【新帝国時代】第3部 プロパガンダ戦争(2)南太平洋でも中国語浸透
産経新聞2013.4.2 08:49
南太平洋に浮かぶフィジーの首都スバにある南太平洋大学。太平洋地域の12島嶼(とうしょ)国が共同で設立した大学で、同地域の将来を担う優秀な人材が集う。そのキャンパスの中に孔子像が立つ。昨年9月に開校した中国の教育機関「孔子学院」の目印となっている。
「睡覚(シュイジャオ)」(寝る)
「起床(チーチョァン)」(起きる)
冷房が入っているにもかかわらず熱気に満ちた教室からは、中国人教師の声に続けて発音するフィジー人受講生20人の声がこだましていた。
学生向けの中国語授業もあるが、この日は近隣住民が受講できるクラスの日。週1回2時間で17週間のレッスン料は200フィジードル(約1万円)で、「受講希望者は定員の100人を上回る人気ぶり」(大学関係者)だ。
夫婦で受講するジャグ・ラムさん(40)は「仕事の関係で中国本土と香港、台湾に頻繁に出張する。取引相手と中国語で会話をしたいので授業は絶対に休めない」と話す。
「かつてフィジーの人は日本語を学んでいたが、いまは中国語を学んでいる」と話すのは首相府のピコ・ティコンドゥアドゥア次官だ。南太平洋大によると、設立費15万米ドル(約1400万円)は中国がすべて負担している。
2006年の軍事クーデターで、欧米や日本から事実上の制裁措置を受けているフィジーにとって、条件なしで開発目的の援助を行ってくれるのは中国だけだ。現地の支援関係者はこう指摘する。
「孔子学院は長期的な展望を持って、ソフト面でも浸透を図ろうとする中国の戦略の一部だ」
■取材に「圧力」
孔子学院はCCTV(中国国営中央テレビ)と連携し、各地で中国語のスピーチコンテストを開催している。10年度報告によると、同年は62カ国から10万人が参加した。孔子学院とCCTVは中国のソフトパワー拡大の“車の両輪”となっているわけだ。
フィジーでもCCTVは有料ケーブルで放送されている。運営するフィジー・テレビにCCTVの放送内容について取材したが、対応に出てきた顧問弁護士は「NHK国際放送のほうが内容が素晴らしいから私は好き」とはぐらかすばかり。同テレビ関係者は「フィジー政府と友好関係にある中国への配慮から、日本のメディアからの問い合わせに応じるなという圧力がかかった」と明かす。
放送免許は半年ごとにフィジー政府から更新されるだけに、テレビ局側も自由に動けないようだ。
フィジー情報省が月2回発行する新聞には、中国関係ニュースに特化したページが設けられている。中国からの援助をうけたプロジェクトにからむイベントには国内メディアを駆り出すなど、フィジー政府の対応からは中国への配慮が随所にうかがえる。
■台湾を手本に
「中国は文化交流を重視してきた台湾のやり方を見習っている。中国と台湾に共通しているのは、宣伝が大事だと認識し、優秀な人材と予算をつけることだ」
米シンクタンクに在籍したことのある東京財団の渡部恒雄上席研究員は中国の手法をこう分析する。
中国のソフトパワー拡大は米シンクタンクでも顕著だ。シンクタンク事情に詳しい米ペンシルベニア大国際関係プログラムのジェームズ・マックガン副所長は、中国関連のプログラムや使節団員の訪問数の増加など「皮膚感覚として(ワシントンでの)中国人の増加は間違いない」と語る。
シンクタンクでは人脈の構築だけでなく、米政府の政策決定プロセスや人事情報、米議会に影響力のある専門家の特定など生きた情報として入手できる利点がある。もっとも、ソフト路線一辺倒ではないようだ。
最近では中国が発信源とみられるシンクタンクへのハッカー攻撃も多発している。米メディアによると閣僚経験者などの有力者が会員に名を連ねる外交問題評議会などが標的となった。
マックガン氏は「米国の研究者には中国への懐疑心と慎重さが求められる」と警鐘を鳴らすのだが…。
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【用語解説】孔子学院
中国語や中国文化を世界に浸透させるため、中国政府が各国の大学などと連携して設立する非営利の教育組織。104の国と地域に孔子学院が353、より小規模の孔子教室が473設立された(2011年8月時点)。日本には12校設置されている。
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