「ダイヤ形」安保 輝くか インド◇日本◇ハワイ◇豪州 連携
中日〈東京〉新聞 2013/01/17Thu. 特報
海洋進出「封じ込め」狙い
ダイヤモンド安保構想−。耳慣れない言葉だが、安倍晋三首相が昨年末、提唱した外交安保のアイデア。日本、インド、豪州、米ハワイ州の連携を強め、ダイヤモンドの形の枠組みをつくる。狙いは海洋進出に野心的な中国に対するけん制であり、「封じ込め」戦術。ダイヤモンド安保の可能性と問題を考えた。(上田千秋・林啓太)
■中国けん制へ首相提唱
「インド洋から西太平洋にかけて共有する海を守るため豪州、インド、日本、ハワイ州が『ダイヤモンド』を形成する」。「ダイヤモンド安全保障構想」は安倍首相が十二月二十七日、国際NPO「プロジェクト・シンジケート」に寄稿した論文で提唱した。
ダイヤモンドは、日本など四カ国・州を線で結ぶと浮かび上がるひし形を指す。四角い海域での「航海の自由」を、日米印豪の四カ国が連携して守る戦略という。
「プロジェクト・シンジケート」のウェブサイトには「安倍晋三首相」の名前が入っているが、実際には首相就任前に書いたものとみられ、そのためか、やや踏み込んだ表現が目立つ。
論文にはこの海域に軍事面で進出を図る中国に対する首相の強い警戒感が込められている。中国は南シナ海の南沙諸島の領有権をめぐりフィリピンやベトナムなどと対立を深めているが、安倍首相は南シナ海が「『北京の湖』になるようにみえる」とかなり刺激的な表現を使っている。加えて首相は「日本が東シナ海で中国に屈してはならない」と強調。日中の尖閣諸島の領有権問題で日本の立場の正当性を訴えている。
■価値観外交
安倍首相は以前から「自由、民主主義、基本的人権といった価値観を共有する国との関係を深める」と、「価値観外交」を主張している。今回のダイヤモンド安保構想も、こうした価値観外交に基づくもので、立命館大学の宮家邦彦客員教授(外交・安全保障)は「日本は米国、インド、豪州と民主主義の価値観を共有している。中国に尻込みしない民主主義国家をつなぎ、太平洋での自己主張が強まった中国に対し、現状の海洋秩序を守らせようとしている」と指摘。中国への牽制が最大の狙いだろうと解説する。
東京財団の渡部恒雄上席研究員は「民主主義の価値観を共有しない、と言われることは中国からすればいやなこと」と指摘。その上で「首相は、ダイヤモンド構想の方針を示して中国に圧力を加え、自由主義国が海洋秩序を維持する枠組みに加わらざるを得なくさせる作戦だろう。そうすると、中国は尖閣諸島をめぐる行動も制限されるようになる」
前の安倍政権ではこれと同じように「自由と繁栄の弧」があったが、ダイヤモンド安保構想はこれとはどう異なるのか。宮家氏は「戦略の切り口が海か、陸かの違いだ」と説明する。「自由と繁栄の弧が唱えられた当時は、日本がテロ対策をめぐり、イラクやアフガニスタンを支援し、ユーラシア大陸の東西を結ぶ価値観外交に重点が置かれていた。今は中国の海洋進出が大きな問題で、海を意識した構想を立てなければならなくなった」
双日総合研究所(東京)の吉崎達彦副所長は「海洋国家である日本の価値感に裏打ちされたものの見方。セキュリティー・ダイヤモンドという言葉も斬新だし、コンセプトで闘うとの発想は今までの日本にはなかった。首相の発言としてはやや軽い印象があるが、政治家・安倍晋三個人の発言なら非常に面白い」と構想を評価した。
佐藤優・元外務省主任分析官は「ロシアは静観するだろう。しかし、(中国を牽制する意味で)腹の底では歓迎するはずだ」との見通しを示した。
高まる緊張 逆効果?
安倍政権はこの構想に沿って動き出している印象がある。ダイヤモンドの枠に入る東南アジアを重視する姿勢を鮮明にしている。
今月に入って麻生太郎財務相がミャンマーを訪問。岸田文雄外相はフィリピン、シンガポール、ブルネイ、豪州を歴訪。安倍首相も十六〜十九日、ベトナム、タイ、インドネシアの三カ国を回る。
「日本も世論戦でカウンターパンチを出せるんだと、中国に意識させることができる」(吉崎氏)との好意的な見方もある一方、実際にダイヤモンドを形成するには、問題が山積しているのも事実だ。
■豪印に温度差
岸田外相と会談した豪州のカー外相は十三日、「日豪関係は中国を封じ込めるものではない。日本との関係緊密化は豪中、日中の関係強化と共存できる」と述べて日本の出方をけん制。「日豪はともに米国と同盟国。戦略認識を共有し、協力関係をいっそう推進していきたい」と語った岸田外相とは微妙な温度差を感じさせた。
ダイヤモンドを結ぶ、もう一つの国、インドが同調するかどうかも疑わしい。外交評論家の孫崎亨氏は「インドの中国との貿易量は日本の何倍にも当たり、国の重要度は中国の方がはるかに上。現実的に考えれば、できるとは思えない」とみる。
岐阜女子大南アジア研究センターの福永正明センター長補佐も「『日印の関係が、日米関係を超えるわけがない』というのがインドの一般的な考え方。インドからすれば、日米を基軸としたものよりも東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係や自由を中心とした別の枠組みを考えていくだろう」との見方を示す。さらに「日米同盟の強化や対中政策のためにインドを犠牲にしようとしているのでは、と考えている識者もいる」と指摘する。
■口実与える?
ダイヤモンド構想が中国を強く刺激し、尖閣問題などをめぐる緊張を高める危険があるとの見方もある。
慶応大学の渡辺靖教授(文化外交)は構想自体は「悪くないアイデア」という一方、「日中関係は今、非常に危険な領域に入っている。構想は、『中国にとって脅威になる。拡張路線を進めなければならない』との口実を与えかねず、逆効果になる可能性がある」と指摘する。
渡辺氏はこうした構想と並行して、中国政府の中枢にパイプをつくるなど地道な努力の積み重ねによって、関係改善を図るべきだとの考えだ。「いざという時に落としどころを見つけるのは政治家同士のコミュニケーションなのに、それができていない」と説く。
孫崎氏も、ダイヤモンド構想の裏には米国の戦略がちらつくと否定的な考えを強調。「日米は価値が共通だとか、中国と連携できるわけがないと主張するが、それは米国の軍産複合体が使うロジック。米国は自国のカネを使わずに、日本などに負担させたいだけのことだ」と述べた。 *リンクは来栖
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Asia’s Democratic Security Diamond by Shinzo Abe- Project Syndicate http://po.st/e9XtMg
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「安保ダイヤモンド」形成着々 中国包囲網へ豪重視鮮明
産経新聞 1月14日(月)7時55分配信
岸田文雄外相がオーストラリアのカー外相との会談で、米国を含めた安全保障分野の協力を加速させる方針で合意したのは、海洋進出を進める中国を牽制(けんせい)する狙いがある。民主党政権下では豪州側の“片思い”が続いていたが、政権交代を機に「戦略的パートナー」として豪州重視を打ち出した形だ。
安倍晋三首相は就任直後に発表した論文で、豪州、米ハワイ、インド、日本を結ぶ「安全保障のダイヤモンド」を形成する戦略構想を明かしている。
この中で中国については、海上交通路(シーレーン)が通る南シナ海を「北京の湖」として影響力を増していると警戒を示し、インド洋と西太平洋の海洋安全保障を目的とした日米豪印の協力強化を訴えた。
首相は第1次政権時代もアジア地域などで自由や民主主義、法の支配の定着を目指す「自由と繁栄の弧」構想を掲げた。
日豪両国は平成19年の「安全保障協力に関する日豪共同宣言」を受け、物品役務相互提供協定(ACSA)や安全保障に関する情報保護協定に署名するなど着実に安保協力を進展させてきた。
しかし、首脳・閣僚間の交流では豪州の一方的な熱意が目立っている。民主党政権時代の3年余りの間、豪州の首相や閣僚が来日したのは延べ22回だったのに対し、日本側はわずか7回。外務省幹部は「日本がどれだけ豪州のラブコールに応えられているのかという反省はある」と語る。
豪州は昨年4月に米軍のローテーション展開を受け入れており、中国を念頭に置いた米国との関係強化に乗り出している。日本に対しても協力拡大を要請している。日豪当局者間の協議では、豪州側が日本に集団的自衛権の行使容認をたびたび求めているという。
安倍政権は「豪印両国との関係をより高い段階にしたい」(外務省幹部)として、会談を機に安保協力をさらに拡大させる方針だ。政府内には「公海上で日豪いずれかの船舶が攻撃を受けた際に、双方が守る“疑似同盟”を将来的には考えるべきだ」(政府関係者)との声も出ている。(杉本康士)
最終更新:1月14日(月)8時55分
◆『帝国の終焉』(「スーパーパワー」でなくなった同盟国・アメリカ)日高義樹著 2012年2月13日第1版第1刷発行 PHP研究所
p93〜
第5部 どの国も民主主義になるわけではない
人類の歴史を見れば明らかなように、確かに長い目で見れば、野蛮な時代から封建主義の時代に代わり、そして絶対主義の時代を経過し、民主主義が開花した。ヨーロッパの多くの国々はこういった過程を経て豊かになり、人々の暮らしが楽になるとともに、民主主義、人道主義へ移行していった。鍵になったのは「経済が良くなり、暮らしが楽になる」ということである。
中国の場合は、明らかにヨーロッパの国々とは異なっている。そして日本とも全く違っている。中国は二十数年にわたって経済を拡大し続け、国家として見れば豊かになった。だが、すでに見てきたように貧富の差が激しくなるばかりで、国民は幸福にはなっていない。こう決めつけてしまうと親中国派の人々から指弾を受けるかもしれないが、中国国内の政治的な状況を見ると、依然として非人道的な政治が続いている。民主主義は全く育っていない。
中国はもともと共産主義的資本主義と称して、共産党が資本主義国家と同じようなビジネスを行なってきた。中国という国家が資本主義のシステムを使ってビジネスを行ない、国営や公営の企業が世界中から稼ぎまくった。この結果、中国国家は経済的に繁栄したものの、中国人一人ひとりは幸福になっているようには見えない。
p95〜
「中国人は食べられさえすれば文句は言わない」
中国の友人がよくこう言うが、中国人はそれ以上のことを望まないのかもしれない。つまり中国の人は「食べられる」以上のこと、つまり形而上学的な問題には関心がないのかもしれない。
「民主主義、人道主義、国際主義といったものは我々には関係ない」
こう言った中国の知人がいるが、中国だけではなく、ロシアの現状を見ても、封建主義から民主主義に至る政治的な変化を人類の向上とは考えない人々が大勢いるようだ。
p97〜
第2次大戦以来、人道主義と民主主義、そして平和主義を主張してきたアメリカのやり方が、アメリカ主義でありアメリカの勝手主義であると非難された。「アメリカ嫌い」という言葉が国際的に定着したのは、その結果であった。そうしたアメリカのやり方を、1つの考え方であり、1つの価値観に基づくものであると切り捨てているのが、ロシアの指導者であり、中国の指導者である。
p98〜
ヒットラーはドイツの誇りを掲げ、ユダヤ人を圧迫するとともに、反政府勢力を弾圧して経済の拡大を図った。中国もその通りのことをやっている。しかも、冷戦に敗れたロシアのプーチン前大統領が主張しているように、価値観の違った、そしてやり方の違った経済の競争が可能であるとうそぶいている。
だが彼らの言う価値観の相違というのは、民主主義を無視し、人道主義を拒否し、国際主義に反対することである。中国やロシアについては、冷戦に敗れた国や第2次大戦に脇役しか与えられなかった国が自分たちのやり方で歴史の勝利者になろうとしているように見える。
p99〜
共産主義は冷戦の結果、民主主義とそれに伴う人道主義に敗北したはずである。ところが中国は、冷戦と同じ体制を維持しながら、経済の戦争には勝てるとばかり傲慢になっている。
ヨーロッパの人々は中国の台頭をヒットラーの台頭になぞらえている。これに対して日本のジャーナリストや学者たちは驚きを隠さないようである。彼らは、ユダヤ人を抹殺しようとしたヒットラーと中国は異なっていると考えている。だが、共産党が絶対で、反対の意見を持つ者は犯罪者として牢獄に送り、言論の自由を認めていないという点では、中国はヒットラーと同じである。
中国は明らかに人道主義を否定しているだけでなく、民主主義を理解しようとしていない。国際主義も分かろうとしない。
p100〜
ヨーロッパの人々は、歴史的な経験から中国が危険であるとして、ヒットラーと同じであると指摘しているが、歴史にナイーブな日本の人々は全くそのことに気がついていない。
ヨーロッパの人々はヒットラーと戦い勝利を得たが、そのためにアメリカと同盟し手を携えて戦った。中国がヒットラーだという考えに驚くべきではない。新しいヒットラーである中国の共産主義の専制体制に対して世界の人々は、手を携えて戦わなくてはならなくなっている。「アメリカ嫌い」という言葉で中国の脅威から目を逸らす時代は終わったのである。
p146〜
第1部 日本列島周辺が世界でいま最も危険である
ワシントンの軍事消息筋によると、2012年から13年にかけて起きると懸念される最も危険な戦いは、中国による台湾攻撃である。(略)
中国軍はここ数年、莫大な費用を注ぎ込んで近代化に力を入れ、2011年にはJ20と呼ばれるステルス戦闘機の開発に成功しただけでなく、アメリカの多くの専門家の予想に反して、ソビエトから買い受けた空母の実戦航海も開始している。台湾海峡を越えて攻撃できるミサイルを大量に配備し、在日米軍基地を攻撃できるミサイルや、アメリカ本土を攻撃できる長距離ミサイルも実戦配備を終えている。
中国軍は2010年に第11次5か年計画を完了して、実戦態勢を完全に配備し終わっている。(略)
中国が大方の予想を裏切って、2011年、早々と空母の実戦航海を始めたのは、アメリカ海軍に対する対抗措置を早期につくりあげるためであるといわれるが、これと並行して、小型艦艇にミサイルを搭載してアメリカ艦艇を攻撃する態勢を急速に充実させている。アメリカの艦艇を近寄らせず、中国の周辺を安全にしておく態勢とミサイル態勢を完備した以上、中国は必要とあらば、いつでも台湾を軍事的に占領できると考えている。
中国政府はむろん、その考えをオクビにも出していない。アメリカ政府の首脳も、中国が台湾周辺で危険な行動を始めれば、世界中から非難され資源の輸入に支障が出ると見ている。
p148〜
したがって、中国は台湾を攻撃することはないと思っている。だが考えてみると必要があるのは、これから中国の指導者が代わり、国内の政治情勢も大きく変化すると予想されることである。
「中国が軍事的な圧力を強化し、台湾を戦わずして占領するか、あるいは短い時間内で軍事的に制圧すれば、日本はもとより東南アジア諸国、そしてアメリカも中国の軍事力の前にひれ伏して、南シナ海も、東シナ海、尖閣諸島も中国の影響下におさまる」
中国がこう考えてもおかしくはない。中国側が最も懸念しているのは、戦闘が長引き、西太平洋から極東にかけての海上輸送に支障が出た場合、中国経済に重大な危険が及ぶだけでなく、世界中から批判されて輸出に大きな支障が出ることである。中国の台湾制圧が成功するかどうかは、短期間にやれるかどうかにかかっているが、中国はいま述べた第1次軍事力整備計画の完成によって自信を強めているはずだ。
中国が、南シナ海から東シナ海、そして日本周辺での軍事力を強化していることは、冷戦が終わった現在、世界で最も危険な地域が日本周辺であることをはっきりと示している。中国が大量に配備しているクルージングミサイルや中距離弾道ミサイルは、日本を簡単に攻撃できる。ミサイルの多くは、在日米軍基地を標的にしている。
p149〜
(略)
日本では、アメリカの軍事力が中国を封じ込めているので日本は安全だと信じられてきたが、情勢は逆転しつつある。中国国内の政治が不安定になれば、中国の新しい戦略が発動されて、日本を脅かす危険は十分にある。しかも中国だけでなく、北朝鮮も軍事力を強化している。ワシントンの軍事消息筋は、北朝鮮がすでに数十発の核弾頭を保有し、地対地ミサイルや小型艦艇に装備したミサイルで日本を攻撃する能力を持ったと見ている。
p150〜
(略)
北朝鮮はすでに述べたように、世界各国にノドン、テポドンといったミサイルを売り、核爆弾の材料である濃縮ウランの製造にも協力をしている。北朝鮮は、軍事技術の輸出国として莫大な資金を稼ぎ始めているが、その北朝鮮の仮想敵国はまぎれもなく日本である。北朝鮮は中国の政治的な支援を背景に、日本を攻撃できる能力を着実に高めている。
中国と北朝鮮だけではない。いったんは崩壊したと見られるロシアが再びプーチン大統領のもとで軍事力を増強し、極東の軍事体制を強化している。
p151〜
ソビエトは共和国を手放し、ロシアと名を変えたが、冷戦が終わって資源争奪戦の時代に入るや、国内に大量に保有している石油や地下資源を売って経済力を手にし、それによって軍事力を強化し始めている。(略)
ロシアは現在、石油や地下資源で稼いだ資金をもとに、新しい潜水艦やミサイルの開発に力を入れ、ヨーロッパではNATO軍に対抗する姿勢を取り始めている。2009年と10年には、日本海で新しい潜水艦の試験航海を行ったのをはじめ、偵察機や爆撃機を日本周辺に飛ばしている。
ロシアもまた、極東における新たな軍事的脅威になりつつある。ロシアの究極の敵は国境をはさんだ中国といわれているが、海軍力では中国に勝るロシアが、日本列島を越えて中国と海軍力で対立を深めていくのは当然のことと思われる。
p152〜
中国はアメリカに対抗するため、大陸間弾道弾や核兵器の開発に力を入れている。すでに55発から65発の大陸間弾道弾による態勢を確立している。この大陸間弾道弾のなかには、固形燃料で地上での移動が可能な長距離ミサイルや、液体燃料を使う中距離ミサイルなどがある。
中国は潜水艦から発射するミサイルの開発も終わっている。これは中国の核戦略の対象がアメリカであることを示しているが、日本を攻撃できる射程3,000キロのミサイルの開発にも力を入れている。日本が中国の核ミサイルの照準になっていることに、十分注意する必要がある。
中国がアメリカに対抗できる核戦略を持ち、アメリカの核抑止力が日本を守るために発動されるかどうか分からなくなっている以上、日本も核兵器を持つ必要がある。「日本が平和主義でいれば核の恫喝を受けない」という考えは、世界の現実を知らない者の世迷い言に過ぎない。
すでに述べたように、中国は、民主主義や自由主義、国際主義といった西欧の考え方を受け入れることを拒み、独自の論理とアメリカに対抗する軍事力によって世界を相手にしようとしている。第2次大戦以降続いてきた平和主義の構想がいまや役に立たないことは明らかである。日本を取り巻く情勢が世界で最も危険で過酷なものになっているのは、中国が全く新しい論理と軍事力に基づく体制をつくって、世界の秩序を変えようとしているからである。
p168〜
第4部 日本はどこまで軍事力を増強すべきか
日本はいま、歴史的な危機に直面している。ごく近くの隣国である中国は、核兵器を中心に強大な軍事体制をつくりあげ、西欧とは違う独自の倫理に基づく国家体制をつくりあげ、世界に広げようとしている。すでに述べたように、中国は人類の進歩が封建主義や専制主義から民主主義へ向かうという流れを信用していない。中央集権的な共産党一党独裁体制を最上とする国家を維持しながら軍事力を増強している。そのような国の隣に位置している日本が、このまま安全でいられるはずがない。
日本はいまや、同じ民主主義と人道主義、国際主義に基づく資本主義体制を持つアメリカの支援をこれまでのようには、あてにできなくなっている。アメリカは、歴史的な額の財政赤字を抱えて混乱しているだけでなく、アメリカの外のことに全く関心のない大統領が政権に就いている。こうした危機のもとで、日本は第2次大戦に敗れて以来、初めて自らの力で自らを守り、自らの利益を擁護しなければならなくなった。
第2次大戦が終わって以来、日本人が信奉してきた平和主義は、確かに人類の歴史上に存在する理念である。だが、これほど実現の難しい理念もない。
p170〜
国家という異質なもの同士が混在する国際社会には、絶対的な管理システムがない。対立は避けられないのである。人間の習性として、争いを避けることはきわめて難しい。大げさに言えば、人類は発生した時から戦っている。突然変異でもないかぎり、その習性はなくならない。
国連をはじめとする国際機関は、世界平和という理想を掲げているものの、強制力はない。理想と現実の世界のあいだには深く大きなギャップがあることは、あらゆる人が知っていることだ。
日本はこれまで、アメリカの核の傘のもとに通常兵力を整備することによって安全保障体制を確保していたが、その体制は不安定になりつつある。今後は、普遍的な原則に基づいた軍事力を整備していかなければならない。普遍的な原則というのは、どのような軍事力をどう展開するかということである。(略)
p171〜
日本は、「自分の利益を守るために、戦わねばならなくなった時にどのような備えをするか」ということにも、「その戦争に勝つためには、どのような兵器がどれだけ必要か」ということにも無縁なまま、半世紀以上を過ごしてきた。アメリカが日本の後ろ盾となって、日本にいるかぎり、日本に対する戦争はアメリカに対する戦争になる。そのような無謀な国はない。したがって戦争を考える必要はなかった。このため日本はいつの間にか、外交や国連やその他の国際機関を通じて交渉することだけが国の利益を守る行為だと思うようになった。
よく考えてみるまでもなく、アメリカの日本占領はせいぜい数十年である。人類が戦いをくり返してきた数千年の歴史を見れば、瞬きするほどの時間にすぎない。日本人が戦争を考えずに暮らしてこられた年月は、ごく短かったのである。日本人はいま歴史の現実に直面させられている。自らの利益を守るためには戦わねばならない事態が起きることを自覚しなければならなくなっている。
国家間で対立が起きた時、同じ主義に基づく体制同士であれば、まず外交上の折衝が行われる。駆け引きを行うこともできる。だがいまの国際社会の現状のもとでは、それだけで解決がつかないことのほうが多い。尖閣諸島問題ひとつをとってみても明らかなように、外交交渉では到底カタがつかない。
p172〜
ハドソン研究所のオドム中将がいつも私に言っていたように、「常にどのような戦いをするかを問い、その戦いに勝つ兵器の配備を考える」ことが基本である。これまでは、アメリカの軍事力が日本を守っていたので、日本の軍事力は、アメリカの沿岸警備隊程度のものでよかった。日本国防論は空想的なもので済んできたのである。
p173〜
ヨーロッパで言えば、領土の境界線は地上の一線によって仕切られている。領土を守ることはすなわち国土を守ることだ。そのため軍隊が境界線を守り、領土を防衛している。だが海に囲まれた日本の境界線は海である。当然のことながら日本は、国際的に領海と認められている海域を全て日本の海上兵力で厳しく監視し、守らなければならない。尖閣諸島に対する中国の無謀な行動に対して菅内閣は、自ら国際法の原則を破るような行動をとり、国家についての認識が全くないことを暴露してしまった。
日本は海上艦艇を増強し、常に領海を監視し防衛する体制を24時間とる必要がある。(略)竹島のケースなどは明らかに日本政府の国際上の義務違反である。南西諸島に陸上自衛隊が常駐態勢を取り始めたが、当然のこととはいえ、限られた予算の中で国際的な慣例と法令を守ろうとする姿勢を明らかにしたと、世界の軍事専門家から称賛されている。
冷戦が終わり21世紀に入ってから、世界的に海域や領土をめぐる紛争が増えている。北極ではスウェーデンや、ノルウェーといった国が軍事力を増強し、協力態勢を強化し、紛争の排除に全力を挙げている。
p174〜
日本の陸上自衛隊の南西諸島駐留も、国際的な動きの1つであると考えられているが、さらに必要なのは、そういった最前線との通信体制や補給体制を確立することである。
北朝鮮による日本人拉致事件が明るみに出た時、世界の国々は北朝鮮を非難し、拉致された人々に同情したが、日本という国には同情はしなかった。領土と国民の安全を維持できない日本は、国家の義務を果たしていないとみなされた。北朝鮮の秘密工作員がやすやすと入り込み、国民を拉致していったのを見過ごした日本は、まともな国家ではないと思われても当然だった。
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◆ 中国の奥の手は「敵国条項」中西輝政 月刊WiLL:2013年2月号 2012年12月20日発売
p42〜
【2】「敵国条項」という最終兵器
アメリカ上院は11月29日、尖閣諸島に関して「日米安保条約第5条に基づく責任を再確認する」ことを国防権限法案に追加修正する案を全会一致で確認した。これは日本として大変、心強い動きである。
とりわけ、アメリカの認識においても尖閣諸島が単に日米同盟の重視と言うに留まらず、アジア太平洋における戦略的要衝であることをこの決議は示している。
仮に中国が尖閣を制圧し、同島に対艦ミサイルを配備すれば、日米は与那国島から石垣・宮古島の線にはもはや近寄ることができなくなる。
となれば、東・南シナ海の結節点である台湾も落ちたも同然となり、アジアの戦略状況は一変する。また、南シナ海での米中の戦略バランスも一気に中国優勢に傾くとともに、日中対立の最前線として、尖閣だけでなく沖縄、南西諸島自体にまで一気に火が付きかねない。
中国の狙いは、必ずしも領土や東シナ海の海底資源ばかりではない。中国にはどうしても沖縄全体を政治的に支配しなければならない理由がある。
沖縄本島と宮古島の間の宮古水道は200キロほどの幅があるが、戦術ミサイルの発達した今日、このような狭いところを通らなければ太平洋に出られないという現状は、中国の海洋戦略にとっては決定的に不利な状況と言える。しかも、本島には強大な米空軍が基地を置いている。まさに沖縄、南西諸島周辺が中国の世界戦略にとって決定的な要地なのである。
p43〜
そのことを考えれば、中国の長期的な展望として、尖閣を陥し、沖縄を政治的に支配して駐留米軍を揺さぶり、自国の海洋戦略の拡大を目論んでいることは間違いない。
アメリカ上院もこの中国の狙いを理解しているからこそ、この時期に尖閣について先のような決議を行ったのだろう。こうした壮大な構図に全く気が付いていないのは、「尖閣問題で事を荒立てるな」「経済を重視せよ」と叫ぶ日本の経済界のリーダーをはじめとする単なる「平和ボケ」以上に罪深い、国益よりも「経済優先」の日本人である。
■「三戦」ははじまっている
しかも、中国はいきなり軍艦やミサイルで一気に事を荒立てるのではなく、いわゆる「三戦」、つまり心理戦、世論戦、法律戦を使う「超限戦」をすでに開始している。すでに述べたように、海洋戦略の障害である沖縄基地の米軍を撤退させるべく、日本のマスコミを使って盛んに行っているのは、まさに「対日心理戦」であり「世論戦」であろう。普天間問題に加えて、例の「オスプレイ配備反対」などもこれに当たる。
また、日本の経済人をいま以上に骨がらみにするため、「依然として中国市場は魅力的である」と思い込ませる「心理戦」がはじまっており、「法外な”手切れ金”を払うのが中国のルールである」と突きつけるのは「法律戦」と言っていい。そして、これが一番恐ろしいことを知るべきだ。
戦場で軍事兵器を使うだけが戦争ではない。「超限戦」や「三戦」と中国自ら称している。”戦火を交えない戦争”は、すでにはじまっているのである。
対する日本は、こういった工作にめっぽう弱い。大正時代から、日本は中国による反日デモや暴動、国際連盟での対日宣伝活動、日本国内に手を突っ込んでの与党や世論の切り崩し工作など、軍事によらない、そして遥かに効果的な「対日攻撃」に悩まされ続けた。
中国は相手の論理を逆用し、巧みに正面衝突を避けながら相手の動きをも利用して自国の優位をもぎ取る「水平思考」に長けており、これは当然、現在も変わらない。
尖閣問題でも、この「水平思考」は発揮されている。たしかに、アメリカが尖閣で日米安保を発動することは疑いがない。それは、アメリカ自身の国益にとっても決定的に重要であるからだ。
p44〜
にもかかわらず、日本のメディアや識者のなかには、元外務省国際情報局長孫崎享氏のように、端的に「アメリカは尖閣問題で日本を助けることはない」という論者がいるが、こうした主張は大きな認識違いなのだ。
だが、中国の超限戦的発想においては警戒すべき点が一つだけある。
日本がそれを見過ごせば、日米安保を一撃で仕留める”必殺兵器”を中国に与えてしまうことになる。中国の「三戦」には、それほどの威力を秘めた「奥の手」がある。
それは何か。
■中国が巡らせた「伏線」
手がかりは、9月27日に楊潔篪外相が行った国連総会での一般討論演説である。楊外相は演説で、「日本は尖閣を盗んだ」と発言し、日本中を驚かせた。
中国がこのような発言をしたときに注意すべきなのは、この発言に注目を集めておいて、他方で後々、重要となる伏線を用意していることが多いことだ。それゆえ、虚心に全体を見て本質的に何を意図しているのかに常に留意しなければならないのである。
この演説も、一部をみれば「中国が自らの振る舞いも省みず、勝手なことを言っている」と呆れるだけの演説だが、全体を見れば実にポイントを押さえた恐ろしいほどの戦略的布石を打っているのである。
楊外相演説のポイントは、次の3点だ。
1、日本による尖閣国有化は、日本が再び中国の主権を侵害せんとする侵略行為である。
2、日本のこのような行動は、第2次世界大戦後に生まれた国際秩序を破壊する行為である。
3、日本の行為は、国連憲章の原則と精神に違反する挑戦である。
もう、おわかりだろう。中国は国連憲章第53条、107条の「敵国条項」を使おうとしているのである。このことに気づいた時、「しまった」と私は思った。と同時に、つくづくこの国の「危うさ」を痛感した。
過去十数年にわたって、私は敵国条項でけは一刻も早く撤廃すべき、と各種メディアで繰り返し訴えてきたが、その敵国条項がいまこの瞬間、いわば最悪の時に最悪の形で中国に利用されようとしていることが分かったからである。
p45〜
実際、中国の伏線は周到に敷かれている。その後、11月6日にもラオス・ビエンチャンで開催されたアジア欧州首脳会議(ASEM)の場に集まった世界50か国の首脳を前にして、楊外相は再びこう述べている。
「尖閣問題に関する中国政府の立場は私が国連総会で明確にした通りであるが、重ねて次の点を強調しておきたい。(尖閣国有化によって)日本は中国への侵略を行っている」
「日本は反ファシズム戦争の結果を否定してはならない」
「日本の行動は、戦後の国際秩序と原則への重大な挑戦だ」
中国が敵国条項を使い、日本を追い込もうとする方針を固めたとみていいだろう。
■抵抗許さぬ敵国条項
すでに周知の人もあろうが、国連憲章の該当の2条にはこう書かれている。
〈第53条
1、安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。
もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。
2、本条1で用いる敵国という語は、第2次世界大戦中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される〉
〈第107条
この憲章のいかなる規定も、第2次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は排除するものではない〉
要するに、第2次世界大戦中、国連加盟国(中国は原加盟国、つまり創設メンバーとされる)の敵国であった日本とドイツに対して、この「敵国条項」が適用される(イタリアなどは大戦末期に連合国に寝返っているので、適用については論争がある)。
p46〜
この2国が「再び侵略戦争の動きを見せた時」、あるいは「第2次世界大戦で出来上がった国際秩序に対して、それを棄損する行為に出た時」には、国連加盟国は安保理の決議や承認がなくても、自国の独自の判断によって日本やドイツに対しては軍事的制裁を行うことができる、とされているのである。
そして安保理やアメリカを含むいかなる加盟国も、それに対抗したり阻止したりすることはできない、とわざわざ念が押されているのである。
■照準は「日米同盟」瓦解
この「敵国条項」を以て、中国のいう「超限戦」が貫徹されるシナリオはすでに早くから出来上がっていると見るべきだろう(日本とソ連=ロシアとの間では、91年4月の日ソ首脳会談の共同声明で「敵国条項」を適用しないことを合意しているが、中国との間にはその合意はない)。
おそらく、中国の描く有力なシナリオはこうだ。中国が尖閣に漁民を装った特殊部隊を上陸させる。取締りのために日本が海保の巡視船を出すが、衝突が起こり、中国海軍の軍艦が沖合に姿を現す。
これにより、後方から監視していた海上自衛隊も動き、実質、軍事衝突一歩手前までの事態になる。しかし、戦争を意味する「防衛出動」の発令は難しいから、北の工作船を追いかけた時の「海上警備行動」止まりであろう。
アメリカの存在を頼みにしながら、日本政府が海上自衛隊に「海上警備行動」を発令し、動き出した瞬間、中国当局が次のような声明を発表する。
「中国は、国連憲章の定めを破り、再び侵略行動を開始した日本を制裁するため、国連憲章の『敵国条項』に則って軍事行動に入る」
これにアメリカはどう反応するだろうか。上院で「尖閣諸島には日米安保が適用されるべき」と決議されたとはいえ、アメリカといえども国連憲章を無視することはできず、憲章に拘束されて、少なくとも初動が鈍るか、もしくは動きを封じられるだろう。こうなると、日本中はパニックに陥るだろう。
そうでなくても、アメリカは尖閣で日中が揉めることを望んでいない。当然のことだが、他国の領土のためにアメリカ兵士の血が流れることも、アメリカ国民には受け入れがたい。ましてや、敵国条項を突きつけられれば、国際法を重んじるアメリカ世論の風向きは一気に「尖閣に介入すべきでない」との方向に傾く可能性が強い。
p47〜
しかしそうなれば、日本人の日米安保への信頼は根底から揺らぐかもしれない。そして、これこそがまさに中国の真の狙い、つまり日米分断が一挙に達成される瞬間である。
それは大げさに言えば、「戦後日本が終わる時」と言えよう。いずれにせよ、中国によって敵国条項を持ち出された時点で、日本国内も総崩れになりかねない。そしてその瞬間、「尖閣は中国のもの」となる。
ここで分かるのは、中国が尖閣を歴史問題化しようとしていたのは、必ずしも韓国の竹島問題やロシアの北方領土問題と足並みを揃えるためだけではなかった、ということだ。日本の尖閣への実効支配の強化を「再侵略」と位置づけ、アメリカを国際法的に抑止し、日本を決定的に孤立させる中国の秘密兵器それが敵国条項なのである。
■何と愚かな日本外交か
それにしても、なぜいまだに、第2次世界大戦当時の敵国条項が存在しているのか。
実は1995年、国連創立50周年の年に日本とドイツが共同提案国となり、この条項を憲章から削除すべしという決議案を国連総会に提出している。そして、総会では賛成多数で採択されたが、批准書を寄託した国は定数に達しなかった。
ここに国際社会の本音と建前を見る思いがするが、いずれにしても、この敵国条項は時代遅れ(obsolete)であり、削除に向けて作業を開始すると謳われていても、総会の決議だけでは何の効力も有しない。つまり、17年が経過した現在でも、この条項はいまだに効力を保っているのである。(略)
当時、私は「常任理事国入りなど中国が賛成するわけがないから、動くだけ無駄である。その余力を、一刻も早い敵国条項の撤廃に向けるべきだ。そうしないと、この条項の放置は日本の安全保障にとって大きな脅威となるから」と多くの論文に書き、いくつかの論壇誌でも発表したのだが、外務省関係者は「中西さん、知らないんですか。この敵国条項はもう完全に死文化しているんですよ」と安易至極な態度であった。
p48〜
こうした姿勢は、戦後の外務省の体質に深く根ざしている。外務省出身で国連大使にまでなった小和田恆(ひさし)氏が「ハンディキャップ国家論」を説いたが、そのよって立つ思想は憲法前文、9条であるとともに、敵国条項の放置もこの思想と共鳴し合うものだったのである。なぜなら、「諸国民の公正と信義に信頼して」日本の安全保障を委ねるのだから、あの侵略戦争をした日本は敵国条項の非を訴えるべきではない、というわけである。
この思想の流れが、現在も日本の外務省に通底しているのではないか。「常任理事国入り」にはあれほど熱心に取り組みながら、敵国条項の問題は外務省内ではいまだに「タブー」扱いされているからである。しかし、この条項を放置しての「国連中心主義」の外交など、もともと成り立ちえないものだったのである。何と愚かな日本外交であったことか。
■外交の機先を制すべし
「中国が敵国条項を使って日本を危機に陥れようとしている」---実は、このことを活字にすることにはこの数か月、大いに悩んだ。
第一に、中国に逆利用されはしないか、と危惧したためである。
第二に、中国だけでなく、かねてより「尖閣は日本固有の領土ではない」「アメリカは尖閣問題では決して動かない」と言い続けてきた前出の孫崎享氏ら、親中派に論拠の補強材料を与えることにもなりかねないからだ。
だが11月以降、ここまであからさまに中国が動いてきた以上、もはや一刻の猶予もない。(略)
外交は機先を制さなければならない。外務省、政府、そして官邸が一体となって、早急に敵国条項の実質的空文化を再確認する決議を国連の場で強力に推進し、あわせてアメリカ政府や国際社会に対し、「敵国条項を中国が持ち出す可能性がある。総会で、撤廃に向けたより強い失効決議に賛成してもらいたい」と働き掛け、「このままでは中国に国連憲章を悪用されることになり、アジアの平和は瓦解する」と広く、そして大きな声で国際世論に訴えるべきだ。多くの欧米紙に一面広告を出してもいい。
p49〜
■「国連主義」の虚妄
事態は一刻を争う。経団連会長のように、経済活動の停滞だけを心配して中国のご機嫌伺いをしている場合ではさらさらないのである。急がなければ、戦後日本が「平和の理想」と崇め奉ってきた国連憲章によって、日本が武力による攻撃を受け、しかも同盟国のアメリカも手が出せないという絶体絶命の危機に追い込まれかねないのである。
「国連」の名のもとで中国の「軍事制裁」を受け、多くの日本人が血を流し、領土も奪われる事態を迎えることになれば、日本にとってそれは何という悲劇であろうか。「戦後日本」という虚妄を、これほど劇的に示す例はないだろう。
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