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中国の長距離巡航ミサイル/外交交渉という机上の空論/日本を奴隷国家に転落させない「報復的抑止力」

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中国軍ミサイルの「第一波飽和攻撃」で日本は壊滅 長距離巡航ミサイルを迎撃できない防衛体制の現状
JBpress 2013.01.08(火)北村 淳
 北朝鮮の銀河3号の残骸を調査した韓国国防当局によると、北朝鮮の弾道ミサイル技術はアラスカをはじめアメリカ西海岸に到達する射程距離を達成したと考えられる、とのことである。そして、アメリカ東海岸に到達する射程1万3000キロメートルの達成も時間の問題であるとアメリカ国防当局は強い懸念を示している。
 ただし、アメリカ国防当局が最も強い関心を抱いているのは、いまだに弾道ミサイルの最新弾頭技術までは手にしていないと見られている北朝鮮のミサイルよりも、中国の各種長射程ミサイルである。
 アメリカにとっては、中国の大陸間弾道ミサイルが何と言っても一番の関心事ではあるが、近年飛躍的に技術力を身につけ増産態勢に入った長距離巡航ミサイルに対する警戒感も極めて高い。
■日本は中国の長距離巡航ミサイルの射程圏内
 かつては、長距離巡航ミサイルの制御に欠かせない衛星測位システムを独占的に運用していたアメリカにとって、中国軍の長距離巡航ミサイルはさしたる脅威ではなかった。ところが、中国は独自開発した衛星測位システムである北斗システムを実用化し、2012年12月27日からはアジア太平洋地域に限ってだが民間での試験サービスを開始するまでに至っている。そのため、アメリカ国防当局は中国の長距離巡航ミサイルに対しては弾道ミサイル同様に深刻な脅威を感じ始めている。
 もっとも、中国の長距離巡航ミサイルでは、現時点においては、アメリカ本土は直接攻撃することはできない(例外的に、新鋭の攻撃原子力潜水艦で接近して攻撃することは理論的には可能)。しかし東シナ海、南シナ海、それに西太平洋を航行するアメリカ海軍艦艇や、日本や韓国の米軍施設は完全に射程圏内に入っている。そのため、アメリカ国防当局は重大な関心を示しているのである。
 ところが、12月25日発行JBpressの拙論で指摘したように、日本では、中国や北朝鮮の対日攻撃用弾道ミサイルのみならず中国軍が多数取り揃えている日本を射程圏に収めている長距離巡航ミサイルに対して関心が持たれていないという摩訶不思議な状態が続いている。
 もちろん、中国が弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルで日本を攻撃しても片っ端から自衛隊により撃墜可能であるならば、取り立てて脅威に感ずることもなければ、騒ぎ立てる理由もない。しかしながら、現状はそのようなミサイル防衛体制とはほど遠い状況である。そのことを再認識し、速やかに可能な対策を実施しなければならない危機的状況なのである。
■日本の弾道ミサイル防衛体制の現状
 自衛隊が運用している「イージスBMD」や「PAC-3」といったミサイル防衛システムは、敵が弾道ミサイルを発射した直後から追尾システムが作動して、捕捉したミサイルを撃破する兵器である。すなわち、この種の弾道ミサイル防衛システムは敵の攻撃を待ち受ける受動的な防衛システムと言うことができる。したがって“専守防衛”のイメージに合致した兵器と言うことができる。
 イージスBMDもPAC-3もともにアメリカが開発している受動的な弾道ミサイル防衛システム(BMD)の一部である。アメリカミサイル防衛局が主導して開発中(一部は配備が開始されている)のBMDは、7段構えの多層防衛システムとなっており、日本はそれらのうちの2種類を配備しているにすぎない。
 中国がアメリカに対して弾道ミサイル攻撃を仕掛けた場合、発射から着弾まで30分前後はかかるため、それらの多重BMDを順次繰り出して敵のミサイルを迎撃する構想がアメリカの弾道ミサイル防衛戦略である。ところが、中国の東風21型や北朝鮮のノドンが日本攻撃のために発射された場合には、5〜7分で着弾するうえ、BMDも二重であるにすぎない。また、PAC-3は局地的範囲(最大でも半径30キロ程度の半球状の範囲)を防衛する兵器であるため、それ以外の目標に対して接近するミサイル弾頭に対しては無力である。
 もともと、弾道ミサイル防衛戦略は冷戦下における核弾頭搭載による大陸間弾道ミサイルが想定されて誕生したため、敵が核弾道ミサイル攻撃を敢行した場合には、それに対する核弾道ミサイル報復攻撃をすぐさま実施することを、攻撃側・被攻撃側はともに想定して準備を整えているのである。したがって、報復攻撃に必要な弾道ミサイル発射関連施設(発射施設・管制施設・司令部等)を最後の瞬間まで防衛するために、PAC-3のような局所的BMDが配備されるのである。
 しかしながら、自衛隊は対日攻撃を仕掛けた相手に対して反撃するための長射程ミサイルや爆撃機そして強力な対地攻撃力を持った軍艦などは保有していない。したがって、中国や北朝鮮が対日弾道ミサイル攻撃を実施する場合には自衛隊軍事施設が最優先の攻撃目標にはならないのである。その代わりに、原発(原子炉ではなく制御施設など関連施設)をはじめとする発電所や変電所、石油備蓄基地や石油精製所、LPG関連施設など社会的インフラをはじめとする戦略目標の方に攻撃優先順位が与えられるのである。
 その結果、日本の場合にはPAC-3を配備すべき場所の数が非常に多いことになる。現状の航空自衛隊による36セットのPAC-3という保有数では、米軍関連施設ならびに航空自衛隊基地と防衛省を“自衛”するという目的ならば十分であるが、日本の防衛という目的にとっては話にならない数である。たとえ、日本政府が重要防御施設36カ所を選んでPAC-3を配備しても(通常は防御地点には2セットは必要なため、18カ所ということになるのだが)、攻撃側は、それらPAC-3配備場所を攻撃リストから削除しても、ありあまる数の戦略攻撃目標が存在する。
 要するに、攻撃側が攻撃目標を選択することができる実戦においては、日本のBMDは海上自衛隊が運用するイージスBMDの双肩にかかっていると言っても過言ではない状況と言える。
 稚内から与那国島まですべての日本領土を東風21型やノドンの攻撃から防御するには(「防御態勢を固める」ということで、「ミサイルを撃墜する」ことと同義ではない)、理想的には4隻のイージスBMDシステム搭載駆逐艦が必要であるが、3隻でもなんとかカバーできなくはない。
 ただし、イージス駆逐艦は敵の格好の攻撃目標である。そして、中国海軍・空軍はイージス駆逐艦を攻撃するための多種多様の手段を保持している。
 そもそもイージスシステムは敵の空からの攻撃から味方の艦隊を守るための強力な防衛兵器なのであるが、弾道ミサイルに対する厳戒態勢に投入している際には、その他の防空能力が制限されてしまう(現在改善中)。したがって、虎の子のイージスBMD搭載駆逐艦を、中国海軍や空軍の攻撃から防衛するためにもう1隻のイージス駆逐艦を配備しなければならない。
 もちろん、空からの攻撃だけでなく潜水艦による攻撃などにも備えなければならないため、実戦でのイージスBMDによるミサイル防衛態勢には、イージス駆逐艦を中心に警戒護衛用に駆逐艦と潜水艦を数隻それに哨戒機を数機投入する必要がある。
 現在、海上自衛隊はイージス駆逐艦を6隻運用しており、3セットのBMD艦隊を編成できる(ただし、イージス駆逐艦6隻全艦が稼働状態でない場合は、護衛用イージス駆逐艦は他の防空駆逐艦によって代用しなければならない)。しかしながら、弾道ミサイル防衛態勢を固めるためだけで、海上自衛隊の主力戦闘力の大半が投入されることになるのである(詳しくは拙著『尖閣を守れない自衛隊』宝島社新書を参照していただきたい)。
■日本の長距離巡航ミサイル防衛体制の現状
 拙論「マスコミが伝えない中国の対日攻撃ミサイル」(2012年12月25日)で指摘したように、中国軍が保有している対日攻撃用長射程ミサイルは、弾道ミサイルよりも長距離巡航ミサイルが数量的にははるかに多く、その数はますます増加しつつある。
 長距離巡航ミサイル1発あたりの破壊力は弾道ミサイルに比べると小さいとはいえ、命中精度は極めて高い。なによりも製造コストが高価で配備数が少ない弾道ミサイルの場合には、10発・20発といった単位での飽和攻撃(短時間に一斉にあるいは連続してミサイルを発射する攻撃法)が限度であるのに対して、コストが低く配備数が多い長距離巡航ミサイルの場合は100発・200発といった単位での飽和攻撃を敢行することができる。
 日本では弾道ミサイルの方が“派手”なために話題となっているのかもしれないが、長距離巡航ミサイルは上記のような意味では弾道ミサイル以上に強力な兵器なのである。実際に、アメリカ軍も弾道ミサイルの脅威に加えて長距離巡航ミサイルの脅威を強調し始め、長距離巡航ミサイル防衛システム(CMD)の開発が本格的に開始されている。
 しかしながら、領土・領海問題という軍事紛争にとって最大の“引きがね”となる問題を抱えている隣国中国が、極めて多数かつ高性能な長距離巡航ミサイルを配備しており、ますます質・量ともに対日攻撃用長距離巡航ミサイルが充実しているにもかかわらず、日本の国防当局も政府も国会もマスコミも、日本にとって最大の軍事的脅威の1つである中国軍の長距離巡航ミサイルから目を背けているのは理解に苦しむところである。
 もちろん、自衛隊が長距離巡航ミサイルに対する万全な防衛能力を保持しており、いくら中国軍が数百発の長距離巡航ミサイル飽和攻撃を敢行しても、日本に向かって飛翔するミサイルをことごとく撃破し日本はびくともしない、というのであれば、長距離巡航ミサイルの脅威などと取り沙汰する必要性はない。しかしながら、長距離巡航ミサイルに対する防御態勢は弾道ミサイル防衛よりも弱体なのが現状なのである。
 上記のように、発射された弾道ミサイルを捕捉・追尾・撃破する弾道ミサイル防衛システム(BMD)は、まがりなりにも実戦配備されている。
 大多数の長距離巡航ミサイルの飛翔巡航速度は弾道ミサイルより低速である(マッハ2.5と戦闘機同等の巡航速度を達成している超音速長距離巡航ミサイルも登場しているが、アメリカのトマホークや中国の東海10型といった大多数の長距離巡航ミサイルの巡航速度はジェット旅客機程度である)。とはいえ、戦闘機に比べると極めて小型で、超低空を地形を判断しながらかつ障害物を避けつつ飛翔し、事前プログラムや飛翔中のプログラム変更によって様々な飛翔経路をたどりながら目標に突入する長距離巡航ミサイルを、捕捉し、追尾し、撃破する長距離巡航ミサイル防衛システム(CMD)は、開発がスタートしたばかりの段階にあると言っても過言ではない。
 ただし、地上移動式発射装置(TEL)・航空機・駆逐艦・潜水艦など長距離巡航ミサイルを発射するプラットフォームを監視し続けて発射の瞬間を探知し、飛翔する巡航ミサイルを追尾することができれば、戦闘機や軍艦から発射する対空ミサイルで撃墜できる可能性が“なくはない”。防衛可能性が“なくはない”以上、国防当局には実施する責務があるため、各種警戒機、哨戒機、潜水艦など、敵の長距離巡航ミサイル発射プラットフォームに対する監視能力のあるシステムを総動員して監視態勢を固めなければならない。同時に、戦闘機や駆逐艦などによる迎撃態勢も維持する必要がある。
 このように口で言うのは簡単であるが、現実は極めて厳しい。前出の12月25日の拙論で指摘したように、日本海側からも東シナ海側からも太平洋側からも日本全土の攻撃目標に向かって飛翔してくる中国軍の長距離巡航ミサイルを探知し撃破する態勢を24時間途切れなく維持するには、航空自衛隊の早期警戒機、早期警戒管制機、戦闘機、空中給油機は全て投入されなければならなくなる。同様に、海上自衛隊の哨戒機や潜水艦、それに水上戦闘艦のうち弾道ミサイル防衛に投入されていないものも、全て巡航ミサイル防衛態勢へ投入されることになる。選択肢は降伏か報復攻撃力の保有だけ
 中国軍が長射程ミサイルによって日本を攻撃する可能性が生じた場合には、上記のように、海上自衛隊と航空自衛隊の防衛資源はほとんど全てが各種長射程ミサイルに対する防衛態勢を固めるために張りつけ状態となってしまう。
 もちろん、それによって中国軍が発射する数十発の弾道ミサイルや数百発の長距離巡航ミサイルを片っ端から撃破することができるのならば、それほど深刻な問題ではなくなる。その場合には、中国軍としても対日ミサイル攻撃は貴重なミサイルの浪費となってしまうため、そもそも対日攻撃オプションから外してしまうであろう。つまり、自衛隊の長射程ミサイル防衛態勢が立派な抑止力として機能することになるのである。
 しかしながら、現実は違う。例えば中国軍の弾道ミサイル20発と各種長距離巡航ミサイル200発による“第一波飽和攻撃”が日本各地の原発・火力発電所・変電所・石油精製所・石油備蓄基地・放送局・防衛省・首相官邸などに対して実施されたと仮定すると、最大に日本側に“甘く”見積もっても、4〜6発の弾道ミサイルと100〜150発の長距離巡航ミサイルが攻撃目標に着弾する。その結果、日本各地で電力供給や交通・通信網が途絶し、弾道ミサイル10発と各種長距離巡航ミサイル100発による“第二波飽和攻撃”が実施されるのを待たずして、日本は中国の軍門に降らざるを得なくなる。
 日本の頼みの綱であるアメリカ軍も、中国側が長射程ミサイル攻撃の可能性をちらつかせているだけの段階では、本格的な軍事力の展開はできない。中国軍による“第一波飽和攻撃”が実施された場合には、アメリカによる直接介入が実施されるかもしれない。しかし、日本が壊滅してからアメリカ軍が出動して中国軍が攻撃を中止しても、日本にとってはもはや手遅れである。
 したがって、日中軍事バランスが中国側がますます有利になっている現状がこのまま続くならば、もし中国政府が対日軍事攻撃を覚悟する事態に立ち至った場合には、国民生活と社会的インフラの壊滅的破壊を避けるためには日本政府は中国政府の要求を受け入れて長射程ミサイル攻撃を思いとどまらせる以外に選択肢は存在していないのである。
 外交交渉、といった机上の空論は長射程ミサイルを手にした軍事強国には通用しない。われわれは、核弾道ミサイルと戦略原潜を手にしている国家だけが国連安保理常任理事国であるというのが現状であることを忘れてはならない。
 もちろん、日本という国家を奴隷国家に転落させないために、即刻効果的な手を打つことが全く不可能なわけではない。それは、口先で「日米同盟の強化」というお題目を唱えるだけでなんら実質的な防衛能力強化を図らないことではないのはもちろんのこと、本稿で垣間見た現有する“受動的”ミサイル防衛能力を増強することでもない(後者には時間と金がかかりすぎる)。
 日本に対して長射程ミサイルをはじめとする軍事攻撃を加えた外敵には、対日軍事攻撃は最悪の選択肢であったと思い知らせるだけの痛烈な報復攻撃を実施する防衛力を日本自身が手にすることこそが、日本が短時間のうちに中国や北朝鮮などの長射程ミサイル攻撃を抑止する唯一の手段なのである。
 このような抑止力を筆者は「報復的抑止力」と呼んでいるのだが、これについては次回述べさせてもらう。
<筆者プロフィール>北村 淳 Jun Kitamura
 戦争平和社会学者。東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。警視庁公安部勤務後、平成元年に北米に渡る。ハワイ大学ならびにブリティッシュ・コロンビア大学で助手・講師等を務め、戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。専攻は戦争&平和社会学・海軍戦略論。米シンクタンクで海軍アドバイザー等を務める。現在サン・ディエゴ在住。著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房)、『米軍の見た自衛隊の実力』(宝島社)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)、『尖閣を守れない自衛隊』(宝島社)等がある。
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『憲法が日本を亡ぼす』古森義久著 海竜社 2012年11月15日 第1刷発行
p158〜
第6章 防衛強化を迫るアメリカ
 2 日本の中距離ミサイル配備案
○中国膨張がアジアを変えた
 「日本は中国を射程におさめる中距離ミサイルの配備を考えるべきだ」---。
 アメリカの元政府高官ら5人によるこんな提言がワシントンで発表された。20011年9月のことである。
 日米安保関係の長い歴史でも、前例のないショッキングな提案だった。日本側の防衛政策をめぐる現状をみれば、とんでもない提案だとも言えよう。憲法上の制約という議論がすぐに出てくるし、そもそも大震災の被害から立ち直っていない日本にとって、新鋭兵器の調達自体が財政面ではまず不可能に近い。
 しかし、この提案をしたアメリカ側の専門家たちは、歴代の政権で日本を含むアジアの安全保障に深くかかわってきた元高官である。日本の防衛の現実を知らないはずがない。
p162〜
 中国は射程約1800キロの準中距離弾道ミサイル(MRBM)の主力DF21Cを90基ほど配備して、非核の通常弾頭を日本全土に打ち込める能力を有している。同じ中距離の射程1500キロ巡航ミサイルDH10も総数400基ほどを備えて、同様に日本を射程におさめている。米国防総省の情報では、中国側のこれら中距離ミサイルは台湾有事には日本の嘉手納、横田、三沢などの米空軍基地を攻撃する任務を与えられているという。
 しかし、アメリカ側は中国のこれほどの大量の中距離ミサイルに対して、同種の中距離ミサイルを地上配備ではまったく保有していない。1章で述べたとおり、アメリカは東西冷戦時代のソ連との軍縮によって中距離ミサイルを全廃してしまったのだ。ロシアも同様である。
p163〜
 だからこの階級のミサイルを配備は、いまや中国の独壇場なのである。
 「中国は日本を攻撃できる中距離ミサイルを配備して、脅威を高めているが、日本側ももし中国のミサイルを攻撃を受けた場合、同種のミサイルをで即時に中国の要衝を攻撃できる能力を保持すれば、中国への効果的な抑止力となる」
 衝突しうる2国間の軍事対立では力の均衡が戦争を防ぐという原則である。抑止と均衡の原則だともいえる。
 実際にアメリカとソ連のかつての対立をみても、中距離ミサイルは双方が均衡に近い状態に達したところで相互に全廃とという基本が決められた。一方だけがミサイル保有というのでは、全廃や削減のインセンティブは生まれない。だから、中国の中距離ミサイルを無力化し、抑止するためには日本側も同種のミサイルを保有することが効果的だというのである。
 日本がこの提案の方向へと動けば、日米同盟の従来の片務性を減らし、双務的な相互防衛へと近づくことを意味する。アメリカも対日同盟の有効な機能の維持には、もはや日本の積極果敢な協力を不可欠とみなす、というところまできてしまったようなのである。
p164〜
 3 アメリカで始まる日本の核武装論議
○中国ミサイルの脅威
 アメリカ議会の有力議員が日本に核武装を考え、論じることを促した。日本側で大きくは取り上げられはしなかったが、さまざまな意味で衝撃的な発言だった。アメリカ連邦議会の議員がなかば公開の場で、日本も核兵器を開発することを論議すべきだと、正面から提言したことは、それまで前例がなかった。
 この衝撃的な発言を直接に聞いたのは、2011年7月10日からワシントンを訪れた拉致関連の合同代表団だった。
p165〜
 さて、この訪米団は、7月14日までアメリカ側のオバマ政権高官たちや、連邦議会の上下両院議員ら合計14人と面会し、新たな協力や連帯への誓約の言葉を得た。核武装発言はこの対米協議の過程で11日、下院外交委員会の有力メンバー、スティーブ・シャボット議員(共和党)から出たのだった。
p166〜
 続いて、東祥三議員がアメリカが北朝鮮に圧力をかけることを要請し、後に拉致問題担当の国務大臣となる松原議員がオバマ政権が検討している北朝鮮への食糧援助を実行しないように求めた。
 シャボット議員も同調して、北朝鮮には融和の手を差し伸べても、こちらが望む行動はとらず、むしろこちらが強硬措置をとったときに、譲歩してくる、と述べた。
p167〜
○日本の核武装が拉致を解決する
 そのうえでシャボット議員は、次のように発言した。
 「北朝鮮の核兵器開発は韓国、日本、台湾、アメリカのすべてにとって脅威なのだから、北朝鮮に対しては食糧も燃料も与えるべきではありません。圧力をかけることに私も賛成です」
 「私は日本に対し、なにをすべきだと述べる立場にはないが、北朝鮮に最大の圧力をかけられる国は中国であり、中国は日本をライバルとしてみています」
 「だから、もし日本が自国の核兵器プログラムの開発を真剣に考えているとなれば、中国は日本が核武装を止めることを条件に、北朝鮮に核兵器の開発を止めるよう圧力をかけるでしょう」
 肝心な部分はこれだけの短い発言ではあったが、その内容の核心はまさに日本への核武装の勧めなのである。北朝鮮の核兵器開発を停止させるために、日本も核兵器開発を真剣に考えるべきだ、というのである。
 そしてその勧めの背後には、北朝鮮が核開発を止めるほどの圧力を受ければ、当然、日本人拉致でも大きな譲歩をしてくるだろう、という示唆が明らかに存在する。
p168〜
 つまりは北朝鮮に核兵器開発と日本人拉致と両方での譲歩を迫るために、日本も独自に核武装を考えよ、と奨励するのである。
 日本の核武装は中国が最も嫌がるから、中国は日本が核武装しそうになれば、北朝鮮に圧力をかけて、北の核武装を止めさせるだろう、という理窟だった。
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