イラク開戦10年 完全復興へ関与を続けよ
産経新聞2013.3.20 03:49[主張]
ブッシュ前米政権がサダム・フセイン独裁政権の打倒を掲げ、英国などとともに踏み切ったイラク戦争の開戦から10年がたった。
最大時には17万人が駐留していた米軍は2011年末に撤収し、治安権限はイラク側に移譲されている。新憲法で2度の国会議員選挙を経て、議会制民主主義は確実に前進したと評価できる。
だが、イラクはまだ復興の途上にある。テロの犠牲者が毎月100人以上にのぼる現状は尋常とはいえない。米国はもちろん、戦争を支援した日本など35カ国余の国々は完全復興に向けた関与を続ける責務を負う。
国連の制裁にもかかわらず核開発をやめないイラン、内戦が泥沼化したシリア両国の間に挟まれたイラクの統治が揺らげば、中東全体の紛争に広がるからだ。
イラク戦争の米軍戦費は総額約8千億ドルにのぼり、しかも計約4500人の戦死者を出した。ブッシュ政権が開戦理由としたフセイン政権による「大量破壊兵器の保有」の根拠が崩れたこともあり、「誤った戦争」との批判が米国内でもくすぶっている。
しかし、自国民を虐殺し、国連安全保障理事会の決議を無視し続けた無法国家を民主国家に変えた戦争の意義を過小評価してはならない。米国はやはり、イラクの一層の安定に向けた支援国の先頭に立つべきではないか。 イラクの唯一の収入源といえる石油生産は現在ではイランを抜きサウジアラビアに次ぐ日量300万バレルとなり、20年までにはその倍増を予想されるほどになった。
これには日本も貢献した。石油施設や火力発電所などの改修・新設、インフラ整備などに総額50億ドル以上の政府開発援助(ODA)を投入し、67億ドルの債務削減も実行している。イラクにおける日本の存在感は小さくない。
イラクのマリキ政権は日本のさらなる支援に期待を示すが、イスラム教シーア派を母体にし、シリアのアサド政権を支援するイランに近いといわれる。日本はイラクが国際の平和への脅威となる勢力と同調しないよう、米国と連携して影響力を強める必要がある。
中国の海軍力増強や北朝鮮の核・ミサイルによる威嚇への対応だけでなく、中東安定のカギを握るイラク復興への関与でも日米同盟は要だ。
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◆ 『アメリカの新・中国戦略を知らない日本人』日高義樹著 PHP研究所 2013年2月27日第1版第1刷発行 2013-02-28 | 読書
『アメリカの新・中国戦略を知らない日本人』アメリカは尖閣で戦う! 日高義樹 ハドソン研究所首席研究員 PHP研究所2013年2月27日第1版第1刷発行 より抜粋
p110〜
第3部 横須賀がアメリカ海軍の世界戦略の拠点になる
p111〜
ワシントンを出る時、ムロイ予算局長がもう1つ耳打ちしてくれたことがある。
「アメリカ海軍はいま予算削減と効率化に力を入れており、中東のバーレーンを基地とするアメリカ第5艦隊が組織上、横須賀に統合されてスイフト中将が第7艦隊と第5艦隊の2つの司令官の帽子をかぶることになる」
この組織改訂は、アメリカ海軍としては、きわめて大胆なものと言わねばならない。横須賀から1万?離れたアラビア海やペルシャ湾、インド洋の指揮命令系統を横須賀に一本化し、第7艦隊司令官がその全ての責任を負うことになるのだ。
アメリカ人は責任者として2つの仕事をする時に「2つの帽子をかぶる」とよく言うが、第7艦隊と第5艦隊の司令官の帽子を2つかぶるというのは、大変なことだ。第5艦隊はペルシャ湾にあるバーレーンを基地にし、その空母機動艦隊の航空機部隊はイラク、アフガニスタン、そしてシリアやリビア、さらにはパキスタンをも戦闘地域として抱え、空母1隻ないし2隻と海上艦隊、潜水艦を擁している。とくにイラクとアフガニスタンでは現在も戦闘が行われている。第5艦隊は、アメリカ海軍の最前線部隊として重要な任務を抱えているのである。
p112〜
ムロイ海軍予算局長が私にこのことを耳打ちしてくれたのは、2つの帽子をかぶることになるスイフト中将と会うからだったのはもちろんだが、同時に日本が1日に使用するおよそ600万バレルの石油の85%を中東から輸入していることを知っていたからである。
p113〜
日本が輸入している石油のほとんどは、ペルシャ湾からインド洋を経由してマラッカ海峡を通り、東シナ海を経て日本に運ばれてくる。このルートを防衛するための司令部を横須賀に集中することは、当然といえば当然である。
p168〜
第5部 アメリカは中東石油を必要としない
アメリカが中東の石油を必要としなくなる。これはまさに歴史的な出来事と言える。その理由はいくつかあるが、最大の理由は、これからアメリカの石油の産出高が増えること、やがてアメリカがサウジアラビアを超える最大の石油産出国になろうとしていることである。
第2の理由は、周辺の国々のメキシコ、カナダ、コロンビア、ベネズエラが産出する石油が増え、アメリカ国内の産出高の不足を補えるようになっていることである。
第3の理由は、すでに述べたように天然ガスと原子力発電によるエネルギーの産出が増え、エネルギーの自給体制が確立しようとしているからだ。
p169〜
中東の石油にまず手を出したアメリカの政治家は、フランクリン・ルーズベルト大統領だった。ルーズベルトはイギリスのチャーチルに対して、「イランをイギリスに与える代わりにサウジアラビアをアメリカのものにする」と主張し、話し合いをつけた。
第2次世界大戦後はイランを牛耳るイギリスと、サウジアラビアを手にしたアメリカが中心となって、ソビエトとの冷戦が戦われた。その冷戦が終わったあとは、中東がアルカイダを含むイスラムの反米勢力との戦いの場となった。
p170〜
ロシアはエジプトに触手を伸ばした。エジプトの人々は、ヨーロッパと並んで近代化を図ろうとした矢先、イギリスに騙され、植民地化されてしまったのに腹を立てていたが、第2次大戦では再びアメリカ、イギリス連合軍の手中に落ちてしまった。
エジプトの青年将校たちがその後革命を行い、ソビエトとの同盟体制を強化したが、アメリカが入り込み、ソビエトを追っ払った。やがてイランが人民革命に成功し、パキスタンは独自の核兵器をつくり、アメリカによるイラク戦争、アフガニスタン戦争が始まり、現在に至っている。
そうしたなかでサウジアラビアの石油帝国の位置は揺るがなかったが、油田そのものが古くなっている。日産100万バレルという巨大な油田を有するものの、サウジアラビア全体で1日1300万バレル以上を掘り出すことは不可能になっている。
世界経済の拡大とともに石油産出国の立場が強くなり、OPECの操作で石油危機が起き、アメリカをはじめ世界が中東の石油カルテルに振り回されてきたが、その状況が終わろうとしている。しかし中国やインド、日本が依然として中東の石油を必要としているため、アメリカの中東離れによって、さらに複雑な国際情勢が描き出されようとしている。
はっきりしているのは、中東の石油を必要としなくなった結果、世界の軍事的安定の要になっているアメリカが、中東から軍事力を引き揚げようとしていることだ。
p171〜
アメリカは2014年、アフガニスタンから戦闘部隊をほぼ全て引き揚げることにしている。すでにイラクからは戦闘部隊を引き揚げており、このまま事態が進めば、中東におけるアメリカの軍事的支配が終わってしまう。
p172〜
アメリカは、優れた衛星システムと長距離攻撃能力、世界規模の通信体制を保持している。アメリカが強大な軍事力を維持する世界的な軍事大国であることに変わりはない。
p173〜
だが中東からアメリカ軍が全て引き揚げるということは、地政学的な大変化をもたらす。
アメリカ軍の撤退によって中東に力の真空状態がつくられれば、中国、日本、そしてヨーロッパの国々は独自の軍事力で中東における国家利益を追求しなくてはならなくなる。別の言葉でいえば、中東に混乱が起き、戦争の危険が強まる。
日本は、中東で石油を獲得し、安全に持ち帰るための能力を持つ必要が出てくる。この能力というのは、アメリカの専門家がよく使う言葉であるが、軍事力と政治力である。簡単に軍事力と政治力というが、軍事力だけを取り上げてみても容易ならざる犠牲と経済力を必要とする。
中東で石油を自由に買い求め、安全に運んでくるための軍事力を検討する場合、現在の世界では核兵器を除外することはできない。あらゆる先進国は、自国の利益のために軍事力を強化している。核戦争を引き起こさない範囲で自国の利益を守ろうとすれば、軍事力行使の極限として核兵器が必要になる。先進国が核兵器を保有しているのはそのためである。
韓国や台湾、それにベトナム、シンガポールといった東南アジアの国々が、いわゆる世界の一流のプレーヤーと見なされないのは、軍事力行使の枠組みになる核兵器を保持していないからだ。日本は日米安保条約のもと、アメリカの核兵器に頼っている。
p174〜
東南アジアの国々と立場は違うが、いまやその立場は不明確になりつつある。
中国についても同じ原則が当てはまる。中国は軍事力を背景に、アメリカの力がなくなった中東で政治力を行使することが容易になる。いま世界でアメリカを除き、ロシア、インド、パキスタン、イランそしてヨーロッパの国々も中国とは軍事的に太刀打ちできなくなっている。
中国が中東で好き勝手をやるようになり、石油を独占して日本やインドなどに損害を与えるようになった場合、日本はインド洋からマラッカ海峡、南シナ海から東シナ海を抜けて日本へ至るシーレーンを自らの軍事力で安全にしなければならない。この際、欠かせなくなってくるのが、やはりアメリカの協力であり、アメリカの決意なのである。(略)
中東には、石油の問題だけでなく、核兵器を持とうとしているイランの問題がある。イランのアフマディネジャド大統領はユダヤ人国家イスラエルの存在を認めておらず、核兵器で壊滅させるという脅しをかけている。宗教的に対立するサウジアラビアに対しても軍事対決を迫る構えを崩していない。
p175〜
石油大国サウジアラビアとイスラエルは世界経済を大きく動かしている。この両国がイスラム勢力によって消滅させられるようなことがあれば、第2次大戦以来、比較的安定して続いてきた世界は大混乱に陥る。
<筆者プロフィール>
日高義樹(ひだか・よしき)
ハドソン研究所首席研究員
1935年、名古屋市生まれ。東京大学英文科卒。1959年、NHKに入局。ワシントン特派員をかわきりに、ニューヨーク支局長、ワシントン支局長を歴任。その後NHKエンタープライズ・アメリカ代表を経て、理事待遇アメリカ総局長。審議委員を最後に、1992年退職。その後、ハーバード大学タウブマン・センター諮問委員、ハドソン研究所首席研究員として、日米関係の将来に関する調査・研究の責任者を務める。「ワシントンの日高義樹です」(テレビ東京系)でも活躍中。
主な著書に、『世界の変化を知らない日本人』『アメリカの歴史的危機で円・ドルはどうなる』(以上、徳間書店)『私の第七艦隊』(集英社インターナショナル)『資源世界大戦が始まった』(ダイヤモンド社)『いまアメリカで起きている本当のこと』『帝国の終焉』『なぜアメリカは日本に二発の原爆を落としたのか」(以上、PHP研究所)など。 *強調(太字・着色)は来栖
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◆ 『世界の変化を知らない日本人』日高義樹著 2011年5月31日第1刷 徳間書店
◆ 『帝国の終焉』(「スーパーパワー」でなくなった同盟国・アメリカ)日高義樹著 2012年2月13日第1版第1刷発行 PHP研究所
◆ 『なぜアメリカは日本に二発の原爆を落としたのか』日高義樹著《ハドソン研究所首席研究員》 2012年07月25日1刷発行 PHP研究所
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