【突破する日本】首相が国民に求めた「覚悟」と「当事者意識」 ★(5)
zakzak2013.02.03
安倍晋三首相が1月28日に行った所信表明演説について、野党やメディア・識者は「経済や震災復興、外交・安全保障に終始し、原発・TPP・集団的自衛権・憲法改正・社会保障への言及がない」と批判している。しかし、演説は再登板後初の所信を述べたもので、いわば第2次安倍政権の政治哲学を語ったものと理解すべきだ。個々の重要課題については施政方針演説や国会論戦で語ることだろう。
政治哲学を語ったというのは、例えば次の部分だ。「外交は、単に周辺諸国との2国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰(ふかん)して、『自由』『民主主義』『基本的人権』『法の支配』といった、基本的価値に立脚し、戦略的な外交を展開していくのが基本であります」
これは、わが国は戦後の「サンフランシスコ体制」の下にあり、中国が回帰を画策している「ポツダム体制」など成り立たないと宣言したものであることは既に述べた。
同時に、わが国は自由主義陣営の一員として自由などの「基本的価値」を共有する国々と連携することを宣言したものでもある。関係は外交・安全保障にとどまらない。自由貿易を原則とするからTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加も視野に入るだろう。安倍首相は交渉力ある「強い日本」になれば、TPPも恐れるに足りずと考えているはずだ。
最も注目すべきは「おわりに」の部分だ。そこで芦田均元首相が戦後の焼け野原で将来を心配する若者に「『どうなるのだろう』と他人に問いかけるのではなく、『われわれ自身の手によって運命を開拓するほかに道はない』」と諭したことを紹介した後、安倍首相は次のように国民に語り掛けている。
「何よりも、自らへの誇りと自信を取り戻そうではありませんか。私たちも、そして日本も、日々、自らの中に眠っている新しい力を見いだして、これからも成長していくことができるはずです。今ここにある危機を突破し、未来を切り開いていく覚悟を共に分かち合おうではありませんか」
こう述べて、安倍首相は「『強い日本』を創るのは、他の誰でもありません。私たち自身です」と締めくくっている。福沢諭吉の「一身独立して一国独立す」や、ケネディ米大統領の「国が何をしてくれるかではなく、国に対して何ができるかを考えよう」などの演説を彷彿させる。
「危機」が突破できるか否かは国民1人ひとりの覚悟に掛かっている。安倍首相は覚悟を求めたのだ。今の日本国民に欠けているのは当事者意識と「やればできる」という自信だと訴えたのである。(高崎経済大学教授・八木秀次)
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【突破する日本】首相が国民に求めた「覚悟」と「当事者意識」(5)
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