現行憲法はぶっ壊れた中古車、説得力ある改憲案を バランスを欠いた体罰教師、暴力では代えられない言葉と力〜小林節氏
JBpress2013.01.25(金)「マット安川のずばり勝負」2013年1月18日放送
マット安川 今回は憲法学者の小林節さんを迎え、憲法改正の現状や改憲にあたっての問題点から体罰問題まで、解説していただきました。
■安倍政権は憲法論議を進めるべし。今は9条改正のチャンス
小林 憲法改正というと、昔はそれ自体が非常に恐ろしいことのように言われたものでした。改正したら明日戦争になって若者が死ぬかのような空気があった。
民主党が政権を取った時点で、党内の一部はすでにそんな束縛から脱して合理的改憲を論じていましたが、結局は何もしませんでした。それだけに安倍政権には期待しています。
「安倍学説」には反対の部分もあります。思い込みの強い方ですし怖いところもありますが、逆に言えば怖い物知らずのお坊ちゃんだからこそ何かを動かすと思うんですね。きちんと生産的な議論をして、前に進めるのはよいことだと思います。
現行憲法はぶっ壊れた中古車みたいなもので、改正が急務などころかとうの昔にやってて当たり前なんですから。
中国が今、事実上、軍事的に日本を襲ってるじゃないですか。こういうときにですね、われわれは戦争という概念をドブに捨てましたから戦争はしませんよハハハのハ、その証しに軍隊持ちませんよハハハのハ・・・じゃ済まないんですね。
侵略の意図がないことなんて当たり前の話で、しかし現行憲法では防衛の意思すらなくなっちゃってる。そうかと思うと9条の下で海外派兵ができたりする。改正して、できることとできないことをはっきりさせないといけません。
今の状況というのは、隣りの住人がこっちの庭に入ってきたから出てけといったら、その盗人に「おまえ盗人猛々しい」と言われているようなものです。9条改正のいいチャンスじゃないですか。
■憲法は権力者を抑えるもの。国民の権利を強調するのは当然
今の憲法は権利の規定ばかりで義務の規定がないとは、自民党や櫻井よしこさん、あるいは産経新聞もよく言っていることですが、私は学問的に間違いだと思います。
憲法というのは六法全書の中で唯一、国民大衆という非力な者どもが、権力者である政治家、公務員に対して権限の根拠と権限の枠を与えるものです。権力が国民の幸福追求の自由を邪魔をすることを防ぐもの、と言ってもいい。
権力の濫用を人権で跳ね返すという構造がそこにはあります。当然のこと、国民の権利が強調される。これが憲法という道具をめぐる世界的常識です。
それに必ずしも権利ばかりではない。12条と13条には、国民はその権利を常に公共の福祉のために利用する責任を負う、濫用してはいけないということが書いてあります。たった2つの条文ですけど、これはすべての人権に及ぶんです。
こういうことが理解されていないのは、9条ばかりを取り上げてきた戦後日本の憲法教育の大きな間違いだと思います。私はアメリカで勉強したときにこれに気づいて、日本に帰ってきてからもずっと主張してきました。この真理を譲る気はありません。
■不倫したら刑務所行き? 憲法に道徳を語らせてはいけない
私は改憲論議を動かさなきゃいけないと思っているんで、今は鷹揚に構えています。でも動き出したら、自民党にいっぱい文句をつけようと思っています。
9条について言えば、国会の多数決で簡単に海外派兵できるようにしちゃうのはまずい。もしかすると国が滅ぶかもしれない重大なことなんですから、憲法の中にその条件を書くべきです。
自民党は党内分裂を恐れて参議院廃止を引っ込めましたよね。参議院は慎重審議と言いますが、党議拘束のせいで結局は同じ議論しかしようがない。
一方で衆参ねじれ現象というのがあって、2つの意見が同時にひとつの国を縛ることになったりします。この際、一院制にしちゃえばいいというのが大方の理論家、実務家の意見だと思うんですね。それを言ったら参議院が怒るとかいうのは、次元の低い話です。
国を愛せとか家庭を大事にしろとか、憲法に盛り込むのも考え物です。たまたま運命的な出会いがあって、不倫してしまったらそれ自体が憲法違反になってしまいます。刑法を作って刑務所に送ることだってできるようになる。
だいたい結婚なんて頭に血が上ってるときに決めることですから、外れることもあるんですよ・・・ていうくらいの構えでいないとね。憲法で道徳を語っちゃったら法学じゃなくなります。
■説得力ある改憲案が必要。96条改正は邪道である!
何より大反対なのは96条の改正です。国会議員の3分の2の賛成がないとダメだというのにいらだって、自民党はこれを2分の1にしちゃいましょうという案を出してますよね。
憲法を改正するのなら国民を説得して賛成を得るべきで、それができないから手続きを変えるというのは邪道です。
本来、権力者を制限する、権力者を不自由にするのが憲法ですから、こんなことが許されたら憲法は要らないということになる。憲法は基本法であって、「硬性憲法」と言われるように簡単には改正できないものなんです。
96条を改正しようとしたら、良心的な法律家、憲法学者はみな反対するでしょう。身体を張って反対する。
ここに宣言しますが、96条の改正は永遠にできないと思います。私はそういう企みが挫折する、してもらうように論陣を張ります。だって憲法が憲法じゃなくなっちゃうんですから。
説得力のある改憲案でハードルを越えてこそ、国民の意思として定着する。裏口入学みたいな改憲は、やったらダメです。
■教師は体罰で自分の限界を露呈する
最近、体罰の問題がクローズアップされていますが、教育者が刑事事件になりうるような手段を使うこと自体、教育としてアウトだと思います。昔は許されたことだというのは、その通りかもしれません。しかし時代は変わったんです。
教師の端くれとして言いますが、教師に求められることは、まず、いい講義ができることです。子どもたちに、こんなに素晴らしくて楽しい世界があるんだと思わせる、学問に興味を持たせる講義ができないといけない。
その上で大人として、おまえらそこがおかしい、社会じゃ通用しないぜということを説得力を持って言うことができれば、子どもたちは目を輝かせて勉強しますし、教師を尊敬します。教師がそうなれば、親だってチャチャを入れずに教師に任せるでしょう。
教師に子どもを指導する言葉と実現する力があれば、ちゃんと伝わるんです。殴るというのはただのヒステリーで、教師が自分の限界を露呈してるってことじゃないですか。それが教育であるはずはありません。
子どもを愛して、面倒を見て、でもたまにおまえらいい加減にしろよって怒るのはいいんです。問題になる教師は愛情もなければ責任を背負ってもいない。バランスを欠いてるんだと思います。
*小林 節(こばやし・せつ)氏
憲法学者、慶應義塾大学教授、弁護士。日本海新聞・大阪日日新聞客員論説委員。近著『「憲法」改正と改悪』など著書多数。
=====================
↧
「現行憲法はぶっ壊れた中古車、説得力ある改憲案を」小林節氏
↧