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【新帝国時代第2部 インテリジェンスなき国】(1)検証アルジェリア人質事件 飛び交う数字「すべて推測」

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【新帝国時代第2部 インテリジェンスなき国】(1)検証アルジェリア人質事件 飛び交う数字「すべて推測」
産経新聞2013.2.3 15:14
■「134人が死亡した」 電話会談で怪情報も
 日の出前の砂漠。1月16日早朝(日本時間同日午後)、アルジェリア当局が異変を察知した。傍受に成功したイスラム武装勢力の衛星携帯電話から叫び声が聞こえてきたのだった。
 「行くぞ!」
 当局は場所の特定に努めたが、すでに遅かった。攻撃されたのは南東部イナメナスの天然ガス関連施設。警備が厳重なはずの施設は夜陰に紛れてやってきた武装勢力の侵入をいとも簡単に許してしまった。
■1日たっても分からず
 一報はベトナムを訪問中の安倍晋三首相に伝えられた。日本政府はまもなくプラント建設大手「日揮」から日本人17人が巻き込まれたとの報告を受けた。その後、事件発生から1日たっても現地の様子は詳しくは分からなかった。
 安倍首相は17日午後4時(同6時)、施設の主契約者BPが本社を置く英国のキャメロン首相に電話した。すると「アルジェリア軍が攻撃するかもしれない」と告げられた。電話口からは切迫した様子が伝わってきた。キャメロン首相は「これからコブラ(緊急事態対策委員会)があるから」と電話を切った。
 安倍首相は午後7時(同9時)からタイのインラック首相との会談に臨むが、開始後間もなく、英政府からアルジェリア軍が攻撃を開始したとの一報が入る。安倍首相には次々とメモが差し入れられた。政府高官は「邦人死亡情報が入れば会談を中止することにしていた」と振り返る。
 「人命最優先にし、すぐに攻撃をやめてほしい。米英の支援を受けるべきだ」
 17日午後10時半(同18日午前0時半)、安倍首相はアルジェリアのセラル首相との電話会談で「人命優先」を求めたが、「それは無理だ。この作戦がベストだ。信頼してくれ」と強気だった。「日本人は何人亡くなったのか」とただしても「作戦中だから分からない」とにべもなかった。
■「内閣の命運がかかる」
 「内閣の命運がかかる事態です。日程変更を」
 18日朝、バンコクのホテルの一室。安倍首相は世耕弘成官房副長官の言葉に耳を傾けていた。
 アルジェリア軍の情報管理が厳しく、事態が把握できない。日本が頼った米国も「情報不足だったのは明らか」(ウェイン・ホワイト元国務省情報調査局分析官)だった。
 外務省幹部らは予定通りインドネシアを訪問し、全日程をこなすべきだと主張し意見が分かれた。官房長官、副長官を経験し危機管理対応に慣れている首相は落ち着いていた。
 「この時点で日本に戻っても事態は変わらない。ならば…」。ユドヨノ大統領はイスラム系テロ組織ジェマ・イスラミアと対峙(たいじ)している。首相は腹を固めた。
 「会談でテロとの戦いに断固たる決意を示す」
 会談では予想外の成果も得た。大統領は2007年にアフガニスタンで韓国人19人がイスラム原理主義勢力タリバンに拉致された事件を説明し、解放のためインドネシア外交官が交渉したことも明かした。
 「われわれはイスラム原理主義者と交渉できる」
 大統領はこうも語った。事件が長期化した場合、インドネシアの協力は外交上の武器になり得た。
■「どうやって特定した」
 だが事件の展開は急で、予定を早めて帰国した首相を待っていたのは厳しい現実だった。19日夜、アルジェリア政府から名前付きの5人の日本人死亡情報が伝えられた。
 20日午前0時半、2度目の電話会談で「デゾレ(申し訳ありません)」と切り出したセラル首相に、安倍首相は「どうやって5人を特定したのか」と2度追及したが、要領を得ない。アルジェリア政府は耳を疑う情報も伝えてきた。「134人が死亡した」
 後に判明した死者は、人質となっていた8カ国の外国人37人で、あまりにかけ離れた数字だった。
 「間違った情報は流すな。ただし事実はどんな小さなことでも発表しろ」
 これを政府発表の原則にしていた首相だが、アルジェリア側の情報をそのまま国民に発信できない。かといって各省庁が独自に収集した情報で補強しようにもそれも信憑(しんぴょう)性は低かった。
 「どこの役所も『何人無事、何人死亡』とそれなりの数字を出してきたが、すべて推測だった」。首相周辺は続ける。「一次情報があまりに乏しかった」
   ◇
■テロ情報収集に「致命的欠陥」
■長老文化
 アルジェリアで人質事件がおきる前、外務省は渡航者に注意を呼びかける「渡航情報(危険情報)」のレベルを、危険度が最も低い「十分注意」としていた。事件当時、在アルジェリア日本大使館の日本人職員は13人。事件後増員されたが「大使館発の目立った情報はなかった」(政府関係者)。
 現地に進出する日本企業の幹部は「大使館員の数が少ないうえ、しかも若い人が多い。『長老文化』のアラブでは若い人だと情報収集は難しい」と語る。
 これまで欧米は首脳クラスが訪問しているが、日本の現職首相の同国訪問はない。最近では平成22年に前原誠司外相が訪れた程度だ。
 このとき、前原氏はブーテフリカ大統領と会談。大統領は前原氏を食事に誘い「日本には人間国宝がいるそうだが、すばらしいことだ」と述べるなど、日本に対する豊富な知識を披露し、日本側を驚かせた。
 ある閣僚経験者は「日頃の意思疎通がないのに緊急時に情報をとろうとしても無理だ」と語る。
 また、外務省ではアルジェリアは中東1課、フランス軍が介入した隣国のマリはアフリカ1課が担当しており、国境を越えて活動する「イスラム・マグレブ諸国のアルカーイダ組織(AQMI)」の動きを軽視していたとの批判もある。
   ◇
■防衛駐在官の増強検討
 人質事件で情報収集に手をこまねいた教訓から、首相周辺は改善策として(1)多岐にわたる情報ルートの構築(2)信頼度に応じた情報源の価値付け−を例示する。その一環として「防衛駐在官」の増強が検討課題に浮上している。
 アフリカなど新興国では政治指導者より軍が優位に立ち情報を囲い込むケースもあり、軍との接点は欠かせない。イラクやシリアの大使館で勤務経験のある大野元裕前防衛政務官(民主党)は、「文官と軍人の間には垣根がある」と指摘する。自衛隊幹部も「軍人同士では情報を提供するが、文官には面会すらしない軍人もいる」と話す。
■2カ国だけ
 防衛駐在官の存在意義は大きいが、駐在官は36大使館2代表部の49人に限られ、アフリカではエジプトとスーダンの2カ国だけ。在スーダン大使館への駐在官配置にかかわった防衛省幹部は「ほかの地域と異なり米軍の存在感が希薄。人脈開拓や情報収集のノウハウについて米軍の支援を得にくい」と振り返る。
 米軍は2008年、新たな地域統合軍として「アフリカ軍」を創設したが、地の利や影響力という点で英仏など旧宗主国に劣る。
 資源獲得をにらみアフリカ進出を加速させている中国は19カ国に駐在武官を派遣している。昨年1月、スーダンで道路建設を請け負っていた企業の中国人29人が武装組織に拉致された事件では、救出作戦にあたったスーダン軍に中国人の雇い兵を送り込んでいた。日本とは対照的に、中国はテロに対する自前の対処能力を高めつつあるのだ。
   ◇
■陸自部隊が“武器”に
 ただ、自衛隊にも大きな“武器”が存在する。
 陸上自衛隊唯一の特殊部隊「特殊作戦群」。国内外での偵察や破壊活動も想定し、空挺(くうてい)・レンジャー資格者のうち知力、体力、精神力に優れた300人の精鋭をそろえる。海外で捕虜になった際の拷問・尋問への対応訓練も受ける。
 隊員は住宅建築から医療行為に至るまでありとあらゆる知識を習得する。海外で地元住民に溶け込む術となるからだ。陸自イラク派遣では警備要員として現地に入り、モスクに毎日通い続け地元住民の「心」を掌握した隊員もいる。
 平成16年3月の発足から3年にわたり初代群長を務めた荒谷卓(あらやたかし)氏は「『対テロ戦』では特殊部隊を『平時』から情報収集活動に投入するのが世界の常識だ」と語る。
 特殊部隊の隊員は大使館に警備要員として勤務したり、巨大プロジェクトでは出向という形で民間企業に送り込まれたりと形態は問わない。
 世界各地で特殊部隊の所属隊員だけが集う「情報サークル」もアメーバ状に広がる。テロリストの動向など機微にわたる情報を日常的に交換しているが、日本はその輪に入っていない。
 このままだとテロの兆候把握など致命的な情報過疎は改善されないままだ。欠陥を埋めるには、特殊作戦群に所属したことのある隊員を海外に送るのが効果的だ。情報はおのずと集まり、人質事件が起きれば救出任務の先遣隊としても機能する。
 そうした情報を「日本版NSC(国家安全保障会議)」に直接報告させ、NSCは新たな情報収集も求めるなど官邸が運用の権限を握れば、首相直轄の「諜報(インテリジェンス)機関」と位置づけられる。
 防衛相経験者は、ソマリア沖の海賊対策で自衛隊がジブチに設けている活動拠点の機能を強化すべきだと提言する。「アフリカ・中東の情報収集の拠点とし、各国軍やアフリカ連合の部隊との人脈も築ける」からだ。航空自衛隊のC130輸送機を置けば輸送任務に即座に派遣できる。
■法の制約
 だが、大きな壁が立ちはだかる。自衛隊法には「安全が確保されているとき」「航空機か船舶で」「武器使用は正当防衛など」の制約があるためだ。
 「混乱する現場で武器を使い、他国の人命を傷つければ国際問題に発展する」「輸送機や車両に乗せ切れないと、見捨てたと国内で批判が噴出する」
 8年ほど前、極秘に自衛隊が実動を交え邦人救出シミュレーションを行い、そこで浮上した数十項目にも上る検討課題の一部だ。
 人質事件を受け、政府・与党は邦人救出の派遣条件も見直す検討に入ったが、安全を確保しつつ自国民を保護することは簡単な任務ではない。
 自衛隊幹部は「法律を改正し自衛隊を投入しやすくしても、大きなリスクを伴うことを政治家と国民は覚悟すべきだ」と警告する。
   ◇
 アルジェリア人質事件は日本の情報収集・分析に大きな課題を残した。日本が「対テロ戦」に立ち向かえるための態勢づくりは急務だ。「新帝国時代」第2部では諜報とも情報とも訳されてきたインテリジェンスに焦点をあてる。
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新帝国時代 2030年のアジア/中国の野望にくさび打て/急激な衰退は予期せぬ形で起きる/「爆食」中国 2013-02-05 | 国際/中国/アジア 
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