朝日新聞よ、変わらないで
【ステージ風発】ワシントン・古森義久 2013/03/16 22:53
朝日新聞が核兵器の効用を認めました!日本の防衛にとってアメリカによる核抑止が必要だというのです。
アメリカの日本にとっての核抑止というのは、万が一、日本が核兵器での攻撃を受けたら、あるいは核兵器攻撃の威嚇を受けたら、アメリカがその相手に対し、核攻撃をかける、あるいは核威嚇をかける、という誓約です。もちろんその誓約は実行を伴うという保証がなければなりません。いずれにしても、日本の防衛のために核兵器の効用を認めてのことです。日本の国家としての防衛にはすでに長年、「アメリカの核抑止」政策が組み込まれています。
ただし反核の旗を掲げる朝日新聞はこの核抑止を正面からは決して認めてこなかったはずです。とにかく核兵器は絶対悪だから廃絶しかない、という主張なのですから。
それなのに朝日新聞の3月15日のコラム記事は核抑止を認めるどころか、日本はアメリカからもっと積極的に「核抑止」のコミットメントを引き出し、確実にしておくべきだ、と主張するのです。これまでの朝日新聞の反核の軌跡を知る側には、びっくり仰天の出来事です。
朝日としてはこのコラム記事は単なる一記者の意見であり、社としての主張ではない、というかもしれませんね。
まずその記事を以下に紹介します。
政治部の倉重奈苗記者のコラム記事です。
(記者有論)対北朝鮮 米の日本防衛策引き出せ 倉重奈苗
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201303140510.html
2013年3月15日 朝日新聞
「北朝鮮が、準備が整い次第核実験をすると言っている」。北朝鮮核問題を巡る6者協議担当クリフォード・ハート米特使発の情報は、北朝鮮が2月11日、 ニューヨークにいる同特使に通告した結果だった。米国からの連絡で、日本は翌12日の核実験を事前に知った。北朝鮮の核関連の動向は米国の情報が頼りだ。
北朝鮮は3度の核実験を経て長距離弾道ミサイルに搭載できる核兵器開発を着実に進めている。北朝鮮による対日核攻撃の抑止は、核を持たない日本に代わって米国が核で反撃するという米国の「核の傘」がその役割を果たす。抑止もまた、米国頼みであることに変わりはない。
だが、北朝鮮が核実験を強行した直後のオバマ大統領の声明、その後に岸田文雄外相と電話協議したケリー米国務長官の発言には、「核の傘」という言葉はなかった。
同盟国への攻撃に対応する方針を、通常兵器やミサイル防衛といった核以外の手段でも対応するという「防衛コミットメント」に転換しているためだ。米政府にとって、核は選択肢の一つに過ぎない。
北朝鮮が核実験を初めて実施した直後の2006年10月には、来日したライス米国務長官(当時)が会見で「『核の傘』による日本防衛は非常に強力な同盟上の責務であり、必ず実行する」と述べ、日本への核攻撃には米国が核で反撃すると明言している。当時とは様変わりだ。
もっとも、核実験後のオバマ大統領と安倍晋三首相の電話協議で大統領は「米国の核の傘により提供される拡大抑止を含め、日本への防衛コミットメントは不 動だ」とも発言している。しかし、この発言は外務省が事前に働きかけた結果で、同省幹部は「核のボタンを押す本人に言ってもらうことに意味がある」と打ち 明ける。
米国が核を使わない姿勢を示していることは歓迎すべきことなのだが、核兵器で日本を脅かす北朝鮮への抑止力が低減しないか、不安は残る。
日米両政府は、米国がどういう条件下で日本防衛に核を使うかを議論する場として11年に拡大抑止協議を発足している。しかし、協議は非公開で、この協議 があるからと言って国民の不安は消えない。北朝鮮の核の脅威が高まる今、国民を不安の中に取り残さないためにも、米側から日本防衛について積極的な姿勢を 引き出し、国民に分かりやすく伝えていく作業が政府には重要になるはずだ。(くらしげななえ 政治部)
日本の国民を不安にさせないためにもアメリカの核抑止を引き出し、確実にせよ、というのです。朝日新聞の主張としては、まったくの「転向」に思えます。アメリカの核兵器での反撃能力、攻撃能力が日本の防衛にとって貴重だと述べるのですから。朝日の反核はどこへ、と問いたくなります。
でも朝日新聞を日本にとっての貴重な反面教師だと思っている私としては、朝日のこんな転向は残念です。
まじめな話、わが日本国は対日講和条約や日米安保条約など、朝日新聞の主張と反対の道を選んだために、平和と繁栄を享受できる結果となりました。大きな政策論争ではまず朝日新聞の主張をみて、それとは反対の道を選べば、日本はまずうまくいくという基本の認識を私はまだ捨てていません。
でも朝日新聞が「日本の防衛のためには米国の核抑止が必要」だなどと、まともな主張をするようになると、この反面教師としての価値を失ってしまいます。だから朝日新聞さん、変わらないでください、とお願いするわけです。
でもこの倉重記者のコラム記事での主張は本来の朝日新聞の支持者たちをすでに激怒させているようです。外務省OBで反外務省、反核の天木さんという元レバノン大使が元外交官とは思えない口汚い表現までを含めて、この記事を非難し、倉重記者の人格攻撃とも思える悪口を書いています。
繰り返しですが、朝日新聞さん、どうか変わらないで。この主張では産経新聞と同じになっちゃいますよ。
*非常にうがった見方を一つ、追記しておきます。
日本がアメリカの核抑止依存を続けることは中国が喜ぶという見方です。この点はごく最近のアメリカ上院の公聴会で指摘されました。
日本がアメリカの核兵器に依存する限り、日本が独自に核武装することはない、というのが中国の認識だというのです。だから中国はいまの状況を歓迎するとのことです。そうなると、このコラムの主張も中国の立場に合致するという見方もできるわけですが、倉重記者はまさかそこまで回り回っての論調を展開したわけではないでしょう。