「地下原発」推進 反菅ズラリ 不信任騒動渦中に議連発足
特報 中日新聞2011/06/16Thu.
深刻な大震災や福島第一原発事故のさなかに国民をあきれさせた菅直人内閣の不信任騒動。その渦中の5月31日、超党派による「地下式原子力発電所政策推進議連」が発足した。「脱原発」の逆風が吹きつける原発を臨海部の山の地下に造って進めようという動きだ。だが、主要メンバーをみると、「菅降ろし」を画策してきた首相経験者も名を連ねる。地下原発議連の狙いとは。(佐藤圭、篠ケ瀬祐司)
本紙が入手した地下原発議連の名簿には、民主、自民、公明、みんな、国民新、たちあがれ日本、新党改革の各党と無所属の計49人が並ぶ。反原発を掲げる共産、社民両党以外の主要政党が顔をそろえた。
会長は、たちあがれ日本代表で元経済産業相の平沼赳夫氏。顧問は、民主党の鳩山由紀夫前首相、羽田孜元首相、石井一副代表、渡辺恒三最高顧問、自民党からは谷垣禎一総裁、森喜朗元首相、国民新党は亀井静香代表らの9人。
初会合は5月31日、衆院第一議員会館の地下1階会議室で開かれ、平沼、森、石井の各氏ら約20人が出席した。今月末にも2回目の会合を予定しているという。
原発を地下に造るという発想は、突如浮上したわけではない。自民党の三木武夫政権の1975年、資源エネルギー庁で研究が始まった。
当時から反原発運動などで地上での新規立地は難航していた。地上式では建設が難しい臨海部の急峻な未利用地まで選択の幅を広げるのが狙いだった。81年には、同庁の検討委員会が「技術的、経済的にも可能」とする報告書をまとめた。
しかし、電力会社は「原発は危険だから地下に造ると思われる」「地上立地の妨げになる」との理由で消極的な姿勢を崩さなかった。これに不満を持った平沼氏ら自民党有志が91年、党内に「地下原子力発電所研究議員懇談会」を結成したものの、電力会社の協力を取り付けることはできなかった。
今回の地下原発議連は、福島第一原発事故で地上での新規立地や増設はおろか、既存原発の存続も危うくなる中、かつての自民党の懇談会メンバーを中心に、与野党の原発推進派が結集した恰好だ。
*倒閣拠点? 超党派で終結
地下原発議連は、発足のタイミングから、不信任騒動との関連が取りざたされた。与野党の原発推進派が、原子力政策の見直しに傾斜した菅直人首相を引きずり降ろそうとしたのではないか。「原発推進大連立」の拠点が地下原発議連ではないか・・・・と。
実際、谷垣、安倍、鳩山の各氏は「菅降ろし」の急先鋒。顧問以外のメンバーを見ると、不信任賛成に動いた民主党の小沢一郎元代表に近い西岡武夫参院議長、山岡賢次副代表、松木謙公衆院議員(民主党除名)らが入っている。
事務局長を努める自民党の山本拓衆院議院は、「原発銀座」と呼ばれる福井県選出だ。山本氏は「菅降ろし」を視野に入れた動きとの見方について「特に意識はしなかったが、メンバーを見ると、不信任に賛成しそうな人ばかりだった。昔の仲間が集まれば、大連立の話もするかもしれない」と含みを持たせる。
欧米で稼働例「地震、津波に強い」
そもそも地下原発とはどのようなものなのか。
←(臨海部の地下式原発)
↑ (地下式原発のイメージ図=公益社団法人土木学会原子力土木委員会の1996年の資料から)
地下原発議連の資料によると、全地下式の場合、臨海部の山の地下空洞に、原子炉やタービン発電機など主要施設を配置し、そこに取水・放水トンネルやケーブルトンネルがつながっている。
原子炉が設置される空洞は幅33?、高さ82?と巨大なものを想定。既存の地下揚水発電所などの空洞よりも25?ほど高いが、岩盤をコンクリートなどで補強すれば十分掘削は可能だとしている。
なぜ地下に原発を造ろうとするのか。
山本拓氏は「地下は地震と津波に強い」と利点を挙げる。「地表に比べて地下の揺れは小さい。福島第一原発も地下式にしていれば津波をかぶって電源を喪失することもなかったはずだ」
事故時の放射能対策でも、地下式は優れているという。議連資料では、土が30?かぶった原発(出力百万キロワット)で炉心を冷やす一次冷却水が失われる事故を想定。試算の結果、地表に出る放射性ヨウ素は、地上式の十万分の一になるとしている。「(岩盤などで)放射能を封じ込めていくのが地下原発だ」と山本氏は説明する。
建設費についても「かつては地下の方が地上より2割ほど高いといわれたが、今は建設コストも安くなっている」。地下に設けることで、原発を狙ったテロ対策にもなるという。
ただ、福島原発の事故が収束しない中での議論。「今は電力会社も資源エネルギー庁も、既存の原発をどうするかで手いっぱい。原発の新規立地を進めるなら地下も必要。今すぐどうこう(建設)ではなく、選択肢の一つとして地下原発の基準をつくておく」。山本氏は「将来への備え」を強調した。
地下原発は、実験炉や商業炉など閉鎖を含め欧米で6基の稼動例があるが、広がっていない。
地下原発の動きに対し、NPO法人「原子力資料情報室」の伴英幸共同代表は「放射性核廃棄物をどう処理するかという問題は、地下でもクリアできない」と指摘。
*NPO「衝撃力こもり危険」
安全性にも疑問を投げかける。「内部で爆発があった場合、衝撃力が内にこもる。圧力容器や格納容器が無事でも配管が壊れれば、大きな事故につながりかねない。そうなれば地上式より作業員が近寄りにくくなる」と、かえって危険な状態になるとみる。
津波の影響は受けないのか。「冷却が必要だから、原発は水から離れられない。地下式にしてもどこかで海とつながっており、津波の影響を受ける可能性は残る」
放射能の封じ込めについても「数十?の土がかぶっていたとしても、放射能は地上に抜けていくだろう」と、効果は限定的だと予測する。
再浮上してきた地下原発。「原子力に携わっている企業と『族議員』とが生き残り策を探っているようにしか見えない」と、伴氏は手厳しい。
地下原発議連の狙いについて、政治評論家の浅川博忠氏は「中心メンバーらは、地下原発を入り口にして、憲法や選挙制度の改正、政界再編なども視野に入れているのではないか」と分析している。
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《ちらつく原発タブー》 不信任案否決されたが、「菅降ろし」なぜ起きた2011-06-03 | 地震/原発
中日新聞 【特報(佐藤圭、小国智裕)2011/6/3Fri.】より抜粋 転写
*政策転換がきっかけに
今回の「不信任案政局」を振り返ると、菅首相が原子力政策の見直しに傾斜するのと呼応するように、自民、公明両党、民主党内の反菅勢力の動きが激化していったことが分かる。
首相は5月6日、中部電力に浜岡原発の原子炉をいったん停止するよう要請。同月18日には、電力会社の発電、送電部門の分離を検討する考えを表明した。
さらに事故の原因を調べる政府の「事故調査・検証委員会」を設置することを5月24日に決定。翌25日には外遊先のパリで、太陽光や風力など自然エネルギーの総電力に占める割合を2010年代の早期に20%へと拡大する方針も打ち出した。(略)
*旧態依然権力の影
実際、自民党の石原伸晃幹事長は6月2日、不信任案への賛成討論で「電力の安定供給の見通しもないまま、発送電の分離を検討」「日本の電力の3割が原発によって賄われているのに、科学的検証もないままやみくもに原発を止めた」と攻撃。菅降ろしの最大理由の一つが原発問題にあることを“告白”した。
民主党内でも、小沢一郎元代表周辺が5月の大型連休後、不信任案可決に向けた党内の署名集めなど多数派工作をスタートさせた。5月24日には、小沢氏と、菅首相を支持してきた渡部恒三最高顧問が「合同誕生会」を開催。渡部氏は、自民党時代から地元福島で原発を推進してきた人物だ。
日本経団連の米倉会長はこの間、首相の足を引っ張り続けた。浜岡停止要請は「思考の過程がブラックボックス」、発送電分離は「(原発事故の)賠償問題に絡んで出てきた議論で動機が不純」、自然エネルギーの拡大には「目的だけが独り歩きする」との発言を続けるという具合だ。
金子勝慶応大教授は、福島第1原発の事故について「財界中枢の東京電力、これにベッタリの経済産業省、長年政権を担当してきた自公という旧態依然とした権力が引き起こした大惨事だ」と指摘する。
金子氏は「不信任案政局」の背景をこう推測する。
「管首相は人気取りかもしれないが、自公や財界がいちばん手を突っ込まれたくないところに手を突っ込んだ。自公は事故の原因が自分たちにあることが明らかになってしまうと焦った。それを小沢氏があおったのではないか」
*政権不手際に矮小化?
戦後政治史を振り返ると、自民党と原発の関係は深い。
1954年、当時若手衆院議員だった中曽根康弘元首相が、「原子力の平和利用」うたい、原子力開発の関連予算を初めて提出、成立させた。保守合同で自民党が誕生した55年には、原子力基本法が成立。その後の自民党の原発推進政策につながっていった。
74年には田中角栄内閣の下で、原発などの立地を促す目的で、自治体に交付金を支出する電源三法交付金制度がつくられ、各地に原子炉を建設する原動力となる。
*今も続く蜜月関係
自民党と電力会社の蜜月関係は今も続く。
自民党の政治資金団体「国民政治協会」の2009年分の政治資金収支報告書を見てみると、9電力会社の会長、社長ら役員が個人献金をしている。
東電の勝俣会長と清水正孝社長は、それぞれ30万円。東北電力の高橋宏明会長は20万円、海輪誠社長は15万円。中国電力の福田督会長と山下隆社長はそれぞれ38万円を献金している。
会長、社長以外でも、東電では、6人の副社長全員が12〜24万円を、9人の常務のうち7人が献金していた。
・98年から昨年まで自民党参院議員を務めた加納時男氏は元東電副社長。党整調副会長などとしてエネルギー政策を担当し、原発推進の旗振り役を務めた。
民主党の小沢元代表も、東電とは縁が深い。
東電の社長、会長を務めた故平岩外四氏は、90年ら94年ま財界トップの旧経団連会長。90年、当時自民党幹事長だった小沢氏は、日米の草の根交流を目的として「ジョン万次郎の会」を設立したが、この際、平岩氏の大きな支援があったとされる。
「ジョン万次郎の会」は、財団法人「ジョン万次郎ホイットフィールド記念 国際草の根交流センター」に名を変えたが、今でも小沢氏が会長で、東電の勝俣会長は顧問の1人に名を連ねている。「原発事故は神様の仕業としか説明できない」などと東電擁護の発言をしている与謝野薫経済財政相も、現在は大臣就任のため休職扱いだが、副会長に就いていた。与謝野氏は政界入り前に日本原子力発電の社員だった経歴もある。
一方、電力会社の労働組合である電力総連は、民主党を支援している。労働組合とはいえ労使一体で、エネルギーの安定供給や地球温暖化対策などを理由に、原発推進を掲げてきた。原発で働いている組合員もいる。
また電力総連は、連合加盟の有力労組であり、民主党の政策に大きな影響を及ぼしてきた。
組織内議員も出していて、小林正夫参院議員は東京電力労組の出身。藤原正司参院議員は関西電力労組の出身だ。
つまり、エネルギー政策の見直しを打ち出した菅首相は、これだけの勢力を敵に回した可能性がある。
結局、菅首相は「死に体」となり、発送電分離や再生可能エネルギー拡大への道筋は不透明になった。
「フクシマ」を招いた原子力政策の問題点もうやむやになってしまうのか。すべてを「菅政権の不手際」と矮小化させるシナリオが進行しているようにみえる。
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◆アメリカの足の裏を舐めないと存続できない日本/米主導で原子力発電/発電用濃縮ウランの大半は米から輸入2011-05-30 | 地震/原発
「目くらまし」を見抜けぬ愚民国家
田中良紹の「国会探検」2011年5月17日 18:07
浜岡原発の停止要請は「目くらまし」だと前回書いた。ところがそれを「原子力政策の転換」と受け止める「おめでたい」論調が多いので呆れる。あのやり方はこの国の官僚が国民を支配するために使ってきた常套手段そのもので、見抜けなければ愚民と言うしかない。
福島原発の深刻な事故は国民の反原発感情を揺さぶり、今後のエネルギー政策に大きな影響を与える事が予想された。そうした時に支配者が考える事は世論を無視して強行突破することではない。いかにも原子力政策を転換するように見せかけながら、実際には変更の幅を極力変えないようにすることである。そのため「浜岡原発」が利用された。
官僚が「目くらまし」に使うトリックの道具は数字である。今回は「87%」という数字が使われた。「地震が起きる確立が87%」と言われると、感情でしか物事を考えない人達は「大変だ」と恐怖心が先に立つ。それでまともな思考が出来なくなる。支配する側はそれを狙っている。
福島原発事故は地震の確率が0.1%の所で起きた。論理的に考えれば地震の確率と事故とはストレートに結びつかない。どこの原発も事故は起こる可能性がある。それをそう考えさせないために支配者は「87%」に目を向けさせ、愚民はそれに乗せられる。
「87%」を問題にするなら、そもそもそんなところに原発を建設した事が間違いである。運転を停止しても地震が来れば放射能事故は起こる可能性があり、速やかに「廃炉」にするというのが論理的である。ところが菅総理が言った事は「安全策を講じるまでの運転停止」だった。それは「浜岡原発を継続する」と宣言したに等しい。
なぜなら安全のために投資をしたら、投資をした後で「廃炉」という選択肢はありえないからである。防潮堤の建設などには2年ほどの時間がかかるらしいから、運転再開を決めるのは自分ではない別の人間で「俺の責任にはならない」という計算も菅総理には働いたかもしれない。
それを本人が「歴史の評価」とか大見得を切るからチャンチャラおかしくなる。菅総理は「停止要請」によって浜岡原発の継続を宣言し、それ以外の場所にある原発事故の危険性から目をそらさせたのである。そう言われると困るから、「原子力計画をいったん白紙にする」と付け加えた。しかし「白紙」というのは「変更」ではない。自分は「白紙」にし、別の人間が極力「変更」しない形の計画にしてくれれば良いのである。
それをニュースキャスターが「菅総理は原発の見直しに踏み込んだ」とか言っているから「おめでたい」。「何年までに原発の割合を何%減らす」とか、再生エネルギーの開発計画を発表した時に言うべき事を、論理的に考えれば考えるほど「原発を継続する」と言っている時に言うのだから始末が悪い。
福島原発事故の教訓は「絶対の安全はない」と言うことである。どんなに想定しても想定外の事は起こる。どんなに安全対策をしても破られる事はある。だから最悪を考えて備えをしなければならない。ところが政府は「原発の安全性」を強調するあまり、不測の事態への対応をして来なかった。
原発のメルトダウンを知りながら、住民のパニックを恐れて発表したのは事故から2ヶ月以上も経ってからである。発表していれば対応できていた事ができなかった。その被害者は周辺住民である。放射能による健康被害が現れるのは5年から10年先の事だから、これも菅政権にとっては「俺の責任ではない」と言う事になるのだろうか。
日本が原発を54基持っているという事は、54個の核爆弾を持っているに等しい。つまり核戦争に備える思考と準備が必要なのである。敵は自然の猛威かもしれないし、テロ攻撃かもしれない。日本にミサイルで原爆を投下しなくとも、テロリストは小型スーツケースの原爆を都心で爆発させる事も出来るし、また海岸に建てられた原子力発電所を襲えば原爆投下と同様の効果が得られる。
ところがそうした備えがない事を今回の事故は示してくれた。警視庁の放水車や消防庁の放水車が出動するのを見て私は不思議でならなかった。核戦争に備えた自衛隊の部隊はいないのかと思った。こんな事では政治は国民も国土も守る事が出来ない。いちいちアメリカを頼らなければならなくなる。
考えてみれば日本のエネルギー自給率は4%に過ぎず、すべてはアメリカ頼みである。かつては国内の石炭に頼っていたのを1960年代に政府は無理矢理石炭産業を潰し、アメリカの石油メジャーが牛耳る中東の石油に切り替えた。ところが遠い中東の石油に頼りすぎる危険性が指摘されると、これもアメリカの主導で原子力発電を導入した。発電用濃縮ウランの大半はアメリカから輸入されている。
普天間やTPP問題で分かるようにアメリカの足の裏を舐めないと存続できない菅政権は、原発見直しのフリは出来ても「転換」は簡単には出来ないのである。
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