Japan Moves Right 日本の右傾化
(2012年12月19日 読売新聞)
■欧米、中国メディアは懸念
衆院選をめぐる海外メディアの報道を見ると、日本の「右傾化」を懸念する記事が目立ちます。
例えば、中国の新華社通信(英語版)は the shift to the right (右傾化)が今回の選挙の特徴だと報じました。
欧米のメディアも同様です。
英国のBBC放送は Japan has taken a sharp turn to the right (日本は右寄りに大きく舵かじを切った)と伝えています。
衆院選直前に発売された米誌タイム(アジア版)も日本の「右傾化」を特集していました。
日の丸をあしらった表紙のタイトルは Japan Moves Right (日本が右寄りに動いている)、そして本文の見出しは A Wave of Patriotism (愛国心の波)でした。
確かに今回の選挙では、憲法の改正や防衛力の増強、集団的自衛権の行使容認を訴える右寄りの自民党、維新の会が躍進しました。一方、こうした政策に反発する左寄りの日本未来の党、社民党、共産党が軒並み議席を減らしました。この点を見れば、日本の政治の重心が右に移ったというのは、その通りでしょう。
■世界標準でいえば「中道」
ただ、一部の海外メディアの「右傾化」報道には違和感も覚えます。理由は二つあります。
まず、「右傾化」は軍国主義の復活につながりかねない危険な兆候、という論調が目に付くからです。日本人の大半は軍国主義の復活など望んでいないと思いますが、こうした論調は中国や韓国のメディアで顕著です。
もう一つは、国際的な基準で見た時、自民党や維新の会の主張は「右傾化」と言えるほどのものなのか、という疑問を抱かざるをえないからです。
世界の主要国は強力な軍隊を持ち、領土・領海の侵犯には武力を背景に毅然とした対応を取っています。集団的自衛権は国連憲章も認める当然の権利になっています。
自民党や維新の会の主張の大半は、国際的に見れば、常識と言っていい内容です。
自民党の安倍氏を「タカ派」「ナショナリスト」と呼ぶとしたら、主要国の指導者の大半は「超タカ派」「超ナショナリスト」になってしまうでしょう。
また、自民党を仮に「右派」と呼ぶとしたら、米国の民主党もフランスの社会党も「極右」になってしまうでしょう。
自民党が掲げる安全保障政策は、世界を見渡してみれば、「中道」くらいではないでしょうか。
では、なぜ日本の「右傾化」がことさら問題にされるのでしょうか。
まず中国による批判には、歴史問題もからめて日本及び海外の世論を揺さぶり、日本の防衛力強化を封じ込めようという思惑が透けて見えます。
米国には別の懸念があります。何より恐れているのは、日中両国で強硬論が高まり、尖閣をめぐる対立が軍事衝突に発展して米軍が巻き込まれる事態になることでしょう。
実際、米紙ワシントン・ポストは、日中が衝突したら、「米国は日米安保条約に従って日本側に立つことを強いられるかもしれない」と指摘しています。
同盟国の米国の懸念は十分理解できます。中国をいたずらに刺激することは避けるべきでしょう。
■冷静な思考が必要
ただ、日本の針路を決めるのは私たち日本人です。
もちろん排外主義や軍国主義は排すべきですが、野田首相の言う healthy nationalism (健全なナショナリズム)や米国の知日派ジョセフ・ナイ氏が言う moderate nationalism (穏健なナショナリズム)は育てていくべきでしょう。
また、安全保障政策については、一部の外国政府の主張や海外メディアの論調に惑わされることなく、冷静かつ現実的に考えていくべきです。少なくとも、軍拡路線を突き進む中国に付け入る隙を与えないだけの防衛力や抑止力の整備・強化は粛々と進めていく必要があるでしょう。
■ フィリピン、インドは歓迎
最後に付け加えれば、もう少し広く見ると、海外の論調も実は様々です。
中国との領土紛争を抱えるフィリピンの外相は衆院選の直前、英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで、日本の防衛力の増強について、こう述べました。意識しているのは中国です。
We would welcome that very much. We are looking for balancing factors in the region and Japan could be a significant balancing factor.
我々はそれ(日本の軍備増強)を大いに歓迎する。我々が求めているのは、この地域で力を均衡させる要素であり、日本はそうした均衡をもたらす重要な要素になりうる。
インド紙タイムズ・オブ・インディアもこう伝えています。
Abe's hawkish stand on China is not going to harm India ... in the face of Beijing's growing assertiveness in the region.
中国が(アジア太平洋)地域で自己主張を強める中、安部氏のタカ派的な対中姿勢はインドに害をもたらすものではない。
フィリピンやインドは日本に中国をけん制する役割を期待しているのでしょう。
中国の強圧的な領土拡張戦略にどう対処していくかは安部新政権の大きな課題です。同盟国・米国の力を最大限に活用すべきなのはもちろんですが、対中関係で共通の利害を持つアジア諸国との連携も強めていく必要があるでしょう。
*筆者プロフィル 大塚 隆一
1954年生まれ。長野県出身。1981年に読売新聞社に入社し、浦和支局、科学部、ジュネーブ支局、ニューヨーク支局長、アメリカ総局長、国際部長などを経て2009年から編集委員。国際関係や科学技術、IT、環境、核問題などを担当
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◆ “対中国”で同志 東南アジア各国、日本の軍備強化に期待
産経新聞ン2012.12.13 09:06
フィリピンの外相が、英紙とのインタビューで、日本が正規軍を持つことを支持すると発言したが、日本がアジアでもっと軍事的な貢献をすべきだという意見は、東南アジアの他の国々でも聞かれる。日本の敗戦から70年近くがたつ今、アジアの人々が求めているのは、過去に対する日本の謝罪ではなく、「中国の脅威」という現在の問題に、日本が何をしてくれるのかということでしかない。(フジサンケイビジネスアイ)
*謝罪より貢献
フィリピンのデルロサリオ外相の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)での発言は、憲法改正と自衛隊の強化を訴える安倍晋三元首相の返り咲きが確実視されるなかだけに、とくに欧米メディアにとっては、驚きを持って迎えられたようだ。
同外相は日本の再軍備についてどう思うかという質問に、「大変歓迎したい。地域で(中国との)バランスがとれる要素を探しており、日本なら十分、そうなりうるだろう」と語っている。
中国との領有権問題で苦労するフィリピン側からすれば、当たり前の発言だが、FT紙にすれば、想定外の発言だったようだ。同紙は「中国を怒らせかねない異例の発言」としたうえで、「南シナ海の領有権を主張する中国による挑発へのフィリピンの警戒心を反映したもの」と解説。さらに「他のアジア諸国からの支持は、安倍氏の憲法改正の動きをあおりかねない」「中国は長らく日本の軍国主義の復活に対する不安を提起してきた」などと、中国政府が喜びそうなコメントが続く。
そのうえで「かつて日本の植民地だったフィリピンの日本の再軍備に対する姿勢をみると、中国への恐怖が、日本の戦時中の攻撃的な行為に対する記憶を打ち負かすきっかけになるかもしれない」と、まとめている。
そもそも、フィリピン側に「戦時中の日本の行為」の記憶にこだわっている人は、もはやほとんどいない。
かつて日本軍の航空基地があったマニラ北西部のパンパンガ州を訪れ、何人もの地元の人に取材したが、そのうちのマバラカット市幹部の言葉が印象に残っている。彼は「日本人はよく、侵略してすまなかったというが、フィリピンはスペインにも米国にも侵略された。しかし、彼らは謝りなどしない。いつまでも、そんなことを言う必要はない。重要なのは今だ」と話したものだ。同じような声はフィリピン人以外からも聞いた。
*対中国の同志
とくに、ここ数年の南シナ海における中国の「蛮行」は、ベトナムやマレーシア、ブルネイなど同様に中国と領有権問題を抱える国々の警戒心を呼び起こしている。中国との領有権問題がないはずのインドネシアでさえ、領海侵犯した中国漁船をめぐり武装した中国艦艇と対峙(たいじ)する事件が起きている。
これらの国々からすれば、中国の領土的野心にさらされる尖閣諸島を抱える日本は、同じ中国の脅威と戦う同志なのだ。
もっとも、フィリピンやインドネシアが、本気で日本の軍事力の増強に期待しているようには思えない。中国の反発を恐れ、尖閣諸島に自衛隊を配置することすらできない日本が、どうしてアジアの国々のために軍隊を送ることができるだろう。
そんなことは先刻承知なのだろう。フィリピン政府は今週、米国との間で、米軍のプレゼンスをいかに増すかについて協議を始める。
1991年にフィリピン議会は、米国との安保条約を批准せず、スービック海軍基地から米軍を追い立てた。しかし、フランス通信(AFP)によると、あるフィリピン高官は、今回の協議では同基地の再利用が焦点の一つになると話す。
理想を唱えるだけでは自国を守れないことを知ったフィリピンの人々の期待に、われわれ日本人は応えることができるのだろうか? 今回の選挙が1つの答えになるのは間違いない。(編集委員 宮野弘之)
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◆『憲法が日本を亡ぼす』古森義久著 海竜社 2012年11月15日 第1刷発行
p158〜
第6章 防衛強化を迫るアメリカ
2 日本の中距離ミサイル配備案
○中国膨張がアジアを変えた
「日本は中国を射程におさめる中距離ミサイルの配備を考えるべきだ」---。
アメリカの元政府高官ら5人によるこんな提言がワシントンで発表された。20011年9月のことである。
日米安保関係の長い歴史でも、前例のないショッキングな提案だった。日本側の防衛政策をめぐる現状をみれば、とんでもない提案だとも言えよう。憲法上の制約という議論がすぐに出てくるし、そもそも大震災の被害から立ち直っていない日本にとって、新鋭兵器の調達自体が財政面ではまず不可能に近い。
しかし、この提案をしたアメリカ側の専門家たちは、歴代の政権で日本を含むアジアの安全保障に深くかかわってきた元高官である。日本の防衛の現実を知らないはずがない。
p162〜
中国は射程約1800キロの準中距離弾道ミサイル(MRBM)の主力DF21Cを90基ほど配備して、非核の通常弾頭を日本全土に打ち込める能力を有している。同じ中距離の射程1500キロ巡航ミサイルDH10も総数400基ほどを備えて、同様に日本を射程におさめている。米国防総省の情報では、中国側のこれら中距離ミサイルは台湾有事には日本の嘉手納、横田、三沢などの米空軍基地を攻撃する任務を与えられているという。
しかし、アメリカ側は中国のこれほどの大量の中距離ミサイルに対して、同種の中距離ミサイルを地上配備ではまったく保有していない。1章で述べたとおり、アメリカは東西冷戦時代のソ連との軍縮によって中距離ミサイルを全廃してしまったのだ。ロシアも同様である。
p163〜
だからこの階級のミサイルを配備は、いまや中国の独壇場なのである。
「中国は日本を攻撃できる中距離ミサイルを配備して、脅威を高めているが、日本側ももし中国のミサイルを攻撃を受けた場合、同種のミサイルをで即時に中国の要衝を攻撃できる能力を保持すれば、中国への効果的な抑止力となる」
衝突しうる2国間の軍事対立では力の均衡が戦争を防ぐという原則である。抑止と均衡の原則だともいえる。
実際にアメリカとソ連のかつての対立をみても、中距離ミサイルは双方が均衡に近い状態に達したところで相互に全廃とという基本が決められた。一方だけがミサイル保有というのでは、全廃や削減のインセンティブは生まれない。だから、中国の中距離ミサイルを無力化し、抑止するためには日本側も同種のミサイルを保有することが効果的だというのである。
日本がこの提案の方向へと動けば、日米同盟の従来の片務性を減らし、双務的な相互防衛へと近づくことを意味する。アメリカも対日同盟の有効な機能の維持には、もはや日本の積極果敢な協力を不可欠とみなす、というところまできてしまったようなのである。
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Japan Moves Right 日本の右傾化 世界標準でいえば「中道」
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