春秋 2011/7/4付
むかし、中野並助という検事がいた。大正から昭和戦前期に活躍した人だ。終戦のころには検事総長まで上りつめたが、偉ぶることなく人情の機微にも通じ、なかなかの好漢だったらしい。大酒飲みでも知られ、中野飲み助と呼ばれた。▼こういうくだけた検事だけに、取り調べをお座敷芸にたとえたりしている。「謡曲だって、浄瑠璃だって、小唄だって、まず易しいものからはいって相当番数を重ね、しかる後に大物にとりかかるのだ」と著書「犯罪の通路」で言う。検事の取り調べ術も一朝一夕には上達はせぬ、じっくり修行を、という教えだ。▼これにならえば、小沢一郎氏の元秘書らを調べた検事たちは入門からやり直すしかあるまい。陸山会事件の裁判で東京地裁が、検察側の主張を支える重要な供述調書の証拠採用をまとめて却下した。「特捜部は恐ろしいところだ」などと脅したうえでの調書だったという指摘だ。裁判所も腹に据えかねたとみえる。▼調書は、検察審査会が小沢氏本人の起訴を議決した際の根拠でもある。冤罪(えんざい)を生んだ郵便不正事件に続き、またしても浮かび上がった検察の不始末だ。かの飲み助氏によれば「取り調べにあたるものは、一つ騙(だま)されてやろうというくらいな、余裕と寛容さが必要だ」。あの世で、昨今の素人芸を嘆いているだろう。〈日本経済新聞〉
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小沢裁判 もうやるだけ時間と税金のムダ
日刊ゲンダイ2011年7月2日
強制基礎の根幹崩れる
●裁判長も怒った検察のデッチ上げ
検察ストーリーは、やはり砂上の楼閣だった。小沢一郎元代表の元秘書3人が収支報告書の虚偽記載に問われた「陸山会裁判」で、東京地裁が「検察敗北」の決定打を放った。検察の供述調書38通の大半を「信用できない」として証拠採用を却下。デッチ上げと認めた調書には、衆院議員の石川知裕被告(38)が「小沢元代表に虚偽記載を報告、了承を受けた」という調書も含まれていた。この調書が、小沢の強制起訴の唯一の証拠だっただけに、秋にも始まる裁判は根底から崩れ去ったも同然だ。無罪は確実で、裁判を開くだけ時間と税金の浪費である。
陸山会裁判で、元秘書3人の弁護団があぶり出したのは、ハナから結論ありきで、脅し、すかし、泣き落としで自白調書を作りあげた東京地検特捜部のエゲツない実態だ。
その筆頭格が、石川議員の聴取を担当した元特捜副部長の吉田正喜、田代政弘両検事である。
「吉田検事は別件の“贈収賄事件”の調書を作成し、『こんな事件はサイドストーリーだ』と破り捨てるパフォーマンスを演じて自供を強要。田代検事は『特捜部は恐ろしい組織だ』と脅しつつ、時には『親しい検察上層部が“小沢の起訴はない”と言っていた』と甘言をささやき、小沢氏の関与が色濃い調書にサインさせたのです」(司法ジャーナリスト)
石川は保釈後の再聴取をICレコーダーを使って密かに録音。石川が供述を翻そうとすると、聴取を担当した田代検事が「最高権力者の小沢氏が変えさせたとの印象を持たれて(検察審査会で)小沢氏が不利になる」と再び揺さぶりをかける様子がバッチリとられ、裁判所に提出された。
大久保隆規元秘書の調書を取ったのは、改ざん検事の前田恒彦受刑者だったし、池田光智元秘書の担当検事2人も、今回と同じように作成調書が「デッチ上げ」と過去の裁判所で認定された“札付き検事”だ。
不良検事の吹きだまりのような捜査メンバーに、普段なら特捜部の肩を持つ東京地裁も「こいつら、オカシイ」と判断したのだろう。証拠不採用の決定文で「威迫ともいうべき心理的圧迫と利益誘導を織り交ぜながら、巧妙に供述を誘導した」と、特捜部を厳しく批判。弁護団関係者も「驚くほど検察の調書が採用されなかった。裁判長の怒りすら感じる」と語ったほどだ。
こんなデタラメ検事たちの作文調書が、小沢関与のシナリオとなり、検察審査会で強制起訴される決定的材料に悪用されたのだ。元検事の郷原信郎・名城大教授はこう言う。
「小沢氏の共謀を立証する材料は、石川議員らの供述調書しかありません。その信用性が崩れたのですから、検察官役の指定弁護士は戦う前から武器を奪われたようなもの。“勝負あった”と見るべきです。もはや、小沢氏を法廷にダラダラと縛りつける理由はありません。指定弁護士は早期決着を図るべきです」
指定弁護士はサッサと白旗を揚げるべきだし、デッチ上げに便乗した大マスコミも検察と同罪だ。政権交代の立役者を潰した世論誘導の不明を恥じて、素直に国民に謝罪したらどうだ。
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【裁判所も認めた!世紀の謀略「小沢事件」全内幕】
日刊ゲンダイ2011年7月4日
脅しとデッチ上げしかできない地検特捜部はとっとと解散したほうがいい
東京地検特捜部はもうオシマイではないか。民主党の小沢一郎元代表の政治資金団体「陸山会」事件で、東京地裁が特捜部の取り調べを問題視し、多くの調書の証拠採用を見送った件である。検察は決定を不服とし、異議申し立てをするつもりらしいが、やれるものならやってみろだ。これで小沢の無罪は決定的だし、司法関係者の間からは「検察はもう完全崩壊だ」の声が噴き出している。
検察が陸山会事件で裁判所に証拠採用を請求した供述調書は38通。小沢の元秘書で衆院議員の石川知裕氏、同じく元秘書の池田光智被告、大久保隆規被告らの調書だ。
そのうち、東京地裁の登石郁朗裁判長は石川被告の調書10通、池田被告の調書2通の全内容を却下し、他の調書の一部も却下した。ズバリ、捜査がデタラメで調書に任意性がないからだ。これが関係者に衝撃を与えているのは理由がある。元東京地検公安部長で弁護士の若狭勝氏はこう言う。
「被告の弁護側は検察が提出してきた供述調書の中身を問題視し、異議を唱える時は2つのパターンがあります。ひとつはそもそも取り調べ段階の捜査に違法性があり、調書全体が認められないと主張するケース。もうひとつは調書の証拠採用は認めるが、中身については信用性を争うケースです。今度のは最初のケースで、裁判所もそれを認めた調書がこれだけあった。捜査の手法に相当な問題があったという証しです。この裁判は小沢氏の元秘書の裁判で、小沢氏本人が強制起訴された裁判とは裁判長が違います。裁判長によって、証拠の評価、判断は違いますが、最初のパターンでこれだけの調書が却下されたとなると、裁判長によって、その評価が変わるとは思えない。小沢氏の裁判にも影響があるだろうし、検察審査会は昨年、証拠申請が却下された石川氏の供述調書を重視して、『小沢氏に共謀の可能性あり』と強制起訴議決をした。その前提が崩れたとなると、検察審査会から地検特捜部への批判が出てくる可能性もあります」
●もうこれまでのようなデタラメは通じない
検察と検察審査会といえば、謀略のような手口で小沢抹殺を企んだ“共犯者”だ。その両者が今になって内輪モメなんてブラックジョークだ。小沢にしてみれば「フザケンナ」だろう。東京地検で公安部の検事だった落合洋司弁護士はもっと手厳しい。
「これまでも地検の捜査手法は問題視されてきたんですよ。否認すれば、刑が重くなるぞ、家族にも迷惑がかかるぞってね。関係者に片っ端からガサを打つぞ、迷惑がかかるぞっていう捜査をやってきた。今度の証拠申請では切り違い尋問が問題になりました。Aは自白しているぞ、とウソを言って、Bに自白を迫る手法です。そんなことをずっとやってきたし、検察のそういう捜査手法を警察もマネしてきたのです。それでも調書が却下されることは少なかった。裁判所が検察に遠慮してきたからです。その空気が村木事件以来、変わってきたのでしょう。大阪の裁判所は非常に厳しくなったし、それを受けて東京の裁判所も問題がある捜査、調書を見過ごすわけにはいかなくなったのだと思います」
しかも、今回、捜査の任意性を問題視された検事は複数だ。地検特捜部全体の“体質”が問われたのである。
「もともと、小沢氏の秘書の捜査は小沢氏に駆け上るためのステップで、最初から筋書きができていた。だから無理に無理を重ねる取り調べになり、それがひっくり返された。もう検察は従来のような取り調べはできなくなると思います」(落合洋司氏=前出)
ここまで悪さがバレた以上、地検特捜部はもう解散した方がいい。
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◆《第13回前半》陸山会事件公判 水谷建設元運転手が調書内容を否定「ハラがたってます」2011-05-30 | 政治/検察/メディア/小沢一郎
5月24日雨。今日は水谷建設元会長の水谷功氏が出廷するため、傍聴希望者がいつもより多い。約55席の傍聴席に対して、90人ぐらいは並んでいた。たしかに、水谷元会長は日本全国を揺るがせた陸山会事件のキーマンの一人で、ウラ金の実態をどう証言するかでこの裁判の行方が大きく左右されることは間違いない。
そのほか、水谷元会長の前には水谷建設の元専属運転手が弁護側の証人として出廷する。ウラ金を渡したとされる時期に社用車の運転手をしていたのは彼だけで、これもまた重要な証言となる。まずは午前に行われたこの元運転手の証言から報告する。
★
10時開廷。午前中は、水谷建設の元専属運転手が出廷。元運転手は、事情聴取のときに川村元社長が04年10月15日に石川知裕氏に5000万円を渡した際、受け渡し場所となった全日空ホテル(現・ANAインターコンチネンタルホテル)まで川村元社長を送ったと話し、その時の様子が調書にまとめられている。石川氏に渡したとされる5000万円については証言や物的証拠が極端に少ないので、運転手の証言は検察側の立証にとって重要な意味を持つ。まずは弁護人による尋問。
(──は弁護人、「」内は元運転手、※は筆者注)
── あなたは川村元社長を全日空ホテルまで車で送ったことはありますか
「1回か2回ぐらいあると思います」
── 時期についての記憶はありますか?
「会長(注:水谷功元会長のこと)が脱税事件で逮捕された以降だと思います」
※補足。水谷功元会長が脱税容疑で逮捕されたのは06年7月。川村元社長がウラ金を渡したと証言しているのは04年10月と05年4月。つまり、元運転手はウラ金渡しの際に川村社長を社用車に乗せて全日空ホテルに行ったことはないと証言していることになる。
──そのことは検察官に説明しましたか
「はい」
── 検察官に何を聞かれましたか
「全日空ホテルで車を待機させるときのことを聞かれました」
── それは04年10月15日ではなく、全日空ホテルで車を停めるときの方法を聞かれたということですか
「はい」
── 車はどのように停めていたのですか
「川村社長だけではなく、会長を送るときも含め、2階のロビーで降ろして、ボーイさんに頼んでその近くで待機していました」
── 川村元社長の手荷物について聞かれましたか
「『覚えておりません』と答えました」
※補足。「手荷物」とは川村元社長が届けたとされる5000万円入りの紙袋を指す。検察は、何としてもこの運転手に「川村社長は、全日空ホテルに送ったときに手荷物を持っていた」という調書をとりたかっただろう。というのも、石川氏に渡したとされる5000万円については川村元社長の証言以外に証拠はなく、当日に本当に川村元社長が全日空ホテルに行ったという証拠もないからだ。しかし、その調書は元運転手の記憶とは異なるものだったことが明らかになっていく。
── あなたは調書を訂正したいと思っていますか
「はい」
── 川村社長を全日空ホテルに送ったときは、出発の直前に指示されたとの供述がありますが
「日常的にどこに行くのかは直前に言われることもあったので、こういうことを言いました」
── ということは、特定の時期の話ではなくて、一般的な話だったということですね
「はい」
── 検事は、その説明を(特定の日付の話であるかのような)こんな書き方をしたのですか
「はい」
── 調書を訂正するのなら、どのように訂正したいですか
「この日の記憶がほとんどなかったので、(日付を)限定できるということはないと思います。(検事には)この当時の記憶がほとんどなかったので『送った記憶がない』と言ったのですが、こういう調書になってしまいました」
── 検事から手荷物について聞かれたことについては
「手荷物については一般的なことで言ったので、川村社長を全日空ホテルに送った時の話をしたわけではないです」
── 調書にサインを求められたとき、どのように感じましたか
「10月15日ということで限定していたので、不安を感じました」
── 検事にはどのように話しましたか
「10月15日について限定されていることを指摘して、『サインできません』と言いました」
── 検事はどう言いましたか
「『サインしてもらわないと困る』と。私が『10月15日に限定しているのは直せないのですか』と聞いたら『直せない』と言われました」
── サインをしなくちゃいけないとも言われたのですか
「『サインして下さい』と言われたので、『サインはできません』と申し上げたのですが、『これは今日あなたが話したことをまとめたものだ』と」
── なぜサインしてしまったのですか
「『サインをしなきゃいけない』と言われました」
── 当時はなぜ(10月15日のことについて)聞かれているのかわからなかったのではないですか
「はい」
── サインしたことで後悔はしていますか
「10月15日に限定されたことが、私には覚えがありませんので、こういう書き方をされたのは直してほしいとおもっています」
── こういう調書がつくられたことについては
「できるならば、日付は削除してほしいです」
── こういう調書ができたことについて、どのように感じていましたか
「多少、ハラがたっていますね」
── 04年10月15日に、川村元社長を全日空ホテルに送ったという記憶はないんですね
「はい」
── 川村社長はこの公判で、全日空ホテルへの交通手段について『社用車がタクシーで』と答えていますが
「タクシーであれば、会社に領収書があると思います」
※弁護人の尋問終了後、検察側の反対尋問が行われる。運転手の調書否定証言に対し、検察側は川村元社長を議員会館の小沢事務所に訪ねていたことを尋問する。狙いがどこにあるかがよくわからなかったが、川村元社長が小沢事務所を訪ねていたことを証言させ、水谷建設と小沢事務所の関係の濃さをアピールしたかったのかもしれない。それに対し、元運転手は手帳に書かれているものは議員会館に行ったことを認め、一方で「日付はわかりませんが、手帳に書いた以外はないと思います」と答える。
★
最後に裁判官による尋問。
(──は裁判官、「」内は元運転手、※は筆者注)
── あなたが手帳をつけていた理由はなぜなのですか
「会社には日報があったのですが、私が行動していたことを自分で後で確認することも含めて、会社に聞かれたときのために書いていました」
※補足。会社に提出していた日報は、手帳に書かれているものに比べればおおざっぱなもので、詳細は書かれていないという。
── 手帳はどういう時に書いていましたか
「その時に応じて書く場合と夕方に書いていました」
── 何日かまとめてということは
「それはほとんどないと思います」
── 書き漏らしはありますか
「(仕事が)重なった時などはあると思うんですが」
── もうちょっと具体的にお話いただけますか
「時間的に会長と社長がバッティングしてしまったりした時ですね」
── 書き漏らすこともあったということですか
「忘れることもあったと思います。その日、書くのを忘れて、そのまま書いていないということはあると思います」
── 手帳はあなたのスケジュール表としても使っていたのですか
「そうです」
── スケジュールはあらかじめわかっているものなのですか
「先にわかっているというのは少ないですね。(指示が来るのは)当日か前の日で、事前に連絡がきていれば手帳に書きますが、当日に書くことが多かったです」
── それが当日が前日に書くことが多かったということですね
「はい」
── 直前に言われて書き忘れるということは
「それもあると思います」
── 10月15日に川村社長を送ったかどうかですが、あなた自身は記憶がないのですね
「はい」
★
以上で午前の部が終了。裁判官も、04年10月15日に元運転手が全日空ホテルまで川村氏を送迎したかどうかに強い関心を持っているようだ。
元運転手が証言したように、川村氏が水谷建設東京支店で金庫から5000万円を引き出した後、全日空ホテルまでタクシーで移動したのであれば、領収書が何らかの形で残っている可能性が高い。しかし、それがないのであれば社用車で移動したことになり、それは元運転手の証言とは矛盾してしまう。川村氏の移動手段をどのように事実認定するかも、裁判の重要なポイントとなるだろう。
そのほか、元運転手の証言によって検察による調書の取り方の問題点がまたもや明らかとなった。おそらく、元運転手の聴取を担当した検事は、上司の思い描くストーリーのままの調書をつくったのだろう。しかも、検察はこの調書の内容を一部の記者にリークして、「石川有罪」の空気作りまでしていた。リークをした検察関係者が、このような杜撰な聴取で調書が作られていたことを知っていたかは不明だが、検察の情報操作の巧さを感じさせる。
引き続き、午後は水谷建設元会長の水谷功氏が出廷する。ここでも石川氏に渡したとされる5000万円の流れについて証言が行われる。
※一問一答は筆者の傍聴記メモを元に主要部分を再構成したものです
2011/5/25(《THE JOURNAL》編集部 西岡千史
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◆《第13回後半》陸山会事件公判 水谷建設 水谷功元会長が語る「裏ガネ渡しの流儀」2011-06-03 | 政治/検察/メディア/小沢一郎
引き続き午後の部。
《THE JOURNAL》 編集部 西岡千史 2011年6月3日 13:03
13時30分開廷。証人である水谷建設元会長の水谷功氏が法廷に入る。水谷元会長は大柄でスキンヘッド、黒に近いスーツにピンク色のネクタイという風貌。それにドスのきいた低い声で関西弁を話すので、見るからに親分の風格が漂っていてる。
★
まずは弁護人による尋問。
(──は弁護人、「」内は水谷元会長、※は筆者注)
── どのようなゼネコンに営業活動をしていたのですか
「だいたい日常の営業活動でどこが(工事の受注に)強いということがわかりますので、そこに営業することになります」
── 水谷建設が受注できる見込みはありましたか
「過去の実績がありましたので、受注をもらえると思っていました」
── スポンサーは誰が決めるのですか
「お客さん(ダムを受注したゼネコンのこと)が決めます」
※「スポンサー」とは、ゼネコンの下請け業者を取りまとめる幹事社のこと。後の証言でも出てくるが、水谷建設は胆沢ダムの工事でスポンサーになりることを目指していて、そのために小沢事務所に営業活動をしていた。
── スポンサーをとることは重要なことなのですか
「我々の中では、サブになることは難しくないです。交渉権のあるスポンサーが金額の設定をしますので、非常に責任感もあります。私ども下請け業界では雲泥の差があります」
── 具体例で言ってもらえますか
「いろいろとありますけど、メリットも多いということです」
── スポンサーになることは仕事にも影響がありますか
「スポンサーになれれば勝ちだし、なれなければ負けです。胆沢ダムでスポンサーになると実績にもなりますし、逆にスポンサーになれないと『水谷建設は力がない』ということになりますね」
■水谷建設の営業活動の実態と裏ガネの手配
※水谷元会長は、胆沢ダムの営業活動では、小沢一郎氏の元秘書である高橋嘉信氏に営業をかけていた。しかし、高橋氏は04年当時はすでに小沢事務所から離れていたため、川村元社長に大久保隆規氏に営業活動をかけるよう指示したという。
── 大久保氏へのあいさつ(営業活動)とは具体的に何をするのですか
「まあ、鹿島建設と水谷建設の間ではスポンサーでの受注の了解ができているので、横槍を入れてほしくないという話ですね」
── 川村元社長はスポンサーをとることが大事だとわかっていましたか
「当然わかっております」
※大久保氏に話題が及んだことで、突然、水谷元会長が被告人席に話しかけはじめる。
「最初に言わないといけませんが、当社のためにご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」
※頭を下げる水谷元会長。突然の謝罪だったので驚いたが、弁護人の質問は淡々と続く。
── 5000万円についてあなたはどう思っていますか
「まあ、大久保さんとそれなりの約束(※スポンサーになる約束のこと)ができたから、そうなんだろうということです」
── 本当にそのお金は大久保氏に渡されていますか
「それはわかりません。私が報告を受けていることと川村君の証言は違いますし、刑務所での検事の取調べの時も『なんだろうな』と思っていました」
── 川村元社長からはこの件について報告を受けていたのですか
「逐一、受けておりました」
── 川村元社長は5000万円を2回渡したと証言していますが
「2回という記憶はないですけど、1億円とは聞いております」
── 04年10月15日に石川氏に渡したとされる5000万円は誰が手配したのですか
「私が手配しました」
■水谷建設の裏ガネ渡しの流儀
※水谷建設は裏ガネ渡しについていくつかのルールを持っていた。そこを弁護士がたずねる。
── あなたはさきほど『スポンサーになることが前提』という話をされましたが、鹿島建設が胆沢ダムの工事を落札できたのは10月8日ですよね。金を渡したのは10月15日で、しかもその後に水谷建設はスポンサーから外れてますよね
「はい」
── あなたは裏ガネを渡すのは『スポンサーになるのが前提』と話しているのに、04年10月15日にはまだスポンサーになることが決まっていないし、その後、スポンサーにもなれていませんね
「川村からの報告で決まったものやと思って、了解しました」
── この段階でスポンサーになれることが決まっていなかったらどうしていましたか
「(裏ガネの)用立てはしません」
── こういうお金は話が成立してから渡すものじゃないのですか
「以前の私の場合は、(裏ガネを渡す)陳情は盆と正月で、それ以外にお願いしたいときは、ちょっと言いづらいけど・・、成功報酬として出していました。自分は親からこういうものなんだという教育を受けてましたので、そうしてました」
── あなたは裏ガネの支出については厳しかったのですか
「社員何百人が稼いできたお金を、価値のない使い方はできません」
── 川村元社長はスポンサーになれなかったとき、水谷建設で労災隠しが発覚したためだという説明をしていませんでしたか
「彼はそういう説明をしないと、(社内が)おさまりませんわな」
── 水谷建設がスポンサーになれなかったとき、あなたは川村元社長にどういう話をしたのですか
「私は川村君に『話が違うやないか』と言ったら、川村君は『名目上は(スポンサーの下請けとなる)サブですが、交渉権は水谷建設にあります』と説明があったんですが、納得がいかなかったので、『大久保さんと合意ができているのならおかしいやないか』と言いました」
── こういう簿外の裏ガネを管理していたのはだれですか
「最終的には管理部長が管理していました」
── 裏ガネの保管場所は
「(桑名市の水谷建設本社の)3階の金庫です」
── 普通の現金の保管場所は
「1階の金庫です」
── 裏ガネの支出を管理するメモはないのですか
「裏ガネは表のカネ以上に厳しく管理していました」
── たとえ裏ガネであっても、もちろんそれは会社にとっては公金ですよね
「はい」
── 管理部長が裏ガネの記録をつけていたのですか
「はい」
── 管理部長は、この法廷で国税が入ったときに処分して、それ以降は帳簿をつけていないと証言していますが
「それはちょっと考えにくいですね。年間でいうと数億というカネが動いていますので、(帳簿は)わかるようにしていました」
※補足。この管理部長は第12回公判で証人として出廷していて、弁護人の『裏ガネの帳簿がありますよね』と繰り返し質問されたが、すべて否定している。
── 脱税事件では裏ガネの帳簿が発見されていないのですが
「・・そんなことも話をしないといけませんか」
── して下さい。お願いします。
「管理部長の責任で動かしました」
── どこに動かしたのですか
「断定はできませんが、(管理部長の)お父さんのところか、社員のところだと思います。金を渡したという証拠がないと渡しは納得できなかったので、(刑務所内で事情聴取を受けたとき)なぜ、中村はそう話すのかなあと検事に話したんです。私が(脱税事件で)逮捕されたときに役員で集まったときも『あれが見つからなくてよかったです』と話していました。その前年にも裏ガネの帳簿が合わなかったときに中村に言ったら『明日、報告します』ということで翌日に本人の勘違いだったとわかったということもありました」
── 政治家に金を渡したことは
「あります」
── そういうときのルールとはどんなものですか
「北海道、東京、九州といろいろありますけど、カネは朝に持って出て、着いた時に渡すことにしていました。当日が無理な場合は、前日に持って行きます。あと、できるだけ第三者に入ってもらうようにしていました」
── 川村元社長は法廷では04年10月15日の午後に大久保の使者である石川に渡したと話しました。川村元社長は、金はその2日前の13日に東京に運んでもらって、しかも見届け人も入れずに渡したということですが
「私とは認識の差がだいぶありますので、これを言うとややこしくなりますので・・」
── というのは
「川村君が出張する前に私に連絡がありまして、出張から帰ってきた翌日に渡すと。それで14日に専務と一緒に渡すよう言ったつもりなんです」
── 川村元社長は一人で渡したと言っていますが、見届け人については
「見届け人は・・いなかったんですかね。ちょっと考えづらいんですけど」
── こういった金を渡す時の配慮は誰が指示したのですか
「川村君にしてみればはじめてのことですので、専務にも行かせたんですけど、そこが不明朗になっています」
── 川村元社長はどのように話していましたか
「私には『大久保さんに渡した』と報告を受けました」
── 川村元社長は石川氏に渡したと話していますが
「もし私であれば、渡した時に約束した人(※大久保氏のこと)に電話して、預かり証をもらっていますし、そもそも一人で行くことはないです」
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弁護人の尋問は終了。続いて行われた検察官による尋問では、水谷元会長が5000万円を手配した時のことについてたずね、水谷元会長は「管理部長に『お金を◯日までに用意して、◯日の◯時までに東京に持って行きなさいと指示しました」と証言する。最後に、裁判官の尋問。
(──は裁判官、「」内は水谷元会長)
── 胆沢ダムに関しては社運をかけていたということですが
「(胆沢ダムは)日本で数えるほどしかない規模のダム工事で、これまでやってきたダム工事が終わって機械があまりますので、受注したかったということです」
── 高橋嘉信さんの所にお願いに行ったということですが
「(法廷で)余計な名前を出してしまいましたけど・・、私は何度もお願いに行きました」
── それまでは高橋さんと話をしていたのですか
「私はずっと高橋さんがやっているものと思っていましたが、あそこ(※小沢事務所のこと)が違う会社を推薦してきているという話ですので、協力会社の社長に頼んで、大久保さんに話をしに行ったということです」
── 本件で問題となっている5000万円について、専務には話をしたのですか
「お金を持って行って、できるだけ(受け渡し場所に)一緒に行ってこいという話をしたのですが」
── 電話ですか、直接ですか
「電話だと思います」
── そのとき、専務はどこにいたのですか
「静岡だと思います」
── その時に金額の話をしましたか
「言ってないと思います」
── 管理部長にはどのような話をしたのですか
「『社長から聞いていると思うけど、14日に必要だから』と話しました」
── 中村さんに金額は言いましたか
「5000万円と言いました」
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以上で第13回公判が終了。水谷功元会長は証言台から退いた後、ドアの付近で裁判官、弁護人、検察官、傍聴席に深々と頭を下げ「失礼しました」と礼をして退廷したのが印象的だった。
※一問一答は筆者の傍聴記メモを元に再構成したものです(《THE JOURNAL》編集部 西岡千史)
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◆陸山会事件公判 水谷建設の元運転手証言「川村尚元社長を裏金5千万円受渡し現場へ送った記憶、ない」2011-05-24 | 政治/検察/メディア/小沢一郎
◆陸山会事件公判 水谷建設水谷功元会長「裏献金、手配したが、実際に提供されたかどうかは分からない」2011-05-24 | 政治/検察/メディア/小沢一郎
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「陸山会事件」東京地裁 検察側供述調書を証拠採用せず/ 裁判長も怒った検察のデッチ上げ
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