鮮とイランが核兵器保有国家の仲間入りをしようとしている。
日本周辺の国々では核兵器だけでなく、原子力発電所も大幅に増設されようとしている。中国は原子力発電所を100近く建設する計画をすでに作り上げた。韓国、台湾、ベトナムも原子力発電所を増設しようとしているが、「核兵器をつくることも考えている」とアメリカの専門家は見ている。
このように核をめぐる世界情勢が大きく変わっているなかで日本だけは、平和憲法を維持し核兵器を持たないと決め、民主党政権は原子力発電もやめようとしている。
核兵器を含めて武力を持たず平和主義を標榜する日本の姿勢は、第2次大戦後、アメリカの強大な力のもとでアジアが安定していた時代には、世界の国々から認められてきた。だがアメリカがこれまでの絶対的な力を失い、中国をはじめ各国が核兵器を保有し、独自の軍事力をもちはじめるや、日本だけが大きな流れのなかに取り残された孤島になっている。
ハドソン研究所で日本の平和憲法9条が話題になったときに、ワシントン代表だったトーマス・デュースターバーグ博士が「日本の平和憲法はどういう規定になっているか」と私に尋ねた。
「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」
私がこう憲法9条を読み上げると、全員が顔を見合わせて黙ってしまった。一息おいてデュースターバーグ博士が、こういった。
「おやおや、それでは日本は国家ではないということだ」
これは非公式な場の会話だが、客観的に見ればこれこそ日本が、戦後の半世紀以上にわたって自らとってきた立場なのである。
このところ日本に帰ると、若い人々が口々に「理由のはっきりしない閉塞感に苛立っている」と私に言う。私には彼らの苛立ちが、日本が他の国々とあまりに違っているので、日本が果たして国家なのか確信が持てないことから来ているように思われる。世界的な経済学者が集まる会議でも、日本が取り上げられることはめったにない。日本は世界の国々から無視されることが多くなっている。
日本はなぜこのような国になってしまったのか。なぜ世界から孤立しているのか。このような状況から抜け出すためには、どうするべきか。 *強調(太字・着色)は来栖
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◆ 慰安婦問題 偽りの河野談話破棄せよ 国際社会の誤解解く努力を 2012-09-01 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
慰安婦問題 偽りの河野談話破棄せよ 国際社会の誤解解く努力を
産経ニュース2012.9.1 03:18 [主張]
慰安婦の強制連行を認めた河野洋平官房長官(当時)談話の見直しを求める声が高まっている。李明博韓国大統領が竹島不法上陸の理由として慰安婦問題への日本の対応に不満を示したことによる。
野田佳彦政権は河野談話を再検証したうえで、談話の誤りを率直に認め、それを破棄する手続きを検討すべきだ。
河野談話は、自民党の宮沢喜一内閣が細川護煕連立内閣に代わる直前の平成5年8月4日に発表された。「従軍慰安婦」という戦後の造語を使い、その募集に「官憲等が直接これに加担したこともあった」などという表現で、日本の軍や警察による強制連行があったと決めつけた内容である。
≪見直し論の広がり歓迎≫
公権力による強制があったとの偽りを国内外で独り歩きさせ、慰安婦問題をめぐる韓国などでの反日宣伝に誤った根拠を与えた。
しかし、それまでに日本政府が集めた二百数十点に及ぶ公式文書の中には強制連行を裏付ける資料はなく、談話発表の直前に行った韓国人元慰安婦16人からの聞き取り調査だけで強制連行を認めたことが後に、石原信雄元官房副長官の証言で明らかになった。
今回、李大統領の竹島上陸後、最初に河野談話の問題点を指摘したのは大阪市の橋下徹市長だ。橋下氏は「慰安婦が日本軍に暴行、脅迫を受けて連れてこられた証拠はない」「河野談話は証拠に基づかない内容で、日韓関係をこじらせる最大の元凶だ」と述べた。
安倍晋三元首相も本紙の取材に「大変勇気ある発言」と市長を評価し、河野談話などを見直して新たな談話を発表すべきだとの考えを示した。東京都の石原慎太郎知事も河野談話を批判した。参院予算委員会でも、松原仁国家公安委員長が河野談話について「閣僚間で議論すべきだ」と提案した。
こうした河野談話見直し論の広がりを歓迎したい。
石原元副長官が本紙などに河野談話の舞台裏を語ったのは、談話発表から4年後の平成9年3月だ。同じ月の参院予算委員会で、当時、内閣外政審議室長だった平林博氏は、元慰安婦の証言の裏付け調査が行われなかったことも明らかにした。
談話に基づく強制連行説が破綻した後も、それを踏襲し続けた歴代内閣の責任は極めて重い。談話の元になった韓国人元慰安婦の証言をいまだに公開していないのも、国民への背信行為である。
安倍内閣の下で、河野談話を事実上検証する作業が行われたこともある。米下院で慰安婦問題をめぐる対日非難決議案が審議されていた時期の平成19年3月、「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示す記述は見当たらなかった」との政府答弁書を閣議決定した。
≪当事者は「真実」語れ≫
決議案には、「日本軍は第二次大戦中に若い女性たちを強制的に性奴隷にした」など多くの事実誤認の内容が含まれていた。
これに対し、安倍首相は「官憲が家に押し入って人さらいのごとく連れていくという強制性はなかった」と狭義の強制性を否定し、「米下院の決議が採択されたからといって、われわれが謝罪することはない」と明言した。一方で、「間に入った業者が事実上強制していたケースもあったという意味で、広義の強制性があった」とも述べ、河野談話を継承した。
だが、この安倍首相発言の趣旨は当時のブッシュ政権や米国社会に十分に理解されなかった。中途半端な対応ではなかったか。
今夏、アーミテージ元米国務副長官ら超党派の外交・安全保障専門家グループが発表した日米同盟に関する報告にも、「日本は韓国との歴史問題に正面から取り組むべきだ」との文言がある。
こうした誤解を解くため、日本は河野談話の誤りを米国など国際社会に丁寧に説明する外交努力を粘り強く重ねなければならない。河野氏が記者会見で強制連行を認めたのが問題の発端だ。国会は河野氏らを証人喚問し、談話発表の経緯を究明する必要がある。
安倍氏は河野談話に加え、教科書で近隣諸国への配慮を約束した宮沢喜一官房長官談話、アジア諸国に心からのおわびを表明した村山富市首相談話も見直す考えを表明している。今月行われる民主党代表選や自民党総裁選で、一連の歴史問題をめぐる政府見解に関する論戦を期待したい。
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慰安婦関係調査結果発表に関する 河野内閣官房長官談話
平成5年8月4日
いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来たが、今般その結果がまとまったので発表することとした。
今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。
なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。
いずれにしても、本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。また、そのような気持ちを我が国としてどのように表すかということについては、有識者のご意見なども徴しつつ、今後とも真剣に検討すべきものと考える。
われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。
なお、本問題については、本邦において訴訟が提起されており、また、国際的にも関心が寄せられており、政府としても、今後とも、民間の研究を含め、十分に関心を払って参りたい。
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