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揺らぐ裁判所が生んだ亡霊「名張毒ぶどう酒事件」 発生から半世紀の“今”

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【事件の座標軸(5)】 揺らぐ裁判所が生んだ亡霊「名張毒ぶどう酒事件」 発生から半世紀の“今”
産経新聞2012.12.31 07:00[westピックアップ]
 昭和36年の発生から半世紀余、死刑判決確定からは40年が過ぎてなお、再審請求をめぐる争いが続く名張毒ぶどう酒事件。その間、司法判断は振り子のように揺れ動いてきた。平成24年5月、名古屋高裁は改めて“クロ”とする結論を示したものの、その過程からは半世紀前の“真相”を追う困難さも浮き彫りになった。奥西勝死刑囚は1月14日で87歳。いまや「命」との競争となり、残された時間は決して長くはない。
*体重10キロ以上減…栄養は点滴だけ
 「ありがとう。次の勝利を信じています。今まで以上にご支援お願いします」
 裁判所の決定を聞かされたとき、透明のアクリル板の向こうの老人は大きく目を見開き、そして静かに弁護人や支援者への感謝の言葉を口にしたという。
 名張毒ぶどう酒事件で死刑が確定した奥西死刑囚。名古屋高裁は5月25日、奥西死刑囚による第7次再審請求の差し戻し審で、請求を退ける決定を下した。布川(ふかわ)事件に足利事件、24年にも東京電力の女性社員殺害事件に大阪市東住吉区の放火殺人事件と近年、重大事件で再審開始決定が相次ぐが、死刑事件で再審開始が決まったケースは昭和62年3月の島田事件以降、四半世紀ない。
 弁護側は最高裁に特別上告したが、奥西死刑囚は体調を崩し、名古屋拘置所から八王子医療刑務所に移送。親族、弁護人以外で面会が認められている特別面会人の一人、稲生(いのう)昌三さんによると、現在は高熱こそ収まったものの、点滴でしか栄養をとれない状態が続き、58キロあった体重は45キロに減ったという。
 奥西死刑囚には名古屋高裁の決定直前、「おやじには拘置所を出てから伝えてくれ」と言い残して2年前に亡くなった長男の死が告げられていた。再審請求を退けられた二重のショックと、加齢による衰え。いつかは訪れるかもしれない「万々が一の事態」に備え、親族による再審の承継も検討され始めている。
*自白の信用性は
 事件は昭和36年3月28日夜、奈良との県境にある三重県名張市の小さな集落で起きた。住民の懇親会で、ぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡。飲み残しのぶどう酒からは農薬が検出され、犯行を自白した奥西死刑囚が逮捕された。
 だが奥西死刑囚は起訴直前に否認に転じ、以降、一貫して無実を訴え続ける。1審津地裁は無罪。しかし2審名古屋高裁で逆転死刑が言い渡され、47年に最高裁で確定した。再審請求は第7次で名古屋高裁刑事1部が開始決定を出したが、検察側の異議を受けた刑事2部が取り消し。その後、弁護側が特別抗告し、最高裁は審理を差し戻す。
 名古屋高裁で3度目の審理となった差し戻し審の争点は、混入された農薬が奥西死刑囚の自白通りの「ニッカリンT」か否か。違うとなれば自白の信用性に疑問符がつき、自白を有罪認定の柱とした確定判決も大きく揺らぐ。
 問題となったのは、ニッカリンT中に含まれる不純物だ。事件当時の鑑定では、実際にニッカリンTを入れたぶどう酒からは検出されたのに、飲み残しのぶどう酒からは検出されず、弁護側は「混入されたのは別の農薬」と主張。差し戻し審では再製造されたニッカリンTを使って新たに鑑定が行われたが、その結果は、検察、弁護側いずれにとっても有利に解釈できるものだった。
 結局、名古屋高裁は検察側の解釈を退けると同時に、弁護側の主張も排斥。一方で、不純物が検出されなかったのは「事件発生から鑑定まで時間が経っていたからだと考えられる」と独自の解釈を示し、自白は信用できると結論づけた。
 だが2年余を費やした差し戻し審は、最高裁が差し戻しにあたって出した“宿題”に百パーセント答えたものではなかった。最高裁は差し戻しの際、事件当時と近似した条件での再鑑定を求めていた。だが、当時の鑑定人はすでに死去。当時の鑑定法の専門家も見つからず、別の方法で鑑定せざるを得なかったのだ。
*当時の面影なく
 足利事件に東電事件、東住吉放火事件。これらの事件ではいずれも、科学鑑定が再審開始決定の決め手となった。一方で昭和41年に起きた袴田事件の第2次再審請求では、DNA鑑定の資料の古さが新たな争点に挙がっている。物証ならまだしも、関係者の証言が重要な証拠となっている場合は、その内容を検証しようにも時間とともに記憶の風化が進む。重大犯罪の公訴時効が撤廃された今、時を経て真相を追求する上での課題も浮かび上がる。
 年も押し迫った12月25日、奥西死刑囚の弁護団は最高裁に3通の補充書を提出した。特別抗告後に古い文献を調べ、事件当時に広く行われていた方法で新たに実験を行った結果、高裁の解釈を否定するデータが得られたという。
 弁護団の村田武茂弁護士は「高裁の決定が不当であることを示すに足る結果が得られた」とするが、検察側と弁護側が直接対峙することのない最高裁での審理の行く末が、見通しづらいのも事実だ。鈴木泉弁護団長は「実験で高裁決定は科学的に否定された。最高裁は再審開始決定を確定させる判断を早期に出してほしい」と訴える。
 51年前の事件当日、住民らは夜道を駆け下り、県道沿いの旅館に飛び込んだ。異変を通報しようにも、集落内には電話がなかったからだ。
 今、事件現場の公民館はゲートボール場になり、その傍らには携帯電話基地局のアンテナが立つ。当時の面影はみられない。
 住民の一人は、吐き捨てるようにつぶやいた。
 「一番悪いのは犯人。けれどその犯人を決める裁判所がふらふらするから、あんな昔の事件にいつまでも振り回される」
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名張毒ぶどう酒事件異議審決定 唯一目をひいた記事 2006-12-27 | 死刑/重刑/生命犯 問題 
名張毒ぶどう酒事件 奥西死刑囚の再審認めず/「自供後は豹変したように穏やかに」鑑識係古川秀夫氏 2012-05-26
半世紀の証言:名張毒ぶどう酒事件 2011-06-17 | 死刑/重刑/生命犯 問題 
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名張毒ぶどう酒事件の人々 
名張毒ぶどう酒事件 扉は開くか 
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