【新帝国時代 2030年のアジア】 (1)中国の野望にくさび打て 尖閣、石垣・宮古、台湾まで…侵攻想定
産経新聞2013.1.1 14:56
沖縄県・尖閣諸島の領海外側にある接続水域を航行していた中国の海洋監視船3隻が31日午後、相次いで領海に一時侵入した。第2次安倍政権発足後初めてで、政府は首相官邸の情報連絡室を官邸対策室に格上げした。緊迫の海に年の瀬はない。こうした中国の攻勢は今後も続くのか−。
防衛省が10〜20年後の安全保障環境の変化に対応する「統合防衛戦略」の作成にあたり極秘に対中国の有事シナリオを検討しているのも不測の事態に備えるためだ。判明したシナリオによると、中国側の出方を3つに分けて予想している。
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《シナリオ〔1〕 ○年×月×日 尖閣侵攻》
中国の海洋・漁業監視船は沖縄県・尖閣諸島周辺海域での領海侵入を繰り返していたが、海上保安庁の巡視船と監視船が「偶発的」に衝突した。これをきっかけに中国は監視船を大挙して送り込む。
前進待機していた海軍艦艇も展開。中国初の空母「遼寧」と新鋭国産空母の2隻が近づき威圧する。巡視船は退かざるを得ない。
「領土・主権など『核心的利益』にかかわる原則問題では決して譲歩しない」
中国外務省は尖閣について、譲れない国益を意味する「核心的利益」と国際社会にアピールする。
海保の増援船艇や海上自衛隊の艦艇が展開する前に中国側は空挺(くうてい)部隊と新型の「水陸両用戦車」を上陸させる。これまでは漁民を装った海上民兵の上陸が懸念されていたが、偶発を装った意図的な衝突から一気に尖閣を奪取する事態も現実味を帯びてきた。
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《シナリオ〔2〕 尖閣と石垣・宮古 同時侵攻》
尖閣のみならず中国が石垣島と宮古島にも同時か波状的に侵攻するシナリオもある。「中国は尖閣と石垣・宮古をひとつの戦域ととらえている」(自衛隊幹部)ためだ。
中国側はまず海軍艦艇を集結させ周辺海域を封鎖する。艦艇の中心はルージョウ級ミサイル駆逐艦やジャンカイ級フリゲート艦の発展型。空からは第5世代戦闘機「J20」と新世代機が飛来。宮古島にある航空自衛隊のレーダーサイトをミサイル攻撃し、日本の防御網の「目」を奪った。
混乱に乗じ潜入した特殊部隊は宮古空港と石垣空港を占拠する。空港を奪えば自衛隊は増援部隊や装備・物資を輸送する拠点を失うためだ。自衛隊も警戒していたが、陸上自衛隊の部隊を常駐させていないことが致命的だった。
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《シナリオ〔3〕 尖閣・石垣・宮古と台湾同時侵攻》
中国は2021年の共産党結党100周年でなしえなかった台湾統一のチャンスをうかがっていた。日米の行動を阻止するため台湾に近く、空港のある石垣島や宮古島を制圧することも想定される。
防衛省がこのシナリオに踏み込むのは、米国に介入を断念させるという中国の「究極の狙い」を統合防衛戦略に反映させるためだ。
台湾への侵攻作戦は海上封鎖や戦闘機・ミサイル攻撃、特殊部隊や水陸両用の上陸作戦が中心だ。
この頃には、地上配備の対艦弾道ミサイル「DF21D」は第1列島線より遠方でも米空母をピンポイントで攻撃することが可能となっているとみられる。
世界最速を目指し開発を進めた長距離爆撃機「轟10」は航続距離も長く、西太平洋全域で米空母を威嚇する。大陸間弾道ミサイル「DF31」は射程を1万4千キロに延ばし米本土全域を核攻撃の脅威で揺さぶる。
これらにより米軍の介入を阻めば、中国は宮古海峡に加え、台湾−フィリピン間のバシー海峡も押さえられる。中国にとって海洋進出の「防波堤」は消え、東シナ海と南シナ海での覇権確立を意味する。第2列島線を越え西太平洋支配の足がかりも得ることになる。
防衛省幹部は「これが対中有事で想定しておくべき最悪シナリオだ」と語る。
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冷戦終結後、植民地獲得はしなくても自国の権益拡大に腐心する国を、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は「新・帝国主義国」と名付ける。そうした国が出現する状況のなか、日本はどう対処すべきか。安全保障、高齢化、エネルギー問題などから近未来のアジアを見つめ、日本の生き残りの道を探る。
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■中国国防費「12年後に米抜く」
10〜20年後の有事シナリオ作成に防衛省が着手したことが判明したが、その頃の東アジア情勢はどうなっているのだろうか。参考となるのが米国家情報会議(NIC)がまとめた国際情勢に関する報告書『世界の潮流2030』だ。
東アジア情勢に関し、中国政府が国内問題の目をそらすため「外に向かってより攻撃的になる」可能性を示している。
報告書の執筆、監修にあたったマシュー・バロウズ顧問は「最悪のシナリオ」も指摘する。
「中東紛争が起きている間にパキスタン情勢が悪化、同時に東アジアでも緊張が拡大する」
なぜこうしたシナリオを検討しないといけないのか。バロウズ氏の答えは明快だ。
「30年までに、地政学的な環境の急激な変化が起きるだろうからだ」
■「独自で対抗無謀」
軍事費の面から30年に向けた東アジア情勢を予測したのが神保謙慶応大准教授だ。神保氏は昨年7月、シンガポールでの講演で、05年から30年にかけての日米中3カ国の軍事費の推移を発表した。
参加者の目は神保氏が示した図表にくぎ付けとなった。25年に中国の国防費が米国を逆転する可能性を示したためだった。
将来の各国の名目国内総生産(GDP)を国際通貨基金(IMF)などの推計をもとに算出し、GDPに占める国防費の割合をかけあわせた。中国の国防費はスウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の統計や米国防総省の分析を援用した。
財政支出削減により米国の国防費の伸び率が大幅に制約されると、米中の国防費が逆転するとの結果が出たのだった。
「さまざまな仮定の上に立った単純計算だ」と神保氏は前置きするが、「安全保障の構図が変化する可能性には多くの関心が寄せられた」と振り返る。
この図表で神保氏が「よりリアリティーを持ってみるべきだ」と指摘するのが日中の比較だ。30年には中国の国防費は日本の防衛費の約9倍から約13倍になる可能性を予想したのだ。
「米国から離れて日本が独自に中国と対抗しようとしても、それがいかに無謀なことかを数字は示している」
神保氏はこう指摘する。
陸上自衛隊OBの山口昇防大教授は中国の台頭を踏まえ、今後の米中関係と日本の将来像に関し、4つのケースに区分する。
アジアの安全保障で米国の影響力が強く残り、中国が協調的であれば、日米同盟を基軸に日本は平和と安定を維持できるが、残る3つは悲観的だ。山口氏は(1)米中対立(2)米中勢力圏棲(す)み分け(3)中国の覇権−という予想を立てた。
山口氏によると、米中が対立すれば日本は前線となるか、中国圏に入るかの選択を迫られる。米中棲み分けならば日本は中国圏か孤立の道をたどる。韓国も領土をめぐり中国との共闘姿勢に転じれば日本は包囲網を敷かれることになる。あるいは「中国の地域覇権」に組み込まれる可能性もある、という。
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■露も危機感、日本に秋波
このような状況を想定してか、いま日本に秋波を送ってきている国がある。ロシアだ。
元外務省主任分析官でロシアが専門の佐藤優氏は、昨年8月の李明博韓国大統領の竹島上陸の後、クレムリン(大統領府)にアクセスを持つ人物の来訪を受け、こう言われたという。
「ロシアは尖閣、竹島で好意的中立だ。そのことを日本はわかっているのか」
佐藤氏はこの発言を次のように読む。
「尖閣で発言することは、結果として中国を利することになるので避けている。東アジアで中国の影響力が拡大することを阻止したいからだ」
実際、プーチン大統領は昨年12月26日の安倍晋三首相誕生に際し、直ちに祝電を送り、アジア太平洋地域の安定と安全保障のために日露関係を発展させていく意向を示した。28日には電話会談も行った。
■天然ガスの供給先
ロシアの対日アプローチの要因となっているのが天然ガスだ。NIC報告書は、米国がシェールガスの生産により輸出国になる可能性を指摘している。天然ガス輸出国のロシアも大きく影響を受ける。
「米国が海外から手を引くのか。ロシアも読めない。そこで安定的なエネルギーの供給先として日本を考えている。対中牽制(けんせい)にもなる」と佐藤氏は分析する。
報告書は、30年の潮流として「資源需要の拡大」を例示しているが、茅原郁生拓殖大名誉教授は「とりわけ中国にとっては死活問題だ」と指摘する。
中国近海での乱獲により漁業資源はすでに枯渇ぎみで、石油需要の急増に伴いエネルギーの確保にも血眼になる。
そこで手を伸ばそうとするのが沖縄県・尖閣諸島であり東シナ海の離島だ。島を奪い、それを基点に排他的経済水域(EEZ)も広げ、漁業・海底資源をわが物顔であさる。
それを担保するのが軍事力による海洋支配で、「戦略国境」と名づける中国ならではの概念を体現することになる。その概念とは、「力」を持つものが押し出していけば、そこまで支配権が及ぶ−。
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【用語解説】米国家情報会議(NIC)
米国と世界の将来像を戦略的に分析して政策立案に生かすために、米大統領に対して15〜20年にわたる世界情勢の予測を報告する。中央情報局(CIA)など米政府の情報機関によって組織され、報告書作成には諜報機関だけでなく大学教授やシンクタンク研究員なども参加している。世界的な金融危機の最中の2008年には「世界の潮流2025」を公表、米国の相対的な国力低下と多極化の時代到来を打ち出し注目を集めた。情勢判断を総合的に記述した機密文書「国家情報評価(NIE)」の作成にも当たっている。
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【新帝国時代 2030年のアジア】 (2)「急激な衰退は予期せぬ形で起きる」空巣家庭だらけ 中国の死角
産経新聞2013.1.3 11:28
「故郷の農村は『空巣家庭』だらけになった」
四川省から上海に出稼ぎにきた劉国碧さん(28)は話す。建設現場で働く同郷の夫と6歳の娘と3人暮らし。兄弟のいない夫妻の両親は農作業をしながら実家を守っている。
子供が巣立ったあと残された夫婦の家庭を中国では「空巣家庭」と呼ぶ。そんな家庭が地方の農村部で急激に増えている。30年以上続く一人っ子政策の影響で、少子高齢化が猛烈な勢いで進んでいるからだ。
劉さんの出身地では一時期、2人目の妊娠が地元当局に知れると、係官が押しかけて堕胎を強要するなどした。この結果、祖父母の世代が4人、子供世代が2人、孫が1人という一族ばかりになった。
2010年の国勢調査によると、60歳以上は1億7800万人と総人口の13%。中国紙、人民日報によれば、「中国は1億人以上の高齢者を抱える世界唯一の国」。専門家の予測では、60歳以上は14年には2億人を突破し、25年には3億人、42年には総人口の30%を超える。
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「急激な衰退は予期せぬ形で起きる」。経済史学者のニオール・ファーガソン米ハーバード大教授は10年、過去の帝国の衰退を検証した米誌フォーリン・アフェアーズの論文でこう指摘した。
高成長と軍拡を推し進めてアジア・太平洋での海洋覇権の獲得を狙う“新たな帝国”の中国。だが、順風満帆に見える「パックス・シニカ(中国中心の秩序)」への歩みにも死角がある。人口動態の激変だ。
高齢化や若年層の縮小、移民、都市人口の膨張、その結果としての食料や水、資源の逼迫(ひっぱく)…。米国家情報会議(NIC)が昨年12月に公表した報告書「世界の潮流2030」でも、中国など途上国の人口動態の変化を「世界の巨大な潮流」に位置づける。
実際、中国にとって悩ましいのは、人口構成をめぐる2つの転換点がほぼ同時に訪れていることにある。
一人っ子政策の影響で生産年齢人口(15〜59歳)が15年までに減少に転じる一方で、農村部の余剰労働力が出稼ぎ先の都市部の雇用拡大で底をつき、労働力の供給拡大がストップする大転換点を迎えつつある。
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■インド襲う都市化の波
少子高齢化による労働力不足で、中国自体が、高齢者を養い、国の経済を支える働き手の足りない“空巣国家”となるかもしれない。米国家情報会議(NIC)の報告書は、中国が高齢化社会を支える海外移民の受け入れに頼らざるをえなくなるとも予測する。
生産労働人口層が60歳以上の高齢者を養う比率は2010年段階で5人に1人だが、20年に3人で1人、30年に2・5人で1人を養う必要に迫られる。だが、すでに中国の社会保障制度は機能不全に陥っている。
*未富先老の国
中国で定年退職後に支給される年金は「養老保険」と呼ばれる。中国社会保障基金によると、中国の国内総生産(GDP)に占める養老基金の積立残高の規模は現在約2%しかない。米国の15%や日本の25%を大きく下回っている。
その理由は致命的ともいえる積み立て不足にある。政府系シンクタンク、中国社会科学院の調べでは、都市住民向けの養老保険の個人口座記載総額は11年で2兆4900億元(約34兆3400億円)。
だが、実際に積まれているのは2703億元(約3兆7300億円)にすぎなかった。
他の社会保険料への流用や実際には積まれていない「カラ口座」が絶えないからだという。年金破綻は必至と専門家も指摘する。
しかも、中国の1人当たりの国民所得は先進国よりまだまだ低い水準にある。
中国社会科学院で人口労働経済研究所長を務める蔡?(さい・ほう)氏は、中国紙への投稿で「日米欧など先進国が経済発展の上で高齢化社会を迎えたのに対し、途上国の中国は大衆に富が行き渡る前に老いてしまう世界初の『未富先老』の国」と嘆いた。
中国にとって少子高齢化は格差拡大を加速させ、国家の統一性をも揺るがすものなのだ。
*足りない電力
経済成長で中国の後を追い、インド洋というシーレーン(海上交通路)に面して中国海軍と対峙(たいじ)する、もうひとつの大国インド。経済協力開発機構(OECD)は、30年には経済規模で中国、米国に次ぐ世界3位となると予測。だが、アジアの巨象も、人口動態の急変は避けられない。都市人口の急増である。
昨年7月、インド史上最悪という大規模停電が発生し、全人口の約半分に当たる6億人以上が住む約20州が停電に見舞われた。
首都ニューデリーでは、「メトロ」と呼ばれる一部地下鉄の都市交通がストップするなど、市民生活が混乱した。夏場の電力需要が発電能力を上回ったのが原因だった。
インドでは、都市化とともに、国民1人当たりの電力使用量は6年間で34%も増えた。発電能力を増強しても需要の増加に追いつかない状態が続く。今後20〜25年間で都市人口は6億人に倍増する見通しだ。政府計画委員会は「都市のシステムに膨大なストレスがかかることになる」と危機感をあらわにする。
しかし、都市部のインフラ整備には国民1人当たり年間100ドルが必要とされるのに現在は17ドルしか費やされていない。財源の確保が大きな悩みである。
NICの報告書は、インドなど途上国の急速な都市化は中間層の拡大につながる半面、対応を誤れば成長の「アキレス腱(けん)」ともなると指摘する。
*先輩格の日本
日本は、高齢化や都市化の先輩格である。新たな帝国や大国の浮沈を傍観するのではなく、経済協力やビジネスのチャンスとすべきだろう。それはアジア地域の安定にも寄与するはずだ。
医療などサービス市場は急成長し、電力などインフラ整備、渋滞や大気汚染の緩和へ地下鉄の導入も相次ぐはずだ。
? 「中国が抱える問題は、かつて日本が経験したことでもある。われわれができることは、経済活動を通じて中国を軟着陸させていくことだ」。関西経済同友会の大林剛郎代表幹事はこう提言する。
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【新帝国時代 2030年のアジア】 (3)「爆食」中国 世界の海で乱獲
産経新聞2013.1.4 11:03
日本近海にカツオなどが北上する最大の「黒潮ルート」の入り口、太平洋中西部。フィリピン東沖からミクロネシア連邦にかけて広がる世界最大のカツオ漁場で、異変が起きている。
昭和20〜30年代に10万トンだったこの海域のカツオ漁獲量は、右肩上がりで160万トン規模まで拡大してきたが、資源枯渇の兆候が現れ始めたのだ。
太平洋中西部で取れたカツオは、その多くがバンコクの港に運ばれ、ツナ缶やペットフードに姿を変える。ところが、最新の数字である昨年1〜8月のタイ向けの出荷量は直近3年間で最も落ち込み、取引価格は史上最高値を更新した。原因は、「小ぶりの魚まで根こそぎ取ってしまう巻き網漁船による乱獲」(業界関係者)だ。
3年前、中国がこの海域に、日本では規制があって造れない1千トン級の大型巻き網船11隻を投入したことが確認されている。水産庁国際課によると、巻き網船の数は平成12年の157隻から250隻に増え、船籍数では中国籍が13隻、台湾籍が34隻。だが、実際には、増加分93隻のうち7〜8割が中国、台湾系とみられ、「ミクロネシア連邦など漁場に近い船籍を隠れみのに使っている」(業界関係者)実態がある。
乱獲の影響は、日本の食卓にも及ぶ。昨年の日本近海の一本釣りカツオの水揚げ量は、3万100トンで過去最低。土佐料理チェーンを全国展開する加寿翁(かずお)コーポレーションの竹内太一社長は「昨年は刺し身やたたきに適した2・5キロ以上の大型カツオが手に入らず、仕入れ値は3割も上がった」と嘆く。
「年間を通じて異変続きだった」と、大型カツオ一本釣り業者を束ねる全国近海かつお・まぐろ漁業協会の八塚明彦業務部長も、記録的な不漁に頭を抱える。
大手商社によると、日本の水産物の消費市場が5兆円なのに対し、中国は20兆円規模で年率2けたの伸びを続ける。
中間所得層を中心にエビやマグロ、ノルウェー産サケなどが急増。中でも天然と養殖を合わせたエビは、世界の年間消費量700万トンの4割弱の260万トンを中国が占め、「爆食」ぶりを表している。
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■食べ残し文化 浪費助長
中国が乱獲した多くの水産資源は、13億の胃袋を持つ自国消費に回るが、経済成長に伴い、食の浪費も顕在化している。
中国では、「接待客が食べきれずに料理を残せば、宴会は成功といえる。そうしないとメンツが立たない」。中国の建機メーカー幹部が、もてなし術を披露する。
国家行政学院の竹立家教授の推計では、政府関係者や共産党幹部による「官官接待」だけで、年間約2兆7千億円にのぼる接待が行われている。
所得水準の上がった中国では、富裕層に限らず、中間所得層にも「メンツ主義」が浸透する。季節ごとの宴席が自らの豊かさを誇示する場になり、メンツのためにたくさんの食べ物が無駄にされる。
「もったいないなんて考えない。料理をけちったら相手にされなくなる」。管理職に昇格した上海人は、同僚や親類を招いた忘年会で人数分の2倍の料理を頼んで悦に入った。乱獲の裏側で、「乱消費」が繰り広げられている。
■「枯渇すれば撤退」
国を挙げて、ミクロネシア連邦の港湾や加工場のインフラ整備を進め、漁業権獲得に動く中国。水産行政に詳しい政策研究大学院大の小松正之客員教授は「3〜5年乱獲して投資を回収し、資源が枯渇すれば撤退すればいいという中国系の船が多い」と説明する。
中国の狙いは別にもある。沖縄県・尖閣諸島をはじめ、「海洋地域での覇権狙いや国連での中国シンパづくりといった政治的な意味合いも大きい」と、業界関係者は指摘する。新幹線網の整備も「ベトナムやタイ、ミャンマーなどを高速鉄道で結び、アジアの覇権拡大につなげる思惑がある。チベットがそのさきがけだ」と、日本の鉄道会社首脳は言う。
そんな中国の最大の泣き所は、水不足だ。水がなければ農地が活用できず、食料自給率95%の維持も計画倒れに終わる。海水を飲める水にする日本の水処理やプラント技術は、食糧やエネルギーを海外に依存する日本が唯一、覇権を握れるチャンスといってもいい。経済産業省によれば、水ビジネスの世界市場は、平成19年の36兆円から37年には87兆円に拡大するという。
一方、穀物市場は中国の輸入動向を注視する。消費の主役が先進国から新興国にシフトし、市場の約7割を握る米穀物メジャーを頂点にした勢力図が変化するからだ。穀物取引は、生産地の集荷網と消費地の販売網を押さえる必要があるが、中国の巨大商社が台頭すれば、日本は食糧安定調達の道を絶たれる恐れがある。
■のみ込まれる日本
「将来、世界の投資が中国に一極集中するかの答えは、イエスでありノー。中国政府が本当に賢ければ資本市場を開放し、人民元も自由化する。そうされるのは本当に怖い。上海が世界の金融センターになる可能性がある」。日本取引所グループの斉藤惇CEOは、金融市場での中国の潜在的脅威をこう語る。
2030(平成42)年に日本は人民元経済圏にのみ込まれる−。人民元が東アジアの基軸通貨になる可能性は、米国家情報会議(NIC)だけでなく、世界銀行の報告書も指摘する。
市場関係者は「かなりのスピードで人民元の国際化が進む」(第一生命経済研究所の西浜徹主任エコノミスト)とし、元財務官の加藤隆俊・国際金融情報センター理事長は「うかうかしていると、日本は中国の周縁国に転落する」と警告。中国の経済政策に詳しい財務省幹部も「日本が国債消化などで豊富な中国資金に頼るようになれば、国債購入や投資が外交カードに使われる」と指摘する。
アジア市場では30年を見据え、自由貿易協定をめぐる米中の陣取り合戦が激しい。米国は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に注力し、中国は米国抜きの東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を最重視する。経産省幹部は「中国の(海洋と領土の)拡張主義に対し、アジア安定には米国の存在感が欠かせない。パワーバランスの均衡が日本の国益につながる」との見方を示す。
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新帝国時代 2030年のアジア/中国の野望にくさび打て/急激な衰退は予期せぬ形で起きる/「爆食」中国
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