2013年 02月 17日 08:05 JST [モスクワ 16日 ロイター]
20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は16日、「通貨の競争的な切り下げを回避する」ことなどを含む共同宣言を採択して閉幕した。
日本など主要国が導入している金融緩和政策が、通貨安などを通じて他国経済に影響を与えかねない点にも言及し「波及効果を最小化することにコミットする」とした。
<為替レート、競争力強化の政策目的とせず>
声明では為替について「資金フローの過度の変動や為替レートの無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与えることを再確認する」とする従来見解を踏襲した上で「競争力のために為替レートを目的とはしない」と新たに明記。焦点だった金融緩和策の波及効果については「各々のマンデートに従って、国内の物価安定に向けられるとともに、経済の回復を引き続き支援するべきである」と容認する姿勢を示した。
G20声明は15日の草案の段階では「財政・金融政策が為替レートを目標にしない」とした日米欧7カ国(G7)声明の文言を含んでいなかったが、その後の議論を経て通貨安戦争回避に対するコミットメントを盛り込み、金融政策は物価安定や成長を目的にすべきとした。カナダのフレアティ財務相は記者団に「15日夜の議論を受けて文言は強められた」と説明。「文言は強められているものの、昨夜は議論に臨んだ誰もが為替に関する論争を避けたいと願っていたことが明白だった」ことを明らかにした。
専門家の間では、G20で日本が直接批判されなかったことを受け、円安がさらに続く可能性があるとの声が出ている。BONYメロン(ロンドン)の為替ストラテジスト、ニール・メラー氏は「G20声明は、これまでの円売りにお墨付きを与えた、と市場は受け止めるだろう」と述べた。
<麻生財務相、日本は「理解得られた」>
麻生太郎財務相は会議で、日本の金融・財政政策など安倍政権が進める一連の経済政策を説明。終了後の記者会見で「総じてこの種のことには一定の理解を得られた」との認識を示した。 会合前には、日本の金融緩和策が通貨の下落などを通じて他国経済に影響を与えかねないとの批判も出ていたが「デフレ不況への対策が成功し、日本経済が再び活力を取り戻すことができれば、間違いなく世界経済にいい影響が与えられる。われわれがそう確信してやっているという点が、一番理解を得られたのではないかと思う」という。
会見に同席した日銀の白川方明総裁も「各国が自国経済の安定に取り組むことが、結果的に世界経済全体の安定につながるとの認識が共有された」と指摘。日銀の金融緩和策についても「物価安定を通じて経済の健全な発展に資するという、国内経済の安定を目的に実行している」として、為替レートを目的にしないとの表現は「従来から行っている金融政策運営の考え方と全く同じもの」と強調した。
<財政目標は設定せず>
共同声明はまた、信頼に足る中期的な財政政策へのコミットメントも盛り込んでいるが、特定の目標を設定するには至らなかった。G20は2010年のカナダ・トロントでの首脳会議で2013年までに少なくとも赤字を半減させることを確約したが、今年9月にサンクトペテルブルクで開かれる首脳会議が目標達成期限の先延ばしで合意しなければ、合意は今年で期限が切れる。この点について今回の共同声明は「先進国は信頼に足る中期財政戦略をサンクトペテルブルク首脳会議までに策定する」としている。 米国の強い要望により、「中期的な財政健全化策においては、目先の経済情勢や財政余地を考慮に入れるべき」との文言も盛り込まれた。
声明では、国内金融政策を景気回復のために活用することを支持。これは量的緩和(QE)を通じて景気を刺激するという米連邦準備理事会(FRB)のコミットメントを反映しているが、国内の目的のために実施された政策が他国に及ぼす「負の波及効果」を最小化する方針も示し、バランスをとった。
(ロイターニュース 梶本哲史、基太村真司;編集 田中志保)
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情報BOX:G20での要人発言一覧
2013年02月17日08:50 JST[モスクワ 16日 ロイター]
15─16日にモスクワで開催されていた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、共同声明を採択して閉幕した。要人発言の要旨は以下の通り。
◎白川方明日銀総裁
「G20では現状を通貨安戦争との言葉で表現するのは適当ではなく、そうした表現は誇張されている、オーバーブローン(overblown)という言葉がよく使われていた」
「先般のG7もそうだし、今回のG20もそうだが、各国が自国経済の安定に向けてしっかり取り組むことが、結果的に世界経済全体の安定につながっていくとの認識が改めて共有された」
(声明の金融緩和への影響)「従来も今後も同様に、あくまで日銀の金融政策は、物価の安定を通じて国民経済の健全な発展に資するという、G7声明にうたわれた国内経済の安定を目的として実行されている」
「最近の為替相場の動きは、欧州債務問題への対応の進ちょく、米国の財政の崖の回避、中国経済の安定化の兆しなど、世界経済をめぐる悪化シナリオの実現可能性が低下したことを背景に、投資家のリスク回避姿勢がかなり後退している下で生じていると説明した」
「悪化シナリオの後退は、日本を含め各国が自国経済の安定を目的として講じた政策対応によってもたらされている。加えて東日本大震災の発生以降、貿易赤字が続いていること、日本企業の海外投資が増加していることが、円安方向に作用していると説明した」
◎麻生太郎財務相
「安倍政権の下で、『三本の矢』を同時に行うことで、デフレ不況からの脱却に全力を挙げていることを説明した」
「総じてこの種のことには一定の理解を得られた」
「デフレ不況への対策が成功し、日本経済が再び活力を取り戻すことができれば、間違いなく世界経済にいい影響が与えられる。われわれがそう確信してやっているという点が、一番理解を得られたのではないかと思う」
「為替に関しては、市場で決定される為替レートや為替の柔軟性の重要性が確認されるとともに、通貨の競争的な切り下げを回避する、競争力のために為替レートを(政策の)目的としないという考え方が確認されている。日本としては引き続きこうした原則にコミットしている」
◎カナダのフレアティ財務相
「会議序盤には、保護主義的な措置を回避することがぜひとも必要、とのムードだった。G20は最終的に、保護主義や為替操作に反対する姿勢を示した。つまり、ムードが全体に迅速に浸透したということだ」
ある一国の金融政策が為替レートをターゲットとしているのかどうか、どのように見極めるのかとの質問に対して「それは非常に難しい」
◎モスコビシ仏経済・財務相
「欧州全体の景気悪化は、われわれがリセッション下で緊縮措置を講じるのを避けるべきという意味だ。われわれは中期的姿勢を維持しなければならない。コミットメントを維持し、それと同時に中期財政目標を守れなくするリセッションと緊縮措置のスパイラルを避けるべきだ」
「G20の(金融政策と為替に関する)メッセージは、G7と完全に一致しており、政府の見解に対応している」
「(この点を)提起したわれわれは正しかった。G7(の声明)後、G20はこの問題に完璧にクリアな形で対応した」
◎ラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事
「G20が強調した通り、世界の成長は依然弱く、多くの国で失業率は容認できないほど高い水準が続いている。世界経済の弱さは、政策の不確実性、民間部門でみられるデレバレッジ、財政面の足かせ、そして世界需要の不均衡是正の進ちょくが不十分なことから派生している」
「より回復力のある金融システムを構築するために、金融改革アジェンダを実行することが、引き続き優先事項だ。信頼に足る中期的な財政計画は、成長回復が本格化する間に柔軟性を与えるために必要だ」
「G20が、協調行動を通じて世界不均衡の持続的是正を達成し、為替レートの不整合を避ける決意であること、競争的切り下げを慎み、あらゆる形の保護主義を拒否し、市場が開放された状態を維持するとのコミットメントを示したことを歓迎する。G20が、より市場原理が働く為替レートシステム、基調的ファンダメンタルズを反映する為替レートの柔軟性に一段と速く移行するとのコミットメントを再確認したことは、心強い」
「通貨戦争説は大げさだと考えている。確かに自国通貨をめぐる懸念の声は出た。良いニュースは、G20がきょう、対立でなく協調をもって対応したことだ」
◎カナダ中銀のカーニー総裁
緩和的な金融政策の結果、英国などの諸国では、インフレ期待が上昇するリスクがあるか、との質問に対して「世界のリスクは需要不足だ」
カナダドルは過大評価されているとのIMFの見方に同意するか、との質問に対して「為替レートの水準にはコメントしない。カナダドルが高止まりしていることは、認識している。カナダの金融政策を策定するうえで、考慮に入れている。政策が今のように緩和的な理由の一つだ」
◎ショイブレ独財務相
「G20では、トロント(会合で打ち出した)ゴールを達成するというコミットメントを堅持することに向けた幅広いコンセンサスがある」
「G20前には、われわれが(債務問題をめぐって)孤立しているのではないかとの見方もあったが、そうした観測はまったくの間違いだ」
「われわれは、米国に対するバッシングには関心がない。サンクトペテルブルク(で開催するG20首脳会議)で目標が設定されるだろう」
◎ロシアのシルアノフ財務相
「われわれは鉱工業生産の増加や刺激策など、経済の効率向上に努めるべきだ。これが政府がすべきことであり、外為市場の操作ではない」
「(為替)レートの間で競争をするべきではないということで、われわれは見解の一致をみた。問題は通貨自体ではなく、その制度にある。政府や中央銀行が干渉すれば、その結果、不均衡が生じることになる」
「ある一国において為替政策が変われば、そのパートナーの諸国の状況にも影響が及ぶ。そうなれば、通貨競争が起こる可能性が出てくる」
<以下は15日の発言>
◎麻生太郎財務相
「円安は政策の結果として起こっている。ターゲットではない」
「日本の政策の説明に対して賛成や反対など特に意見はなかった」
「新興国側から、先進国の政策波及効果に留意すべきとの意見が寄せられた」
◎プーチン・ロシア大統領
「経済危機の影響が限定的だった時代は終わった。米国やユーロ圏で発生する問題は相互の経済に影響し合っている」と指摘。世界的な経済成長を後押しするには経済不均衡の是正が先決とし、投資家の信頼感を得るために財政赤字と債務の透明な管理体制が必要との考えを示した。また、これまでにG20がコミットメントを示してきた国際通貨基金(IMF)の投票権の再配分について「強化する必要がある」と述べた。
◎ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁
「為替をめぐって無規律に発言することは不適切であり、実りがなく、かつ自滅的だ」
「為替レートは政策目標ではないが、成長や物価安定にとっては重要だ」
「需要創出のための財政赤字拡大が継続し得るとは思わない」
◎白川方明日銀総裁
日本の金融政策はデフレ脱却や物価安定の下での持続的成長など国内経済の安定に照準を当てている。
円安の背景にある最大の要因は投資家のリスク回避姿勢の後退だ。
◎ブレイナード米財務次官
「G20諸国はともに成長し、下方スパイラルや近隣窮乏化政策(beggar-thy-neighbor policies)を回避できるよう、為替レートの枠組みを調和させる必要がある」
「日米欧7カ国(G7)のすべての諸国がコミットメントを順守するとともに、為替に関する無規律な発言を慎むことが重要だ」
「G7諸国は財政・金融政策がそれぞれの国内目的を達成することに向けられ、為替レートではなく国内の手段を用いるべきであると表明した」
「財政再建のペースを調整することが非常に重要だ。ユーロ圏に需要が見られることが重要で、その一部は内部の不均衡是正を通じて実現しなければならない」
◎ロシアのストルチャク財務次官
「(G20共同声明には)日本に関する具体的言及はないだろう。われわれは皆、同じ立場にある」
「課題がたくさんある。声明策定は常に難しい」
◎オーストラリアのスワン副首相兼財務相
「経済成長拡大を実現するために、財政・金融政策を使うのであれば、それは皆の利益になることだ」
「G20は平素から市場に基づく為替相場を強く支持してきた。中国はその方向に進んでおり、国内消費拡大へ経済の方向転換を行ってもきている」
◎欧州委員会のレーン委員(経済・通貨問題担当)
「G20は、短期的な財政・金融刺激策よりも構造改革に注力すべきだ」
◎南アフリカ準備銀行(中央銀行)のミネル副総裁
「問題は行き過ぎでやや誇張されている可能性がある。外に出て互いに宣戦布告をして、他国に損害を与えるこうした意図的な行動を取るとはどの国も言っていない」
「結局のところ、世界的な文脈で非常に重要な役割を果たすこれらの国が、自国経済の成長可能性を高めるよう行動し、回復に一定の支援を行うか、経済を再び膨張させるだろうとみなす必要がある。そうした(政策)が、自国経済全体の成長見通し改善につながれば、われわれは皆、利益を受けることになる」
◎インドネシア中央銀行のサルウォノ副総裁
「日本が内需を拡大すれば、インドネシアには特に輸出面で追い風となる」
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G20:麻生財務相、ファッションでも存在感
毎日新聞 2013年02月16日 21時34分(最終更新 02月16日 22時56分)
今回のG20財務相・中央銀行総裁会議では、急速な円安とともに初参加となる麻生太郎財務相にも注目が集まった。
世界の金融市場を動かしている「アベノミクス」への関心を反映し、各国閣僚らから麻生氏への個別会談の申し込みが相次いだ。円安への懸念を示していたドイツのショイブレ財務相との会談で麻生氏は「アベノミクスはデフレからの早期脱却が目的」と説明。ショイブレ氏からは為替の話題は出ず、日本政府関係者は「金融緩和で円安を狙っているわけではないと理解された」との見方を示した。
そのほか、短時間ずつながら米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事、韓国、カナダの財務相、ブレイナード米財務次官ら約10人と直接、言葉を交わした。
麻生氏はファッションでも存在感を発揮した。米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は黒のソフト帽とロングコート、水色のマフラーをかけ、モスクワ便に乗るため成田空港を歩く麻生氏の写真を「ギャング・スタイル」の見出し付きで掲載。「(マフィアの)5大ファミリーのボス会議に行くの?」と紹介した。