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「脱検察」で再審決定続発 東電 女性社員殺害事件/大阪・東住吉区 放火殺人事件

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【事件の座標軸(1)】「脱検察」で再審決定続発…裁判員制度が促した裁判所の?自立? 
産経新聞2012.12.29 07:00
裁判員裁判が刑事司法を変えた
 政治、安全保障、エネルギー…。平成24年は日本を取り巻く環境が大きく変動する現実を痛感させられた。社会の治安を支える捜査・裁判も同じで、地殻変動がうかがえた。そこには、導入から3年半が経過し、すでに2万5千人以上が参加した裁判員裁判の存在がある。法務省のアンケートでは裁判員の9割以上が「よい経験と感じた」と答えるなど、制度して定着。結果的にこの裁判員裁判の導入が国民の目が裁判と証拠の可視化を促したといえる。影響は裁判だけでなく捜査にもおよび、警察捜査の現場も変えようとしている。「刑事司法の今」を探った。
*続く再審無罪
 「重大な証拠を隠し、無実の人間を長期間拘束した過ちに耐えてきた。今も怒りで震える」
 11月7日、東京電力の女性社員殺害事件で無期懲役とされたゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)は発生から15年を経て東京高裁の再審無罪判決が確定すると、母国ネパールで怒りをあらわにした。
 戦後に発生し、死刑か無期懲役が確定した事件の再審無罪判決は8件目。22年の足利事件、23年の布川事件に続く3年連続の冤罪事件となった。
 再審開始を決定付けたのは、女性の体内に残された体液。検察、弁護側は「知人」のものと思い込み事件とは無関係とみていたが、裁判所が鑑定を指示した結果、全然別の男のDNA型が検出されたのだ。その後、現場に残された体毛からも同じDNA型が検出される。
 24年7月の再審開始決定後、検察側はさらに女性の手の爪の付着物を鑑定したが、結果は同様。検察側は「同じ男のDNA型が検出された」とする内容の報告書を自ら提出することを余儀なくされた。この男の犯人性が一気に強まると同時に、検察側が再審公判で無罪論告へと舵を切る大きなきっかけとなった。再審公判はわずか1回で結審、11月には無罪が確定した。
 裁判所が再審請求審の中で鑑定を指示しなければ、冤罪は見破れなかった可能性もある。
*科学的根拠ある新証拠
 一方、大阪。3月、再審開始決定が出た。7年7月、青木恵子受刑者(48)と当時の内縁の夫、朴龍晧(たつひろ)受刑者(46)が保険金目当てで大阪市東住吉区の自宅車庫に放火し、小6長女を殺害したとされる事件。2人は捜査段階でいったんは自白、公判では否認に転じたが、11年、大阪地裁は2人に求刑通り無期懲役を言い渡した。大阪高裁、最高裁もこれを支持し、無期懲役が確定。青木受刑者は和歌山刑務所に、朴受刑者は大分刑務所にそれぞれ服役しながら21年、再審を請求した。
 「自宅車庫にガソリン約7リットルをまききってからライターで放火した」。朴受刑者によるこの自白を、裁判所は2受刑者の確定判決の根拠とした。
 弁護団は「車庫内の車から漏れたガソリンが風呂釜の種火に引火した事故」と主張。朴受刑者の自白を覆そうと、再審請求審中の23年5月、車庫や同車種の車を用意し、車庫奥の風呂釜バーナーも発注するなど現場を再現。静岡県小山町の空き地で大規模な燃焼実験を行い、自白通りに放火できるものか調べた。
 実験では、遠隔操作できる自動散布機によりガソリンをまきはじめて約20秒後、約7リットルをまききる前にバーナーの種火が気化したガソリンに引火して一気に燃え上がった。自白通りにライターで火をつける余裕などなく、その前にその場にいる朴受刑者も火に包まれてしまう結果になった。
 弁護団は「自白の方法では犯行は不可能。自白は虚偽」と主張。大阪地裁はその主張をほぼ採用し、24年3月、「自白は科学的見地から不自然。有罪認定を維持できるほどの信用性はない」と再審開始を決定した。
*裁判所が主導
 弁護団は実は上告審の段階で1度、規模は下回るものの再現実験を行っている。この実験でも自白通りなら朴受刑者がやけどを負うことなどが証明されており、弁護団の中には新たな再現実験に慎重な姿勢をみせる弁護士もいたが、その弁護団を後押ししたのが、実は再審請求審の大阪地裁だった。
 裁判所、検察、弁護側の3者がそろった協議の場で、裁判所が再現実験に興味を示し、さらに検察側に対して必要な証拠を開示するよう提案した。「最初に裁判所が興味を示した22年5月のことは忘れない。この日が事実上再審開始が決まった日だ」と後に振り返る弁護士もいるほど、弁護団にとって力づけられる一言だったという。
 裁判所の要請で当時の現場状況が分かる写真などの全証拠が検察側から開示されたため、上告審段階より再現性が高く、正確な実験が可能になり、科学的根拠のある新証拠に結びついたという。
*法改正で権限
 「従来は検察が不利な証拠を出さないで済むことが可能になる制度だった」と言うのは成城大の指宿(いぶすき)信教授(刑事訴訟法)。その“潮目”が変わったのは21年春に導入された裁判員制度だと指摘する。
 17年に刑事訴訟法が改正され、裁判所の証拠開示権限が明記された。裁判員裁判を意識した改正で、裁判の公正性と透明性を担保するため、裁判所がこの権限を行使して証拠開示を強く求める傾向が強まったのだ。
 再審は証拠開示の対象にはなっていないが、指宿教授は東電女子社員殺害事件でも、東住吉事件でも、確定審の段階では証拠開示は行われてこなかったと指摘。「改正刑事訴訟法は遡(さかのぼ)って適用されることはないが、冤罪を争っている事件なら、証拠開示をするのが公平だと裁判所が感じているのではないか。他の再審請求審でも同様の方向に向かっているといえる」と話す。
 検察側は「実験は火災を忠実に再現していない」と大阪高裁に即時抗告。来年にも本格的な再現実験を行う方針で、即時抗告審の行方はいまだ流動的だ。
 起訴事件の有罪率99%以上。検察立証の信頼性に、従来の裁判所は検察の言い分をうのみにしていたようなところがあったと指摘される。裁判員裁判で国民が法廷参加したら、これは通用しない。裁判所が主体的な姿勢をとり、証拠開示を検察側に迫るようになった結果、「開かずの門」ともいわれた再審の扉が相次いで開くようになった。
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