<死刑囚>東京拘置所が処遇公開 運動場は金網越しに空
毎日新聞 1月14日(月)9時35分配信
70人の確定死刑囚を収容(10日現在)している東京拘置所(東京都葛飾区)が毎日新聞の取材を認め、死刑囚の居室や運動場、食事などを公開し、担当刑務官が死刑囚の処遇について語った。また、確定死刑囚の収容施設がない高松矯正管区を除く全国7矯正管区が情報公開請求に応じ、拘置所・拘置支所での処遇規程など21件167枚の死刑関連文書を開示した。死刑囚を巡るこうした情報公開は異例。
東京拘置所が撮影を認めた「単独室」と呼ばれる死刑囚の居室は約7.5平方メートル。窓の向こうに、さらに曇りガラスとよろい戸に覆われた外壁があり、外の景色はほぼ見ることができない。風呂はワンルームのアパートなどに備え付けのユニットバスとほぼ同じ。運動場の広さは約15平方メートル。屋根はないが、頭上は二重の金網で覆われ、空は格子状にしか見えない。食事は1日約500円で賄われ、主食のご飯は米と麦の比率が7対3。副食は昼がおかず2品、汁物1品など。
取材に応じた刑務官は「自殺や逃走の可能性を常に意識し緊張の連続」と語るとともに、死刑囚は他の死刑囚との処遇の差を気にする傾向があると指摘。「公平な処遇を心掛けている」と話した。また、執行されずに処遇が長期化して病死する死刑囚が少なくない現状に疑問を呈した。
開示文書からは、死刑執行後の遺体処理について事前に意向を書かせたり、誕生月には居室で「誕生会」をさせたりするなどの処遇実態が分かった。
上部組織の法務省矯正局も取材に応じた。拘置所などでは「有益と認められる場合」に死刑囚同士が居室外で接触することを許容しているが、96年以降、こうした集団処遇を一切行っていない実情などを明らかにした。
法務省刑事局によると10日現在、東京拘置所以外の▽札幌拘置支所2人▽仙台同5人▽八王子医療刑務所1人▽名古屋拘置所13人▽大阪同20人▽広島同5人▽福岡同19人−−を合わせ全国で135人の確定死刑囚が収容されている。【伊藤一郎】
◇「秘密主義」 転換の兆し
死刑囚の処遇に関する情報が開示された背景には、裁判員裁判で一般市民が死刑判決に関わるようになったことや、死刑囚の数が戦後最多を更新し続けている状況がある。
死刑に関わる情報は戦後一貫して「秘密主義」が貫かれてきた。だが、09年5月に始まった裁判員裁判では昨年末までに計15件の死刑判決が出された。極刑を巡る判断に一般市民を関わらせる以上、国は刑確定後の処遇についても可能な限り説明する義務がある。
一方で法務省の統計によると、年末時点の確定死刑囚の数は1970年代後半で20人未満だったが、その後、増加傾向が続き、昨年末段階で一昨年末の戦後最多記録を更新、133人にまで膨らんだ。現場の刑務官の負担は大きくなり、処遇にかかる公費(税金)も増している。
法務省の富山聡・矯正局総務課長は「死刑は執行が注目されがちで、長期にわたる処遇について関心を持たれにくい」と指摘。今回の一連の情報開示について「処遇実態を国民に正確に理解してもらった上で意見を伺うことが大切だと考えている」と語る。
一方で、国際的には死刑は廃止の潮流にある。諸外国からの「なぜ日本は死刑を存置しているのか」との問いかけに真正面から応えるためにも、実情を広く知らせる必要があるだろう。【伊藤一郎】
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最終更新:1月14日(月)10時12分
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死刑囚:横並びで単独処遇 孤独な生活を強いられ
毎日新聞 2013年01月14日 09時53分(最終更新 01月14日 10時13分)
死刑囚の処遇を巡り公開された内部文書や拘置所の様子からは、懲役刑の受刑者のような集団での刑務作業もなく、孤独な生活を強いられる死刑囚の姿が浮かび上がる。こうした処遇について有識者や元刑務官からさまざまな意見が聞かれた。
刑事収容施設法は、死刑囚の居室を単独室と限定しつつ、例外的に居室外での集団処遇を認めている。
今回開示された文書でも、集団処遇について「おおむね月1回、卓球、バドミントンを実施させることができる」「誕生会などの集会を実施し、甘味品などを給与できる」などと定めている。だが、集団処遇は96年を最後に行われていない。法務省矯正局は理由について「一部を集団処遇にすると不公平感が生じる」と強調する。
これに対し、元刑務官で作家の坂本敏夫氏は「以前は施設長の裁量で柔軟に集団処遇を認めていたが、今は横並びで単独処遇に変わった。本来、死刑囚が本当に悔い改めて執行に臨むためには、情操教育や宗教教誨(きょうかい)(教えや諭し)を集団で受け、切磋琢磨(せっさたくま)することが最も効果的なはずだ」と話す。
◇面会や手紙のやりとり 相手は限られ
死刑囚が外部交通(面会と手紙のやりとり)をできる相手は、施設長による例外的な許可を除き(1)親族(2)婚姻や訴訟、事業で面会が必要な人(3)心情の安定に資する人−−に限られる。裁判所の禁止命令がなければ誰とでも接触できる被告の身分と比べ、死刑確定後は面接や手紙を許可される相手が激減することも多い。
このため死刑囚の要望は外部交通の範囲拡大が多いといい、「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90」による11年のアンケートで、ある死刑囚は「確定前と比べ面会人数は4分の1、文通は10分の1」と嘆いた。
NPO法人「監獄人権センター」事務局長の田鎖麻衣子弁護士は「実際に、親族や弁護士を除くと面会相手は5人までしか認めていないようだ。面会の内容を完全に把握したい意図があるのだろうが、権利を制約すべきではない」と指摘する。
◇許可されれば民間業者の委託作業も
死刑囚は刑務作業には携わらないが、「自己契約作業」は認められており、許可されれば民間業者の委託作業を居室内で行える。
開示文書では、死刑囚に「自己契約作業を奨励する」と定めている。矯正局によると、昨年5月末時点でこの作業に携わっていた死刑囚は17人で、全体の1割強。作業は主に紙を折ったり貼ったりするもので、平均報酬は1カ月で約1万1000円。報酬は全て自由に使うことができるが「死刑囚の自発的な意思があれば、被害者側に経済支援できる仕組みを作るべきだ」との声もある。
小柳武・常磐大大学院教授(被害者学)は「死刑囚から弁償金を送られても拒絶する被害者や遺族もいるだろう。一方で死刑囚のしょく罪感情に配慮する必要もある。拘置所が死刑囚から自主的に提供された報酬を一括して被害者支援団体などに送金し、間接的に被害者や遺族を援助できる仕組みを設けてはどうか」と提案する。【伊藤一郎】
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◆ 獄中の麻原彰晃に接見して/会ってすぐ詐病ではないと判りました/拘禁反応によって昏迷状態に陥っている 2011-11-30 | 死刑/重刑/生命犯 問題
加賀乙彦著『悪魔のささやき』集英社新書2006年8月17日第1刷発行
p145〜
獄中の麻原彰晃に接見して
2006年2月24日の午後1時、私は葛飾区小菅にある東京拘置所の接見室にいました。強化プラスチックの衝立をはさみ、私と向かい合う形で車椅子に座っていたのは、松本智津夫被告人、かつてオウム真理教の教祖として1万人を超える信者を率い、27人の死者と5千5百人以上の重軽傷者を出し、13の事件で罪を問われている男です。
p146〜
04年2月に1審で死刑の判決がくだり、弁護側は即時、控訴。しかし、それから2年間、「被告と意思疎通ができず、趣意書が作成できない」と松本被告人の精神異常を理由に控訴趣意書を提出しなかったため、裁判はストップしたままでした。被告の控訴能力の有無を最大の争点と考える弁護団としては、趣意書を提出すれば訴訟能力があることを前提に手続きが進んでしまうと恐れたのです。それに対し東京高裁は、精神科医の西山詮に精神鑑定を依頼。その鑑定の結果を踏まえ、控訴を棄却して裁判を打ち切るか、審議を続行するかという判断を下す予定でした。2月20日、高裁に提出された精神状態鑑定書の見解は、被告は「偽痴呆性の無言状態」にあり、「訴訟能力は失っていない」というもの。24日に私が拘置所を訪れたのは、松本被告人の弁護団から、被告人に直接会ったうえで西山の鑑定結果について検証してほしいと依頼されたためです。
逮捕されてから11年。目の前にいる男の姿は、麻原彰晃の名で知られていたころとはまるで違っていました。トレードマークだった蓬髪はスポーツ刈りになり、髭もすっかり剃ってあります。その顔は、表情が削ぎ落とされてしまったかのようで、目鼻がついているというだけの虚ろなものでした。灰色の作務衣のような囚衣のズボンがやけに膨らんでいるのは、おむつのせいでした。
「松本智津夫さん、今日はお医者さんを連れてきましたよ」
私の左隣に座った弁護士が話しかけ、接見がはじまりましたが、相変わらず無表情。まったく反応がありません。視覚障害でほとんど見えないという右目は固く閉じられたままで、視力が残っている左目もときどき白目が見えるぐらいにしか開かない。口もとは力なくゆるみ、唇のあいだから下の前歯と歯茎が覗いています。
重力に抵抗する力さえ失ったように見える顔とは対照的に、右手と左手はせわしなく動いていました。太腿、ふくらはぎ、胸、後頭部、腹、首・・・身体のあちこちを行ったり来たり、よく疲れないものだと呆れるぐらい接見のないだ中、ものすごい勢いでさすり続けているのです。
「あなたほどの宗教家が、後世に言葉を残さずにこのまま断罪されてしまうのは惜しいことだと思います」
「あなたは大きな教団の長になって、たくさんの弟子がいるのに、どうしてそういう子供っぽい態度をとっているんですか」
何を話しかけても無反応なので、持ち上げてみたり、けなしてみたり、いろいろ試してみましたが、こちらの言うことが聞こえている様子すらありません。その一方で、ブツブツと何やらずっとつぶやいている。耳を澄ましてもはっきりとは聞こえませんでしたが、意味のある言葉でないのは確かです。表情が変わったのは、2度、ニタ〜という感じで笑ったときだけ。しかし、これも私が投げた言葉とは無関係で、面談の様子を筆記している看守に向かい、意味なく笑ってみせたものでした。
接見を許された時間は、わずか30分。残り10分になったところで、私は相変わらず目をつぶっている松本被告人の顔の真ん前でいきなり、両手を思いっきり打ち鳴らしたのです。バーンという大きな音が8畳ほどのがらんとした接見室いっぱいに響き渡り、メモをとっていた看守と私の隣の弁護士がビクッと身体を震わせました。接見室の奥にあるドアの向こう側、廊下に立って警備をしていた看守までが、何事かと驚いてガラス窓から覗いたほどです。それでも松本被告人だけはビクリともせず、何事もなかったかのように平然としている。数分後にもう1度やってみましたが、やはり彼だけが無反応でした。これは間違いなく拘禁反応によって昏迷状態におちいっている。そう診断し、弁護団が高裁に提出する意見書には、さらに「現段階では訴訟能力なし。治療すべきである」と書き添えたのです。
拘禁反応というのは、刑務所など強制的に自由を阻害された環境下で見られる反応で、ノイローゼの一種。プライバシーなどというものがいっさい認められず、狭い独房に閉じ込められている囚人たち、とくに死刑になるのではという不安を抱えた重罪犯は、そのストレスからしばしば心身に異常をきたします。
たとえば、第1章で紹介したような爆発反応。ネズミを追いつめていくと、最後にキーッと飛びあがって暴れます。同じように、人間もどうにもならない状況に追い込まれると、原始反射といってエクスプロージョン(爆発)し、理性を麻痺させ動物的な状態に自分を変えてしまうことがあるのです。暴れまわって器物を壊したり、裸になって大便を顔や体に塗りつけ奇声をあげたり、ガラスの破片や爪で身体中をひっかいたり・・・。私が知っているなかで1番すさまじかったのは、自分の歯で自分の腕を剥いでいくものでした。血まみれになったその囚人は、その血を壁に塗りつけながら荒れ狂っていたのです。
かと思うと、擬死反射といって死んだようになってしまう人もいます。蛙のなかには、触っているうちにまったく動かなくなるのがいるでしょう。突っつこうが何しようがビクともしないから、死んじゃったのかと思って放っておくと、またのそのそと動き出す。それと同じで、ぜんぜん動かなくなってしまうんです。たいていは短時間から数日で治りますが、まれに1年も2年も続くケースもありました。
あるいはまた、仮性痴呆とも呼ばれるガンゼル症候群におちいって幼児のようになってしまい、こちらの質問にちょっとずれた答えを返し続ける者、ヒステリー性の麻痺発作を起こす者。そして松本被告人のように昏迷状態におちいる者もいます。
昏迷というのは、昏睡の前段階にある状態。昏睡や擬死反射と違って起きて動きはするけれど、注射をしたとしても反応はありません。昏迷状態におちいったある死刑囚は、話すどころか食べることすらしませんでした。そこで鼻から胃にチューブを通して高カロリー剤を入れる鼻腔栄養を行ったところ、しばらくすると口からピューッと全部吐いてしまった。まるで噴水のように、吐いたものが天井に達するほどの勢いで、です。入れるたびに吐くので、しかたなく注射に切り替えましたが、注射だとどうしても栄養不足になる。結局、衰弱がひどくなったため、一時、執行停止処分とし、精神病院に入院させました。
このように、昏迷状態におちいっても周囲に対して不愉快なことをしてしまう例が、しばしば見られます。ただ、それは無意識の行為であり、病気のふりをしている詐病ではありません。松本被告人も詐病ではない、と自信を持って断言します。たった30分の接見でわかるのかと疑う方もいらっしゃるでしょうが、かつて私は東京拘置所の医務部技官でした。拘置所に勤める精神科医の仕事の7割は、刑の執行停止や待遇のいい病舎入りを狙って病気のふりをする囚人の嘘や演技を見抜くことです。なかには、自分の大便を顔や身体に塗りたくって精神病を装う者もいますが、慣れてくれば本物かどうかきっちり見分けられる。詐病か拘禁反応か、それともより深刻な精神病なのかを、鑑別、診断するのが、私の専門だったのです。
松本被告人に関しては、会ってすぐ詐病ではないとわかりました。拘禁反応におちいった囚人を、私はこれまで76人見てきましたが、そのうち4例が松本被告人とそっくりの症状を呈していた。サリン事件の前に彼が書いた文章や発言などから推理するに、松本被告人は、自分が空想したことが事実であると思いこんで区別がつかなくなる空想虚言タイプだと思います。最初は嘘で、口から出まかせを言うんだけれど、何度も同じことを話しているうちに、それを自分でも真実だと完全に信じてしまう。そういう偏りのある性格の人ほど拘禁反応を起こしやすいんです。
まして松本被告人の場合、隔離された独房であるだけでなく、両隣の房にも誰も入っていない。また、私が勤めていたころと違って、改築された東京拘置所では窓から外を見ることができません。運動の時間に外に出られたとしても、空が見えないようになっている。そんな極度に密閉された空間に孤独のまま放置されているわけですから、拘禁反応が表れるのも当然ともいえます。接見中、松本被告人とはいっさいコミュニケーションをとれませんでしたが、それは彼が病気のふりをしていたからではありません。私と話したくなかったからでもない。人とコミュニケーションを取れるような状態にないからなのです。(〜p151)
「死刑にして終わり」にしないことが、次なる悪魔を防ぐ
しかるに、前出の西山医師による鑑定書を読むと、〈拘禁反応の状態にあるが、拘禁精神病の水準にはなく、偽痴呆性の無言状態にある〉と書かれている。偽痴呆性というのは、脳の変化をともなわない知的レベルの低下のこと。言語は理解しており、言葉によるコミュニケーションが可能な状態です。西山医師は松本被告に3回接見していますが、3回とも意味のあるコミュニケーションは取れませんでした。それなのにどうして、偽痴呆性と判断したのでしょうか。また、拘禁反応と拘禁精神病は違うものであるにもかかわらず、〈拘禁反応の状態にあるが、拘禁精神病の水準にはなく〉と、あたかも同じ病気で片や病状が軽く、片や重いと受けとれるような書き方をしてしまっている。
鑑定書には、さらに驚くべき記述がありました。松本被告人は独房内でみずからズボン、おむつカバー、おむつを下げ、頻繁にマスターベーションをするようになっていたというのです。05年4月には接見室でも自慰を行い、弁護人の前で射精にまで至っている。その後も接見室で同様の行為を繰り返し、8月には面会に来た自分の娘たちの前でもマスターベーションにふけったそうです。松本被告人と言葉によるコミュニケーションがまったく取れなかったと書き、このような奇行の数々が列挙してあるというのに、なぜか西山医師は唐突に〈訴訟をする能力は失っていない〉と結論づけており、そういう結論に至った根拠はいっさい示していない。失礼ながら私には、早く松本被告人を断罪したいという結論を急いでいる裁判官や検事に迎合し、その意に沿って書かれた鑑定書としか思えませんでした。
地下鉄サリン事件から11年もの歳月が流れているのですから、結論を急ぎたい気持ちはわかります。被害者や遺族、関係者をはじめ、速やかな裁判の終結と松本被告人の断罪を望んでいる人も多いでしょう。死刑になれば、被害者にとっての報復にはなるかもしれません。しかし、20世紀末の日本を揺るがせた一連の事件の首謀者が、なぜ多くの若者をマインド・コントロールに引き込んだのかは不明のままになるでしょう。
オウム真理教の事件については、私も非常に興味があったため裁判記録にはすべて目を通し、できるだけ傍聴にも行きました。松本被告人は、おそらく1審の途中から拘禁ノイローゼになっていたと思われます。もっと早い時期に治療していれば、これほど症状が悪化することはなかったはずだし、治療したうえで裁判を再開していたなら10年もの月日が無駄に流れることもなかったでしょう。それが残念でなりません。
拘禁反応自体は、そのときの症状は激烈であっても、環境を変えればわりとすぐ治る病気です。先ほど紹介した高カロリー剤を天井まで吐いていた囚人も、精神病院に移ると1カ月で好転しました。ムシャムシャ食べるようになったという報告を受けて間もなく、今度は元気になりすぎて病院から逃げてしまった。すぐに捕まって、拘置所に戻ってきましたが。
松本被告人の場合も、劇的に回復する可能性が高いと思います。彼の場合は逃亡されたらそれこそたいへんですから、病院の治療は難しいでしょうが、拘置所内でほかの拘留者たちと交流させるだけでもいい。そうして外部の空気にあててやれば、半年、いやもっと早く治るかもしれません。実際、大阪拘置所で死刑囚を集団で食事させるなどしたところ、拘禁反応がかなり消えたという前例もあるのです。(〜p153)
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【63年法務省矯正局長通達】
法務省矯正甲第96号
昭和38年3月15日
死刑確定者の接見及び信書の発受について
接見及び信書に関する監獄法第9章の規定は、在監者一般につき接見及び信書の発受の許されることを認めているが、これは在監者の接見及び信書の発受を無制限に許すことを認めた趣旨ではなく、条理上各種の在監者につきそれぞれその拘禁の目的に応じてその制限の行われるべきことを基本的な趣旨としているものと解すべきである。
ところで、死刑確定者には監獄法上被告人に関する特別の規定が存する場合、その準用があるものとされているものの接見又は信書の発受については、同法上被告人に関する特別の規定は存在せず、かつ、この点に関する限り、刑事訴訟法上、当事者たる地位を有する被告人とは全くその性格を異にするものというべきであるから、その制限は専らこれを監獄に拘置する目的に照らして行われるべきものと考えられる。
いうまでもなく、死刑確定者は死刑判決の確定力の効果として、その執行を確保するために拘置され、一般社会とは厳に隔離されるべきものであり、拘置所等における身柄の確保及び社会不安の防止等の見地からする交通の制約は、その当然に受忍すべき義務であるとしなければならない。更に拘置中、死刑確定者が罪を自覚し、精神の安静裡に死刑の執行を受けることとなるよう配慮さるべきことは刑政上当然の要請であるから、その処遇に当たり、心情の安定を害するおそれのある交通も、また、制約されなければならないところである。
よって、死刑確定者の接見及び信書の発受につきその許否を判断するに当たって、左記に該当する場合は、概ね許可を与えないことが相当と思料されるので、右趣旨に則り自今その取扱いに遺憾なきを期せられたい。
記
一、本人の身柄の確保を阻害し又は社会一般に不安の念を抱かせるおそれのある場合
二、本人の心情の安定を害するおそれのある場合
三、その他施設の管理運営上支障を生ずる場合
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◆「オウム松本智津夫死刑囚は完全に拘禁反応 治療に専念させ、事件解明を」加賀乙彦氏 医師として自信2011-11-27 | 死刑/重刑/生命犯 問題
オウム公判終結:あの時…/6止 教祖自白なく真相闇に
◇精神科医として松本死刑囚に接見、加賀乙彦さん
真相が何も分からないまま、松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚には「死刑」という結果だけが出た。もっと時間をかけて彼から言質を引き出し、なぜ教養や技術のある精鋭たちが彼の手の内に入って、残酷な殺人事件に引き込まれたのか明らかにする必要があった。それが裁判所の使命なのだが、放棄してしまった。私はこの裁判が終結したとは思っていない。法律的には死刑が確定したが、松本死刑囚の裁判は中途半端に終わってしまい、裁判をしなかったのと同じだ。
06年、弁護団の依頼で松本死刑囚に東京拘置所で接見した。許された時間は30分だけ。短時間では何も分からないと思うかもしれないが、私には自信があった。医師として、過去に何人もの死刑囚を拘置所で見ているが、松本死刑囚は完全に拘禁反応に陥っていた。何の反応も示さず、一言も発しない。一目で(意識が混濁した)混迷状態だと分かった。裁判を続けることはできないので、停止して治療に専念させるべきだと主張したが、裁判所は「正常」と判断した。
拘禁反応は環境を変え時間をかけて治療すれば治る病気だ。かつて東京拘置所で彼と同じ症例を4例見たが、投薬などで治すことができた。治療すれば、首謀者である彼の発言を得られた可能性があっただけに残念だ。
結局、松本死刑囚から何一つ事件についてきちんとした証言が得られないまま裁判は終結した。このまま死刑が執行されれば、真相は永久に闇に葬られてしまう。オウム事件の裁判ほど悲惨な裁判はないと思う。世界的にもまれな大事件を明らかにできないままでは、全世界に司法の弱点を示すことになる。
なぜ松本死刑囚に多くの若者が引きつけられ、殺人行為までしてしまったのか。信者の手記など、文献をいくら読んでも私には分からない。教祖の自白がなければ、なぜ残酷なことをしたのか解明もされず、遺族も納得できないはずだ。
「大勢を殺した人間は早く死刑にすべきだ」という国民的な空気にのって、裁判所もひたすら大急ぎで死刑に走ったように感じる。だが、真相が闇の中では「同じような事件を起こさせない」という一番大切な未来への対策が不可能になってしまう。再びオウム真理教のような集団が生まれ、次のサリン事件が起こる可能性も否定できない。形式的には裁判は終わったが、彼らを死に追いやるだけで、肝心な松本死刑囚が発言しないでいる今、あの事件は解決したと思えない。【聞き手・長野宏美】=おわり
◇かが・おとひこ
精神科医として東京拘置所に勤務し、大勢の死刑囚の診察に携わる。上智大教授などを務め、79年から創作活動に専念。医師の経験を基にした作品も多く、死刑囚が刑を執行されるまでを描いた小説「宣告」や、死刑囚との往復書簡集「ある死刑囚との対話」など著書多数。06年に弁護団の依頼で松本智津夫死刑囚に接見し「正常な意識で裁判を遂行できない」と、公判停止と治療を訴えた。82歳。
毎日新聞 2011年11月27日 東京朝刊
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◆地下鉄サリン事件から16年/「麻原は詐病やめよ」土谷正実被告死刑確定2011-02-17 | 死刑/重刑/生命犯 問題
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◆オウム真理教事件が問いかけるもの/教訓をどう生かすのか/問われる既成宗教とメディアのあり方 2011-12-18 | 死刑/重刑/生命犯 問題
[加賀乙彦著『悪魔のささやき』集英社新書 2006年8月17日第1刷発行] より抜粋
オウム真理教事件が私たちに問いかけるもの
薬物で補強されたマインド・コントロール
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関連:松本智津夫(麻原彰晃)被告(51)裁判